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第193回 魚類最強のハンター

今回はホホジロザメを扱った科学絵本をご紹介いたします。
ホホジロザメは、魚類最強のハンターなのだそうです。と言えば、やはり映画「ジョーズ/JAWS」を思い出しますね。(人間を襲う巨大ザメと戦う映画。その巨大ザメのモデルがホホジロザメだそうです。)
サメが海底からぐわーっとうかびあがってくるんですよね。(だいぶ昔に見たので違うかもしれない。)絶対海に入りたくなくなる、怖い映画でした。そんなホホジロザメの生態に迫ります。

「ホホジロザメ (福音館の科学)」 福音館書店 2022年6月発行 40ページ
沼口麻子/文 関俊一/絵

広い広い海を泳ぐ一頭のオットセイ。
忍び寄る大きな影は・・・ホホジロザメだ。
気づかれないよう、オットセイの真下へとこっそり移動していく。
そして、海面に向かって、一気に急上昇!!
・・・暗い海から一気に浮き上がり、オットセイを狙うホホジロザメを海面から見る絵です。海の中に大きく口を開けているこの絵がとても怖い。映画ジョーズそのもの、と思いました。実際に手にとってぜひとも見ていただきたい挿絵です。
次のページには、アザラシをしっかり口にしたホホジロザメの挿絵。海面が波立つ音が聞こえてきそう。とても迫力があります。

さて、ホホジロザメのプロフィールです。
大きさは最大で6mを超える。魚介はもちろん、アザラシやオットセイもいただきますよ。だいたいどこの海にもいます。北極・南極のような冷たすぎる海は苦手らしい。
普段はおとなしくて、ゆっくりと泳いでいる。(お腹いっぱいの時は、ってことですよね。)
水が沿うようになめらかにながれる、硬いウロコがびっしり肌に並んでいるので、狩りする時は素早く泳ぐことができる。
顔の前にあるぶつぶつ穴は、生き物からでている弱い電気を感じる「ロレンチーニ器官」。大きな鼻の穴はわずかな臭いだってかぎとることができてとっても敏感・優秀なのだ。
ホホジロザメの特徴、大きな歯。抜群によく切れますがすぐ抜けます。ですが歯の内側にすでにもう新しい歯がスタンバイしているのです・・何度でも生え変わるんですって。すごいですね。
獲物にかぶりつく時は、白目をむきます。えっなぜ白目むかなきゃならんのかしら。映像として怖すぎますよね・・ホラー映画みたいで夢に見そうです。
オスは2本の交尾器を持ってます。おちんちん2本ってことですね。これも不思議な。べつに1本で充分じゃないかしら??どういう理由でそうなのか科学的に説明できたらすごく面白いでしょうね。
120センチほどに育つまで母ザメのお腹の中にいます。結構大きなサイズに育つまでお腹にいるんだなという印象。生まれてからは一匹一本立ち。自分より大きなサメやシャチに食べられないよう、広くて大きな海の中を生き抜きます。

迫力ある挿絵を描く画家の関俊一さんのプロフィールをみますと、「幼少の頃から自然へ生き物への愛着があり・・魚や動物の絵を描く。・・趣味は磯釣り。船で一日中波に揺られ、釣った魚を描き、捌いて頂くまでを大切にしている。」だそうです。「捌いて頂く」ってので大好き・熱心な気持ち、伝わります。魚おいしいし、いいですねー。
文を書いた沼口麻子さんもなかなか独特な方で、世界で唯一の「シャークジャーナリスト」だそうです。他著書に「ほぼ命がけサメ図鑑」。
子供の頃、海辺で溺れかけたことがあるためか、わたし海が苦手です。苦手はできれば克服したい。海に生きる生命を知ることが克服につながるのじゃないかしら、ということで今後も、海や水辺に棲む生き物の本を読んでいきたいとおもっています。おつきあいくだされば幸いと存じます。よろしくお願い申し上げます。

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第178回 空想でたゆたってみる

「サディがいるよ」 福音館書店 2020年9月発行 32ページ 26×19cm
サラ・オレアリー/文 ジュリー・モースタッド/絵 横山和江/訳
原著「THIS IS SADIE」 Sara O’Leary, Julie Morstad 2015年

ページをめくって最初の絵は、ダンボール箱に入って、頭をちょこっとのぞかせた女の子が、サディです。この絵で私はすでにわくわくしてしまいました。ちょっと薄暗くってせまい場所って落ち着きます。心が自由に漂いだしぼんやり空想する楽しさ、誰しもわかるとおもいます。
想像力が豊かなサディ、今日はいったいどんなことをするんでしょうか。
「これは、ダンボールばこじゃないんだって。『おおきいふねにのってるの。ひろいひろいうみをたびしてるんだ』」
海の世界にすむ女の子になったり、(美しい海藻が伸びくらげが泳ぐ水の中の世界)
狼に育てられた男の子になったり、(木が生い茂る暗い森、狼のお母さんと子どもたちと一緒に遠吠え!)
不思議の国を冒険したり、(サディはウサギとヤマネと青いドレスの女の子とお茶会です。サディはぼうしをかぶってる!)
おとぎばなしの世界で勇者に!(満月が照らす草原を馬に乗って駆けていく。)
あんまりたくさん想像が働くもんだから、サディは一日が全然たりないのです。世界は広く空想は限りない。

わたしもわりとぼーっとした子供でした。そのせいか駅で母とはぐれ迷子になり、もう二度と会えない!どうしよう!駅で暮らすしかないか?・・という想像をし恐怖した経験がございます。
空想でぼんやりしていると、ぼーっとしてんじゃないよ~なんて言われそうですが、自由に心をたゆたわせ、たくさんの人物になることは、悪いことじゃあありません。いろんな立場の人の気持ちをおもんぱかることもできるでしょう(こじつけですけれど)。
一日一日いつも時間に追われているような気持ちなので、ゆったり時間を過ごすサディがなんだか羨ましいなあ・・とおもってしまいます。こんな風に心にゆとり、持ちたいものですね。(疲れた大人の感想ですいません。)

とてもかわいい挿絵です。暗めの深い色の中、カラフルな色がポイントに使われ目を引きます。サディのお部屋に注目してみますと、シックな色合いのベッドカバーですが、ベッドマットはピンクで、赤い積み木や引っ張り出された女の子らしいかわいいお洋服が素敵です。しかし小物は、本がたくさん、ボトルシップ・カナヅチ・釘などわりあい硬そうなものもおいてありますね。かわいすぎないお部屋がいいです。特にベニテングタケ型ランプの形が愛らしくわたしも欲しい。ヒト型の赤ちゃん人形ではなくてキツネのぬいぐるみなのもわたし好み。
カバーの後見返しに著者紹介があります。2人の作者の写真は子供の頃のもの。想像力豊かな著者のお二人も主人公サディと同じ年頃の写真を掲載されたのでしょう、素敵ですね。
カバーの裏に、サディの勇者姿の大きなイラストがありますよ、カッコイイです!
挿絵のモースタッドさんの他の作品に「スワン:アンナ・パブロワのゆめ」「きょうがはじまる」「ショッキングピンク・ショック! 伝説のファッションデザイナー エルザ・スキャパレリの物語」「はじまりは、まっしろな紙 日系アメリカ人絵本作家ギョウ・フジカワがえがいた願い」「ひびけわたしのうたごえ」

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第172回 本の歴史 カエサルくんたちの発明

「カエサルくんと本のおはなし」 福音館書店 2015年2月発行 32ページ 31×22cm
池上俊一(いけがみしゅんいち)/文 関口喜美(せきぐちよしみ)/絵

知識を得たり、空想を楽しんだり、挿絵を楽しんだり、とにかく素晴らしい「本」。本はどうやって作られたの?という絵本です。
本が好きなしょうたくんが、学校の図書室で、本を開くと・・・小さなおじさんが本の中からでてきました。「わしは、偉大なるローマの将軍、カエサルじゃ」
ユリウス・カエサル、古代ローマ最大の野心家といわれた人物をガイド役にしているのが面白いですよね。
(ちょっとだけ、カエサルについて書いておきましょう。紀元前100年頃・ローマ生まれ。共和政ローマの政治家・軍人・文筆家でした。終身独裁官という大きな権限を持つ役職につき、ぶいぶいいわせていた人です。最期の言葉「ブルータスお前もか」で有名。つまり暗殺されました。紀元前45年から1582年、という長い長い期間、ヨーロッパで使われていた暦法「ユリウス暦」は彼がつくったものです。「ガリア戦記」という簡潔明瞭な文体の遠征記録を著しています。)
かなり血なまぐさそうな人だけど大丈夫かしら、とおもった方はご安心ください。逆ギレだとか恫喝だとかのトラブルはおきません。ちゃんとガイドしてくれます。
で、本からでてきた小さいおじさん・カエサルに、しょうたは「カエサルくんか、よろしく」と言ってます。『カエサルくん』ですって、しょうたくんって豪胆ですねぇ。

今の本の形を「冊子」といいます。紙をたくさん束ねてあってページをめくる、このかたち。
大昔は、「紙」というものがなかったのです。今から2000年以上前、エジプトで作られたパピルスという植物の繊維から作った「パピルス紙」で、最初の本が作られました。
(ちなみに、このパピルス紙の手触りは「ゴワゴワして新聞紙より厚くて硬い」そうです。)
パピルス紙が発明されましたが、まだ、冊子のかたちではありませんでした。横に長く長ぁくはり合わせて、ぐるっと巻いた状態「巻物」になっていました。ですが、ぐるぐると巻いてあるので、読むときや持ち運びが大変です。
本の形が変わっていったのには、図書館と関係があるんじゃぞ、とカエサルくん。
エジプトのアレクサンドリア図書館とペルガモン図書館(今のトルコ)の書物所有数の多さをあらそっていたのです。エジプト王は、ペルガモンに紙のもととなるパピルスを売るのを禁止、という姑息な手を使いました。これにはしょうたくんもいいツッコミいれてます。(ちなみに、カエサルくんがおこした火事がアレクサンドリア図書館の一部を焼いたと言われています。)
これには困ったペルガモン。材料がなくては本を作れない。パピルス紙に代わる「羊皮紙」を発明しました。羊や子牛の皮を伸ばして毛や脂をとって乾かしたものです。ですが、長い年月が経つと、固くなってパリパリになってしまいます。丸めた状態では長期保管に向きません。
短く切ってまとめてとじる「冊子」の状態にしておくと便利、とだんだんにわかってきました。(ちなみに、最初にパピルス紙を蛇腹に折った状態にしたのは、カエサルくん。でもあまり流行らなかったそうです)

それでもまだまだ今の本に至るには技術の向上が必要でした。
一字一字を手書きで書いていたので、一冊作るのにものすごく時間がかかりました。同じものが欲しいとなると、さらに羊皮紙を用意し一字一字を書き写していかねばなりません(同じ様に書き写して作った本を写本といいます)。一冊の本のために15頭の羊が必要なのだそう。とても贅沢で貴重なものだったのです。
今から700~800年ほど前の中国で、羊皮紙よりもっと便利なものが発明されました。木の皮などを材料にして作った「紙」です。安く作れるし、軽いし、薄くて束ねやすいので冊子にするのに向いていました。しかしその紙は破れやすくて、一字一字を書き写していく写本には向いていませんでした。

そしてなんと、活版印刷の発明者グーテンベルクさんも、ちいさいおじさんの姿で登場。活版印刷とは、金属のハンコのようなものを一字一字並べ、インクをつけて刷るという、印刷術なのです。
写本に代わる技術が生まれました。
それをさらに改良したのが、アルドゥスさん。この方も、小さい姿で登場。いろいろ説明してくれます。グーテンベルクの本は、教会で使われる儀式用のもので、大きくて使いづらいし、読みにくい字(フォント)でした。アルドゥスさんは、本を小型化し、読みやすいフォントを作り、そして、本にページの順序の数字をつけました。読みたいところがすぐにわかります。ページをふるのは、今では当たり前ですが、当時は画期的なアイディアだったのですね。

少しですが、電子書籍のお話もでてきます。印刷しない「電子書籍」はなんだか面白くないとつぶやくグーテンベルクさんやアルドゥスさんですが、世界を変えた発明を作った人たちなので、ほんとは興味津々なようです。

カエサルくんシリーズ、他に「カエサルくんとカレンダー 2月はどうしてみじかいの?」があります。上の方で書いた「ユリウス暦」のことです。

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第170回 夏の美しい夜さんぽする

第120回投稿でもとりあげた、アリスン・アトリーの絵本をまたご紹介いたします。最近ミステリばかり読んでいるせいか、物語には何か問題が起こらないといけないような、そんな気がしてしまっています。そういう場合ですと、この絵本はちょいと肩透かしかもしれません。静かな時間を過ごしたい。気分転換に。涼しい夏の夜を味わいたい。そんなとき手にとってみると良い絵本とおもいます。

「むぎばたけ(日本傑作絵本シリーズ)」 福音館書店 1989年7月発行 40ページ
アリスン(アリソン)・アトリー/作 片山健/絵 矢川澄子/訳
原著「THE CORNFIELD From “The Weather Cock, and Other Stories”」 Allison Uttley 1945年

とても静かな静かな物語。ハリネズミが、ウサギとカワネズミを誘って、畑の麦が伸びるのを見に行くおはなしです。
『あたたかい、かぐわしい夏のゆうべ。
空にはお月さま。星が二つ三つ。
そのひかりに、丘のはらっぱは、いちめん 青じろい銀のシーツをひろげたみたいでした。』

夜空に月と星が美しく輝き、あたり一面をほんのり輝かせているの夜の光景が目に浮かびます。
はなうた口ずさみながら、小道をやってくるハリネズミ、とっても上機嫌。
誰にもききとれないくらい、かすかな声で口ずさみます。

『お月さんのランプに
お星さんのロウソク
夜ごとはるばる
さまよう おいら』

昼間の暑い空気がおさまって過ごしやすくなった夏の夜、美しい花や木々が茂る小道を、気ままに散歩するのは素晴らしいでしょう!うきうきと歩くハリネズミの気持ちがわかります。ああ、その感じ、いいですねえ。
道の途中で出会う若いうさぎとの会話が楽しい。「おれ、どうかしちゃってるんだ、月が明るくて飛びはねたくなってとまれない!」のだそうです。それっきり、まっしぐらにかけていってしまいました。元気がありあまる若き衝動、覚えがあります。微笑ましくうらやましいそんな気持ちになりました。

「シモツケソウのしろいかわいい花が背中にしだれかかるアーチの下」「やさしいヤナギランのしげみ」「しっとりとつゆのおりた草地」「スイカズラとノイバラの甘いにおい」「おびただしいムギの穂のさやさやといううつくしい音楽」
麦畑までの野原の道が美しくて、植物に関する言葉を抜書きしてみました。花の甘い香りが漂ってくるような気がします。そして、片山健さんの描く植物がほんとうに見事。のびのび元気よく咲き誇る草花の強い生命力を感じます。前後左右に目を配って歩くウサギの用心深さ(p.21のウサギのジャック、進行方向ではなくこちらを見ている)も表現されていて面白い。

ハリネズミたちの歩く野原の道から少しはなれたところに、ロンドンまで続く大きな広い道路もあり、自動車が駆け抜けていきます。小さな生き物たちには注意が必要です。物語中に「あのけたたましいスピードはやりきれません。」と書かれてあり、作者のアトリーさん、自動車はあんまりお好きでなかった様子。自然や小さな生き物たちを愛おしむ気持ちも込められていました。
作者のアトリーさんは、田舎の自然を深く愛し故郷の思い出を作品の中にたくさん描いているそうです。小説では、1939年に書かれた「時の旅人/岩波書店」16世紀と20世紀を行き来するタイムトラベルもの児童文学がたいへん有名。絵本ですと、グレイ・ラビット、こぶたのサム、チム・ラビットなど動物たちが主人公の絵本がたくさんあります。

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第162回 自分の名前、好きですか?

自分の名前、好きですか?名前を言う度にからかわれちゃう少年へいたろうくんのお話です。ヘンじゃあない、とわたしは思いますけれど、本人は気になって気になって仕方がないのです。

「ぼくのなまえはへいたろう (ランドセル ブックス)」 福音館書店 2018年6月発行 28ページ
(月刊大きなポケット2005年12月号に掲載された「ぼくのなまえはへいたろう」を加筆編集したものです。)
灰島かり/文 殿内真帆/絵

へいたろうくんはおこっているのです。
自分の名前が昔のひとみたいで、長くて古臭い名前だね、と呼ばれる度に笑われるのです。音が重視で読み方の難しい名前が大流行の今だと、「平太郎」ですと目につく名前かもしれませんね。
スタンダードで良い名前だとわたしはおもいますがねえ。自分の名前なのですから、そのあたり、本人でないとわかりにくいものでしょう。
どうしても自分の名前がイヤなへいたろうくんは、笑われるのをどうにかしたくて、「名前」について調べます。

*名前は変えることができる。(正当な理由があると裁判所に認めてもらわねばなりません)
*名前には流行がある。
*へいたろう、という名前には、おおらかで堂々とした男の子、という意味がある。(へいたろうくんお父さん談。)
*生まれたときからへいたろうくんを「へいたろう」と読んでいるのでもう名前と本人はセットになっているように感じる。へいたろうという名前もへいたろうくんと同じくらい大好き。(へいたろうくんお母さん談。)
*愛や願いをこめて子供に名前をつける。
*病気や魔物から守るために、子供が小さいうちは、変な名前をつける時代や国がある。
*名前はみずからが育てるもの。(素敵な人の名前は、カッコイイ!と感じるようになるもんなのよ。)

わたしの名前は、ある漫画からとった名前で、どことなくカラフル(とわたしは感じる)・・そんな感じの名前なもんですから、子供の頃は名乗るのが少し恥ずかしい気持ちがありました。「漫画(の登場人物)みたいな名前だね」とズバリ言われたことも。いやはやまさにそうなんです、とはちょっと言えませんでした。大人になった今は、嫌いじゃないのですが。
人に名前を笑われちゃうって悲しいものなのですよね・・大いにへいたろうくんに共感いたします。ですのでどうぞ人の名前を笑わないであげてくださいね・・
子供は生まれた時に親が名前をつけます。自分で自分に名前をつけるわけでないからこそ、名付けって難しいのでしょうね。大人(親)が良いと思うものが、子も良いと思うかどうかはまた違うものでしょうから。わたしのように、自分の名前がしっくり馴染むまで少し時間がかかることもあるでしょう。
ただ、へいたろうくんのお父さんは、へいたろうくんが素敵な大人になりますように、と願いを込めて名付けたことが物語中にわかります。愛されてるんだよ~、へいたろうくん。