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第136回 しんじてる。きっときみはだいじょうぶ。

とても静かで胸に迫る絵本です。

「このまちのどこかで(評論社の児童図書館・絵本の部屋)」 評論社 2021年1月発行 40ページ
シドニー・スミス/作 せなあいこ/訳
原著「SMALL IN THE CITY」 Sydney Smith 2019年

少年がバスで街へ。タクシーのクラクション、工事する大きな音、あちこちで鳴りひびくサイレン。大きな街は騒がしくて、どきどきする。
少年は「小さなもの」へ語りかけながら街を歩き回ります。
安全で暖かく過ごせそうな場所、おいしいものを食べられそうなところや親切な人がいるところ、反対に暗い道や犬がいて危険な庭など近づかないほうがいいところなど助けになりそうなことを教えてあげています。
無事を祈る少年の思いが誰への言葉かわからず、少し不安をあおります。ちょっと我慢してページをめくっていきます。
日暮れが近づき、雪が強く降りはじめとても寒そう。少年の焦燥感、孤独感が伝わってきます。けれど、きっと無事でいるという希望をもっています。「しんじてる。きみはきっとだいじょうぶ。」少年の言葉に胸がはりさけそう。愛するものへの気持ちがつたわってきます。
物語の終わり近く、少年が吹雪く街を歩き回る理由や願いがわかった時、じんわりと胸にせまります。
少年は、迷い猫をさがしていたんですね。
最後のページにはほっとします。そうでなくちゃあ。
挿絵もきれいです。最初のページ、少年がバスから見る光景が見開きで4コマ、映画のよう。素敵です。とても静かにせまりくる絵本なので対象年齢はやや高めと感じます。

作者のシドニー・スミスさんが挿絵をつけた絵本も素敵です。
「おはなをあげる(ジョナルノ・ローソン作)」「うみべのまちで(ジョアン・スウォーツ作)」「スムート かたやぶりなかげのおはなし(ミシェル・クエヴァス作)」
があります。



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第132回 ともだちとながめる夕日っていいよね

「ぬけちゃった(児童図書館・絵本の部屋)」 評論社 2017年7月発行 32ページ
スティーブ・アントニー/作 せなあいこ/訳
原著「UNPLUGGED」 Steve Antony 2017年

表紙の四角いロボットがビビちゃん。三角・丸・四角のボタンのような模様がついていて、なんだかノスタルジックな気持ちになるボディ。レトロフューチャーっていうんでしょうか、懐かし愛らしいですね。
ビビちゃんは、毎日コンピュータにつながって、音楽をきいたり、ゲームしたり、行ったことのない場所をながめたり、たくさん遊んで楽しく過ごしています。
ある日、コードにつまづいてプラグがぬけちゃった。そして階段をころげおち、おうちのそとに飛び出して、草のはえた坂を転がって、森を抜け、川に流されました。池田屋階段落ちより激しい勢いです。レトロなフォルムだけど精密機械らしきなのにすごく頑丈!ビビちゃんは精密機械の鏡です。
広い空、青々としげる草木、お花の咲く水辺で、「あたし、おそとにいる!」と気がついた。ずいぶん遠くへきたもんだ。ころげるビビちゃんをおっかけてきた、うさぎちゃん、こじかちゃん、ことりちゃんとおともだちになって、歌をうたったり、水遊びしたり、ブランコしたり、かくれんぼしたり、絵をかいたり、たくさんたくさん遊んだビビちゃん。
おひさまが沈んで、おうちへ帰る時間。みんなで夕日をながめる見開きページには、終わりを感じさせ寂しい気持ちになりますが、楽しい時間を過ごせた満足な気持ちが伝わります。友人と仲良くながめる夕日ってすてきです。
ころがってきた道を、友人たちと帰るビビちゃん。帰り道も寂しくない。見送ってくれるみんな、優しいなあ。
ともだちと涙で別れたビビちゃんですが、コンピュータで遊んでいても、おもいだすのは、友だちとあそんだことばかり。最後は、みずからプラグをぬいてともだちに会いにでかけるのがいいですね。ビビちゃんはロボットの姿で描かれていますが、わたしたちと同じ。一人で寂しいという気持ちを感じるビビちゃんにさらに愛着がわいてきます。

わたしたちの生活でもかかせないパソコン。うまく使えば、便利で楽しくて知識も増える。でも、実際に体験したことは、やはり強く記憶され心に残るのでしょう。実際に外へでれば、知っている以上に世界が広がる。
コロナ感染症がおさまって心置きなく外へでることのできるように早くなってほしいものですね。それまでは少々我慢。本やパソコンで情報を得ることをしていたいとおもうのです。きっと実体験できる日がかならずくると信じ楽しみに待っています。

スティーブ・アントニーさんは、ちょっとかわった味わいのえほんをかかれています。
「女王さまのぼうし」飛ばされてしまった帽子を追いかけて女王さまがロンドンの街をかけまわる観光えほん。「やだやだベティ」こどもゴリラのベティがパワフルに泣いちゃう楽しいえほん。「ゆうかんな3びきとこわいこわいかいぶつ」かいぶつなんかこわくない!でもだんだん近づいてきていますよ・・ほらすぐうしろに。「おねがいパンダさん」ドーナツをたくさん持っているのにみんなになかなかあげないパンダさん。どうしてなの?

ちなみに、投稿タイトルは最後に考えるのですが、いつも苦労します。内容以上の過剰なタイトルがまずでてきてしまうのです。タイトルでねたばれしないように、でも目をひくような、笑いもちょっとくるような、素敵なタイトルをうまく思いつくと、びしりと決まって気持ちいいのですが、なかなかうまくいきません。「とじこもりロボ ビビちゃん」と最初に思いついたのですがちょっとこれはやめておいて正解ですよね。今回つけたタイトルもどうかとおもうのですが・・これ以上おもいつきませんでした、すいません。



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第127回 ピリッとからい昔ばなし

ちょっと大人むきなダールの昔ばなしのパロディ作品をご紹介いたします。ピリッと皮肉の効いたこのお話、いやだと感じるかたもいるかもしませんがどうぞご容赦ください。

「へそまがり昔ばなし (ロアルド・ダール コレクション12)」 評論社 2006年6月発行 85ページ
ロアルド・ダール/著者 クェンティン・ブレイク/画家 灰島かり/翻訳者
原著「ROALD DAHL’s REVOLTING RHYMES」 Roald Dahl Quentin Blake 1982年

「シンデレラ」「ジャックと豆の木」「白雪姫」「三びきのクマ」「赤ずきんちゃん」「三びきのコブタ」
この有名な6話の昔話を、ロアルド・ダールがキュっと皮肉を込めえがきなおしました。
若かりし頃にこれを読んで、驚きました。これは受け入れられない! とおもった記憶があります。
昔ばなしの主人公は、たいていは「いい子」と決まっています、と訳者の灰島氏がまえがきで書いています。「いい子」であることを、世の中は大人は、確かに求めています。子どもはいい子のほうが、大人にとって楽ですからね。(そして子どもだってそれに応えたいとおもうものですよね。)いい子であれと説く昔ばなしに抵抗したのが、この物語。
ダールのこの皮肉なユーモアは、すこぉし覚悟をして、童話とおもわず読まないほうが楽しめるのでしょう。ほかの人が幸せと感じることと、自分にとっての幸せは、ちょっと違うときもあります。迷子になったり道をはずれたほうが楽しい時もありますし。

ダメ王子を見きるシンデレラ、豆の木ジャックはお風呂に入って、義母の魔法の鏡を盗む白雪姫、三びきのクマの女の子は悪党だと断定するし、かなりの改変ですが、女性陣が強くて素敵です。特にわたしが好きなのは、オオカミをピストルでいきなり成敗する赤ずきん。「そこで赤ずきんは、パチリとウインク。ズロースのゴムにはさんだピストルをサッととりだして、ズドンと一発、おみまい。」するシーンにはにんまりしてしまいます。(だって、「ズロース」なんですよ!?!) オオカミの毛皮を手に入れるだけではなくプタのかばんまで手に入れる赤ずきんは、まあちょっとやりすぎ感もあるような気がしますが、一筋縄でいかないワルガールなのがわたしは好きです。
クェンティン・ブレイクの色気のある挿絵もダールのお話にぴたりとマッチしています。皮肉の効いたお話が読みたいかたに、おすすめいたします。

ロアルド・ダールは、第二次世界大戦で戦闘機パイロットとして従軍し、生死を彷徨う経験をもとにした小説や、ちょっと不思議な変わった味わいの短編をたくさん書いています。結婚してから児童小説もかきはじめました。たくさん書かれていますが有名どころは「キス・キス」「あなたに似た人」「飛行士たちの話」「おばけ桃の冒険」「チョコレート工場の秘密」映画にもなりましたね。
ついでながらわたしの好きなダールの児童書・・「オ・ヤサシ巨人BFG」「すばらしき父さん狐」「マチルダは小さな大天才」「魔女がいっぱい」



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第75回 世界初のプログラマー

「世界でさいしょのプログラマー エイダ・ラブレスのものがたり(評論社の児童図書館・絵本の部屋)」
評論社 2017年5月発行 40ページ
フィオナ・ロビンソン/作 せなあいこ/訳

今回は伝記絵本をご紹介。
世界で初めてのプログラマーのひとり、エイダ・ラブレスのものがたりです。
エイダは、1815年に生まれました。エイダのお父さんは、詩人・バイロン卿。素晴らしい詩をたくさん書いていますが自由奔放・派手な暮らしを好み約束も守らないひとでした。お母さんは、アン・イザベラ・ミルバンクと言う名前で、公式や数字できっちりと物事を考える数学者でした。まったく世界が異なるそんな二人がどうして結婚したんでしょうねぇ。(大人の事情があったようですがそれはまた別のお話。)
お母さんは、バイロン卿のような夢見がちではちゃめちゃな人間にならないよう、幼いうちから数学を勉強させました。数学を勉強することでしっかりした人間に成長する、としんじていたのだそうです。 でも、エイダが数学に興味を持ったからよかったものの、まったく好きじゃなかったらどうなってたんでしょうねぇ。

時は19世紀前半。産業革命がおこっていました。燃料を燃やして作った熱を動力にして(蒸気機関といいます)、織物や鉄などを作る機械の能力が大幅におおきくなった時代だったんです。蒸気機関を使った乗物、蒸気機関車や蒸気船などが発明され交通網が発達し人や物が移動や流通が盛んになりました。蒸気機関を使った工場を見学するツアーが盛んにおこなわれていたのです。エイダももちろん見に行ったそうです。
エイダは、詩以外の勉強をみっちりしましたが、それでもお父さんに似たちょっと風変わりなところがあったようです。蒸気で動く空飛ぶ機械の馬を作りたい!と言っていたのだそうです。風変わりとかきましたが、もしそれが実現したら・・・。素晴らしい空想力ですよね。
大人になって、マイケル・ファラデー(電気に関する研究の科学者)、メアリー・フェアファックス・サマーヴィル(数学者×サイエンスライター)、チャールズ・バベッジ(数学者×技術者×発明家)など、人生に影響を与える様々な人たちと出会いました。

特に、チャールズ・バベッジから、科学の師匠として多くの教えを受けたのです。バベッジの発明品の「階差機関(ディファレンス・エンジン)」や「解析機関(アナリティカル・エンジン)」についての講演記録を翻訳しました。「ディファレンス・エンジン/アナリティカル・エンジン」とは、象より重く馬よりも背が高いという、蒸気を使って動かす非常に大きな計算機です。世界で初めて作られたコンピュータの原型といわれています。
このコンピュータを動かすことば(プログラム)をエイダは作らせてもらえました。当時のプログラムは、厚紙に穴があいたもの(パンチカード)でした。(点字とちょっと見た感じ似ています。)

バベッジは、このアナリティカル・エンジンを計算するためだけの機械と考えていたようですが、エイダはもっともっといろんなことができると考えていました。絵・音楽・文章までも、プログラムできると考えていたようです。その当時はびっくりするような考え方だったようです。でも、今そのとおりのことができますね。
空飛ぶ機械の馬という豊かな想像力は、数学の知識とともにとても大事なことなんですね。
知識とアイデアが融合し実現する(かもしれない)楽しさや希望をエイダ・ラブレスは教えてくれました。



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第22回 海賊になる!

「こうしてぼくは海賊になった (児童図書館・絵本の部屋)」 評論社 2006年発行
メリンダ・ロング/著 小川仁央/訳 デイビッド・シャノン/イラスト

海で遊ぶジェレミーと父さん・母さん・妹。
浜辺から突然、海賊たちが上陸しはじめる。その名も海賊アミヒゲ。歯を磨かなくてもいいし、野菜を食べなくてもいいし、食べ物をぶんなげても、くそいまいましい、とか言っちゃ駄目な乱暴な言葉を使ってもいいんです。なんて自由!なんて楽しい!こうして少年は海賊になるのです。
けれど寝る前にお話を読んでくれる人がいない。おやすみのキスもなし。どうしましょ?
歯磨きしないちょっと不潔でお肌が荒れて不健康そうな海賊たちの挿し絵がちょっと気持ちわるいのですけど、船長と手下どもの元気の良さがバツグンです。おっかしいなー、海賊ってこんなにかっこ悪かったっけ?と読みながら思います。描かれ方がリアルで笑っちゃう。