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第152回 悲しみを乗り越える

「ナイナイとしあわせの庭」 徳間書店 2002年4月発行 48ページ
キティ・クローザー/作・絵 平岡敦/訳
原著「MOI ET RIEN」 Kitty Crowther 2000年

ママが亡くなって寂しい女の子リラのお話です。
ここにいるけどいない、リラだけしか見えない友だち「ナイナイ」がいます。イマジナリーフレンドといわれる存在です。寂しい気持ちを抱えていたり、愛する家族を突然なくした子どもたちが、悲しみのあまり想像により作り出すことがあるのだそうです。実際にいるようにお話したり遊んだりすることができます。大人になるにつれ消えてしまうようです。
リラのお父さんも奥さんをなくした悲しみから立ち直れずふさぎ込んでいて、リラのことを思いやる心の余裕がありません。おばがいて心配してくれていますが、ナイナイのことを認めてくれていません。他の子どもたちに変わってる、と言われています。相談できる人が誰もいないのです。
なんとも胸の痛む状況に気分が少し暗くなるのですが、ナイナイと二人でおしゃべりしあうのは楽しそうなのですよね。決して悪い存在ではなく、悲しみから自分を支えてくれるともだちなのです。
おうちの庭にはかつてたくさんのお花が咲いていました。お母さんが美しい花を咲かせたお庭だったのでしょう。お母さんが亡くなってから誰にも顧みられず荒れ果てています。リラやお父さんの心と同じように。

お母さんが大好きだったヒマラヤブルーポピーというお花を咲かせよう、と励ますナイナイにいらいらしてあっちへ行って!と言ってしまいました。するとナイナイが消えてしまいます。悲しみの殻から抜け出せないリラの心をとかすのは、やはりお母さんが教えてくれた渡り鳥オガワコマドリが庭にきたことでした。

お母さんとの思い出の花、ブルーポピーは育てるにはとても手のかかる花だそうですが、リラはこの庭で育てることにしました。お母さんが教えてくれたように、花を大事に育てます。
悲しみを乗り越えるには、時間が必要です。時間や手間をかけ花を育てることで心を癒やされるというのはわかるような気がします。リラはナイナイは本当はいないことは承知なのでしょう。壊れそうな心を保つにはナイナイがいないといけなかったのです。
花を通して悲しみに閉じこもった心から開放されたリラとお父さんが庭で笑顔で向き合うシーンにほっとします。
ラストには、ちょっと不思議なプレゼント・・

キティ・クローザーさんは喪失からの再生、不思議な存在、死、恐怖のことなどやや重めのテーマを題材に書く作者さんです。
他の作品に
「こわがりのかえるぼうや」怖がりなカエルの子とパパの物語。「にわにいるのは、だあれ?:パパとミーヌ」未読「ちいさな死神くん」死が近い人を迎えに行く死神くんはいつも怖がられるのですが、エルスウィーズは違いました。「あるひぼくはかみさまと」森を散策中のテオは神様と出会いました。不思議な味わいがあります。「みまわりこびと」農場をひそかに守る誰にも見えない不思議なこびとのお話。「おじいちゃんとの最後の旅」ウルフ・スタルク著。住んでいたお家に一度帰りたいという入院中のおじいちゃんの願いを叶えるため計画をたてるぼく。

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第61回 夜にみまわるこびと

「みまわりこびと」 講談社 2014年10月27発行(原著は1960年) 25ページ
アストリッド・リンドグレーン/文 キティ・クローザー/絵 ふしみみさを/訳

大事にすると、農場をまもってくれる小人のおはなしです。スウェーデンではトムテ、ノルウェー・デンマークではニッセ、とよばれています。敬意を払って接しないと農場を出ていってしまうんだそうです。日本の妖怪のざしきわらしに似ているようですね。

冬の真夜中、森の農場では、人も動物もぐっすり眠っています。雪は深く積り白く輝いています。肌を刺すような寒さなので、夜も暖炉で火を燃やし家の中を暖めます。
真夜中、一人起きているのは・・・こびとです。いつからいるのか誰も知らないほど、昔からこの農場にいるのです。その年とったこびとは納屋に住んでいます。夜にこびとは、農場をみまわり、牛・馬・鶏や羊たちに声をかけます。耳には聞こえないその小さな言葉が動物たちにはわかります。冬はきて、また去っていくもの。夏はきて、また去っていくもの。時は巡って、温かで緑多く楽しい季節がまたやってくると、動物たちを励ましています。
そして犬のカーロの鼻に優しくふれてご挨拶(表紙をごらんください)。カーロへの挨拶が特になんだかぐっときます。カーロも毎晩、友達のこびとがくるのが楽しみなのです。犬のみ名前が明かされてますので身近に感じるのでしょうか。

夜に見回って農場を気にかけてくれるけれど、人間には、こびとの姿が見えないし声も届きません。それでもみんな、こびとがいるのを知っているのは、朝になると、雪の上にてんてんと、小さな足跡が残っているからなのです。こびとは寂しくおもっています。そうして、納屋に戻ります。納屋で待っていた猫にミルクをあげ、本を読み、夏を夢見てベッドで眠るのです。
こびとの声をきくことができないというのはかなり寂しいですね。人間は取り残されているという感じがちょっとしますが、寂しくもあっためてくれる絵本です。ぜひ小人に会ってみたいですね。