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第134回 雨を楽しむ

あまがっぱ(雨合羽)、の書き間違いかなとおもいましたが、あっていました。雨の日、河童にあうおはなし。

「あめかっぱ」 偕成社 2020年6月発行 32ページ
むらかみさおり/作

その日は、朝からずっと雨降りでした。
玄関のベルがなり、なおちゃんがお出迎えしたところ、なんと、かっぱです。かっぱがやってきたのです。
「どうもかっぱです」
なおちゃんはびっくりしてしまって、台所のテーブルの下へ隠れました。「緑色のおかしな生き物」が突然に玄関にあらわれたら、やっぱりこわいですよね。わたし実は河童が好きなんですが、まあわたしも怖くて隠れますよね。
おかあさんは突然の河童に驚くこともなく、かっぱさんとお留守番していてね、と言ってでかけてしまいました。きっと楽しいから、と。もっとちゃんと説明してください、おかあさん!
テーブルの下に隠れたなおちゃんを覗き込むかっぱさんのお顔が無表情な感じに見えてちょっといえかなり怖かったです。川の深い深い水底へ引っ張り込まれてシリコダマ抜かれちゃうんだろうか。あれおかしいな、楽しい絵本のはずなのだが・・と思いつつページをめくります。
「今日は、ピクニックびよりですよ」かっぱさんが言います。
「あめなのに?」「あめだから!」
かっぱさんがいそいそと、おむすびのお弁当を作り始めます。それも土鍋で炊いたごはん!たまんなくおいしそうじゃない!竹の皮で包んでいて素敵です。美味しそうな海苔の香りに、なおちゃんもすこしわくわくしはじめます。
かっぱさんの説明では、「雨の日に子どもがお留守番するときは、かっぱといっしょに過ごすんですよ。だからこの町のおかあさんは、とっても安心。」ということなのですが・・ほんとにだいじょぶ??
レインコートを着て、かっぱさんと出発。さて、いったいどこへピクニック?

かっぱさんは、林にある河童どおりのお店で、おやつのキュウリとふきのとうの傘を買ってくれました。お留守番の子どもたちがほかにもたくさんいて、それぞれにかっぱさんのお守りがいてくれているようです。たぬき、りす、うさぎ、きつねなど動物たちも林に集まってきています。
林の中には小さな池がありました。降り続く雨で、池がみるみる大きくなっていくのです。なんて不思議で楽しい発想でしょう。たっぷりたまった雨でできた湖をどんぶらこと船がやってきます。
「どこいくの?」なおちゃんがきくと、「雨がたくさん降らないとたどりつけないところです」
三途の川をなんだか連想してしまうのですが・・ たどりついたのは、大きな大きな木。おだんごやさんやアスレチックなど素敵な遊び場のある木でした。巨大ツリーハウスです。たくさん遊んで疲れたら、おむすびのお弁当。そして木々の葉に落ちる雨音をみんなできいて雨宿り。静かに時間を共有するっていいですねぇ~、心からくつろげそうです。

物語の中へ引き込む力の強い絵本でした。どうなるどうなる?と次へ次へとページをめくりたくなる。かっぱさんたちの案内で楽しい世界へ連れて行ってもらえます。河童と過ごすお留守番時間、いいですねぇ!子供といえない年齢ですがわたしもかっぱさんにぜひ連れて行っていただきたいものです。
大きな木と深い緑が細かくずっしり描かれた挿絵もとても美しいです。
雨の日に読むともっと楽しめそうです。



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第133回 小学6年の微妙な人間模様を描いた名作

小学6年女子のちょっと複雑な人間関係や、虫好き女子の孤独な気持ち、男子のちょっとエッチ発言、褒めたつもりが逆に相手を傷つけてしまうこと、体のこと、教室でよばれるニックネームのこと。いろんなことが起こる小学6年2組の一年間のおはなしです。

「ゆかいな床井くん」 講談社 2018年12月発行 185ページ
戸森しるこ/著者 早川世詩男/画

主人公は、三ヶ田 暦(みけた こよみ)、小学6年生の女の子。
床井 歴(とこい れき)、同じクラスの男の子。
主人公の暦は、クラス内の人間模様を観察するのが好きらしい。波風を立たせないように気遣いをしてちょっと考えすぎてしまう、そんな女の子です。「みけたこよみ」だから暦をミケと呼ぶ床井くん。ボケというか言い間違い?が多いが、素直で明るくて人の気持ちを汲み取るのがじょうずな少年。ゆかいな床井くんのテンポ良い会話が読んでいてとても楽しいです。

床井くんは、クラス内で起こる事件や対立が起きそうなことを言ってしまったクラスメイトの気持ちをうまくくみ取ります。なぜそんな発言をしたのかその人の気持ちになって、胸の内を察する優しい子です。
暦は、ちょっと考え込みすぎな女の子ですが、床井くんのおおらかで楽しい発言や考え方にやすらいでいます。床井くんの言葉を素直に受けとる暦もなかなか素敵とおもいます。

人によって捉え方や感じ方が違うことを気づかせてくれる床井くんはほんと優秀。小学6年生とはちょっと思えない気遣いや思いやりがすごい。けれどそんな床井くんも涙することがあるんです。「明日からどうやって生きていけばいいんだろう」と、給食の時間にぽろぽろと涙をながしはじめる床井くん。その理由に泣き笑いしてしまいました。給食を食べながら思いをはせる子どもたち、良いクラスですね。

「ミケが笑った。今日はきっといいことがあるな」そんなことをさらりと言う床井くん。それは惚れちゃいますよねえ~。
暦の床井くんを好きだという気持ちも、爽やかで胸キュンで良いですね。戸森しるこさん、ずっと追いかけたい作者さんです。みなさまもよろしければお手にとってみてください。

著者の戸森しるこさんは、他著書に
「ぼくたちのリアル」幼馴染でクラスの人気者の璃在(リアル)、リアルと比較され自信を持てない渡(ワタル)、そして美形男子の転校生サジ、それぞれの悩みをみんなで乗り越えていく。著者のデビュー作、こちらも面白かったです。
「十一月のマーブル」「理科準備室のヴィーナス」「レインボールームのエマ(おしごとのおはなし スクールカウンセラー)」「ぼくの、ミギ」 などがあります。



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第132回 ともだちとながめる夕日っていいよね

「ぬけちゃった(児童図書館・絵本の部屋)」 評論社 2017年7月発行 32ページ
スティーブ・アントニー/作 せなあいこ/訳
原著「UNPLUGGED」 Steve Antony 2017年

表紙の四角いロボットがビビちゃん。三角・丸・四角のボタンのような模様がついていて、なんだかノスタルジックな気持ちになるボディ。レトロフューチャーっていうんでしょうか、懐かし愛らしいですね。
ビビちゃんは、毎日コンピュータにつながって、音楽をきいたり、ゲームしたり、行ったことのない場所をながめたり、たくさん遊んで楽しく過ごしています。
ある日、コードにつまづいてプラグがぬけちゃった。そして階段をころげおち、おうちのそとに飛び出して、草のはえた坂を転がって、森を抜け、川に流されました。池田屋階段落ちより激しい勢いです。レトロなフォルムだけど精密機械らしきなのにすごく頑丈!ビビちゃんは精密機械の鏡です。
広い空、青々としげる草木、お花の咲く水辺で、「あたし、おそとにいる!」と気がついた。ずいぶん遠くへきたもんだ。ころげるビビちゃんをおっかけてきた、うさぎちゃん、こじかちゃん、ことりちゃんとおともだちになって、歌をうたったり、水遊びしたり、ブランコしたり、かくれんぼしたり、絵をかいたり、たくさんたくさん遊んだビビちゃん。
おひさまが沈んで、おうちへ帰る時間。みんなで夕日をながめる見開きページには、終わりを感じさせ寂しい気持ちになりますが、楽しい時間を過ごせた満足な気持ちが伝わります。友人と仲良くながめる夕日ってすてきです。
ころがってきた道を、友人たちと帰るビビちゃん。帰り道も寂しくない。見送ってくれるみんな、優しいなあ。
ともだちと涙で別れたビビちゃんですが、コンピュータで遊んでいても、おもいだすのは、友だちとあそんだことばかり。最後は、みずからプラグをぬいてともだちに会いにでかけるのがいいですね。ビビちゃんはロボットの姿で描かれていますが、わたしたちと同じ。一人で寂しいという気持ちを感じるビビちゃんにさらに愛着がわいてきます。

わたしたちの生活でもかかせないパソコン。うまく使えば、便利で楽しくて知識も増える。でも、実際に体験したことは、やはり強く記憶され心に残るのでしょう。実際に外へでれば、知っている以上に世界が広がる。
コロナ感染症がおさまって心置きなく外へでることのできるように早くなってほしいものですね。それまでは少々我慢。本やパソコンで情報を得ることをしていたいとおもうのです。きっと実体験できる日がかならずくると信じ楽しみに待っています。

スティーブ・アントニーさんは、ちょっとかわった味わいのえほんをかかれています。
「女王さまのぼうし」飛ばされてしまった帽子を追いかけて女王さまがロンドンの街をかけまわる観光えほん。「やだやだベティ」こどもゴリラのベティがパワフルに泣いちゃう楽しいえほん。「ゆうかんな3びきとこわいこわいかいぶつ」かいぶつなんかこわくない!でもだんだん近づいてきていますよ・・ほらすぐうしろに。「おねがいパンダさん」ドーナツをたくさん持っているのにみんなになかなかあげないパンダさん。どうしてなの?

ちなみに、投稿タイトルは最後に考えるのですが、いつも苦労します。内容以上の過剰なタイトルがまずでてきてしまうのです。タイトルでねたばれしないように、でも目をひくような、笑いもちょっとくるような、素敵なタイトルをうまく思いつくと、びしりと決まって気持ちいいのですが、なかなかうまくいきません。「とじこもりロボ ビビちゃん」と最初に思いついたのですがちょっとこれはやめておいて正解ですよね。今回つけたタイトルもどうかとおもうのですが・・これ以上おもいつきませんでした、すいません。



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第131回 ルッキオとフリフリ まぐろを知らない猫たち

「ルッキオとフリフリ おおきなすいか」 講談社 2014年発行 36ページ
庄司ナホコ/作

長毛で黒猫のルッキオが兄貴分、白地に黒の斑模様のフリフリが弟分。毎日の食べ物にちょっと事欠く(つまり貧乏な)二匹の猫たちが主人公。のぞみは就職(つまり家猫になる)し、マグロをたべること。
そんな猫たちの物語です。
畑のわきにできた大きな大きなスイカで一儲けしようと、
浜辺に売りに行ったのですが・・誰も買ってくれません。仕方なく持って帰っていると、スイカが坂をゴロゴロ転がりだして・・!?

貧乏な猫という設定に驚きます。すごい想像力ですねえ。
マグロの缶詰を知らない=食べたことがない、というほどの困窮具合に共感してしまい、この二匹がどうにも愛おしくってたまらなくなります。兄貴分として頑張るルッキオにいさんがわたしは好きです。
挿絵がたいへんかわいらしい。
ふたりのおうちの中を眺めてみると、物はたくさんないけれど、壊れた足を修繕したテーブルや繕ったかわいいテーブルクロスで飾られています。ものを大事にして暮らしている生活がひしひしと伝わります。そんな二人がますます愛おしくなります。
続編が2冊でています。
「ルッキオとフリフリ はじめてのクリスマス」「ルッキオとフリフリ おやしきへいく」



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第130回 春夏秋冬を旅する

「12月くんの友だちめぐり(新装版)」 西村書店 2010年3月新装版発行 32ページ
ミーシャ・ダミヤン/文 ドゥシャン・カーライ/絵 矢川澄子/訳

原著「DEZEMBER UND SEINE FREUNDE」 Mischa Damjan Dusan Kallay 2010年(旧版発行年1986年)

一年のうち、12月をおさめる12月くんは、12月以外の季節をしりません。知りたいともおもっていなかったのですが、ある嵐の夜、物知りの大風が、春の野に咲く花々や花盛りの木々、素敵な果物の実りのことを教えてくれました。12月の大地には花はすでに枯れてないのです。凧作りの仕事にも身が入らず、なんだか寂しい12月くん、ほかの月のことを知る旅に出ることにしました。
12月くんのファッションがインパクト大です。なんと頭に小さな白い鳥小屋(取り外し可能)をのっけてるんです。コレすごいセンスですよねー。おまけにニンジンみたいな真っ赤の付け鼻。のどもとが赤い小鳥がおともです。(なんていう鳥なんでしょうか?)

3月へやってきた12月くん。3月をおさめる3月くんが野原を案内してくれました。
3月は、冬が終わり春を迎える月。ツグミが巣をかけさえずる歌にききほれます。草が芽吹きはじめています。ツバメ、ツル、コウノトリが海を超えてまもなくやってくる。春を告げるユキワリソウの鐘の音がきこえ、待ちに待った春がやってきました。春のお祭りを3月くんと楽しみ、大の仲良しになりましたが、月はさいごの日になって、お別れのときがやってきました。さあ、次は6月へ・・・

3月、6月、10月を旅して春夏秋冬を知った12月くんは、ちょっと大人になりました。それぞれの月にしっかり働くことで、実りを得ることを知ったのです。さあ、12月にはクリスマスという大イベントがありますよ。クリスマスプレゼントの支度にかかります。おいしそうなケーキやパンやビスケットをたくさんつくります。自分の月が始まって張り切って働く12月くんがかわいらしい。

カーライ氏の挿絵が美しいです。しかしよ~く見ると、一部未完成の部分があるんですよね。戸棚や壁の位置の構図がおかしな感じだったり、空や壁のフチなどあり得ないところありえないもの(カラフルな立方体、笛(?)、壺、マグカップ、弦楽器、漏斗などなど・・)が描き込まれていたりします。でもこの不思議さがとても魅力に感じました。不思議でファンタジックなんですがしっくりくる。リスベート・ツヴェルガーの挿絵をちょっと思い出しました。鳥や動物たちが密に描かれたページが圧倒的でとても魅力的です。よろしければお手にとってじっくり画面を眺めてみてください。
(10月くんのファッションも不思議でかわいいですよ。)

挿絵画家のドゥシャン・カーライは、1948年、スロヴァキアのブラチスラヴァ生まれ。ブラチスラヴァ国際絵本原画展で金のリンゴ賞を2度、「不思議の国のアリス」でグランプリを授賞。国際アンデルセン賞の画家賞も授賞。アンデルセンの童話に挿絵をつけています。