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第10回 頭のうちどころが悪かった熊の話

「頭のうちどころが悪かった熊の話」 理論社 134ページ 2007年4月発行
安東みきえ/作 下和田サチヨ/装画・挿画

 なんともすごいタイトルです。ぶっ飛んだ目つきをした熊の表紙絵と相まって手に取らずにはいられないインパクト。こういうタイトル、大好き。子供向けに発行されたもののようですが、大人が読んでも満足できる、シュールでちょっと苦みのあるユーモアを織り込んだ寓話7編。

「頭のうちどころが悪かった熊の話」頭をぶつけ記憶を失った熊。だが、”レディベア”というものが大事であることは忘れていなかった。レディベアを捜し歩く熊と出会った動物たちとの会話が良い。
「いただきます」男が虎と出会ってしまった。だが虎はメソメソ泣いていた。さっき食べた狐が腹の中で悲しんでいる、その理由が知りたいと。腹の中の狐もまた悲しんでいた、さっき食べた鶏が泣いていると。そのまた腹の中の鶏もまた悲しんでいた、さっき食べたトカゲが泣いている理由が知りたいと・・。落ちがとてもよい。
「ないものねだりのカラス」自分の羽根の色の黒さを許せないカラスは、きれいなものが好き。あるとき向かいの木にシラサギがいるのに気がついた。あんな美しい鳥と仲良くなれたら・・。
「池の中の王様」ヤゴとおたまじゃくしは本来、捕食・被食の関係ですが、その彼らは友情を築きました。子供時代の約束、やがて大人(とんぼとカエル)となって捕食・被食の関係が逆転した二人の心からの言葉に、胸がぐうっときます。
ほか3編のタイトル「ヘビの恩返し」「りっぱな牡鹿」「お客さまはお月さま」



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第9回 むしがすき

「いもむしけむし」 福音館書店 特装版は2003年
澤口たまみ/作・絵

 今回は澤口たまみさんの絵本を取り上げたいと思います。
子供の頃は、蚕でもカエルでもイソギンチャクでもなんでも突っつき回しました。バケツいっぱいにアマガエルを捕まえたり、カブト虫の幼虫を手のひらいっぱい掘り出したり、でんでん虫のカラをコレクションしたりしましたが、大人になった今はあまりというか全然触れたいとおもいません。絵本も虫がテーマだとちょっと敬遠しておりましたが、母の友という雑誌に澤口たまみさんのエッセイが掲載されておりました。自己紹介欄で「虫の弁護人」と書かれているのを見て”虫”の弁護人とは?と興味が湧き、「いもむしけむし」という絵本を手にとってみました。

 子供たちは虫に興味津々。毛虫は触っても大抵は大丈夫なのだそうですが、かゆくなったり刺されて痛い毛虫もいるそうで、そういう毛虫も紹介してくれています。しゃくとりむしはほぼ大丈夫なのだそう。手に乗せて観察してみましょう。小さな生き物たちへの愛情が込められています。大人になった今なぜ虫が苦手となったんだろう?と不思議です。こどもたちは、好奇心旺盛なのだなあとしみじみ感じます。
澤口たまみさんは、他にもたくさん虫や動物の本をかいていらっしゃいます。



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第8回 不器用な愛され熊

「どんくまさん」シリーズ 至光社 1967年から1997年
蔵富千鶴子/文 柿本幸造/絵

柿本幸造さんというと、まあるいフォルムのかわいいウサギのお話「どうぞのいす」が有名と思いますが、私はあえて言うなら、どんくまさんを思い出します。
失敗ばかりしてしまう熊、どんくまさんですが一生懸命で優しい彼を大好きになります。ケンタカクラではないですが私も不器用なもんですから、落ち込むどんくまさんに寄り添ってくれる仲間たちが慰めになりました。失敗つづきで落ち込んでばかりだろうに、それでもまっさらな子どものように優しいどんくまさん。そうありたいと大人のほうが共感を覚えるのかもしれません。

至光社の月刊絵本「こどものせかい」で、シリーズ27作もでているようです。みんなに愛されたのですね。(至光社サイトによると、ハードカバーの絵本として発行された作品は、21作のようです。)船乗りになろうと突然思いたってみたり(どんくまさん うみへいく)、飛行機を作って雨を降らそうとしたり(どんくまさん そらをとぶ)、らっぱをふいたり(どんくまさんのらっぱ)  ・・・結構活発なくまさんですよね。いろいろなどんくまさんの絵本が楽しめます。

絵本タイトル:どんくまさん/どんくまさん そらをとぶ/どんくまさんのらっぱ/どんくまさんのおてつだい/どんくまさんはえきちょう/じゃむ じゃむ どんくまさん/どんくまさんのクリスマス/しあわせなどんくまさん/どんくまさんはゆうびんやさん/どんくまさんのパン/どんくまさんにふゆがくる/どんくまさんのかわのたび/どんくまさんとおたんじょうび/どんくまさんみなみのしまへ/どんくまさん どーん どん/おもいっきり どんくまさん/どんくまさん ほめられる/どんくまさんはほっかりこ/どんくまさんのたからさがし/どんくまさん やったね/うーうー かんかん どんくまさん・・  (至光社サイトより)



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第7回 いじわるにアゲンスト

「いじわるブッチー」 徳間書店 1994年5月発行
バーバラ・ボットナー/文 ペギー・ラスマン/絵 ひがしはるみ/訳

表紙の意地悪そうな女の子がブッチー。とてもインパクトある少女です。でもブッチーが主人公ではありません。ブッチーにいじわるされる女の子、が主人公。二人の女の子のお母さんたちが友達同士、だからといってその娘たち同士も友達になれるか、というと難しい。

好きなものや遊びが違うらしく、仲良くなれない二人。仲良くなれないというより、ブッチーが意地悪をする。抑えつけたり髪の毛を引っ張ったりするんです。
主人公は、ブッチーが宇宙へ飛んでっちゃうことを夢見たりするけれど、そう簡単にはいきません。暴力以外で、想像力豊かにいじめにNO!を表現しました。
髪の毛をつかんだり抑え込むようなことを、遊びだと思っているブッチーは、意地悪な女の子であることは、間違いないんでしょう。意地悪なことをしているということがどうもわかっていないらしいブッチーはもしかすると、何か満たされないものがあるのでは?随分とお金の掛かったおしゃれな衣服を着ているけれど、はっきり言うと幸せではないのではないか。友達に意地悪したくなるような嫌なことが日常であるのかなあ、なんて感じます。
そんな実際にありそうなリアルさも興味深い絵本と思います。ブッチーがそういうのを乗り越えて、二人が仲良くなれれば、ほんとにハッピーだけれどなかなかうまくいかないですよね。
この絵本、お子さんにすすめたり、読み聞かせに使うのは抵抗があるという方が多いんだそう。うーん、難しいですね。意地悪されたくない、と勇気をだしてきちんと言えた主人公に満足するので、私は好きなのですが。

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BOOKMARK14号-最新号発行のお知らせ

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BOOKMARK 金原瑞人さんのオフィシャルホームページ
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BOOKMARK 14号 2019年夏号 発行されました!
14号 タ イ ト ル は
a g a i n s t ! ノー」と言うこと

against…抵抗する、反抗する、告発する
理不尽なことに反対の声をあげるのは勇気が必要。今回の16冊はその勇気を授けてくれるとおもいます。人種差別、赤狩り、フェミニズム、冤罪とその家族、女性の身体と性のタブー、世界崩壊後の弱肉強食、奴隷制度、などお題いろいろの選りすぐりの16冊をどうぞお試し下さい。
あさのあつこさんのエッセイ(2p)「不羈 という一言」掲載。16冊各々の翻訳者のコメントも掲載され興味深い一冊でございます。

創刊号タイトル『これがお勧め、いま最強の17冊』 エッセイ「このあいだした翻訳のこと」 江國香織 
2号タイトル『本に感動、映画に感激』 エッセイ「おもしろい物語に出会ったら、ついでに原作にも手を出してしまおう」 ひこ田中
3号タイトル『まだファンタジー?ううん、もっとファンタジー!』 エッセイ 松岡佑子
4号タイトル『えっ、英語圏の本が一冊もない?!』 エッセイ 東山彰良 
5号タイトル『過去の物語が未来を語る』 エッセイ 深緑野分 
6号タイトル『明日が語る 今日の世界』 エッセイ「SFって、政治小説?」 星野智幸 
7号タイトル『眠れない夜へ、ようこそ』 エッセイ「クラシックホラーファンタジーとのっぺらぼう」 恒川光太郎 
8号タイトル『やっぱり新訳!』 エッセイ「気合と気合と気合」 町田康 
9号タイトル『顔が好き』 エッセイ「翻訳物の装丁の手順とスクラロース」 川名潤 
10号タイトル『わたしはわたし ぼくはぼく』 エッセイ「ワイルドフラワーの見えない一年」 松田青子 
11号タイトル『Listen to books!』エッセイ 村上春樹 
12号タイトル『これ、忘れてない?』 エッセイ 佐藤亜紀 
13号タイトル『グラフィックノベル特集 絵+文字で、無敵!』 エッセイ「グラフィックノベルの新時代とスタン・リー95歳の死」小野耕世