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第135回 眠い人起こすの禁止!

「ねえ、おきてる?」 光村教育図書 2011年9月発行 40ページ
ソフィー・ブラックオール(ブラッコール)/作 もとしたいづみ/訳
原著「ARE YOU WAKE?」 Sophie Blackall 2011年

ママ! ママったら!
朝の4時、エドワードの目が覚めてしまいました。また寝つけられたらよかったのですが、エドワードのまぶたはくっつく気配はないようです。隣で眠るお母さんを起こします。うわあ~。。。これは困った状態です。夜に目覚めてしまって退屈で、おかあさんとお話したいのです。

ねえ、おきてる?
 んー・・・・・・おきてない・・・・・。
なんで おきてないの?
 ねてるから。
なんで ねてるの?
 まだ よるだからよ。
なんで まだ よるなの?
 おひさまがでてないでしょ。
なんで おひさまが でてないの?
 おほしさまが でてるから。
なんで おほしさまが でてるの?
よるだから。
そっか!

エドワードは、おかあさんのまぶたを引っ張ってあけてみたり(この挿絵がすごく面白い!)、上に乗っかって重みをかけたり、「そっか!」と一応の納得をするにもかかわらず、哲学問答みたいな終わりのない質問を延々とくりかえします。苦行です。
わたしなら、寝なさい! って叱るでしょうねえ・・。おかあさんは、枕で防御しつつも、まったく怒る素振りなく、眠くてちょっと適当ですが、質問にきちんと答えてあげてます。素敵なかあさんですね。この辛抱強さ、見習いたい。
なんで?なんで?なんでなの?の質問のせいで、覚醒してきたおかあさんの目がだんだんしっかりしてくるところがまたおもしろいです。
一番すきな色はなあに?っていう話の途中で、エドワードが眠ってしまいます。興が乗ってきたこのタイミングで寝ちゃうの?この置いてきぼり感、寂しすぎるよ~~。
実際にされちゃうと、うっ とおもうけれど傍で見ている分には、お子さんとお母さんの会話がたまらなく楽しい絵本でした。

ソフィー・ブラッコールさんはほかにも
「おーい、こちら灯台」灯台は、夜に海をいく船の安全のために灯りをおくります。その灯台を守る役目の灯台守のおはなし。ラストのおーい、に胸にきます「とびきりおいしいデザート」「ベネベントの魔物たち」などの挿絵もたくさんかいておられます。細い線でリアルなちょっと怖い感じという特徴的な美しい挿絵が魅力的。



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第84回 怪物があらわれた夜

「怪物があらわれた夜 『フランケンシュタイン』が生まれるまで」 光村教育図書 2018年12月発行 39ページ
リン・フルトン/文 フェリシタ・サラ/絵 さくまゆみこ/訳

「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」という1818年に書かれた小説があります。世界で最初のサイエンス・フィクションといわれています。メアリー・シェリーという18才の女性が書きました。メアリーがその小説を書こう、と思ったときのことを描いた絵本、なのですが、ご存知ないかたのため、フランケンシュタインについて、ざっとの説明をば。

1.「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」の内容
ヴィクター・フランケンシュタインという青年が、死者の体をつなぎ合わせ、雷による通電で新たに人を作りだす・・というお話です。作りだされた人間は、見た目の怖さやその生まれた理由のため疎まれ「怪物」とよばれています。ですが、寂しさを感じる心や知性を持っていたのです。
怪物はとても孤独です。フランケンシュタイン青年に自分の伴侶となる女性の人造人間を作るようせまります。(ざっとあらすじ。)

2.メアリーの母、メアリー・ウルストンクラフトについて
メアリー・ウルストンクラフトは、男女の同権、誰もが教育を受ける権利がある、という思想を持ったひとでした。両親は結婚制度を否定していたため二人は入籍をしていなかったのですが、子供が生まれるにあたり入籍しました。子供が「私生児」として差別されることをおそれたからです。このことにより、同じ思想を持った多くの友人たちを失ったといわれています。そして娘のメアリーを生み、産褥熱(出産ののち高熱が続く。感染症の一種。)のため亡くなっています。

お母さんのお墓に刻まれたことばで、文字を覚えたというメアリー。
大きくなると、母の書いた本を読破したそうです。そうして作家になることを目指すようになったようです。

舞台は、イギリスの詩人バイロン卿の別荘。この別荘に滞在する、シェリー夫妻。ある夜、バイロン卿が、”ファンタスマゴリアナ”というフランスの怪奇譚を朗読します。そして、皆でひとつずつ、怪談を書こうじゃあないか、という提案をするのです。作家志望のメアリーも、もちろん参加しました。
滞在中、雨続きで外出がままならなかったため、屋敷で哲学談義をするバイロン卿の一行。死んだカエルに電気を通すと足が動く(ガルヴァーニ電気)、死者を蘇生することができる、といった科学的な話題だったそうです。
その哲学・科学談義を聞いていたメアリーは、その知識を、書き始めた物語にとりこみ、かの有名な登場人物を生み出します。「作り出された人間」を。

自分の生まれた経緯、メアリーが生まれることによって曲げてしまった両親の信条や思想・・そういったこともきっと作品に影響したでしょう。特におかあさんが自分が生まれることによって亡くなってしまったことは、大きな心の傷だったのではないでしょうか。
メアリーは「作り出された人間」に自分の境遇を重ね、想いをこめたのではないでしょうか。

フランケンシュタイン青年がつくりだした人間は、存在の理由、生きるための希望を欲して苦悩しています。「彼」は、経験の少なさゆえの性急すぎた行動をとってしまいました。そして生みの”親”たるフランケンシュタイン青年に憎まれ追われることになりました。

しかし彼は真に怪物だったでしょうか。「現代のプロメテウス」という副題がきいています。
SFを読むかたにおすすめしたい、メアリー・シェリーの物語でした。



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第14回 あたまにつまった意志

「あたまにつまった石ころが」  光村教育図書
キャロル・オーティス・ハースト/作  ジェイムズ・スティーブンソン/絵  千葉茂樹/訳

石が大好きだった作者のお父さんのお話だそうです。石ころ集めに夢中だったので、ポケットの中だけではなく、頭にも石が詰まっていると言われた作者のお父さん。世界恐慌で経済が停滞、大変に苦しい生活であったようですが、ただただひたむきに鉱石について勉強し、コツコツ集め、情熱を傾けました。
「石が好きだなんて、頭に石がつまっている(馬鹿げている)」と、言われることもありました。厳しい生活の中、その情熱が揺らぐこともきっとあったでしょう。それでも好きなものを好きでいた、その心の強さを尊敬します。努力が実を結んだことにホッとします。きれいな石たちの挿絵も素敵です。良い絵本です。これを読んでぐっとくる年齢は、やや高めでしょうかね。大人におすすめしたい一冊です