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第173回 ぼくは不安なんだ

こちら、北欧ノルウェーの作品です。
この表紙の絵、すごくリアルでしょう?広い海に腰までどぷりとつかり、ご来光のようなものを背にして、なんだかお間抜けな感じの少年が困った顔をしています。暗い表情なので、楽しいお話ではなさそうかしら、とちょっと手に取るのをためらったのですが、いやいや、読んでよかった!最初の印象とは違う予想だにしない素晴らしい絵本でした。
ただ、かなりファンキーでポップさの強い独特な挿絵です。内容とあわせると、ぴったりと思いますが、好みのわかれる挿絵とおもいます。でもでも気になりましたらどうぞお手にとってみてください。

「ガルマンの夏」 三元社 2017年5月発行 A4判48ページ
スティアン・ホーレ/絵・文 小柳隆之/訳
原著「Garmanns sommer」 Stian Hole 2006年

表紙の男の子は主人公のガルマン、6才。
今日は夏休みの最後の日。短い夏が終わります。ああ~切ない日ですねえ。
ガルマンは不安です。歯がまだ一本も生え変わらないし、近所の友達ができるカッコイイこと(自転車に乗れるし、フェンスの上でバランスを取れるし、本も読める)がひとつもできない。そして、明日から、小学校に入学するんです。(ノルウェーでは、春ではなく夏から入学なんですね。)
環境が変化するので不安なのです。気持ち、すごくよくわかります。
年に数度、遊びに来るおばさまたち、ボルギル・ルート・アウグスタの3人に相談です。
ぼくは不安なんだ。おばさんたちは?
3人のおばさまたちとガルマンの身長は同じくらいですが、夏が来る度、おばさまたちは縮んでいってます。皆様、かなりのお年。顔のシワは木の年輪に似ています。
「おばさんはもうすぐ死んじゃうの?」
わあ~ずばっと聞いちゃいましたよねぇ~。ストレートすぎない?とちょっとなんか心配になります。幼い子供らしい率直さで、無礼にも真正面から尋ねましたが、おばさまは怒ったりなんかしないでこういいます。
「そうね、多分そんなに先のことじゃないわね」
「そのときは、口紅をつけて、きれいな服を着るの。それから北斗七星の馬車にのって、おおきな門につくまで空を旅するのよ。門をくぐったら、歩いて、ここみたいにすてきなお庭にはいって。ただもっと広いわね」
「そうね、ガルマン、あなたと別れるのが不安だわ。でもおおきなお庭はたのしみかもしれない」
素敵な答えだなあと思いました。いつかやってくる。だれにでも訪れる死。少年は夏の終りと愛する人達の死を重ねているんですね。
お父さん、お母さんにもたずねます。「なにか不安なことがある?」素直ですよね、ガルマンって。なんだか妙に肩入れしたくなる素直さです。お父さん、お母さんにももちろん不安があります。不安なガルマンにそっと寄り添って、不安への対処方法を考えてくれ勇気づけ愛していることを伝えてくれます。その伝え方がいい。
ですが、相談したことでガルマンの不安がまったくなくなるわけではありません。学校が始まるまであと13時間、少年の不安は続くのです、というこのラストがすごくいい。

文字が多いので、小学高学年以上向きなのかもしれませんが、すべてフリガナつきですので低学年の人も読むことはできると思います。すべての年代の人たちが、生きていく上で感じる不安な気持ちに共感できるのでは、とおもいます。良い絵本と思います。気になりましたらどうぞ手にとってみてください。

カバー折返しにある、作者のスティアン・ホーレさんの紹介文をみますと、発表した作品名が書かれております。なんとガルマン少年のお話、シリーズ化してるようです!「ガルマンの通り」「ガルマンの秘密」の2冊。でも未訳なのですよぉ~残念。翻訳されたらすごく嬉しいです。ぜひ読みたいです。
ホーレさん他の翻訳絵本に「アンナの空」があります。

↓「ガルマンの通り」「ガルマンの秘密」英語版の表紙です↓