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第118回 パリの美しい風景、修道女と12人の女の子たち

今回は、マドレーヌの絵本をご紹介。美しいパリの風景を絵本のなかに取り込んだ旅心のわく絵本です。
ベーメルマンスは、1898年生まれ、オーストリア=ハンガリー・チロル地方のメラン(現在のイタリア)で誕生。画家を目指していたが挫折。16歳でアメリカに移住しホテルので働いたのち、レストランオーナーに。ベーメルマンスがレストランの壁に描いた絵を見た編集者が絵本を描くことをすすめた・・という経歴のかたです。16歳で渡米とは、時代もあるとおもいますがなかなか肝っ玉がすわってますね。

「げんきなマドレーヌ」 福音館書店 1972年11月発行 46ページ
ルドウィッヒ・ベーメルマンス/作、画 瀬田貞二/訳
原著「MADELINE」 Ludwig Bemelmans 1939年

「パリの、つたのからんだあるふるいやしきに、
12にんのおんなのこが、くらしていました。
2れつになって、パンをたべ、
2れつになって、はをみがき、
2れつになって、やすみました。
2れつになって、9じはんに、ふっても、てっても、さんぽにでました。
なかでいちばんおちびさんが、マドレーヌです。」
寄宿舎に暮らす12人の女の子たちと、先生のミス・クラベルのおはなしです。

実はこどものころあまり好きなお話ではなかったのですが、おとなになって読んでみるとなんだかいいなあ、とおもうようになりました。ねずみも虎も怖くない強いマドレーヌが羨ましかったのかもしれません。虫垂炎になったのと小柄なのだけが共通点。怖がりでスポーツ苦手、いさましさなんてない、そんなだからか反発してしまったのかなあと今はおもいます。

ねずみなんか怖くないし、動物園の虎だってへいちゃら。冬の寒さも、なんのその、スケートも大好き。生徒の中で一番小さいけど、元気な女の子の物語がはじまるぞ、というところで、マドレーヌが盲腸炎で入院します。
タイトルを見事に裏切るストーリー運び。大丈夫なの、マドレーヌ。
2時間の手術のあと、病室で目が覚めます。右側のページに大きく鉢植えのお花が描かれています。なんだか斬新。左側のページには救急車と暗いパリの光景が描かれているので、その対比のためとても明るく感じます。お腹の痛みが消えた安心感が伝わってきますね。
入院したマドレーヌを、仲間の11人とミス・クラベルが、お見舞いに。夜、痛みに苦しむマドレーヌを涙で見送った11人の少女たちは「入院」とはどんなものか、よくわからないものですから、女の子たちは、「ぬきあしさしあし」おそるおそる病室へ入っていきます。
病室には、キャンディの入った箱、お人形と人形のおうち、ベッドには風船、などおもちゃがたくさん。待遇の良さに、みんな羨ましげ。なんといっても一番たまげたのは、おなかの盲腸手術のキズあと、勇気の印を、みんなに見せます。痛かったのよ!どうよこれ!すごいでしょ!というマドレーヌの誇らしげな顔。
その夜、11人の少女たちは、わんわん泣きます。ミス・クラベルは、「一大事かと心配で、走りに走って、駆けつけて」少女たちの部屋に。マドレーヌが羨ましくって仮病をつかってます。「盲腸をきってちょうだいよー。」

一番すきなのは、やはりミス・クラベルですね。人前に出るときに頭につけ髪を隠す修道女のかぶりもの(ウィンプルというらしいです)をどんな時も忘れない、そして、子どもたちのために、階段や廊下を走りに走って駆けつける。信頼できる大人と感じます。

ルドウィッヒ・ベーメルマンスが描いたマドレーヌシリーズが瀬田貞二さんの訳で4冊、江國香織さんの訳で2冊。瀬田貞二さんのちょっと古めかしい言葉の訳が好きです。「たまげる」「すんでにおぼれる」「もくずになるみ」「あっかん」「こはいちだいじ」ですとか。今だとちょっと分かりづらいかもしれませんが、雰囲気がでていて楽しいです。
お孫さんのジョン・ベーメルマンス・マルシアーノさんが続きを引き継いで描いているそうです。

なぜ、子供の頃あまり好きではないと思ったのか、もう一度考えてみたのですが、どうしてこの女の子たちとミス・クラベルだけで暮らしているのだろう?ちょっと寂しそうだなあ・・と感じたように思います。寄宿舎のことを理解していなかったのですね。(でもやっぱりちょっと寂しい感じがあります。)それから12人の女の子たちの見分けがつかない(つきづらい?)のも一因かも。どの子がマドレーヌかなあ、と探すのが楽しいのかもしれませんけれど。他の女の子たちの名前も書いていてほしかったのかなあ、とも思いました。
マドレーヌシリーズ 訳者・原著発行年/日本発行年
「マドレーヌといぬ」瀬田貞二・1953/1973「マドレーヌといたずらっこ」瀬田貞二・1956/1973「マドレーヌのクリスマス」江國香織・1956/2000「マドレーヌとジプシー」瀬田貞二・1958/1973「ロンドンのマドレーヌ」江國香織・1961/2001



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第117回 5色の組み合わせのかわいさ

もりのこえほんシリーズ
「あそぼう!はなのこたち」
「ひなげしのおうじ」
「もりのたんじょうびパーティ」
「サーカス くまさん」
岩波書店 2018年3月と4月発行 20ページ
エリザベス・イワノフスキー/作 ふしみみさを/訳
原著タイトル「JOUEZ FLEURETTES!」「Général Coquelicot」「BONSHOMMES DES BOIS」「Les bonshommes des bois」
Elisabeth Ivanovsky 1944年

イワノフスキーさんは1910年、旧ロシア帝国(現モルドバ共和国)生まれ。ベルギーへ移住されたそうです。
絵の具5色のみで描かれた絵本とのことなのですが、明るくて楽しくカラフルに感じます。色の組み合わせがとても愛らしくデザイン性に優れています。
物語の筋はあまりないのでちょっと寂しい気もしますが絵をじっくりながめてお楽しみください。

「あそぼう!はなのこたち」
はなのこたちが勢揃いの見返しが、猛烈にかわいいです。たまりません。かわいらしいしか言えないのがもどかしい。
ひるがお、あざみ、なでしこ、ヒヤシンス、ゆり、すいせん、カモミール、クローバー、つりがねそう、パンジー、わすれなぐさ・・ いろんなお花を擬人化してあって、みんなでいろんな遊びをしています。
さくらそうときんぽうげがシーソー、アネモネが輪まわし、スノードロップがスキー、睡蓮がボートこぎ、ひなげしが兵隊さんごっこ、やぐるまぎくがタッタカタッタター。
ぎんせんかがいさましくてカッコイイ。クロッカスのぼうしとスカートが素敵。お花の種類のくわしい方だともっと楽しめるのではないでしょうか。
ながめていると、幸せです。カワイイッ!

「ひなげしのおうじ」
ひなげしの王子が主人公。小麦の穂の馬に乗って兵隊さんごっこ、野原でひばりの迷子のひなを助けたり、くもおばさんの蜘蛛の巣を破ったり、なぜかパラシュートで飛び降りたりと、いたずらいっぱいやんちゃな一日を過ごします。お家に帰ったら、なんと息子さんが待っていて、今日の冒険をお話します。えっお父さんなんだあ。いたずら放題のやんちゃなので、10才くらいの少年なのかと思いました、ちょい意外。奥様も登場してほしかったー。

「もりのたんじょうびパーティ」
森の王様、きのこだいおうのお誕生お祝いパーティがはじまります。
こちらは、きのこを擬人化。ハチ・クモ・トンボ・コオロギ・蛾・アブラムシ・蚊?てんとう虫?かげろう?などの虫さんたちや、かえる・とかげ・はりねずみ・ねずみなど生き物たちもたくさん登場。カエルが特にかわいくて気に入りました。わたしの苦手なナメクジさんもでてきますが、意外とかわいい。
パーティの出し物は、楽器の演奏、写真撮影、ダンス、占い、パレード、パーティの演目にしてはちょっと不思議な組体操、槍つきなどなど、たくさんございます。パーティの風景がとても楽しいです。

「サーカス くまさん」
この本は未読なので感想が書けずです。ごめんなさい。こちらも早く読みたいものです。

奥付の作者紹介より~「絵画から舞台美術まで幅広く手がけ、とりわけフランス、ベルギーの子どもの本の分野で活躍」されたということです。
エリザベス・イワノフスキーさんの作品は、この「もりのこえほん」のシリーズのみ邦訳されています。他の作品もぜひ手にとってみたいものです。

「絵本ナビ」↓



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BOOKMARK17号 最新号発行のお知らせ

面白い海外文学・翻訳ものをご紹介したい・お勧めしたい。そんなフリーブックレット 『 BOOKMARK 』を配布しております。
翻訳者の金原瑞人さん、三辺律子さん、イラストレーターのオザワミカさんが、様々なテーマで海外小説を毎号16点、チョイスいたします。
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BOOKMARK 17号 2020年冬号 発行されました!
17号 タ イ ト ル は
Books on Books 本についての本特集

『BOOKMARK 17号』      本を手にお布団でぬくぬく、幸せな時間。猫がいたらさらにパーペキ

今号は、「本」を題材にした小説や絵本を16冊セレクトされています。
本を手に入れる場所である書店や図書館が舞台で、読み手が主人公だったり。活版印刷を発明したグーテンベルクについて。読書することで苦しい気持ちを忘れられたり、その本読んだことあるあるという楽しい気持ちを共有したり。本を読むことの意味とは?なんていうと重苦しいですが、そんな選書となっております。おうちで過ごすことの多いこの時期、本をお手元にどうぞ。
巻頭エッセイ(2p)は、都甲幸治さん「我が友バートルビー」掲載。アメリカ文学の研究者、翻訳家。最近の著書に『「街小説」読みくらべ 』(立東舎)。英語圏の作家の文学ガイド書籍もだされています。

創刊号タイトル『これがお勧め、いま最強の17冊』 エッセイ「このあいだした翻訳のこと」 江國香織
2号タイトル『本に感動、映画に感激』 エッセイ「おもしろい物語に出会ったら、ついでに原作にも手を出してしまおう」 ひこ田中
3号タイトル『まだファンタジー?ううん、もっとファンタジー!』 エッセイ 松岡佑子
4号タイトル『えっ、英語圏の本が一冊もない?!』 エッセイ 東山彰良
5号タイトル『過去の物語が未来を語る』 エッセイ 深緑野分
6号タイトル『明日が語る 今日の世界』 エッセイ「SFって、政治小説?」 星野智幸
7号タイトル『眠れない夜へ、ようこそ』 エッセイ「クラシックホラーファンタジーとのっぺらぼう」 恒川光太郎
8号タイトル『やっぱり新訳!』 エッセイ「気合と気合と気合」 町田康
9号タイトル『顔が好き』 エッセイ「翻訳物の装丁の手順とスクラロース」 川名潤
10号タイトル『わたしはわたし ぼくはぼく』 エッセイ「ワイルドフラワーの見えない一年」 松田青子
11号タイトル『Listen to books!』エッセイ 村上春樹
12号タイトル『これ、忘れてない?』 エッセイ 佐藤亜紀
13号タイトル『グラフィックノベル特集 絵+文字で、無敵!』 エッセイ「グラフィックノベルの新時代とスタン・リー95歳の死」小野耕世
14号タイトル『against! 「NO」ということ』 エッセイ 「不羈 という一言」あさのあつこ
15号タイトル『Be short!』 エッセイ 宮内悠介
16号タイトル『Stranger than fiction?』 エッセイ ブレイディみかこ

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第115回 楽しいおさんぽ

メアリー・チャルマーズさんの絵本を2点ご紹介いたします。
モノクロのさしえでお花やおうちなど一部に淡い色がつけられていて優しい感じです。二足歩行のねこやいぬたちがかわいくてファンタジック。時々、猫らしい犬らしいしぐさのさしえも面白い。友達との楽しい時間が描かれていて幸せな気持ちになります。

「いっしょにおつかい」 岩波書店 2019年5月発行 54ページ
メアリー・チャルマーズ/作 福本友美子/訳
原著「COME FOR A WALK WITH ME」 Mary Chalmers 1955年

白い家にかあさんと住んでいるスーザンという女の子のおはなしです。
かあさんにお隣のホーシーフェザーおばさんへおつかいをたのまれ(はちみつ1カップ)、友達と散歩して、遊んで、おうちへ帰るというとてもシンプルな筋立てなんですが、すごく楽しい。お話の途中にのっている地図を見ると、すごく遠回りしてます。かあさんはまだかなまだかな~と待ってるかもしれないんですが、いいんです。待っててもらいましょう。
ホーシーフェザーおばさんのために、ともだちのうさぎのウィルと花束をつんで、ねこのトミー、きつねさん、ねずみさん、たぬきさん、くまさん(?)など森の動物たちと遊びます。野原や涼しい池、うすぐらい森に咲くお花をたくさんたくさんつみます。道っぱたで好きなだけお花をつめるってすごく贅沢ですよね。そしてもちろん、おやつがでてきます。ブルーベリーパイをいただきました。ああ~おいしそう、いいなあ。
散歩のついでにおつかいしたというごくささやかなことなのですが、楽しいことてんこもりの素晴らしい時間をすごしました。

「こねこのハリー」 福音館書店 2012年10月発行 32ページ
メアリー・チャルマーズ/作 おびかゆうこ(小比賀優子)/訳
原著「THROW A KISS, HARRY」 Mary Chalmers 1958年

ちょっとした危機はありますが、このおはなしもシンプルなストーリーです。こねこのハリーはかあさんとさんぽにでかけます。とっぱちに出会ったカメさんにいきなりちょっかいかけるのが楽しい。ひとりでうろちょろしたり屋根の上に登っておりられなくなったりとやんちゃなこねこらしい行動がかわいいんです。ちょっと危ないですけれどね。屋根からおろしてくれた消防士さんへお礼に投げキスしなさい、とかあさんに言われてもしないハリーああしなさいこうしなさい、と言われ続けてちょっと意固地になってるハリーにふふっと笑ってしまいます。かあさんのこと大好きなんだけど、時にはそんな気持ちになること、わかるわかる。にんまりしているハリーの表情にもご注目ください。たまらないです。
しかしながら、投げキスってちいさな男の子が大人へしてもいいものなんですね。艶やかな女性が男性にするものとおもっていました。
こねこのハリーのシリーズは他にも3作ございます。「ハリーのクリスマス」「まっててねハリー」「ハリーびょういんへいく」



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第114回 めったにない状況での礼儀作法

表紙をごらんください。飛行機が壁を突き破ってます。かなり深刻な状況です。もし本当なら大事故です。操縦士は、そんなとき なんていったらいいんでしょう。
「ごめんなさい」

「そんなとき なんていう? (ゆかいな れいぎさほうの ほん)」 岩波書店 2016年6月再刊(邦訳版初版は1979年11月) 48ページ
セシル・ジョスリン/文 モーリス・センダック/絵 谷川俊太郎/訳
原著「WHAT DO YOU SAY, DEAR?」 Sesyle Joslin, Maurice Sendak 1958年

まちで一人の紳士が、みんなに あかちゃんゾウをあげている。いつもほしいとおもっていたから きみも いっとう うちへもってかえりたい。
でもまず紳士は きみに あかちゃんゾウを紹介する。そんなときなんていう?
「はじめまして」

きみは牧場をみまわるカウボーイ。そこへ突然とんがりビル(わるもの)が背中から拳銃つきつけ「どたまに かざあなあけてやろうか?」とすごむ。そんなときなんていう?
「いいえ、けっこうです。」

映画やドラマの見せ場にしか起こりそうにない大事件、大盛りあがりの極限の状況での第一声のはずが、かなりまっとうなごあいさつというのがおかしみを誘います。このギャップからにじみでる不思議なユーモアが大好きです。きっと英語圏の方には礼儀作法として定型文的文章なので笑ってしまうということなんでしょうかね。

姉妹本に
「そんなとき どうする? (たのしい れいぎさほうの ほん)」 岩波書店 2016年6月再刊(邦訳版初版は2013年) 48ページ
セシル・ジョスリン/文 モーリス・センダック/絵 小宮由(こみやゆう)/訳
原著「WHAT DO YOU DO, DEAR?」 Sesyle Joslin, Maurice Sendak 1961年

こちらも、めったにないであろう11の場面のシチュエイションでの、一瞬ぽか~んとしてしまう礼儀作法がみもの。
としょかんで ほんをよんでいたら、とんがりビル(わるもの)に なげなわを かけられてしまった。「つかまえたぞ。いますぐおれさまのかくれがへ しょっぴいてやる。さあ、こい!」とすごむ。そんなときどうする?
「としょかんでは、しずかに あるきましょう。」