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第161回 なんでなくのか

「ないた」 金の星社 2004年9月発行 32ページ
中川ひろたか/作 長新太/絵

一日一回 ぼくはなく。どうしてだろう? そんな絵本をご紹介いたします。
大人になったら泣けません。いやうそです。わたしは映画を見ては本を読んでは泣き泣きしています、こっそりと。心が震えるとどうしたって涙がでちゃうんですもの。
実際に苦しいこと、悲しいこと、困ったことがあっても、大人はその場では泣きません。ぐぅっとこらえ、あとで泣こう、とおもうので精一杯。
感情をあらわにすると、後でおもいかえした時に恥ずかしいのです。丸裸にされたような気持ちになるのです。酔っ払って気分が開放されてしまい、ついつい喋りすぎたりはしゃぎすぎたりしたのを悔やむのと似ておりますね。ちょっといや大いに違うかもしれませんが、まあお許しくださいませよ。

この絵本の少年は、転んで泣き、ぶつけて泣く。けんかして、しかられて、悔しくて、寂しくて、心配で、嬉しくて、一日に一回は泣く。子供の頃、わたしもよく泣きました。泣くのを我慢してさらに泣いちゃったりね。きょうだいとケンカして泣かしたり泣かされたりしたこと、思い出しました。
幼い涙なんですよね。だがしかし今思えば、なんにも考えず感情のままに泣くことの、ああ、それのなんと気持ちよかったことよ。幼い涙もこれまた良いもの。

『おかあさんの おふとんにはいったとき、おかあさんの めから なみだが でた。つーっと、まくらに ながれて おちた。』
『ないてるのっ てきいたら「ううん」って、いった。』

大人になってくると、そうはいきません。お父さんやお母さんは、包丁で指を切ったくらいでは、人前で泣いてはいけないのです。だからこそ、おかあさんの目から流れる一粒の涙の意味が重いのです。大人になると涙する回数は減るけれど、どうしたって流れてしまう涙は大切なものになっていくように思います。
このシーンの涙がどんな涙なのか説明がないためいろいろ想像してしまって、こみ上げるものがあります。嬉し涙だといいなあ。
人前で泣けなくなってきた皆様におすすめしたい作品です。
長新太さんの挿し絵も素敵です。明るい黄色・オレンジをポイントに明暗がくっきりしていて目を引きます。「こわくてないた」の見開きページにはちょいと衝撃がきました。じっとみていたいような早くページをめくってしまいたいような、そんな気持ちになる挿し絵でした。

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第80回 ひげとらいおん

「ちょびひげらいおん あかね幼年童話」 あかね書房 1977年9月発行 69ページ
長新太/作・絵

「絵本ナビURL」貼り付け、そのまた下に「画像アフィリ(divでかこむ)」貼り付け
長い長いひげをはやしたライオン。挿絵を見るに3・4mほどでしょうか。長いですね!毎日のひげそりを怠ったのでそこまで伸びちゃったのでしょうか。あまりに怠惰。しかしそこが面白さの発端なのです。
ひげが長くて苦労しているという話から、そのひげをヘビにかじられてしまって苦労し、やっとヘビをひきはがせたとおもったら、ひげが木の枝にひっかかって大風にあおられ凧のように舞い、とうとう・・というなんとも反応に困るシュールな童話です。オチがタイトルなのも、いいですネ。
この本を読んだ小さな人たちが、どんな反応をするか、見てみたいものです。
作者はきっとにやにやしながら書いたんだろうとおもうのですが、それを想像しますとまた楽しい。
なぜこういう展開になるのか・・と不思議な筋立ての楽しい絵本をたくさん描いておられる長新太さん。ナンセンスの神様、という異名をお持ちだそう。なるほど。
多分わたしが長新太さんの作品で初めて読んだのは「ごろごろにゃーん/福音館書店」。意味不明さに圧倒されました。ごろごろにゃーんごろごろにゃーん飛行機に猫がのりこみ、ただただ飛んでいく・・というお話です。が、意味不明さに圧倒されました。雑誌・母の友に掲載されていた「なんじゃもんじゃ博士」も好きでした。博士とアザラシが旅していくというただただそれだけなのですが、なんだか面白い。あまり記憶には残らないのですけれど(ごめん!)、不思議な魅力のあるお話です。



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第1回 猫の本

なちぐろ堂は、科学史関連の書籍の収集に力を入れております。店員の私は、「子どもの本」に興味がございます。
このブログでは、おもに絵本・児童文学のご紹介してまいります。一話一冊ピックアップの予定なのですが、しょっぱから規定破り3点のご紹介。「なちぐろ堂」という店名は猫からもらったものであることと、猫およびネコ科の生き物がとても好きなので、最初はやはり「ねこ本」を選書しました。よろしくどうぞおつきあいください。

「せいくんとねこ 」フレーベル館 30ページ
矢崎節夫/作 長新太/絵

魚をめぐる、”せいくん”と”ねこ”の攻防。両者、我こそが魚を食べるにふさわしいと 主張します。最後はせいくんに軍配が上がりますが、ねこに魚のあたまとしっぽをあげるせいくんの優しさがうれしい。気弱なだけかもしれませんが。長新太さんのカラフルなふにゃぁ〜っとした絵も楽しい。

「ネコのタクシー 」福音館書店 84ページ 2001年5月発行
南部和也/作 さとうあや/絵

 トムは速く走るのが特技のネコ。足を骨折して仕事が出来ない飼い主のランスさん(タクシー運転手さん)のかわりに、特技を生かし ネコ専用の小さなタクシーをはじめます。お母さんから教わった生きる知恵を、トムが時々思い出すところがとてもかわいらしいのです。母の言葉はすべて正しい、と鵜呑みにしていないところもおもしろくって好感がもてますね。絵本よりは文字多めなので、読むのなら小学低学年くらいからでしょうか。とても楽しい読み物です。「ネコのタクシー アフリカへ行く」という続きもでています。

「すてきなレインコート 」フレーベル館 34ページ
西村祐見子/作 松永禎郎/絵

 ぬいものがすきなおばあさんのおうちへ、猫のミケがぬいものを教えてほしい、と布をもってやってきました。それは見事なうすみどりの生地。ふしぎに ほんのり あまいかおりがするのです。このすてきな生地でミケは何をつくるのでしょうか。残念ながら、タイトルで何を作るかわかってしまうので ちょっとさびしいのですが、誰のために作ったのかわかると 心がほんわり温まる素敵な絵本。猫が主人公の絵本はたくさんありますが、不思議に素敵な生地の出てくるこの絵本が好きです。

手に入れやすいかどうかはお構いなしの選書です。ごめんなさい。
今後もねこ絵本に限らず、面白い絵本・児童書をご紹介していきたいと思っております。