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第190回 悲しすぎる絵本

忘れられない本というのがあります。忘れられない理由には、良い印象または良くない印象の2種類があるとおもいます。
この絵本は、わたしにとって良くない印象です。ひどく悲しいのに再読してしまう絵本なんです。
良い印象のものばかりをご紹介するというのも、どうかなあ?とおもうので、今回の投稿で選んでみました。そんな穿った選書なんて、いらぬお世話かとも思いますが、気になって手にとってしまってう~ん何これ・・と一緒にうなっていただけるととうれしいです。

「ひとりぼっちのかいぶつといしのうさぎ」 徳間書店 2004年8月発行 32ページ
クリス・ウォーメル/作・絵 吉上恭太/訳
原著「THE BIG UGLY MONSTER AND THE LITTLE STONE RABBIT」 Chris Wormell 2004

とっても醜い怪物がいました。その醜さといえば、花は散り、木々から葉が落ち、草は枯れてしまいます。怪物が太陽が隠れ、空を見上げれば雨が降り出し、水につかろうとすればシュウっと蒸発し、にっこり笑えば石は粉々に砕け、歌って踊ると大地にひび割れができてしまう。
一体どんな能力なの、それは!?
恐ろしさのあまり誰も近寄らないので、怪物には友達がいませんでした。荒れ果てた荒野で一人。あまりに寂しくて寂しくて石に話しかけています。ある日、岩を削って、きつね、くま、しか、うさぎなど動物をかたどった石像を作ったのです。
出来栄えはよくありません。動物の逃げるうしろ姿しか見たことがないからです。それでもうれしくてにっこり笑うと、石像は、ひとつを残しすべて粉々に砕け散りました。

 ああ、かわいそうに。かわいそうすぎる。絵本なのに、ひどくない?この設定?良くないラストになりそうな気配なので、このへんで読むのをやめようとおもったのですが、どうしても本をおけませんでした。ラストがどう転がるのか~良い方へどんでん返しするのか、このまま悲しいままか?~気になって、読むのをやめられませんでした。

たったひとつ残ったうさぎの像のために、歌を歌ったり、曲芸したり、嵐が去る空を眺めたり。石のうさぎは、一緒に踊ったり歌ったりすることはなかったのに、かいぶつは石のうさぎがいることを喜びました。
年をとり、かいぶつは弱っていきました。曲芸をすることもできなくなりとうとう・・。
かいぶつがいなくなると、大地に草が生え、花が咲きみだれ、世界で一番美しいところになりました。

カバーの折り返しに出版社お勧め文がのっています。『みにくい外見の内にかくされたやさしく美しい心・・・ 読後、静かな感動で心がふるえる忘れられない一冊です。』
静かな感動を感じる人もいるんだなあ・・。わたしは、ただただ悲しくなりました。怪物は、破壊するのみの強大な力を自ら望んで得たわけでなく、それを制御することができず、恐ろしい外見だから、という理由で一人ぽっちで過ごすしかないのです。そして物言わぬ石に出来得る限りの友情をそそぎました。そして「かいぶつはそれでも幸せだった」のです。

怪物って自分のことなのかもしれません。感情にいちいち左右されてしまう未熟なわたしを投影します。外見にとらわれない心を養えるというのもあるかもしれません。理不尽を感じつつも、確かにひきつけられるものがあり、忘れられない一冊なのは間違いありません。
間違いない、間違いないんですけれど!このラストはしんどすぎる。
「イヤミス(読後イヤな気持ちになるのに、妙に惹きつけられるミステリーのこと)」なんていうジャンルもありますから、(イヤイヤ悲しすぎるだろう、絵本なのに?!)=>「イヤ絵本」もあっていい、のかもしれない。悲しすぎる絵本なんて読みたくない、というかたもおられるかもしれないと思いつつ、今後も悲しすぎて気になる忘れられない絵本がありましたらとりあげていきたいとおもっています。どうしてこんなに悲しく感じるのかを考えたいのです。
この絵本、皆さんはどう感じましたでしょうか。
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