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第191回 くつしたはぼうしじゃない

ちょっと変わった味わいの絵本を書くカタリーナ・ヴァルクスの「リゼッテ」シリーズです。
「フランスからやってきた、かわいくってちょっとヘン! な絵本」という惹句です。ふ~む、読んでみようじゃありませんか。

「リゼッテとみどりのくつした かたいっぽう」 クレヨンハウス 2008年7月発行 32ページ
カタリーナ・ヴァルクス/作 ふしみみさを/訳
原著「LA CHAUSSETTE VERTE DE LISETTE」 Catharina Valckx 2002年

おさんぽにでかけたリゼッテ、みどりいろのすてきなくつしたをかたいっぽうだけ見つけます。
くつしたかたいっぽだけはいて、大得意で歩いていきます。ですが、いたずら大好きネコのきょうだいマトゥとマトゥシュにからかわれます。「くつしたは2つでひとつなんだから、役に立たないじゃないか。」
確かに、くつしたかたいっぽうだけはいてるなんて、なんかヘン。
そもそも、ひろったくつしたをはくのもなんかヘン。
いやいや、くつしたをひろうの自体、ちょっとどうでしょうかねぇ?
もうかたいっぽうを探しますがみつかりません。がっかりしてお家へ戻ったら、案の定、お母さんに「ひろったくつした、はいちゃダメ」と言われました。
でも、リゼッテのお母さんは、すてなさい!って言わないんです。ちゃあんと洗ってくれるんですよ。ちょっと変わった対処ですよね。くつしたを気に入ったリゼッテを否定しません。優しい素敵なおかあさんだわ~。
そこへネズミのべベールがやってきて、干したくつしたをぼうしと思って気に入ってしまいました。かぶっていい?と聞かれ、いいよと気軽に答えるリゼッテ。ええ?いいんだ!?くつしたはぼうしじゃないけど・・・・いいの?
さっきのいたずらなねこきょうだいが、もうかたいっぽうを見つけて、見せびらかします。でもリゼットとベベールにはくれずに、沼に投げ捨ててしまいました。なんていじわるニャンコ!

結局、くつしたは2つだけ。
でもでも、たとえ2つあったとしても、くつしたとして使いたいリゼッテには2つ必要で、ベベールにはあげられません。がっくり家に帰ったふたり。
ところが、リゼッテのおかあさんが、新しくくつしたをあんでくれているのです。これでくつした2つありますが、くつした3つないと二人はいがみあうことになっちゃいますよね・・?どうなるの?どうするの?
リゼッテは、2つのくつしたを、ふたりでひとつずつ分け合います。なんとリゼッテもぼうしとして使うんですよ、くつしたを。
このラストには、ちょっとたまげましたねー。やっぱりおかあさんも「あたまに かぶるの!?」とおどろいてます。くつしたが欲しかったリゼッテなのに、友達のために利用方法を変更するんですね。
くつしたじゃなくてもいいんだあ・・・。予想もしないオチが楽しくてうれしい。リゼッテがかわいいです。
確かに、(ちょっとヘン!)な変わった味わいのある楽しい絵本でした。
「リゼッテ」シリーズは今のところ(2022年12月現在)全部で3作あります。
「リゼッテとかたつむりのうばぐるま」「リゼッテうそをつくにいく」
ほかにも、ハムスターの「ビリー」シリーズ(4作)、ねずみの「トトシュ」シリーズ(2作)などがあります。

↓ ハムスターの「ビリー」シリーズ

↓ ネズミの「トトシュ」シリーズ

↓ その他のシリーズではない本

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第190回 悲しすぎる絵本

忘れられない本というのがあります。忘れられない理由には、良い印象または良くない印象の2種類があるとおもいます。
この絵本は、わたしにとって良くない印象です。ひどく悲しいのに再読してしまう絵本なんです。
良い印象のものばかりをご紹介するというのも、どうかなあ?とおもうので、今回の投稿で選んでみました。そんな穿った選書なんて、いらぬお世話かとも思いますが、気になって手にとってしまってう~ん何これ・・と一緒にうなっていただけるととうれしいです。

「ひとりぼっちのかいぶつといしのうさぎ」 徳間書店 2004年8月発行 32ページ
クリス・ウォーメル/作・絵 吉上恭太/訳
原著「THE BIG UGLY MONSTER AND THE LITTLE STONE RABBIT」 Chris Wormell 2004

とっても醜い怪物がいました。その醜さといえば、花は散り、木々から葉が落ち、草は枯れてしまいます。怪物が太陽が隠れ、空を見上げれば雨が降り出し、水につかろうとすればシュウっと蒸発し、にっこり笑えば石は粉々に砕け、歌って踊ると大地にひび割れができてしまう。
一体どんな能力なの、それは!?
恐ろしさのあまり誰も近寄らないので、怪物には友達がいませんでした。荒れ果てた荒野で一人。あまりに寂しくて寂しくて石に話しかけています。ある日、岩を削って、きつね、くま、しか、うさぎなど動物をかたどった石像を作ったのです。
出来栄えはよくありません。動物の逃げるうしろ姿しか見たことがないからです。それでもうれしくてにっこり笑うと、石像は、ひとつを残しすべて粉々に砕け散りました。

 ああ、かわいそうに。かわいそうすぎる。絵本なのに、ひどくない?この設定?良くないラストになりそうな気配なので、このへんで読むのをやめようとおもったのですが、どうしても本をおけませんでした。ラストがどう転がるのか~良い方へどんでん返しするのか、このまま悲しいままか?~気になって、読むのをやめられませんでした。

たったひとつ残ったうさぎの像のために、歌を歌ったり、曲芸したり、嵐が去る空を眺めたり。石のうさぎは、一緒に踊ったり歌ったりすることはなかったのに、かいぶつは石のうさぎがいることを喜びました。
年をとり、かいぶつは弱っていきました。曲芸をすることもできなくなりとうとう・・。
かいぶつがいなくなると、大地に草が生え、花が咲きみだれ、世界で一番美しいところになりました。

カバーの折り返しに出版社お勧め文がのっています。『みにくい外見の内にかくされたやさしく美しい心・・・ 読後、静かな感動で心がふるえる忘れられない一冊です。』
静かな感動を感じる人もいるんだなあ・・。わたしは、ただただ悲しくなりました。怪物は、破壊するのみの強大な力を自ら望んで得たわけでなく、それを制御することができず、恐ろしい外見だから、という理由で一人ぽっちで過ごすしかないのです。そして物言わぬ石に出来得る限りの友情をそそぎました。そして「かいぶつはそれでも幸せだった」のです。

怪物って自分のことなのかもしれません。感情にいちいち左右されてしまう未熟なわたしを投影します。外見にとらわれない心を養えるというのもあるかもしれません。理不尽を感じつつも、確かにひきつけられるものがあり、忘れられない一冊なのは間違いありません。
間違いない、間違いないんですけれど!このラストはしんどすぎる。
「イヤミス(読後イヤな気持ちになるのに、妙に惹きつけられるミステリーのこと)」なんていうジャンルもありますから、(イヤイヤ悲しすぎるだろう、絵本なのに?!)=>「イヤ絵本」もあっていい、のかもしれない。悲しすぎる絵本なんて読みたくない、というかたもおられるかもしれないと思いつつ、今後も悲しすぎて気になる忘れられない絵本がありましたらとりあげていきたいとおもっています。どうしてこんなに悲しく感じるのかを考えたいのです。
この絵本、皆さんはどう感じましたでしょうか。
著者クリス・ウォーメルさんの他の作品↓

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第189回 ことばのちから

「ことばコレクター」 ほるぷ出版 2022年5月発行 34ページ
ピーター・レイノルズ/作 なかがわちひろ/訳
原著「THE WORD COLLECTOR」 Peter H. Reynolds 2018年

切手・コイン・石・絵・虫・カード・本・・・・などなどいろんなものを集める人たちのことをコレクターといいます。
この絵本の主人公ジェロームは、ことばコレクターです。
ことばを集めるのが大好き。ひびきがきれいな、きらきら光っているような、はずむような、どきっとするような、絵をそえたくなるような・・・そんなわくわくすることばをメモして集めてます。

集めたことばを、まずは単語ひとつひとつを楽しみます。そしてお次はそれぞれのことばをつなげていきます。
「はればれとした」「雨雲」
「こぢんまりした」「巨人」
「しずかな」「オーケストラ」
関係なさそうな言葉同士で並べると、なおのこと想像がふくらみますね。詩を作って音楽をつけたり、意外な楽しみが生まれます。

そしてジェロームは気がつきます。「ありがとう」「(きっと)だいじょうぶだよ!」「どうしたの?」毎日使うありふれた言葉にこそ力があることに。
たくさん言葉を知ることで、感謝する・応援する・心配する・・自分の気持ちや考えを伝えるのが上手になることを学びました。
最後にジェロームは、丘の上から、集めたことばのメモをすべてほうりなげ、解き放ちます。
「ジェロームがどれほど満足していたかをあらわすことばは、どこにもありませんでした。」

言葉コレクターにも思い浮かばない・ことばでは表現できない、というのが面白いじゃありませんか!ことばだけが世界へのツールじゃないのですね。
そして言葉は、好意だけでなく悪意も伝えることもできるということ。言葉は力をもっていて、使い方によって相手を傷つけることできます。
言うんじゃなかったなあ・メールにあんなこと書くんじゃなかったなあ、なんてこと、わたしは結構あります(恥ずかしながら)。皆さんも経験あるのじゃないでしょうか。言葉をたくさん知っていても、上手に使わないといけません。
そして、後見返しの作者の言葉。
「きみのこころに ひびくことばを みつけて だれかに つたえてごらん。せかいが もっと すてきなところに なるはずだから。」
豊かな世界になるように、という作者の願いに胸があったまります。
原著(英語版)では、どういう言葉になってるのかも知りたくなります。
人が言葉を使って、世界に結びついてく過程をじっくりみせてくれる絵本でした。

作者のピーター・レイノルズさんの他の作品(ほかにも挿絵をした本たくさんあり)
「てん」「っぽい」「ほしをめざして」「ローズのにわ」「ぼくたちの春と夏と秋と冬」「そらのいろって」「ぼくはここにいる」「いちばんちいさなクリスマスプレゼント」「びじゅつかんへいこう」「こころのおと」「ゆめみるハッピードリーマー」「すてきなテーブル」

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第188回 もぐらのすごさ

「もぐらはすごい」 アリス館 2018年5月発行 36ページ 25×23cm
アヤ井アキコ/作 川田伸一郎/監修

もぐらの生態にせまる絵本です。もぐら・・・皆さん、見たことありますか?
森、林、畑、たんぼ、公園、学校の中庭など、かなり身近に住んでいます。
土の中で生きてますのでもぐらに会うのは難しいようですが、わたし、もぐら塚さえ見た覚えがないのです。(それとももぐらの穴とわかっていないか?)どうやら見逃しているらしい、とっても残念。
日本には、合計8種類のもぐらが生息しています。北海道にはいないそうですよ。へー。

もぐらといえば、穴掘り。
もぐらの「手」を大きなイラストでどーんと見せてくれます。
5本の指に鋭いツメ、大きな手のひら。ほんとの大きさの絵も横に添えられてます。
この手を使ってどうやってトンネルを掘っていくのか、上から見た図が描かれて、とてもわかりよいのです。
「顔の前に 手をさしこみ 大きな手で 土をかきだす。」
「手のひらは、外側を 向いている。」
「うしろあしは ちいさい。」
「掘った 土の あまりは 地面の 上に 押し上げる。」
「うでの 力は とても 強い。(ちょっとした石なら持ち上げることができる!)」

すごいです、もぐら。
質問)でも、穴の中はまっくらで、何も見えないと思いますが、トンネルの中で迷ったり、オデコぶつけたりしないんでしょうか?
答え)もぐらの鼻先にあるつぶつぶで、地面や空気のゆれを感じるのです。「アイマー器官」と言います。
ほかにも、トンネルを進むのに適した特長がたくさんあります。
毛は柔らかくまっすぐ生えているので土の壁にひっかかりませんし、耳たぶがないので壁に当たらず、後ろへさがっても邪魔にならない短いしっぽ、トンネルサイズにぴったりおさまる体、目は薄い皮膚におおわれているので土が入りません。 へー。
ほかにも、このようなもぐらのナゾについてかかれています。
・もぐらの食事はなあに?どのくらい食べるの?
・トンネルはどこまで広がってるの?
・一日のスケジュール。
・もぐらのうんちから生えるキノコがあるんですって。
・オスでもメスでもなわばりを争います。
・そんなもぐらの恋愛はどのような?
・子どもたちが巣立ちをします。
・上手に泳げます!
・日本に生息する8種のもぐらの大きさと分布図。
・ふしぎな装置 アイマー器官のこと。

なるほど・ふーむ、ともぐらのことがわかります。タイトルに偽りなし。
作者のアヤ井アキコさんのかわいい挿絵で、さらにもぐらという生き物に親しみをもちます。ほんものを観察してみたくなりますね。
巻末にもぐらの生態について少し詳しい解説と、監修のもぐら博士・川田伸一郎氏のあとがきがあります。
アヤ井アキコさんの他の著書もご参考まで。「こうもり」↓もすごいみたいですよ~。

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第187回 深海魚が主人公

「ひかりうりのぴかこさん」 佼成出版社 2014年9月発行 32ページ
松山円香/著者

今回の主人公は、ぴかこさん。深海魚です。
丸めのふっくらボディ、ぱっちりしているがちんまりとした目、美しいチョウチン、細かいトゲのようなギザギザの歯がたくさんついた大きな口、黒いヒレ。
チョウチンアンコウとおもわれます。
チョウチンアンコウの画像を見ると、とても不気味。主人公にしようとよく思いついたなあ、と失礼ながら思ってしまいますが、ぴかこさんは、わりと・・・人によっては、愛らしく思うでしょう。ブキカワというやつでしょうね。ただ、伸縮自在の発光アンテナのようなところが、とても美しいフォルムです。

ぴかこさんは、深い深い海の底で、雑貨を売って生計を立ててます。深海では珍しい葉っぱや花でできた可愛い小物がたくさん。いったいどこからこんな素材を手に入れているんでしょう。
ぴかこさん、秘密の仕事がもうひとつあるのです。
雑貨のお店を閉めたら、素材の仕入れへでかけます。
それがまたファンタジック。水面へ出て、空に浮かび上がるのです。どうやって浮かんでるの、という質問はNO!です。ファンタジーですね。もしアンコウが空を飛んでたら、わくわくしますよね。
ぴかこさんのもうひとつの仕事は、月のない夜にチョウチンの光を売るのです。闇の中を泳いで光を売るチョウチンアンコウ・・・・ファンタジック!とっても幻想的で美しい。
光を必要とする動物たちがいて、ぴかこさんを頼っているのです。みなさん、宵っ張りですね。
くまさんは、こぐまに絵本をよんであげるため。
ひつじさんは、孫のプレゼントのセーターを編むため。
鳥たちは、パーティを盛り上げたいからと、太陽みたいに明るくして!と無理難題。
光で照らすかわりに、ぴかぴかのどんぐり・ふかふか羊毛・色とりどりの羽と交換です。海にない素材の仕入れのナゾがとけました。光を売る苦労も知ったところで、閉店。深海へ帰還です。

海の底の場面では、ほかにも深海に住む生物が描かれてます。
深海に住む生き物の特徴のギョロッとした目やグワッと大きい口の魚たちはやはり不気味に感じるのですが、そんな生き物たちをうまく愛らしくデフォルメしているのが面白い。魚が主人公の絵本はたくさんあるとおもうのですが、深海生物だと珍しいのじゃないかと思うのですが、他にもありますかねえ?
仕入れた素材は、ぴかこさんがなにがしか加工して売っているのも楽しいです。水の上に2号店ができたらぜひお店に伺ってみたい。
深い深い海の底に光を当てたこの作品、面白かったです。不気味・愛らしいぴかこさんのお話の続きがあればぜひ読みたい。
松山円香さんの他の作品
「アリゲイタばあさんはがんこもの」「こまったうしのガイコツまおう」「ヤモップさん、ぴたっとかいけつ!」「おやすみ こりす」「ムモンアカシジミのまほう」「Songs 生き物たちの塗り絵」