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第87回 庭の船で世界中を旅行する

「みどりの船 (あかねせかいの本)」 あかね書房 1998年5月発行 32ページ
クエンティン・ブレイク/作者 千葉茂樹/訳

夏休みの2週間を、おばさんの家で過ごす姉と弟のきょうだいの物語です。
入ってはいけないと言われたけれど、壁を乗り越え、よそのおやしきのお庭へ。
そう言われれば言われるほど入りたくなってしまうんですよね。なぜ入っちゃいけないのかを言ってくれないから。
自然の森のようにワイルドに生い茂った木々の枝をかきわけかきわけ歩きます。ジャングル探検のような気持になる二人。その先の開けた場所で「船」を見つけます。
煙突もマストもある船なのです。ただし木々を刈り込んで作られた船の形のトピアリー。
船には、ほんものそっくりの舵のついた小屋もあります。遠くが見渡せる素晴らしい場所です。

入ってはいけない庭に入り込むとやはり見つかってしまうものなのですね。
やせた女の人が小屋に入り込んだ僕らを見上げていた。
「水夫長!あそこにいるのはだれでしょう、密航者ではないかしら?」
「この者どもをどうしたらいいかしら?どれいにしましょうか?」
ど・どれいですか!?おそろしいところに入り込んじゃったのでしょうか、どきどきしますがダイジョーブ。 そばにいた庭師にしか見えない水夫長は、こういいます。
「まだ、こどもですぜ。 甲板みがきをさせるってのはどうです?」
「そうね。それが終わったら、お茶にしましょう」
甲板みがきは、お庭のおちばそうじのことでした。そして、甲板みがきが終わったら、ケーキとサンドイッチまでついている本物のおいしいお茶を楽しんだのです。
「水夫長に浜までおくらせましょう。あしたもいらっしゃい。きっと船長もよろこぶでしょうから」
女の人は、トリディーガさんといいました。
庭の船の操舵室にある写真にうつる男の方を船長と呼び、おそらくトリディーガさんのご主人。小さな写真の絵ですが船乗りのようではないような服装です。ご主人はお話にでてきませんので亡くなっているようなのです。

トリディーガさんときょうだいは夏をともに過ごします。暑さしのぎにライムジュースを飲んだり、輪投げをしたり、古い地図をみせてもらいました。庭にあるいろんなものを見立てて空想の航海をします。例えば、一本だけあるヤシの木を見てエジプトにいる、と空想します。毎日毎日世界中を旅行した気分になるのです。
空想することの楽しさが伝わってきます。大人になると想像にひたりきるのは難しくなるとおもうのですが、トリディーガさんはやすやすとその壁を乗り越えているようです。現実と空想のはざまにいるトリディーガさんが不思議で魅力的です。

夏休みの終わる最後の日、トリディーガさんの庭で夜を過ごす許可をもらいました。
どんどん天気が悪くなり嵐がやってきます。
子どもたちとトリディーガさんは庭の船にのって、最後の航海へでかけます。嵐のまんなかへ向けて船をすすめます。
トリディーガさんは、大嵐の夜の間中、船の舵をはなしません。朝になり嵐が去るまでずっと舵を握って立っていました。空想の嵐を本当に体験していたのでしょうか。子供たちをまもっていたのでしょうか。それともご主人を失った悲しみから立ち直るために?いろいろ想像が沸き上がりますが、ほんとのところはわかりません。
トリディーガさんは、嵐で傷んだ庭の船にからまるツタを、庭園のオブジェにつなぎます。とても好きなシーンです。
「わたしたちの船は、無事に、嵐をのりきったのよ。よくやったわね、水夫たち。船長もさぞよろこんでいるでしょう」
港についたのです。

きょうだいは、毎年トリディーガさんをたずねます。庭師の水夫長は年を取って庭の手入れができなくなってので、木々が茂ってそこに船があったことがわからなくなりましたが、トリディーガさんは、ちっとも気にしません。
けれど、きょうだいは、この庭に船があったことを忘れないのです。
前回の投稿の絵本「おおきなきがほしい」でも思うのですが、空想の力はとてつもなく大きい。そこには何もないのに。何もないということこそが心に大きく力を働かせるのでしょうね。不思議で素敵な読み心地の絵本です。
クエンティン・ブレイクの挿絵も素敵です。トリディーガさんがとってもおしゃれです。



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第80回 ひげとらいおん

「ちょびひげらいおん あかね幼年童話」 あかね書房 1977年9月発行 69ページ
長新太/作・絵

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長い長いひげをはやしたライオン。挿絵を見るに3・4mほどでしょうか。長いですね!毎日のひげそりを怠ったのでそこまで伸びちゃったのでしょうか。あまりに怠惰。しかしそこが面白さの発端なのです。
ひげが長くて苦労しているという話から、そのひげをヘビにかじられてしまって苦労し、やっとヘビをひきはがせたとおもったら、ひげが木の枝にひっかかって大風にあおられ凧のように舞い、とうとう・・というなんとも反応に困るシュールな童話です。オチがタイトルなのも、いいですネ。
この本を読んだ小さな人たちが、どんな反応をするか、見てみたいものです。
作者はきっとにやにやしながら書いたんだろうとおもうのですが、それを想像しますとまた楽しい。
なぜこういう展開になるのか・・と不思議な筋立ての楽しい絵本をたくさん描いておられる長新太さん。ナンセンスの神様、という異名をお持ちだそう。なるほど。
多分わたしが長新太さんの作品で初めて読んだのは「ごろごろにゃーん/福音館書店」。意味不明さに圧倒されました。ごろごろにゃーんごろごろにゃーん飛行機に猫がのりこみ、ただただ飛んでいく・・というお話です。が、意味不明さに圧倒されました。雑誌・母の友に掲載されていた「なんじゃもんじゃ博士」も好きでした。博士とアザラシが旅していくというただただそれだけなのですが、なんだか面白い。あまり記憶には残らないのですけれど(ごめん!)、不思議な魅力のあるお話です。



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第58回 釣れすぎて、自分で釣ってる気がしない釣り竿

『とのさまと海 〜新作落語「殿様と海」より(古典と新作らくご絵本)』 あかね書房 2016年9月発行 32ページ
三遊亭白鳥/作 小原秀一/絵 ばばけんいち/編

「古典と新作らくご絵本」のシリーズは思い切ったイラストで面白いです。その中でも、一風変わったイラストなのが、これ(とおもいます)。

10年間、釣ったことがない・・という殿様が釣りに行くというのです。10年間とは、かなりのもんですよね。
もし、明日、釣れなければ・・・切腹を申し付けられるかもしれない、とお困りの家来の三太夫さん。
釣具屋”魚鱗堂(ぎょりんどう)”六代目の助蔵に、よく釣れる釣り竿が欲しい、と相談しています。「我が先祖、初代・魚鱗堂・助蔵」という、秘伝の道具を持ってきました。なんと、初代・助蔵の骨でこさえた竿なのです。自らの骨を竿にする釣具屋・・こちらもかなりのもんですよね。
「釣れすぎて、自分で釣ってる気がしない釣り竿」という優れものの釣り竿であるとのこと。なんだか含みのあるコトバですが、いいんでしょうか。

さて、翌日。
お殿様と家来の三太夫は海に乗りだします。お殿様の顔が”へのへのもへじ”ですが、でも、なんとなく品があるのが面白いです。着物の色のせいかしら。
”初代・助蔵”、なんとしゃべる釣り竿なのです。魂が宿っているので、持っているものとだけですが、会話ができる。スゴイ設定ですねえ。釣りヘタな殿様へのコトバが容赦なくて面白い。
初代・助蔵が、魚がかかると合図しているのです。引きどころを教えてくれるんです。だから、必ず釣れる。そして、”自分で”釣ってる気がしない、とはそういうことだったんですね。
この殿様、10年間も釣れなかったのは、大物ねらいだったからなのです。小物は捨て置け、と相手にしません。なるほど、と”初代・助蔵”。やる気がとたんにでてきます。よし釣らせてやろうと、本気モードの初代・助蔵が、格好いいったら。
初代・助蔵が、伸びに伸び、殿と家来の乗っている小舟より、大きなマグロに巻きつきます。その挿絵の楽しいこと。歌川国芳の「相馬の古内裏」(大きなドクロの絵)を彷彿とします。 大物がかかった竿が ぐうぅっ と弧を描いてしなります。「殿、竿が満月のようでございます!」
落ちは、言わないほうがいいですよね。続きはよろしければ絵本もしくは落語にてどうぞ。

お話はもちろんですが、挿絵がすごいです。魚鱗堂の家紋が凝ってますし(漢字ですので小さな人だとちょっとわかんないかもしれませんけど)、文字で海の波や泡を表現したり、初代・魚鱗堂が骨になって竿になるまでを漫画風に演出したりと、面白い。大人も満足な絵本だとおもいます。
落語として演じられた時、どんなだろうか、と想像するのも楽しいです。実際に噺家さんが演じているのを聴いてみたいですね。



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第51回 ひなたぼっこのすばらしさ

「じゃんけんねこ あかね幼年どうわ」
あかね書房 1977年6月発行
佐藤さとる/作 岩村和朗/さしえ

枯れすすきのヤブで、二本足で立って、たっちゃんを通せんぼする、とらねこがいた。
「このやぶに 入ってきたものは おれとじゃんけんしろ」
命令調で怪しいのに、たっちゃんは勝負にのっちゃうんです。
負けたら、すぐにでていくこと、
勝ったら、お楽しみ。
悪そうな笑みをうかべたとらねこのさしえがまたいいのです。

猫のちょきは、爪が二本、パーは爪が五本、まったくでていなければグーなんです。
じゃんけんがすんだあとの、猫のニヤリ、にドキドキします。
勝利したたっちゃんへのご褒美は、なんと、猫になってひなたぼっこ。

ひなたぼっこのできる原っぱがなくなってしまう、という寂しいラストなのですが、
岩村和朗さんの挿絵の光る楽しい絵本でした。
猫好きさんには、特におススメいたします。

ちなみに、勝ったバージョンのお話と、負けたバージョンのおはなしがあります。負けたバージョンは、「佐藤さとる幼年童話自選集 第2巻」に収録。