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第77回 我慢すればするほど流れる涙

投稿の内容とは関係ないのですが、当サイト・トップページ上部にいるアンモナイトのようなくるりと丸い寝相の黒猫がくるくる回転するようになりました。ポインターを ふーっ と近づけてみてください。近づけ具合によって、高速回転したり一回転したり。店主の遊び心でございます。楽しんでいただけますと幸いです。今後も当ウェブサイトを面白く・使いやすくなるように少しずつですが向上させて参ります。これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。

幼い頃、なきたろうほどじゃないですが泣き虫でした。今も結構泣きます。(しばらく前ですが「北斗の拳」の映画版を見て恥ずかしながら泣きました。)抑えようとすればするほどながれてしまう涙と鼻水。みなさんも覚えがあるのではないでしょうか。泣き虫な男の子「なきたろう」のおはなしです。

「なきたろう」 文研出版 1974年発行 27ページ(復刊ドットコムにて復刊、2017年8月発行)
松野正子/作・文 赤羽末吉/絵

あかんぼうは、生まれた時やお腹空いたりおしっこしたら「ほんぎゃあ」「ふぎゃあふぎゃあ」と泣くけれど、なきたろうは、お腹すいてなくてもおしっこしてなくても「ぐえんぐえん」泣いていた。ぐえんぐえん、という言葉に笑ってしまいました。どれだけ涙がながれているかなんだか想像できますよね。
ふたつになってもみっつになっても泣きます。ころんでないて、犬にほえられちゃないて、友達があそんでくれないから泣いて、じゃあ遊んでやるよと言われて泣いて。この「ぶっとばすなみだ」の挿し絵が圧巻。顔をくちゃくちゃにして、体を赤くして、手足つっぱらかして、ずーっと泣いてます。嬉しくて泣き・哀しくて泣き。感情そのまま。ウラオモテなし。どストレート。
たまに泣くとストレス発散できてすっきりしますが、ずーっと泣いてると疲れるでしょうね。泣くせいでやはり小さいやせっぽち。かわいそうなほどの痩せ具合です。牛がちちださないのは、今年雨が降らないのは、なきたろうのせいじゃないか・・と村の人々に言われます。強くはなりたいのです。でもとまらないなみだ。「おら、なかなくなりたいよお。つよくなりたいよお。」切ない願いに胸がちょっときりきりします。涙がでちゃうの恥ずかしい、っていうのわかります。だから家を出て山に修行に行くのです。そして天狗と出会って泣き比べを挑まれてしまいます。ただただ怖くて泣いたのに勝ってしまったなきたろう、すごいです。涙が川になるほど泣いたので山が崩れる!と怒られ、うちわであおいでぶっ飛ばされてしまいます。
飛ばされ落ちたさきは、小さな泉。ちびこいちびこい水のこびとたちが住んでいます。こびとたちは、なきたろうがきた!涙で村が流される!逃げろ逃げろ!とおおあわて。ちびこい人々やちびこい村が珍しくて泣くのを忘れていたのだけど、涙があふれそうになっています。ちびこいお地蔵さん、ちびこいなすび、ちびこい家。このこびとの村の美しくてかわいいらしいこと。この村を涙でながしたくなくて、ぐぅっとこらえます。泣きそうになるのを、何度も「いかん。」とこらえます。こらえるにつれ、ぐぐーん!ぐぐーん!と体が大きく大きくなっていきます。
感情のままなみだをぶっとばすなきたろうも、とうとう大人になります。誰かを守りたいということ、誰かのためにぐっとこらえること。やせっぽちの子供から腕も足もぐーんとのびて大人になっていく。なきたろうの凛とした力強さがかっこいいです。別人です。あこがれます。
家に戻ったなきたろうは、もう”なきたろう”なんてよばれません。わたしがよばせません。大人の2倍ほどの背丈の大人なのに「こびとたろう」とよばれています。たろうの見た水のこびとのおはなしがみんな大好きだったので「こびとたろう」とよばれるようになりました。なんてかわいいあだなでしょう。
お話と挿し絵が相まってとてもおもしろい絵本でした。ぐえんぐえん泣くなきたろうの力強さと水のこびとたちと村が登場する静かなシーンのギャップがすごく好きです。
でも、たまに泣くのもいいものですよね。絶対に泣いてはいけないなんてことないのではないでしょうか。感動アニメをみたりきれいな景色見たり美しい歌をきいたりして涙するのもたまにはいいと思うんですよね。



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第57回 カッパと対決

九州・鹿児島県の種子島の「宝満の池」が舞台のお話です。
河童は、川を主な棲家にしているようですので、淡水魚なのだと思っていたのですが、島にもいるということは、海水も平気なのでしょうか。塩気はカッパには悪そうなイメージなのですが。

「ほうまんの池のカッパ」 BL出版 2018年2月発行(もとは1975年3月に銀河社から発行されておりました)
椋鳩十/作 赤羽末吉/絵

たいそうな力持ちの男がおりました。名前は、とらまつ。どれくらい強いかと言うと、シカを手づかみで生け捕り、おうしをねじ伏せるほど。島で俺にかなう者などいないだろう、とおおいばり。
ある日、釣りにでかけ、鯛をたくさんたくさん釣りあげました。力だけではないぞ、釣りだって島一番の名人じゃ、とますますいばっているのです。
そして、帰り道、ほうまんの池をとおりかかり、(案の定)おかしなことに出会って、鯛をとられてしまいます。足が地面がくっついて、はがれません。地面から、ぬくりんぬくりんと腕が伸びて、魚をもっていかれてしまいました。とらまつの悔しさもちょっとわかりますね。おすそわけするべきだったんでしょうね。近所づきあいの難しさ。
ここで、負けるとらまつじゃない。こんどは、沸かしたてアッツアツのお湯と、呼び寄せるためのエサとしてテンプラを持って、ほうまん池へ。また足止めされますが、熱湯をぶっかけます。熱くてカッパが「チチ チ」と叫んでいます。カッパの鳴き声ってこうなんですね。ちょっとこわいです。しかし、頭突きで仕返しされ、この勝負も負けてしまいます。さあ、次は最終ラウンド。どうなるか・・・・・!

最後の戦い、やはり、とらまつはカッパには勝てません。だってカッパは妖怪なんですもの。妖怪が妖怪たる様が描かれてます。おそろしいのですがそこが面白いです。人間は妖怪に勝てっこないのです。妖怪には、やはり敬意を払わないとダメなのですよね。個人的にこわいのが、「ぬくりん ぬくりん」と腕が伸びたり、「ちりちりちり」と小さくなったり、「どぼりん どぼりん」と大きくなったり、という擬音。ちょっと違うんだけどぎりぎり想像可能な、でもどこかずれた感じが不気味をかもしだしているように思います。

アタマのお皿が乾いたら弱くなるらしいとか、キュウリが好きとか、相撲をとるのが好きだとか、架空の臓器シリコダマをとったり、酒を飲むお色気カッパのテレビCM(大人にしかわからないでしょう。古くてすいません)などで、身近で愛嬌ある妖怪だとおもってたのですが、この絵本を読んで、原点に戻ることができたように思います。妖怪はこわいもの。恐怖が形になったもの。
赤羽末吉さんの挿絵もたいへん迫力があります。最後のシーン、私もとらまつと一緒に逃げたくなります。びびりな私は、そもそもほうまんの池に近づけませんけれど・・。