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第34回 落語する楽しさ。

「落語少年サダキチ (いち)」 福音館書店 2016年9月発行 221ページ
田中啓文/著 朝倉世界一/イラスト 桂九雀/解説

以前、落語が題材の「化け猫落語/三浦かれん」を取り上げましたが、今回も落語がテーマ。大阪が舞台なので、登場人物みんな関西弁。
著者は、ミステリ・ホラー・ファンタジー・時代ものなど、大人向き小説をかいておられ、ちょいグロテスク強いダークな作品もあり、児童文学?ダイジョウブ?と思われる方もおられるかもしれませんが、大丈夫!

主人公の小学5年生、清海忠志(きよみただし)は、「背が低くて顔はシケメン、ケンカは超弱く、運動も苦手、だからといって勉強ができるわけではない」「頼まれるといやだと言えない性格」というわりとふつうの男の子。自称、学校でいちばんお笑いにくわしい。
”若手漫才のとんがった笑い”が好きで、落語なんか古臭くってしょーもないと思っていた忠志。ベロベロに酔っ払ったおじいさんを町の悪タレのカツアゲから助けたところ、落語家だったらしくムリヤリ噺をきかされたのだが、それが面白くて、どんどん落語にはまっていきます。そんな忠志が落語を演ることになり、なぜか江戸時代の大坂にタイムスリップします。(かなり要約しました。気になった方はよかったら手にとってみてください。)

あまりぱっとしない少年がビビリながらも落語に挑戦し、名人のコツを取り入れる工夫をしたり、オレはまだまだや もっと落語を極めたる!と誓う忠志の成長ぶり、落語へのアツい情熱がいいですね。人を笑わせる快感に目覚めた忠志とともに読者である私もどんどん落語にひかれていきます。たくさんの人の前で落語を演ることになり失敗を恐れビビってケツまくりそうになってるところなんか、応援してしまいます。落語の魅力を垣間見れる落語児童文学です。

ちなみに落語のネタは「平林」です。
関西弁の勢いのよさがほんと楽しい。挿し絵は、朝倉世界一さん、力の抜けたほわ〜んとしたイラストがまた面白さを倍増させています。落語家の桂九雀さんの巻末の解説も落語がよくわかってとっても親切。 イラスト・文字の配置、フォントが面白いぞとおもったら、デザインは祖父江慎さんでした。
落語少年サダキチは3巻まで刊行されています。(2019年7月現在)



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第28回 いつの間にか時間のたつ絵本

「あいうえおの本」 福音館書店 1976年
安野光雅/イラスト

安野光雅さんには、絵本書籍の挿し絵、ヨーロッパ・アジア等の風景画集、算数・数学をわかりやすく説明した絵本、書籍のデザイン装丁、などなどたくさん作品があります。
今回は、書き込まれたページが美しくひねりのある楽しい絵本を選書してみました。左側には、木で作った「あいうえお」が一文字ずつ描かれ、右側にはその平仮名が頭文字になる生き物や植物、ものなどの絵が書かれています。そのまわりには植物のフレームで囲まれてあり、その植物の頭文字も同じ平仮名なのです。この平仮名の挿絵にもだまし絵のような工夫が凝らされています。みっしり描きこまれた挿絵でじっくり1ページを眺めているといつのまにやら時間がたっているのです。
福音館・1974年発行「ABCの本」アルファベット版です。こちらもおもしろいです。挿絵の名前も英語なので、あいうえおのほうをおすすめしました。

 他の作品に・・ 画集、数学や言葉に関する本などたくさんたくさん出版されていて名前を上げるのが難しいのですがあえて書くなら・・
「はじめてであうすうがくの本シリーズ」福音館のかがくのともをもとにしたものが多いようです。絵で説明され大変わかりやすい。
「美しい数学 シリーズ」”はじめてであうすうがくの本”よりかなり難しさがレベルアップしたシリーズ。大人でも混乱します。
「天動説の絵本」むかしのひとは、地面ではなく天が動いているとおもっていた・・。自分たちが”ちきゅう”というものにのっかっていることに気がつく絵本。
「旅の絵本」中部ヨーロッパからはじまってイタリア、イギリス、アメリカ、スペイン、デンマーク、中国、日本・・これもみっしり風景や人々が描きこまれた名作シリーズ。絵本・絵画・文学などの一場面がこっそりまぎれています。風景の美しさを堪能するのはもちろん、いろいろ見つけて楽しめる。9巻まで発行されてます(2019年6月現在)。



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第27回 親子の会話フランス版

「年をとったワニの話 (ショヴォー氏とルノー君のお話集1)」 福音館書店 1986年発行(2002年に再刊発行)
レオポルド・ショヴォー/文と絵 出口 裕弘/訳

今日は、ちょいとダークな児童文学をご紹介。
お父さんのショヴォー氏が幼い息子のルノーくんに語ります。ただそれがなんというか、小さな子に語るにはちょっと早いような、人によっては残酷に感じるかもしれない、暗らぁいユーモアを含んだお話なのです。
「年をとったワニの話」年をとったワニにタコの恋人ができる、というだけで、なんだか笑ってしまうのだけど、お腹が空いたなぁと恋人のタコ足を一本、二本・・とつまんで、ついにはすべてを食べてしまう。愛ってそういう面があるかもね・・、なんつって思います。
「メンドリとアヒルの話」これまたブラック。ブラックすぎてポカンと口があきます。子どもがおもったように育たなかったので、空中から投げ落とす・・という衝撃的なお話。そんなお話を、おそらく4〜5才の子供にしてもよいのだろうか・・。

笑っていいの?と思うほどブラックなお話の合間に、ちょいちょいはさまれるショヴォー親子の会話がかわいくて、これが癒やし。フランス語の原著は1923年の発行だそうです。時代もあると思いますが、フランスのお子さんは大人だなあ。
ショヴォー氏はお医者さんであったそうです。ですから人間の生物としての本能や命の尊さと儚さを強く感じたのかもしれません(とフォローしておきましょう)。まあ、構えず気楽に読むのが吉でしょうか。今の日本ではやはり大人のほうが楽しめるようにおもいます。教訓など皆無な黒い寓話にニヤ〜っとしたい大人のかたにどうぞ。第1巻には「ノコギリザメとトンカチザメの話」「メンドリとアヒルの話」「年をとったワニの話」「おとなしいカメの話」と全部で4編収録。

ショヴォー氏のお話集は、全5冊のシリーズです。
「年をとったワニの話」「子どもを食べる大きな木の話」「名医ポポタムの話」「いっすんぼうしの話」「ふたりはいい勝負」



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第25回 ふろにわにわに

「わにわにのおふろ」 福音館書店 2004年発行(こどものとも・年少版は2000年6月号)
小風さち/作 山口マオ/絵

おふろが大好きなワニのわにわにが主人公です。鋭い牙がたくさんはえていて黄色い目玉がすごく怖い、とてもリアルに描かれていてカワイイとはちょっと言い難いのですが、この絵本、楽しいのです。湯船にロボットのおもちゃを浮かべたり、泡をとばしてあそんだり、洗面器をかぶったり、シャワーをマイクにして歌ったり、とっても楽しそうにおふろに入ります。
湯船につかって温まる、わにわにのワニらしさをぜひごらん下さい。・・エモノ待ちスタイル!こえー!
お風呂上がりは、床にしいたタオルで身体をふくのですが、音が ぐにっぐなっ なんですよね。なぜ?とも思うけど、ワニがくねるとそういう音がするのかもしれない、とおもわず笑ってしまって妙に癖になります。

「わにわに」は5冊シリーズがでています。
「わにわにのおふろ」「わにわにのごちそう」「わにわにのおでかけ」「わにわにのおおけが」「わにわにとあかわに」



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第11回 こわいほん

関係ないんですけどわたし結構怪談が好きなんですよね。で、今回ご紹介したい絵本なのですが、怖い絵本は数あれど、ずば抜けて怖い絵本と言えば、コレ。トラウマ絵本の代表(といわれています)「ねないこだれだ」をご紹介いたします。

「ねないこだれだ (いやだいやだの絵本)」 福音館書店 1969年
せなけいこ/作・絵

 早く寝ない子は、オバケにさらわれちゃうのです。おばけと一緒に空を飛んでいくのです。オドシでなく、マジでつれていかれてしまうのです。
そんな絵本です。

表紙の挿絵は、典型的なおばけの造形ですが、なんやら狂気を宿した黄色い目が恐怖をあおります。オバケにさらわれた子はどこへ行くんでしょうか。普段は行けないような不思議なところでしょうか。想像もできないほど怖いところなんでしょうか。そんなオバケの世界へ引き込まれてしまうかもしれない危うさに、ぞくぞくします。こどもはまじでおそろしい、と感じると思います。実体験から、なおかつ蛇足であろうと思いつつも書いてしまいますが、それだけにお子さんへの読み聞かせには十分ご注意いただきたいと思います。

子供の頃は、二度と読みたくないと思ったものですが、大人になった今、不思議な世界に連れて行ってくれるおばけが結構いやかなり好きですね。ふつうの生活、平常心では見られない世界を垣間見せてくれるかもしれないから。でも安心しているのはおそらくそんな世界は遠いところにある・・と思っているからでしょう。ラストのページ、寝ない子はオバケになって、オバケと手をつないで飛んでいくのですが、なんだか楽しそうに見えるのは私だけでしょうか。私は幼児の時分から寝付きが悪かったので、そう思いたかったのかもしれません。