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第154回 ぼくだけのぶちまけ日記

岩波書店のSTAMPBOOKSシリーズの一冊をご紹介いたします。カナダのYAです。
犯罪を犯した家族を持つ少年のお話です。テーマが重くて辛くて、初めのほうで読むのをやめようかとおもいましたが、主人公をささえる自由で熱量のある魅力的な登場人物たちのおかげで読み通せました。

「ぼくだけのぶちまけ日記 (STAMPBOOKS)」 岩波書店 2020年7月発行 286ページ
スーザン・ニールセン/作 中田いくみ/カバー表紙画 長友恵子/訳
原著「THE RELUCTANT JOURNAL OF THE HENRY K. LARSEN」 Susin Nielsen 2012年

主人公ヘンリー・ラーセンは13歳。雑学が好きなごく普通の少年。毎週金曜日はみんなでプロレス観戦をする父・母・兄の四人家族でした。
今は、引っ越しをしてお父さんと二人暮らし。お母さんは7ヶ月ほど前に起きた事件がきっかけで心のバランスをくずし入院しています。
その事件とは、兄が同級生を銃で殺害しその後その銃で自殺しました。酷いいじめを受けていたのが殺害の理由でした。
ヘンリーは友人を失い、周囲から嫌がらせを受け、両親は職を失い、引っ越しを余儀なくされました。
新しい土地で、新ためてやり直そうとお父さんが提案するも、お母さんは一緒に行かないと言い出し、二人で暮らすことになりました。
兄が起こした事件がばれないよう嘘をつき目立たないよう怯えて暮らす日々。

お、おもい!おもすぎる!
だけどご安心下さい。
その1。同級生のファーリー・ウォンのおかげです。ヘンリー曰く、「見た感じオタク」。度の強い分厚いメガネ、シャツのボタンを上から下まできっちりとめて、きっちりアイロンがかかったズボンを高い位置でベルトをとめている。昔の日本でいうと「優等生」という感じでしょうか。興奮すると踊りだします。彼の愛するものに対する熱量は、ヘンリーをも動かす。
その2。アパートのおとなりに住むアタパトゥさん。元タクシー運転手、スリランカ出身の人です。ヘンリーのうちが父と息子の二人暮らしなのを心配し、作ったお料理を差し入れしてくれます。(ラムカレー、チキンカレー、手作りおやつココナッツバルフィがおいしそう。)
その3。カレンさん。派手なお化粧と服装で最初の印象は悪かったのですが、ヘンリーたちの孤独を受け止めてくれます。
その4。セラピストのセシル。1960年代のファッションと穴あき靴下がやや信頼を損なっていますが、ヘンリーの気持ちを慮ってくれつつも言うべきところはきちんと言うなかなかステキなセラピストです。この小説はヘンリーの書いた日記の形式なのですが、日記をつけ始めるきっかけが彼なのです。
あと、個性的なファッションとキャラクターのアルバータへの恋心もアクセントになってます。
みんな、積極的に関わってきます。テンションが特に高いファーリーのことをうっとうしく感じていたヘンリーですが、人との関わりによって気持ちが癒やされていく過程が優しくて安心します。
ファーリーやアタパトゥさんも好きなプロレスが大きな役割を果たすのも面白いですね。
犯罪を犯した家族・自殺で亡くなった家族がいる、という重くて強いテーマがうまくまとまっていると思います。

「STAMPBOOKS」は10代の若い人たち向けの海外小説作品のシリーズです。イスラエル、イタリア、ベルギー、ハンガリー、スウェーデン、南アフリカ、ドイツ、オーストリアなど邦訳されることの少ない国のYAをとりあげてくれます。末永く続いてほしいシリーズ。頑張って岩波書店さん!