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第192回 ネコ科バンザイ

「サイモンは、ねこである。」 あすなろ書房 2017年8月発行 32ページ
ガリア・バーンスタイン/作 なかがわちひろ/訳
原著「I AM A CAT」 Galia Bernstein 2017年

子猫のサイモンが、ライオン・ピューマ・クロヒョウ・トラ・チーターに出会いました。
「ぼく、サイモンです。ぼくたち、にてますね。」
鼻で笑う、ライオン・チーター・ピューマ・クロヒョウ・トラ。
みなさんそれぞれ、自分らしいところをあげていきます。
ライオン(以下では「ラ」)は、
たてがみとしっぽのふさがあるのは、わたしだけ。だって百獣の王なんだも~ん。
と自信満々。
チーター(以下では「チ」)は、
このすらりと長ぇ足見てみろやぁ。世界でいっちゃん早い足持ってんだぞぉ。ころころ太った毛玉と訳が違ぇんだ!
ピューマ(以下では「ピ」)
あたしは山に住んでんの!岩から岩へ飛び移る、軽やかな足持ってんの!子猫ちゃんなんかまっさかさまーでしょ!
と自信満々。
クロヒョウ(以下では「ク」)は、
おまえ、黒くないじゃん。
オレなんかジャングルの木の上で寝てんだぞ?!子猫ちゃんはジャングルなんて見たことねぇだろぉ?
と、自信満々。
・・・ま、他のみんなも、黒くないですがね。
最後に、トラ。(以下では「ト」)
黄色・黒の美しい堂々としたこの縞模様をば見よ!つまり俺様つよい!
と自信満々。
*ご注意:各セリフは、ちょっと端折ってアウトサイダー風に変化させている部分があります。

「ほんとだ、ぜんぜん違います。似てると思ったんですけどね・・」としょんぼりするサイモン。敬語なのがとってもかわいいんだよね。
俺たち、似てるところなんか あるか?と、ラ・チ・ピ・ク・トの5匹。お互いをじっくり見比べます。
似ているところは、
– かすかな音でも聞こえる良い耳
– 立派なヒゲ
– 長いしっぽ
– するどい歯
– とがった爪
– まっくらやみでもよく見える、大きな目
サイモン、元気よくお返事。
「それぜんぶ、僕も持ってます。   ちっちゃいですけど!」
俺たちより小さいけど、子猫のサイモンも、仲間なんだ・・
とラ・チ・ピ・ク・トの5匹。

サイモンは にっこり わらいました。
「やっぱり、ぼくたち なかまですよね」
「ほんとだな!」
ラ・チ・ピ・ク・トの5匹も こえを そろえて いいました。
それぞれ違う特徴があるけど、同じネコ科なんです。
身体の大きい小さいなんか関係なく、みんなで じゃれて はねて、ねこパンチ。しのびあるきでとびかかり、ごろんごろんところがって いちにちじゅうあそびました。
猫パンチ、こねこ以外のは痛いだろうなあ。いや多分死ぬ。
ネコ科バンザイ絵本なのである。奥付ページにある、ネコ科たちがダンゴになって眠るイラストがたまりません。
にんげんにも、これをあてはめてかんがえられたらいいよね。いろんな違いあれど同じ世界に住む生き物なんですから。

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第189回 ことばのちから

「ことばコレクター」 ほるぷ出版 2022年5月発行 34ページ
ピーター・レイノルズ/作 なかがわちひろ/訳
原著「THE WORD COLLECTOR」 Peter H. Reynolds 2018年

切手・コイン・石・絵・虫・カード・本・・・・などなどいろんなものを集める人たちのことをコレクターといいます。
この絵本の主人公ジェロームは、ことばコレクターです。
ことばを集めるのが大好き。ひびきがきれいな、きらきら光っているような、はずむような、どきっとするような、絵をそえたくなるような・・・そんなわくわくすることばをメモして集めてます。

集めたことばを、まずは単語ひとつひとつを楽しみます。そしてお次はそれぞれのことばをつなげていきます。
「はればれとした」「雨雲」
「こぢんまりした」「巨人」
「しずかな」「オーケストラ」
関係なさそうな言葉同士で並べると、なおのこと想像がふくらみますね。詩を作って音楽をつけたり、意外な楽しみが生まれます。

そしてジェロームは気がつきます。「ありがとう」「(きっと)だいじょうぶだよ!」「どうしたの?」毎日使うありふれた言葉にこそ力があることに。
たくさん言葉を知ることで、感謝する・応援する・心配する・・自分の気持ちや考えを伝えるのが上手になることを学びました。
最後にジェロームは、丘の上から、集めたことばのメモをすべてほうりなげ、解き放ちます。
「ジェロームがどれほど満足していたかをあらわすことばは、どこにもありませんでした。」

言葉コレクターにも思い浮かばない・ことばでは表現できない、というのが面白いじゃありませんか!ことばだけが世界へのツールじゃないのですね。
そして言葉は、好意だけでなく悪意も伝えることもできるということ。言葉は力をもっていて、使い方によって相手を傷つけることできます。
言うんじゃなかったなあ・メールにあんなこと書くんじゃなかったなあ、なんてこと、わたしは結構あります(恥ずかしながら)。皆さんも経験あるのじゃないでしょうか。言葉をたくさん知っていても、上手に使わないといけません。
そして、後見返しの作者の言葉。
「きみのこころに ひびくことばを みつけて だれかに つたえてごらん。せかいが もっと すてきなところに なるはずだから。」
豊かな世界になるように、という作者の願いに胸があったまります。
原著(英語版)では、どういう言葉になってるのかも知りたくなります。
人が言葉を使って、世界に結びついてく過程をじっくりみせてくれる絵本でした。

作者のピーター・レイノルズさんの他の作品(ほかにも挿絵をした本たくさんあり)
「てん」「っぽい」「ほしをめざして」「ローズのにわ」「ぼくたちの春と夏と秋と冬」「そらのいろって」「ぼくはここにいる」「いちばんちいさなクリスマスプレゼント」「びじゅつかんへいこう」「こころのおと」「ゆめみるハッピードリーマー」「すてきなテーブル」

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第175回 てのひらのあいさつ

「てのひらの あいさつ」 あすなろ書房 2020年7月発行 32ページ
ジェイソン・プラット/文 クリス・シーバン/絵 なかがわちひろ(中川千尋)/訳
原著「THREE SQUEEZES」 Jason Pratt, Chris Sheban 2020年

17.5×17.5cmのこぶりの絵本ですが、大人向けとおもいます。こどもの成長を見守る親の物語なのです。特に、息子である人や育児にたずさわるお父さんにぐっとくるのじゃないでしょうか。
生まれたばかりの子どもは、歩けないし言葉も通じない。でもおもわず見惚れてしまう輝きがある。暗闇を怖がることも成長。高いところから飛び降りて怪我してしまうことも成長。
きみがかなしいときには背中にとんとん手を当てる。肩をぽんぽんとたたく。言葉はなくとも伝わる気持ち。
野球のキャッチミス、アイスクリームを落っことしたり、いいことばかりじゃない、そんなときは、ちょっぴりらんぼうに頭をごしごしなでる。
てのひらをそえて支えてきたけれど、きみはいつしか大人になって見守りを必要としなくなるときがくる。そして守るべきものができたとき、次はきみが息子や娘に、手のひらをそえ愛情を伝える。
伝わっていく愛情が優しくてじんわりきます。

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第174回 105人も参加する仕事ってなんだろう。

「105にんのすてきなしごと」 あすなろ書房 2012年6月発行(すえもりブックス版1995年) 46ページ
カーラ・カスキン/文 マーク・シーモント(シマント、サイモントの表記あり)/絵 なかがわちひろ(中川千尋)/訳
原著「The Philharmonic Gets Dressed」 Karla Kuskin, Marc Simont 1982年

タイトルが面白くて、手に取りました。105人も参加する仕事ってなんでしょうか。表紙にヒントあり。でもまだわかりませんねぇ。
金曜日の夕暮れどき、とても寒くなってきました。暗くなった街の建物の窓に明かりがつき始めます。
週末は遊びに行くとか居酒屋に行くだとか家で家族奉仕とか家で飲むとか、ゆったり過ごす人が多いかもしれませんが、この絵本に登場する105人の皆さんはこれから仕事です。お仕事に行く準備が始まります。まずは、お風呂。お風呂というの、ちょっと驚きました。すごくリアルだなあ。まあそうだよねえ、仕事前のひとっ風呂、確かに確かに。
ひとりひとりがどうやって、お風呂に入るのか、なかなか詳しく書いてます。「シャワーをあびるだけの人がほとんどですが、二人の男の人と三人の女の人は湯船につかります。」へー。なんか妙にくわしいなあ、アンケートしたんですかねえ。一人の男の人は、湯船で本を読んでいて、しかも横で猫がそれを観察してますよ。仲いいですね。
お風呂からあがって体を拭き、良い匂いのパウダーをふりかけたり、ヒゲをそったり。ヒゲソリしない3人の男性は、ハサミでおヒゲを整えます。一人の女の人は、髪にパーマをあてるような道具を使いながら「MOZART」の本を読んでます。(この機械、なんでしょうか。)
そして下着をつけます。みなさん、どんな下着をつけますか?
まずは男性の場合。トランクスもしくはブリーフ。半袖あるいは袖なしのシャツ。一人の寒がりの男の人は、シャツと長ズボンがつながったあったか~い下着を重装備しました。それから靴下。座って履いたり立って履いたり、いろいろです。親指のとこが破れてしまってる人、黒い靴下がなかなか見つからない人もいるようですよ。
次は女性編。女の人はいろいろ着なくちゃいけないので面倒です。パンツ、ストッキング、ガードル、タイツ、上はブラジャーそしてスリップ。フーッ、すごい枚数だ。冷え性さんは、毛糸の靴下も必要です!
と、こんな具合に、仕事へ出かける支度をながめる絵本です。挿絵を確かめながら文章を読んでいくと楽しいんです、これが。

105人の仕事は、「オーケストラの音楽家」でした。
音楽ホールに集まったみなさんが、いろいろなかたちのかばんからだしたのは、楽器。
舞台の上には、102脚の椅子と2つのスツールが置いてあります。あれ?105人でしたよね。1つ、椅子がたりないぞ?そう、一人は座りません。立ったままの人がいますね。指揮者です。
「金曜日の夜、8時30分。黒と白の服を着た105人の男の人と女の人の仕事が、今始まりました。その仕事とは、白い紙に書かれた黒い音符を音楽に変えることです。」
「105のこころをひとつにあわせて作り上げたのは、うっとりするほど美しい音楽でした。」

作者のカーラ・カスキンさんは、アメリカの詩人、作家、児童文学評論家。「どれがぼくか わかる?」「マウス一家のふしぎなさんぽ」「あめのひってすてきだな」などの邦訳あり。「105にん~」の第2弾、フットボール選手版「ダラス タイタンの月曜日」という本も発行されている模様です。ご主人は、オーボエ奏者なのですって。リアルな体験談なんですね、やっぱり。
挿絵のマーク・シーモントさんは、フランス・パリ生まれ。「はなをくんくん」春が待ち遠しいどうぶつたちのおはなし、「のら犬ウィリー」ピクニックにでかけた一家が一匹の犬に出会うほのぼの絵本、「ぼくはめいたんてい 全17巻」9歳男子ネートはだれもがみとめる名探偵。などの挿絵をかいています。

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第97回 抽象絵画がちょっと身近になるかもしれない

ワシリー・カンディンスキー(1866年-1944年)のものがたりです。
「抽象絵画」の創始者といわれています。
抽象画はなかなか理解されず、挫折を経験しつつ絵を描くことをやめませんでした。

「にぎやかなえのぐばこ カンディンスキーの うたう色たち」 ほるぷ出版 2016年9月発行 32ページ
バーブ・ローゼンストック/文 メアリー・グランプレ/絵 なかがわちひろ(中川千尋)/訳

ワーシャ(ワシリーの愛称)は、ロシア出身、裕福なおうちに生まれました。ですので、立派な家の跡取りとして、音楽や算数の勉強をたっぷりさせられていました。勉強のうちのひとつとして、おばが絵を描くことを教えてくれました。不思議なことに、絵の具をパレットの上で混ぜ合わせると音がしたそうです。さらに色んな色をまぜあわせると、音楽となりました。
レモン色のまるをかくと、ピアノの一番高い音。りりん りりん りんりんりん。
銀色のしかくはチェロの一番低い音。ずーん ずーん。
赤い線は波の音。ざっぱーん!
音楽にあわせて描いた絵を、両親はまったく理解してくれませんでした。絵を描くことを諦め、おとなになって、法律学者になりました。
あるとき、オペラで聴いた音楽が色となって頭の中で踊りだしました。
それはそれは美しかったのでしょうねえ。ワーシャは、やはり画家として生きたいと思うようになったのでした。
「わたしは、自分を解放した。家や木をかこうとは考えずに、パレットナイフでカンバスに えのぐの線や点をぬりつけて、できるかぎり力づよく、その色とかたちをうたわせた」
色から音が聞こえたり、音楽をきくと色が見えたり、言葉をみると味やにおいを感じたり、そのように感じる現象のことを「共感覚」というそうです。カンディンスキーもそうだったのではないかと言われています。

正直に申し上げますと、わたしも抽象画をどうやってみたらよいのかわかりませんでした。意味をみいだそうとしてしまうのがよくないのでしょうか。まさに「それは家?それとも花?いったい何をかいたのかさっぱりわからん」の状態でした。ですが、この絵本を読んで少し身近になったようにおもいます。
最後のページの訳者あとがきに「なんとなくひかれた作品だけをみることにしています。全部みると疲れてしまうので半分以上はパス。・・ まずは、なにも考えずにぼんやりと、音楽に身をひたすようなきもちで向きあうのが、私の抽象画のたのしみかたです。」
なるほど、全部を理解しようとしなくても、わからなくっても、いっそ見なくっても、いいんだな。なんだか安心しますね。
最後にカンディンスキーの作品が小さいですが4点も掲載されています。よろしければどうぞながめてみてください。
わたしは「白いジグザグ」が面白いなあと思えました。ちょっと進歩できたみたいで結構うれしいのです。