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第13回 猫の雨の日は23時間の睡眠をとる権利

「まんげつの夜、どかんねこのあしがいっぽん」 小学館 32ページ 2016年発行
朽木祥/作 片岡まみこ/挿絵

猫はねこでも、山で暮らすノネコが主人公です。
ノネコは訪ねてくれる人がいなくて寂しくてたまらない。とうとう自分で友達を探しにいくのですが、元気ハツラツな子犬に追われ、土管に逃げ込めたのは良かったのですが、つっかえて出られなくなってしまいます。その夜は満月。猫の主張を叫ぶ日(あたたかい寝床を!とか雨の日は23時間の睡眠をとる権利を!とか)なのですが、ノネコがはまった土管の上がその主張のヒノキ舞台なのでした。そして満月がのぼった空の下、猫の主張とダンスがはじまります。
土管にはまって足がとびでた状態のノネコを見物する猫たちの猫らしいちょっと奔放な行動がとても可愛らしい。「猫というものは、自分勝手に見えて、(実は)意外に思いやりも想像力もあるのだった」など著者の猫という生き物についての考察がところどころにあり、きっと猫好きな著者であろうと想像します。著者の作品の「かはたれ」にも猫がでてきますし。うんうんやっぱりだいぶん好きそうだな!
友達がおうちへ遊びに来て欲しい、というノネコの願いが叶い、たくさんの猫たちが山へ訪ねてくれるラストシーンがうれしい。勇気をだして山をおりた甲斐があってよかったよかった。テーブルには、シチュー、フィッシュケーキ・小エビのから揚げ、ミルクとチーズのプディングなどごちそうが並べられていて、おいしそうでたまりません。フィッシュケーキをおよばれに行きたいですね。版画の挿絵は片岡まみこさん。とてもかわいらしくて魅力的。おすすめな絵本。

他作品に・・・
「かはたれ 散在ガ池の河童猫」 小さな猫に姿を変えてやってきたカッパの子”八寸”と少女”麻”の物語。
「たそかれ 不知の物語」 かはたれの続編。 他にもたくさん。



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第12回 だめな自分という絶望

「となりの火星人」 講談社 222ページ 2018年2月発行
工藤純子/著 ヒロミチイト/装画・挿絵

おのおの悩みを抱える4人の子供たち。
相手の気持ちを慮ることに疎い、かえで
怒りに支配されてしまうことに怯えている、和樹
不安になるとパニックになってしまう、美咲
相手が壁を作っているのを感じる、天然で優しい、湊
中学受験に失敗し挫折感に潰されそうになっている、聡

 連作短編7話が収録。かえでを中心に話がすすみます。
かえでは、相手の話すことを「言葉通り」に解釈してしまいます。”一番厄介なのは、人間の感情だ。表情と心の中が違う。いってることと、やってることが違う。親切そうに見せかけて、ウソをつく。” ”道徳(の時間の問題)は難しい。正しい答えが分からないから。”それでも自分の返答や行動で相手が困ったり、悲しませたりすることを恐れ、人の気持ちを理解できない自分はダメだ、と絶望を感じています。

 和樹は、怒りに支配されると暴れてしまいます。今日も、ズボンが破れているのをからかわれ、怒りで頭が真っ白になって教卓をけとばし大きくヘコませてしまいスクールカウンセラーと面会させられています。問題を起こす困った子と言われて、いつもお母さんを悲しませていることに絶望を感じています。
整理整頓が出来ないという自らの弱さも見せながら、子供たちの心に寄りそうスクールカウンセラーの真鍋先生や、「これからは人と違うことが大切な時代になる」というかえでのおばあちゃんがいい味をだしている。大人だって、子どもだって、みんな、たくさんの人に助けられて生きている。

 「ダメな子なんて、一人もいない。」とふっと感じるかえでに希望を感じほっとします。
繊細で人とコミュニケーションをとるのが上手でない子供たちを「火星人」と表現したことにとても驚きました。とってもストレートな言い方に感じます。が、なるほどうまい言い回し。感じ方によっては悪口になるかもしれませんが、誉め言葉にも励ましにもなるとわたしは思います。人との関係で辛さを感じるけれど、さらに人と関わることで心が成長したり希望を感じたりします。辛い気持ちでいる子どもたちを導くことのできる真鍋先生の存在がすばらしい。読んでよかった・・と感じる児童文学でした。



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第10回 頭のうちどころが悪かった熊の話

「頭のうちどころが悪かった熊の話」 理論社 134ページ 2007年4月発行
安東みきえ/作 下和田サチヨ/装画・挿画

 なんともすごいタイトルです。ぶっ飛んだ目つきをした熊の表紙絵と相まって手に取らずにはいられないインパクト。こういうタイトル、大好き。子供向けに発行されたもののようですが、大人が読んでも満足できる、シュールでちょっと苦みのあるユーモアを織り込んだ寓話7編。

「頭のうちどころが悪かった熊の話」頭をぶつけ記憶を失った熊。だが、”レディベア”というものが大事であることは忘れていなかった。レディベアを捜し歩く熊と出会った動物たちとの会話が良い。
「いただきます」男が虎と出会ってしまった。だが虎はメソメソ泣いていた。さっき食べた狐が腹の中で悲しんでいる、その理由が知りたいと。腹の中の狐もまた悲しんでいた、さっき食べた鶏が泣いていると。そのまた腹の中の鶏もまた悲しんでいた、さっき食べたトカゲが泣いている理由が知りたいと・・。落ちがとてもよい。
「ないものねだりのカラス」自分の羽根の色の黒さを許せないカラスは、きれいなものが好き。あるとき向かいの木にシラサギがいるのに気がついた。あんな美しい鳥と仲良くなれたら・・。
「池の中の王様」ヤゴとおたまじゃくしは本来、捕食・被食の関係ですが、その彼らは友情を築きました。子供時代の約束、やがて大人(とんぼとカエル)となって捕食・被食の関係が逆転した二人の心からの言葉に、胸がぐうっときます。
ほか3編のタイトル「ヘビの恩返し」「りっぱな牡鹿」「お客さまはお月さま」



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第2回 わたしの大好きなどろぼうさん

今回は、児童文学をピックアップしてみました。
ホームズよりルパンが好きなのは、子供の頃の愛読書がコレだったからとおもいます。

「大どろぼう ホッツェンプロッツ」  1966年
「大どろぼう ホッツェンプロッツ ふたたびあらわる」 1970年
「大どろぼう ホッツェンプロッツ 三たびあらわる」 1975年
偕成社  オトフリート・プロイスラー/著  中村浩三/訳  フランツ・ヨーゼフ・トリップ/挿絵

 全三巻のシリーズです。
新聞を騒がさぬ日はないという、大どろぼう ホッツェンプロッツ。
おばあさんのコーヒーひきを奪ったどろぼうを捕まえるべく、カスパールとゼッペルという少年二人が頑張るおはなし。(大どろぼうと名乗っているわりに、庶民的な物を盗みますよね。)ホッツェンプロッツの友人・大魔法使いツワッケルマンも登場。これもまた悪どい人で、ワクワクします。カスパールとゼッペルは、コーヒーひきをとりかえせるか?
第2巻は、脱獄したホッツェンプロッツをカスパールとゼッペルがおいかけます。おばあさんもとらえられてしまったり!します。ずる賢いおおどろぼうに知恵を絞ってわたりあう少年たち。さあどうするどうする。

 最終巻の「大どろぼうホッツェンプロッツ 三たびあらわる」では、
1・2巻で悪事を働いたホッツェンプロッツが、どろぼうを廃業するという、驚きの始まりです。今までががっつり大暴れしてきたものだから、どろぼう稼業をやめたいと思ってるのに信じてもらえないホッツェンプロッツですが、あるものを盗んだと疑いをかけられて・・。やっぱりびっくりすることに、カスパールとゼッペルがホッツェンプロッツの無実の証明に協力するんです。すごい展開ですよね~。
3巻の最後に挿絵がはさまれるのですが、この挿絵がすごくいいんですよ〜。(このイラストのある版とない版があるようです。)
第3巻のホッツェンプロッツの憎めなさがほんと大好き。1巻だけでなく、ぜひとも3巻まで読んでいただきたい。わたしのだいすきなどろぼうさん♡

 少女だったわたくしには日本とは違う、ドイツの風習や言い回し、フランツ・ヨーゼフ・トリップの独特な濃ゆ〜いイラストがとっても魅力的でした。1巻では、挿絵とともに(おそらく)作者のツッコミもはいっていて、これまたすごく楽しいんですよ。
そしてなんと言っても、食べ物! プラムケーキ、じゃがいものからあげ、ザウアークラウトとソーセージ、にんにくたっぷりキノコ料理、ハタンキュウのブランデー、アッペルシュトルーデル、山盛りのチョコレートドーナツ、シュトロイゼルクーヘンなど、馴染みのないドイツのお料理がおいしそうでたまりませんでした。「生クリームをたっぷりかけたプラムケーキ」ってどんなものだろう、少年たちが毎日食べたがるのだから、よほどのものだろう(ゴクリ)・・と思ったものです。

 小学低学年あたりから楽しめるシリーズと思います。とても面白いシリーズです。プロイスラー氏は ドイツの作家、1923年生まれ。わたしがドイツに興味を持つきっかけとなった物語なのでした。いつか行ってみたい国のひとつです。

プロイスラーの他作品に・・・
「小さい水の精」「小さいおばけ」「クラバート(魔法使いとその弟子のお話/長編)」「ユニコーン伝説(ゲンナージ・スピーリンの挿し絵がとてもとても美しい)」など、昔話・民話を題材にしたお話などたくさんかいておられます。