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第159回 待望あかんぼう

「あかちゃんのゆりかご」 偕成社 2002年1月発行 32ページ
レベッカ・ボンド/作 さくまゆみこ/訳
原著「Just Like a Baby」 Rebecca Bond 1999年

あかちゃんが生まれます!おじいちゃん・おばあちゃん・おとうさん・おかあさん・おにいちゃん、みんな大喜び。
おとうさんは、ゆりかごを作ります。板をすべすべにみがきあげました。
おじいちゃんは、ゆりかごに色をぬり絵を描きます。きりん、しまうま、かば、おさる、ぞう、とりやクジラ、地球に暮らす生き物たち。
おばあちゃんは、ベッドカバーをぬいました。小さな布をたくさん縫い合わせたキルトの素敵なカバーです。
おにいちゃんは、モビールを作りました。これがあればねててもたのしいよ。
しっぽの長いおちゃめな黒いわんこは、ゆりかごに工夫を凝らすみんなのそばにつきしたがっています。
家族みんなが新しい命をそれぞれのやり方で待ち望んでいるのが素敵です。
みんな一度はゆりかごに入って眠り心地を試すのにはくすりときます。多分いや絶対わたしも試します。試さないではいられないほど素敵なゆりかごなんですもの。
あかちゃんの誕生が待ち遠しくて楽しみでたまらない喜びが伝わってきます。子どもたちが大事にされないという悲しいニュースも聞きますので、幸せな気持ちでいっぱいになる絵本でした。
レベッカ・ボンドさんの他の絵本
「ゆきがふったら」「ドーナツだいこうしん」「牛をかぶったカメラマン:キーアトン兄弟の物語」「森のおくから:むかし、カナダであったほんとうのはなし」

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第145回 怖がり屋の少年の大冒険。

「ローワンと魔法の地図」 あすなろ書房 2000年8月発行 216ページ
エミリー・ロッダ/著者 さくまゆみこ/訳 佐竹美保/画家
原著「ROWAN OF RIN」 Emily Rodda 1993年
シリーズ「ローワンと黄金の谷の謎」「ローワンと伝説の水晶」「ローワンとゼバックの黒い影」「ローワンと白い魔物」

冒険ファンタジー全5巻のシリーズです。訳者あとがきで、1巻から順番に読まなくてもだいじょぶです、という文章がありますが、わたしは1巻から読むことをおすすめいたします。
その理由はといいますと、主人公のローワン少年がどんな冒険を経験し、どのようにくぐり抜けてきたのか、成長の度合いがわかるからなのです。巻が進むにつれ、ローワンの住むリンの谷のこと、リンの民の先祖の秘密のことなどが、次第に判明していきます。謎が解かれていく過程が、非情に楽しいのです。5巻ラストにたどりついた時、強い満足感があります。もしお手にとられるのであれば、ぜひ1巻から、読んでみてください。

「リンの谷」に住む、ローワン少年が主人公。年齢は小学高学年~中学低学年くらいでしょうか。内気で臆病な性格です。年齢の割に体が小さくて弱いため力仕事に向かないローワンは、バクシャーという家畜のお世話係。その年にもなってまだバクシャー係をやっているのか、と見下されています。ローワンは、父を幼い頃に亡くし、母と妹の三人ぐらし。父のかわりになれるくらい強くてたくましい体ではなく、そのうえたいへんな怖がり屋のため、お母さんも含め村の誰にも認めてもらえないという疎外感を感じ、自分は役立たずだ・・という深い深い孤独感にとらわれています。
たいていの冒険ファンタジーの主人公は冒険心にあふれたくましい、というイメージが多いのじゃないかとおもうのですが、それとはちょっと違うキャラクター設定ですね。わたしもさほど勇気のある人間ではないのでとても共感し、応援したくなります。

1巻のあらすじ~~
竜がいるという伝説のある山から下ってきていた川の水が、なぜか流れてこなくなってしまった。川の水がなくなれば、家畜のバクシャーは死ぬよりほかなくなってしまう。川の水が流れなくなった理由をさぐるため、謎に満ちた危険な山に登ることになります。
第1巻のローワンくんは、まだまだ冒険が始まったばかりのため、とても頼りないです。山に登るというだけで、おびえにおびえています。冒険心あふれる年上の強い6人の村人たちに、初めての旅に半強制的に連れ出されたという状態のため、冒険に対する心構えがまだ足りていません。厳しく恐ろしい罠が満載の辛い旅の中で、旅の仲間の気持ちを慮ること、なぜ旅にでたのかの理由をしっかり自覚していくことで、バクシャーからの信頼に応えようと強くなっていきます。

面白いのは、登場人物たちがこまかに描かれていること。
リンの村のリーダー「ラン」はとにかく厳格な女性というふうに1~4巻では描かれていますが、第5巻では若い頃の失敗やあやまちのこと、特にローワンに対する態度が厳しい理由が明かされます。
旅の仲間である「アラン」。彼は、お母さんはリンの民、お父さんは〈旅の人〉という流浪の民、ふたつの民族の間に生まれたひとです。幼い頃は旅の人として暮らし、旅の人であるお父さんがなくなったためリンの村へ母とともに戻ってきたという過去があり、彼もまたリンで疎外感を感じて育ちました。リンの人々に受け入れてもらうため、悲しみを見せないように、陽気さを武器に生きてきたのです。ちょっと複雑なアランがわたしは一番すきですねえ。
そして家畜のバクシャー。アメリカバイソンをもっと毛を長くしたようなウシ科のような生き物です。小さな子供にだってお世話ができるくらいとてもおとなしくて、賢いのです。ローワンは彼らが大好きで大事にしているので、仲良しです。群のリーダー「スター」から特に深い信頼を得ています。彼らとの強い絆もまた物語の鍵となります。
「ブロンデン」という家具作りの女性も、なぜか結構好きなんですよね。ローワンの弱さが許せない、意地悪な発言が多くて、自分の目で見たものしか信じないという頑ななひと。ですが最後にはローワンを認めてくれるのがうれしい。
そして「シバ」。村人のために薬を作ったり、困ったことがあれば助言したりする〈賢い女〉とよばれるひとです。ブロンデンのようにこのひとも意地悪で、クチをきけばたいがい悪意のある不愉快になることばかり言うので、魔女なんてよばれています。弱いローワンを厳しい言葉でひどくからかいます。けれど、旅の助けになる「詞」を教えてくれる、重要人物。彼女もおそらくローワンのように弱い子供で、村人に見下され役立たずと言われたのではないでしょうか。悪意ある言葉でひとを攻撃することで自分をまもってきたのじゃないかと想像しました。イジワルですがわたしはかなり好きな人物です。
ほかにも、1巻の旅仲間「ストロング・ジョン」、旅の人のリーダー「オグデン」と養女の「ジール」、海の民マリスのリーダー「ドス」や友だちの「パーレン」、巻の後半に仲間となる「シャーラン」など、魅力ある人々がたくさん登場。
シバの助言の「詞」について、アレコレ話して謎をといていくのも、楽しいです。

一見強そうな人にもどこか弱い部分があります。さらりと書かれているのだけれど、ひとりひとりに背景があり、物語に奥行きを感じます。強いとされる大人たちが弱点のために、冒険の途中で脱落していくのですが、ローワンが怖がりながらも自分の弱点を受け入れ、必死に勇気をふりしぼって進む姿に、胸が熱くなります。
難点を一つあげるとするならば、ひとつひとつの巻が短く感じて、少ーし物足りないこと。もっと読みたい・・という気持ちになります。
佐竹美保さんのさし絵も、ローワンの世界をよく捉えていて楽しいです。
2000年前後あたりはたくさんファンタジーが発行されましたが、このファンタジーが一番好きでした。おすすめします・・
作者のエミリー・ロッダさんは、ほかにもファンタジーのシリーズをかいています。「デルトラ・クエスト」シリーズ、「ティーン・パワーをよろしく」シリーズ、「フェアリー・レルム」シリーズ、「ロンド国物語」「チュウチュウ通りのゆかいななかまたち」シリーズ・・などたっくさん。

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第126回 ねむれない、そんな夜に

「よぞらをみあげて」 ほるぷ出版 2009年2月発行 32ページ
ジョナサン・ビーン/作 さくまゆみこ/訳
原著「At Night」 Jonathan Bean 2007年

ベッドに入ったけれど、眠れない。父さんも母さんも、妹や弟たちも眠っている。穏やかな寝息が聞こえてくる。
なのに、わたしは目がぱっちり。うわあ~明日は早起きしなきゃならない、なんていうときだとかなり辛い状況ですね。
夜風に誘われて、屋上にでた女の子。そうそう、こちらのお宅は、一軒家で屋上があるのです。洗濯ものは広く干せるし、涼めそうだし、夜は天体観測できそうだし、読書したり日光を浴びたりといろいろできそうで、すごく贅沢に感じますね。
部屋を通り抜ける風は屋上からきていると気がついて、お布団を持って屋上へ。椅子を並べ布団を敷いて空を見上げます。
なんてうらやましい。
月あかりが、わたしを、町いったいを照らしています。
「夜の空は広々として、世界がどこまでもどこまでもつながっていくのを感じます」
太陽の輝く昼間より、そういう感じになるのはわかるような気がします。たくさんの人が寝ていて静かな夜。自分ひとりしか起きていない。近くには誰もいないけれど、遠くの誰かにおもいをはせる。誰かにきっとおもいが届くような、気持ちがつながるような、そんな夜。夜に情熱的な手紙を書いてしまうの原理ですね。
娘が屋上に出たのに気がついたおかあさんは、コーヒー(かなにか温かい飲みもの)片手に様子を見に来てくれます。そういうのもいいですねえ。
いいですねェ~、わたしなら、ビールをおともにしたいです。夜空を眺めて乾杯、ああ、なんて楽しそう!



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第84回 怪物があらわれた夜

「怪物があらわれた夜 『フランケンシュタイン』が生まれるまで」 光村教育図書 2018年12月発行 39ページ
リン・フルトン/文 フェリシタ・サラ/絵 さくまゆみこ/訳

「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」という1818年に書かれた小説があります。世界で最初のサイエンス・フィクションといわれています。メアリー・シェリーという18才の女性が書きました。メアリーがその小説を書こう、と思ったときのことを描いた絵本、なのですが、ご存知ないかたのため、フランケンシュタインについて、ざっとの説明をば。

1.「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」の内容
ヴィクター・フランケンシュタインという青年が、死者の体をつなぎ合わせ、雷による通電で新たに人を作りだす・・というお話です。作りだされた人間は、見た目の怖さやその生まれた理由のため疎まれ「怪物」とよばれています。ですが、寂しさを感じる心や知性を持っていたのです。
怪物はとても孤独です。フランケンシュタイン青年に自分の伴侶となる女性の人造人間を作るようせまります。(ざっとあらすじ。)

2.メアリーの母、メアリー・ウルストンクラフトについて
メアリー・ウルストンクラフトは、男女の同権、誰もが教育を受ける権利がある、という思想を持ったひとでした。両親は結婚制度を否定していたため二人は入籍をしていなかったのですが、子供が生まれるにあたり入籍しました。子供が「私生児」として差別されることをおそれたからです。このことにより、同じ思想を持った多くの友人たちを失ったといわれています。そして娘のメアリーを生み、産褥熱(出産ののち高熱が続く。感染症の一種。)のため亡くなっています。

お母さんのお墓に刻まれたことばで、文字を覚えたというメアリー。
大きくなると、母の書いた本を読破したそうです。そうして作家になることを目指すようになったようです。

舞台は、イギリスの詩人バイロン卿の別荘。この別荘に滞在する、シェリー夫妻。ある夜、バイロン卿が、”ファンタスマゴリアナ”というフランスの怪奇譚を朗読します。そして、皆でひとつずつ、怪談を書こうじゃあないか、という提案をするのです。作家志望のメアリーも、もちろん参加しました。
滞在中、雨続きで外出がままならなかったため、屋敷で哲学談義をするバイロン卿の一行。死んだカエルに電気を通すと足が動く(ガルヴァーニ電気)、死者を蘇生することができる、といった科学的な話題だったそうです。
その哲学・科学談義を聞いていたメアリーは、その知識を、書き始めた物語にとりこみ、かの有名な登場人物を生み出します。「作り出された人間」を。

自分の生まれた経緯、メアリーが生まれることによって曲げてしまった両親の信条や思想・・そういったこともきっと作品に影響したでしょう。特におかあさんが自分が生まれることによって亡くなってしまったことは、大きな心の傷だったのではないでしょうか。
メアリーは「作り出された人間」に自分の境遇を重ね、想いをこめたのではないでしょうか。

フランケンシュタイン青年がつくりだした人間は、存在の理由、生きるための希望を欲して苦悩しています。「彼」は、経験の少なさゆえの性急すぎた行動をとってしまいました。そして生みの”親”たるフランケンシュタイン青年に憎まれ追われることになりました。

しかし彼は真に怪物だったでしょうか。「現代のプロメテウス」という副題がきいています。
SFを読むかたにおすすめしたい、メアリー・シェリーの物語でした。