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第164回 お人形のはなし

幼い頃、みなさん少なからずお人形をもっていたんではないでしょうか。テディベアなど動物のぬいぐるみ・リカちゃんバービー・シルバニア・市松人形・・うん、ガンダムのプラモやキン消しも含めちゃいましょう!・・などなど。
コールテンくんというくまのお人形のお話です。ズボンのボタンが一つとれてしまっていて、ちょっと不良品な状態です。欲しいと言う子どもはあらわれるでしょうか。。。

「くまのコールテンくん (フリーマンの絵本)」 偕成社 1975年月発行 30ページ
ドン・フリーマン/作 まつおかきょうこ/訳
原著「COEDUROY」 DON FREEMAN 1968年

デパートのおもちゃ売り場にお人形さんたちがならんでいます。みんな早く誰かがおうちへつれてかえってくれないかなあとおもっていました。くまのコールテンくんもそうでした。デパートの外の世界のことをいろいろと聞いていたのです。共に暮す「ともだち」のこと、「山」のこと、王様の住む豪華な「御殿」、人の住む「おうち」のこと・・。
女の子がコールテンくんを気に入ってくれたのですが、お母さんはもうたくさん買い物をしてしまっているし、ズボンのボタンが一つとれているわ、とゴー・サインがでませんでした。
あともう少しで連れて帰ってもえらえそうだったのに。なくしたボタンをさがすため、そして外の世界への憧れがコールテンくんに行動を起こさせます。おもちゃ売り場の棚からおりボタン探しの冒険へ出発。

エスカレーターのことを山だとおもったり、家具売り場を王様の御殿と勘違いするコールテンくんが面白いのですが、外の世界を知らないのが少しかわいそうですね。
本来動くことの出来ない人形やおもちゃたちは、そばにいる子どもたちから、世界のことを知ることができるのです。(コールテンくんは動き回れるようですが・・)
家具売り場のベッドカバーの下に隠れたコールテンくんですが(耳がちょこっとでていたので見つかってしまうのがかわいい。)、デパート内を警備するおじさんに捕まって、おもちゃ売り場へ戻されてしまいました。

次の朝、コールテンくんに素敵なことがおこります。前の日コールテンくんを気に入ってくれた女の子が迎えに来てくれたのです。王様の御殿のようにたくさん家具のある大きな部屋ではないですが、素敵なおうちに連れて帰ってくれました。(なんとコールテンくんのベッドがあります!)そして、ズボンのボタンをつけてくれます。「あたし、あなたのこと このままでも すきだけど、でも、ひもが ずりおてくるのは、きもちわるいでしょ。」
ついにコールテンくんは、ともだちをみつけたんです。

ぬいぐるみを私もいくつか持っていて大事にしていましたが、「ともだち」だったかな・・・。コレクションのうちの一つ、というのが強かったような覚えがあります。お人形を大事にしない残念なわたしでした。ですので、この二人のような関係、驚きとともにうらやましく感じました。素敵な物語です。

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第159回 待望あかんぼう

「あかちゃんのゆりかご」 偕成社 2002年1月発行 32ページ
レベッカ・ボンド/作 さくまゆみこ/訳
原著「Just Like a Baby」 Rebecca Bond 1999年

あかちゃんが生まれます!おじいちゃん・おばあちゃん・おとうさん・おかあさん・おにいちゃん、みんな大喜び。
おとうさんは、ゆりかごを作ります。板をすべすべにみがきあげました。
おじいちゃんは、ゆりかごに色をぬり絵を描きます。きりん、しまうま、かば、おさる、ぞう、とりやクジラ、地球に暮らす生き物たち。
おばあちゃんは、ベッドカバーをぬいました。小さな布をたくさん縫い合わせたキルトの素敵なカバーです。
おにいちゃんは、モビールを作りました。これがあればねててもたのしいよ。
しっぽの長いおちゃめな黒いわんこは、ゆりかごに工夫を凝らすみんなのそばにつきしたがっています。
家族みんなが新しい命をそれぞれのやり方で待ち望んでいるのが素敵です。
みんな一度はゆりかごに入って眠り心地を試すのにはくすりときます。多分いや絶対わたしも試します。試さないではいられないほど素敵なゆりかごなんですもの。
あかちゃんの誕生が待ち遠しくて楽しみでたまらない喜びが伝わってきます。子どもたちが大事にされないという悲しいニュースも聞きますので、幸せな気持ちでいっぱいになる絵本でした。
レベッカ・ボンドさんの他の絵本
「ゆきがふったら」「ドーナツだいこうしん」「牛をかぶったカメラマン:キーアトン兄弟の物語」「森のおくから:むかし、カナダであったほんとうのはなし」

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第158回 アポロ!!

宇宙飛行士ではない民間人でも宇宙旅行が夢ではない(高額ですけれど)とか、火星移住計画進行中?とか、アメリカ宇宙軍が編成されたとか、宇宙に関するニュースをよくきく今日このごろです。
そしてこれは人類が初めて月へと旅をした物語の絵本なのである。

「月へ アポロ11号のはるかなる旅」 偕成社 2012年2月発行 40ページ
ブライアン・フロッカ/作・絵 日暮雅通/訳
原著「MOON SHOT THE FLIGHT OF APOLLO11」 Brian Floca 2009年

1969年7月16日、3人の宇宙飛行士が、アポロ11号に乗って、月に向かって飛び出した。
今から(2021年現在)52年前のお話です。地球から月まで往復で「すべてがうまくいけば、1週間の旅」。日数だけで考えると意外と近いなあ、という印象。
本文は簡潔なやわらかい言葉でわかりやすい。リアルな挿し絵がものをいう感じですね。
船長のアームストロング、パイロットのコリンズとオルドリンが、月へと向かう大冒険。地球から離れるに従い段階的に切り離されていくロケット、宇宙の暗さ、冷たさ。月へと向かう思い。
船内のいろんなことも。物品にマジックテープがはりつけられている理由。無重力状態の船内での食事やトイレするコツ。船内、やはり臭ってくるそうです。う~ん。

月への着陸の冒険の臨場感はたまりません。機器の不具合によって着陸に時間がかかり制限時間あと60秒しかない!という状況になっていたのだそうです。
「ヒューストン、こちらは〈静かの海〉。イーグル(ワシ)は舞い降りた。」「ついさっき、駐車場に車をとめたとでもいうような、おちついた声。 でも地球のみんなは大さわぎだ!」ひゅ~!
月からの帰りが2ページなのがあっさりで残念です。もうちょっとページがあってもよかったのでは。
前・後ろの見返しに、サターン5型打ち上げロケット・アポロ宇宙船・月からの離陸のこと・ソ連×アメリカ宇宙開発競争・アポロ計画のことなども少しずつですが解説あり、情報満載。
1972年12月から人類は月に降り立っていないそうです。これから身近になっていくのでしょう。やっぱり行けるなら行ってみたいものですね。幼い方々がこの絵本を読んで宇宙に興味が湧いたらば幸いと存じます。

著者のブライアン・フロッカの他の作品
「走れ!!機関車」1869年アメリカ大陸横断鉄道に乗った家族のおはなし。当時の列車の旅がどんなだったかわかります。機関室内の描写もアリ!
宇宙開発が題材の読みやすいSFもついでに。(わたし好みですのでお好みに合わなくてもお許しを)
「火星の人/アンディ・ウィアー」映画にもなりました。アクシデントで火星でたった一人、でもへこたれない主人公マークがとにかく魅力的。「夢みる葦笛/上田早夕里」SFいろいろ短編集。「プラネテス(全5巻)/幸村誠」スペースデブリ回収業の青年の成長。マンガです。「タフの方舟(全2巻)/ジョージ・R.R. マーティン」最強の宇宙船・方舟号をめぐる人々と商魂たくましい(猫好き)タフの駆け引きがグッド。ゲーム・オブ・スローンズ作者です。

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第134回 雨を楽しむ

あまがっぱ(雨合羽)、の書き間違いかなとおもいましたが、あっていました。雨の日、河童にあうおはなし。

「あめかっぱ」 偕成社 2020年6月発行 32ページ
むらかみさおり/作

その日は、朝からずっと雨降りでした。
玄関のベルがなり、なおちゃんがお出迎えしたところ、なんと、かっぱです。かっぱがやってきたのです。
「どうもかっぱです」
なおちゃんはびっくりしてしまって、台所のテーブルの下へ隠れました。「緑色のおかしな生き物」が突然に玄関にあらわれたら、やっぱりこわいですよね。わたし実は河童が好きなんですが、まあわたしも怖くて隠れますよね。
おかあさんは突然の河童に驚くこともなく、かっぱさんとお留守番していてね、と言ってでかけてしまいました。きっと楽しいから、と。もっとちゃんと説明してください、おかあさん!
テーブルの下に隠れたなおちゃんを覗き込むかっぱさんのお顔が無表情な感じに見えてちょっといえかなり怖かったです。川の深い深い水底へ引っ張り込まれてシリコダマ抜かれちゃうんだろうか。あれおかしいな、楽しい絵本のはずなのだが・・と思いつつページをめくります。
「今日は、ピクニックびよりですよ」かっぱさんが言います。
「あめなのに?」「あめだから!」
かっぱさんがいそいそと、おむすびのお弁当を作り始めます。それも土鍋で炊いたごはん!たまんなくおいしそうじゃない!竹の皮で包んでいて素敵です。美味しそうな海苔の香りに、なおちゃんもすこしわくわくしはじめます。
かっぱさんの説明では、「雨の日に子どもがお留守番するときは、かっぱといっしょに過ごすんですよ。だからこの町のおかあさんは、とっても安心。」ということなのですが・・ほんとにだいじょぶ??
レインコートを着て、かっぱさんと出発。さて、いったいどこへピクニック?

かっぱさんは、林にある河童どおりのお店で、おやつのキュウリとふきのとうの傘を買ってくれました。お留守番の子どもたちがほかにもたくさんいて、それぞれにかっぱさんのお守りがいてくれているようです。たぬき、りす、うさぎ、きつねなど動物たちも林に集まってきています。
林の中には小さな池がありました。降り続く雨で、池がみるみる大きくなっていくのです。なんて不思議で楽しい発想でしょう。たっぷりたまった雨でできた湖をどんぶらこと船がやってきます。
「どこいくの?」なおちゃんがきくと、「雨がたくさん降らないとたどりつけないところです」
三途の川をなんだか連想してしまうのですが・・ たどりついたのは、大きな大きな木。おだんごやさんやアスレチックなど素敵な遊び場のある木でした。巨大ツリーハウスです。たくさん遊んで疲れたら、おむすびのお弁当。そして木々の葉に落ちる雨音をみんなできいて雨宿り。静かに時間を共有するっていいですねぇ~、心からくつろげそうです。

物語の中へ引き込む力の強い絵本でした。どうなるどうなる?と次へ次へとページをめくりたくなる。かっぱさんたちの案内で楽しい世界へ連れて行ってもらえます。河童と過ごすお留守番時間、いいですねぇ!子供といえない年齢ですがわたしもかっぱさんにぜひ連れて行っていただきたいものです。
大きな木と深い緑が細かくずっしり描かれた挿絵もとても美しいです。
雨の日に読むともっと楽しめそうです。



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第125回 湯たんぽ、宇宙へ行く

ただいま、1月。寒さが厳しいこの時期、このタイトルを素通りできませんでした。
わたしも湯たんぽをつかいます。足を乗せたり足の上に乗せたり、胸元でだっこしてみたり。
足のつまさきから体があったまってくると、眠気がさしはじめます。湯たんぽって素晴らしい!!最高!
そんな気持ちで絵本を開いたら、ちょっと想像と違いました。いやかなり違いました。

「わたしのゆたんぽ」 偕成社 2012年12月発行 47ページ
きたむらさとし/えとぶん

おかっぱ頭の女の子。「わたしはゆたんぽがだいすき。」
だけど、ゆたんぽが布団からはみだすのです。わたしの冷たい足を嫌って逃げるのです。そうなんですよね、湯たんぽってなぜかどこかへ行ってしまうんですよね。
なんと、窓ガラスを破って逃げ出す、ゆたんぽ。追いかけるわたしの足。足のみが伸びて「わたし」の本体はお布団の中にいるようです・・・。
なんてことでしょう、どんどん足が伸びてどこまでもどこまでも追いかけます。夜空を飛んで逃げていくゆたんぽ、伸びていく赤い縦縞のパジャマをはいた2本の足、の挿絵が衝撃です。どこまでいくんだろう!と追わずにはいられません。
夜空につきでるビルディング並ぶ大きな街、キリンやゾウがいるアフリカ、アシカやペンギンの住む氷の海を通り過ぎて、ついにはなんと宇宙へ!! そして宇宙の片隅の小さな惑星に降りたつのです。
そして他の星の人類(足型星人です)にゆたんぽを奪われます。やはり大人気の湯たんぽなんです。だって「あったかいときはかっこよくってたのもしい」のですから。
他の星の住人に湯たんぽを奪われるというシーンには笑ってしまいました。湯たんぽひとつで想像力ってここまで広がるんだなあ。ポチョルポチョルと水音でお返事もするかわいいゆたんぽの大冒険、楽しませてもらいました。

この投稿のタイトルにて、絵本の内容の重要な部分がねたばれしてしまっていることをお詫びいたします。あまりに強烈なストーリーだったものですからついつい・・・
著者のきたむらさとしさんは、ほかにもたくさん絵本があります。「ねむれないひつじのよる」「ぼくネコになる」「ポットさん」など。翻訳に、デビッド・マッキー/著「ぞうのエルマー シリーズ」、ハーウィン・オラム/著「ぼくはおこった」など。
そういえば、小さい頃、祖父の家で豆炭をいれたアンカを使わせてもらったことがあります。毛布で厚くくるまれていたからか、電気アンカや湯たんぽより、ほっかりやさしいあたたかさだったようにおぼえています。ふと思い出しました。