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第195回 なかよしふたりの共感と反発

「チョコレートのつつみ紙をはがすと、ぴかぴか光るぎんがみ。ぱりっとしていて、うすくて、ゆびでそっとやぶいてみれば、たちまちチョコレートのあまいかおりにつつまれて・・・・
これは、板チョコレートのクーちゃんと、なかよしのぎんがみちゃんの、とろけるようなたのしい毎日のお話です。」まえがきより。
えっ、でもちょっと待って。板チョコレートのクーちゃん?

「クーちゃんとぎんがみちゃん」 岩崎書店 2022年2月発行 80ページ
北川佳奈/著者 くらはしれい/画家

 カカオの町に住む板チョコレートのクーちゃんとなかよしのぎんがみちゃん、ふたりがいかにして人間関係を構築していくか、というお話です。
クーちゃんは、リボンといった可愛いもの、おしゃれが大好き。話し方はやわらか。
対するぎんがみちゃんは、音楽が好き。可愛いものにはあんまり興味はなさそうで、語尾はさっぱりして、性格もさっぱり。
ふたりの共通項は少なめかもしれませんね。
相手への共感と反発を繰り返すことによって深まる友情の物語、8話。
たわいないやりとりですが、これがなかなかなのですよ。互いの気持ちをてさぐりあしさぐり、ふたりが距離感をはかりあっているのが面白いのです。間違いないのは、ケンカしたって、自分と違うものが好きであっても、大事にするものが違っても、相手を好きだという気持ち。とても安心して読めるのです。
若い読者は、どう感じるのかなあ、この友情物語。子どもの頃に読んだら、正直なところ、わたしはあまり面白いと思わなかったかもしれません。そこそこの年をとった今だから、親しい人の大事さを痛感し心に響いたようにおもいますので、きっと大人のかたも楽しめる本でしょう。
余談ですが、焚き火で栗を焼いて食べるシーンがあり、たまらなくおいしそう。お腹が減ります。

そして、気になる「板チョコレートの」という点について、お話いたします。
表紙の絵を御覧ください。ふたりが仲良くならんでおります。
左がクーちゃん。チョコレート色の髪、板チョコ模様のお洋服の子ですね。
右がぎんがみちゃん。金色の髪、レモン色のお洋服に、銀色のアルミカップのようにパリパリっと折り目のついたエプロンをした子です。
さし絵は、お菓子(とそれに付随するもの)を、擬人化して描かれています。
カカオの町にはほかにも、ミルフィーユショコラ、フィンガーチョコレート、ウィスキーボンボン、マーブルチョコレートなどおいしそうなお菓子、いえ登場人物たちが登場します。イラストをみると、それぞれのお菓子らしいレトロ素敵なデザインのお洋服を着ています。
(マーブルチョコ、ずいぶん食べてないなー。・・お腹をすかせてカカオの町へ行かないほうがよさそうだ。)

著者は、このような擬人化のさし絵がつけられる、とはおもってなかったのではないかしら、と想像しました。
「頭のリボンをととのえてそとに出ると~(p.7)」という文章があります。擬人化を想定していたなら、(頭の)ではなくて(髪の)と書いたのじゃないかしら。
「さっきまでやわらかくほぐれていたクーちゃんのチョコレートも、ぴっとかたくなった気がします。(p.10)」「ふりかえると、ぴかぴかわらって、ぎんがみちゃんがたっているではありませんか。(p.11)」
文章ではクーちゃんはやはりチョコレートで、ぎんがみちゃんも銀紙なんですね。それでいてさし絵は、人間の少女。チョコと銀紙の会話が擬人化と反する表現をみつけると楽しい。文とさし絵のそれぞれの表現がうまく作用して、面白さが増しているようです。
そして、クーちゃんはレモン色がすきなのですが、表紙のぎんがみちゃんのワンピースの色がレモン色ですね。すきなひとの好む色をとりこんで、同化したい気持ちをあらわしているようです。ぎんがみちゃんのマネをしたい、そんなクーちゃんの心の動きを感じます。可愛らしいじゃあありませんか!
なんともほっこりするお話でした。お気に召しましたらどうぞ手にとってみてくださいませ。
さし絵のくらはしれいさんの塗り絵があるそうです↓かわいいですね。

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第53回 星めぐって楽しむハロウィン

秋の気配がいたします。10月31日のハロウィンを先取り、ハロウィーン絵本です。いつだって読んでもいいとおもうんですが、秋のほうが、フンイキがデルとおもいまして・・。
本来は、古代ケルトの人々のお祭りで、死者を供養し、冬の始まりに備えるという意味だったそうです。

「ハロウィーンの星めぐり 夜に飛ぶものたち」 岩崎書店 2015年9月発行 25ページ
ウォルター・デ・ラ・メア/詩 カロリーナ・ラベイ/絵 海後礼子/訳

子供たちが仮装して家々をめぐってお菓子をもらうためにおうちを出発。歩いて家々をめぐりますが、
魔女たちは、空をほうきで飛んでいます。
ひしゃく星をあおいでおしゃべり、りゅう座をどどっと抜けて、天の川の波をいっきにくだる。カシオペアを通りぬけ、しし座をぴゅんと追い越し、オリオンのうしろのおおいぬシリウスを目指す。
星星をめぐって、軽やかに、ダイナミックに!

ウォルター・デ・ラ・メアの詩をもとに描かれた絵本です。
星々や月、家々の灯火や子供たちの持つランタンのあかりが、闇に浮かび上がって、アクセントになってきれい。
ほうきを曲乗りする魔女や、トリック・オア・トリートのいたずらに加わる魔女など、イラストも楽しいです。
子供たちと魔女が、ハロウィンを楽しんでいます。



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第46回 おれからもうひとりのぼくへ

並行世界とは「この現実とは別に、もう一つの現実が存在する」ということだそうです。
今回はその「並行世界」のお話をご紹介。別の現実へまぎれこんでしまった小学生の奮闘(というほどでもないですが)が面白く、小学生たちがSFを読むとっかかりにちょうど良いと思います。

「おれからもうひとりのぼくへ (おはなしガーデン53)」 岩崎書店 2018年8月発行 94ページ
相川郁恵/作 佐藤真紀子/絵

小学四年生、大岡智。友人のまさと、しょうへいと遊ぶため、公園へと出かけたのだけれど、やってこない友人たち。約束を忘れたのかも?と友人宅へ行き確かめると、彼らは二人で遊んでいて、約束なんかしていない、と言われます。なんだか様子がヘン。おれと遊ぶのは、初めてのような、居心地の悪い顔をしている。まさともしょうへいも、2人共、落ち着いて頭が良さそう。本が好きでいろんなことを知っている。普段はお調子もので本なんか読まないのに。
家に帰れば、部屋のサッカー選手のポスターがない、そのかわりに本棚にぎっしりの本。本なんか読んだことないのに。父ちゃん、母ちゃん、姉ちゃんもなんだか優しくて、ヘン。元気のいいおれが珍しいらしくしゃべることに、いちいち笑ってくれる。
学校のクラスメイトも、ヘン。普段、大人しいやつが威張っているし、いつも何も言わない静かな委員長の女子はきちんと発言・注意をする。誰も彼もが、なんだかいつもと違うのです。

この世界の「ぼく」は、本が好きで大人しくて、友人がいなかったようなのですが、「おれ」が物怖じしない性格のため、人に関わります。そのおかげで、ここがパラレルワールドであることが判明しますし、関わり合う人たちのあの世界とこの世界での性格の違いを比較して、クラスメイトたちの人間関係を推測するのですが、そこがうまいとおもいます。この世界ではただのクラスメイトだった、まさと・しょうへいは、あちらでもこちらでもぼくたちは親友となる運命だったんだよ、と言ってくれました。少年たちの友情に、ムネアツ。
こちらの世界にも愛着がわいてきた「おれ」は、もとの世界へ帰るのでしょうか、帰ることができるのでしょうか。

佐藤真紀子さんの挿絵も、ブルー基調でかわいらしすぎずにかわいらしくてグッド。少年たちも手に取りやすいのじゃないかしらと思います。面白い小説でした。
第34回 福島正実記念SF童話大賞を受賞のこと。



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第37回 不思議な理由で人口密度が高すぎる家

「ねずみのへやもありません」 岩崎書店 2011年7月発行
カイル・ミューバーン/文 フレヤ・ブラックウッド/絵 角田光代/訳

クリストファーはおかあさんと、大親友のねずみのスニーキーとで、なん部屋もある大きなおやしきに住んでます。
おかあさんは、山のように積んだ「やることリスト」のメモをたくさん持って、いつもいつも忙しそう。クリストファーの言うこともあんまり耳に入ってない様子。クリストファーはスニーキーと一緒に町を歩いていると、不思議な理由で家にいられなくなった人たちに出会います。植物に肥料をやりすぎてうちがジャングルになったご近所の女の人、水道の蛇口を閉め忘れてうちが海のようになっちゃった同級生一家、コンサートホールが蜂に占拠されてしまったオーケストラのみなさん、シロアリにテントを食べられガレキと化したサーカスの一団、宇宙飛行士、バレリーナ・サッカー選手・カウボーイ・消防士・海賊たち(泥棒さんもいる!)などなど、大きなおうちだから、全員うちにいらっしゃ〜いと招きます。たくさんの人が見開きいっぱいに描かれたページは見ごたえあります。

おもしろいのは、忙しいクリストファーのおかあさんが、部屋はもちろん廊下にも人があふれるほどいることに気がつかないこと。これだけ人口密度がたかくてどうして気がつかないんでしょう・・。(水道光熱費すごいことになるとおもいますけど、絵本を読みながらそういうことを言ってはノーです。)人がいっぱいで、ねずみのための部屋すらなくなってしまったのに! ついに、おかあさんはクリストファーが見当たらないことに気がつきます。(人が増えたこと、に言及はありません。)やることリストの一番上に「クリストファーとスニーキーを見つけること」とメモをのせて、1人と1匹を探し始めます。 最後にやっと探しあてたおかあさん、楽しく暮らそう! とメモをかきました。
はちゃめちゃな物語の展開が楽しくってたまりません。でも、忙しさにかまけて何か大事なことを忘れてやしませんか・・とチクリと言われています。ちょっとドキリとする絵本です。



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第17回 図書館にライオン。走ってはいけません!

今回は、マナーについて考えてみよう、の本です。

「としょかんライオン」  41ページ 岩崎書店 2007年4月発行
ミシェル・ヌードセン/作 ケビン・ホークス/絵 福本友美子/訳

私はネコ科の生き物が好きなので、ライオンと女の子が一緒に絵本を読んでいる表紙イラストに、すでにノックアウトです。いい表紙ですね~。

なぜかライオンが図書館にあらわれます。肉食獣たるライオンが捕食活動を行わないことに、読んでいて面食らいます。そもそもライオンが町中にいることに違和感がありますが、まあ読み続けてみましょう。
どうも、このライオン、絵本を読んでもらいたい様子。もっと読んで!と大声でうなってアピール。司書のマクビーさんは、追っ払おうとしますが、メリウェザー館長は、図書館のきまり 1.大声をだしてはいけません 2.走ってはいけません  このルールをまもるなら、別にいてもいんじゃない?と寛容な態度。次の日も早くからやってきて、ライオンは館長の仕事を手伝います。しっぽではたき掛けしたり、高いところにある本を取るための台になったり、読書中の子どもたちのソファになったり(私もそこにまざりたい・・)、本を運んだり、館長さんの封筒貼りをお手伝いしたり。絵本が大好きなライオンの献身的な様子に、もう可愛くてたまらなくなってきます。ネコ科のいきもの、バンザイ!
そして事件が起こり、ライオンくんは図書館に出入り禁止になってしまうのですが、閉館した図書館の前で雨にぬれ、悲しそうに佇むライオンが切なくて可愛くて、もうたまりません。うちに来いや!ってタテガミを引っ張りたくなります。
さあ、ライオンくんはどうなるんでしょうか、どうするんでしょうか。続きは、絵本をごらんください・・・・・
ライオンとメリウェザー館長さんの心の通じ合いに、何度読んでも目がうるんでしまう絵本です。