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第107回 やつらが大活躍なファンタジー、かがやく剣の秘密

個人的なフェイバリット・ブックをご紹介させていただきます。何度も読み返してきました。忘れられない一冊なんです。絶版で手に入れづらいかもしれませんがお許しください。図書館で借りて読むことができるとおもいます。

「かがやく剣の秘密 小人のミニピン物語 青い鳥文庫」 講談社 1985年7月発行 373ページ
キャロル・ケンダル/作 八木田宣子/訳 楢喜八/絵
原著「THE GAMMAGE CUP」 Carol Kendall 1959年

ミニピン族、別名「小がら族」。彼らの住む谷間は、四方を登ることのできない山々に囲まれていました。出不精で平和が好きなミニピンにぴったりの土地だったのです。指輪物語のホビットをなんだか思い出しますねえ。880年前、この谷間にミニピン族を率いてきたリーダーは「ガミッジ」という名前でした。そしてウォータークレス川にそって12の村を作りました。

そしてこの度、村対抗のコンテストが行われることになりました。どの村が、いちばん裕福でしあわせでうつくしいか、審査員が村をまわって調べるのです。家の庭には木を植え、緑色で塗られたドアであるべき、なのです。
賞品は、「ガミッジのさかずき」。ガミッジの知恵を授けられるという貴重な品です。村の人たちは大興奮。

そしてこの物語の主人公たちのいる、水の上のうわぐつ村には「やつら」とよばれる変わり者たちがいました。緑色のマント、茶色の色で織り上げた服を身につけるというのが「ちゃんとした」ミニピンの服装なのですが、ミニピンらしいきちんとした仕事をせず、ミニピンらしい詩や絵を作らない人びとです。

ウォルター伯爵は、彼しか解読出来ない古い巻物に書かれた宝物をさがす変人です。あちこちに穴を掘っていますが、なかなか宝は見つからない。
カーリー=グリーンは、ミニピニンらしくない赤いマントをはおる絵かきです。そしてミニピンらしい絵を書きません。
ガミーもまたミニピンらしくない詩を書く風来坊です。好奇心旺盛で、「良きミニピンは村にとどまるべし」という教訓を無視し、村をでて山を探検しています。ミニピンらしい詩より楽しい詩「書きなぐり」を書くのです。
ミンギーは、村のお金を管理している厳しい人です。ケチだと言われていますが、病災基金(健康保険のようなもの)を提案するまともな人です。村人が「やつら」を排除しようとすることに抵抗します。
そして、この物語の主役、マグルス。ちょっとおばかさんと思われている彼女は、がらくたを集めるのが好きなのです。(「悪くない性質なのですが」と作者はつぶやいています)すすんで言われることに従いますしいつもにこにこしています。ですが時々、ミニピンらしくないオレンジ色の帯をしめます。

この水の上の上ぐつ村に「やつら」がいる限り、ガミッジのさかずきは、村のものにならないのじゃないか、と追放されることになります。
そして、おかしなことがおこります。誰もいるはずのない、周囲の山々に火が灯っているのをみてしまったマグルス。平和な山あい地方に侵入者がいるようなのですが、水の上の上ぐつ村のリーダーたちピリオド一族に言っても信じてもらえません。

ちょっと変わった「やつら」がとても魅力的でした。
ミニピンこうあるべし、という圧力をはねかえし、自ら村を去るのです。「やつら」が村を「のけもの」にしたのです。村を出て山の家へ旅立った6人の奮闘も見ものです。頼りないとおもわれていたマグルスが、皆に仕事を指図し鼓舞し叱咤し、おいしい料理で釣り、リーダーとして存在感をみせるのがとても面白いんですよね。ガミーの詩「書きなぐり」が章のはじまりに書かれていますがこれが楽しい。気難しいミンギーでさえ、最後には彼の詩をうたいます。あのシーンがすきです。あとマグルスのパットケーキ、ササフラスのお茶というのがおいしそうなんですよね。ササフラスは木全体から柑橘様の芳香がするそうです。ちょっと休憩という時に飲むのがうらやましいんだなあ。疲れに効きそうです。パットケーキというのはホットケーキみたいなもんかしら。魚だんごというのもおいしそう。
そして、ウォルター伯爵の掘り出した宝が大活躍し、この山あいの村を守ることになるのです。

でも実は、この谷間をでることはないので、彼らが小人である必要がないというのがちょっと残念ではあるのですが、とても面白いファンタジーですよ。
続編「ささやきの鐘の秘密」もあります。前巻から5年後。主人公はマグルスたちではなく、水あな村の5人の青年たちが主人公です。山あい地方をおそった洪水の原因を調べに旅立つのです。マグルスたちもごく少しだけ登場。



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第31回 モノノケ+猫+小学生 ×落語!

「化け猫 落語 〜おかしな寄席においでませ!(青い鳥文庫)」 講談社 2017年8月発行 222ページ
みうらかれん/作 中村ひなた/イラスト

今回は、モノノケ、猫、小学生に落語をぶっこむ、という意外な組み合わせ。著者は、以前「夜明けの落語」という引っ込み思案の小学生女子が落語する児童文学をかいておられました。今回ご紹介のこの作品はさらにテンポよく、笑いが多くなっております。
主人公は、小学5年生・男子、穂村幸歩(ほむらゆきほ)。転校生のみんなに馴染もうとせず笑わない美少女・神保理緒(じんぼうりお)。
この美少女の理緒が音をたて豪快におそばを食べる”ふり”をしているのを目撃してしまう幸歩。落語の「時そば」の練習をしていたらしい。でも誰にも言わないように頼まれます。理緒がなぜ口止めするのか・人と関わろうとしないのか、わからないままあれやこれやで二人は、化け猫亭三毛之丞(ばけねこてい みけのじょう)というバケネコの落語家に出会います。落語を教えて欲しい、理緒を笑わせたいから・・と幸歩は三毛之丞に入門する。  ざっくり言うとこんなお話です。

その他の登場人物たち、同級生の神宮寺豪太(ガキ大将なのにボケ役男子)、三森つばさ(ボーイッシュなカワイイ幼なじみ)、幸歩の姉(カワイイもの大好き❤写真撮りまくり女子高生)、落語家の猫又家双吉(ふっくら優しい猫又)、その弟子の猫又家黒吉(子猫の猫又。幸歩をライバル視)などキャラクターが魅力的。小豆洗い、一反木綿など妖怪もいい味だしてます。特にカッパの席亭と幸歩のテンポのよいマンザイのような会話が面白いのなんの。キュウリが木戸銭なのを面白く料理してあります。

落語の用語(カミシモを切る・席亭・所作・前座・真打ち・マクラ・追い出し太鼓)の解説もあり、落語をきいたことなくてもわかりやすくなっています。妖怪と人間、猫とヒト、師匠と弟子、人との関わり合い方、きちんと気持ちを伝えること、友達以上恋未満な感じの小学生の三角関係、などいろんな要素があり、うまい作家さんと感じます。猫と落語と妖怪が好きなら、当たりと思いますよ。現在、3巻まで刊行。
2巻「ライバルは黒猫!?」猫又の猫又家黒吉(ねこまたやくろきち)は新人落語家。子猫ですが。猫パンチされてもまったく痛くなくて、語尾に「〜にゃ」をつけるかわいい幸歩のライバル。人間が嫌いな黒吉と落語で勝負することに!黒吉の秘めた想いに泣かされます。ちなみに噺のネタは「猫の皿」。
3巻「恋と狐と『厩火事』」厩火事を稽古中の幸歩。面白い噺だけれど、登場人物のこの夫婦の気持ちが分からない。三毛之丞師匠に恋人・・・!?幼なじみのつばさと何故かぎくしゃくしちゃって・・・  など恋づくしな一冊です。