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第194回 勇気をだしてたどりついた先にあるものはきっと

化学同人さんは、自然科学関連の書籍を中心に刊行する科学書の出版社ですが、絵本も発行するちょっと?変わった出版社さん。かがく系ではない海外の読み物絵本を多く手掛けられています。その化学同人さん発行の絵本をご紹介いたします。
魚が入ったカップ(&ソーサー)をねずみたちが誇らしげにかかげている・・。いったいどんな物語!? 表紙で心を鷲掴みにされてしまいました!

「ひみつのさくせん」 化学同人 2022年5月発行 32ページ
ニコロ・カロッツィ/作 橋本あゆみ/訳
原著データ 「BRAVE AS A MOUSE」 Nicolo Carozzi 2021年

丸い金魚鉢に、金魚が一匹。
ねずみが金魚にごあいさつ。「ね、あそぼう?」
毎日ふたりはあそびます。鉢の中で一緒に泳いだり、ごはんをさしいれしたりと仲が良い。ねずみがストローへ吹き込む空気の泡のぷくぷくに金魚がたわむれているのがとってもかわいい。
◇化学同人ウェブサイトより(↓)

そんな楽しい日々に3つの怪しい影が忍び寄る。こ、この影は・・。
大きな黒猫。ドキドキしますね~。だいじょぶかなあ。
金魚から猫の気をそらすべく、ねずみは猫たちにつかまりそうなギリギリを走り抜け、駆け回り、キャットフードのある倉庫へとびこんで、危機一髪。
「むちゃだって ゆうきをだして つきすすむ。」仲間を助けたい、その一心。
キャットフードで今はお腹いっぱいな猫たちだけど・・またお腹が空いて目が覚めるでしょう。危機は続く。
またまたいい考えを思いつくねずみたち。
ティーカップ(&ソーサー)登場。金魚をカップにインして、ねずみたち捧げ持つ。
3匹の黒いいたずら猫たちが眠るソファの下を通り、人に見つからないよう道路を渡る、ああ、どきどき。
到着したのは小さな川の上の橋。この橋がシンプルなんですけど愛らしいんですよね。
ねずみと金魚の最後の握手です。「いいかな?」
「うん!」川へ放たれる金魚の心構えは十分。お別れです。
川に入った金魚、ジャンプ。おっ元気そうだよ。
ちょっと寂しい気持ちになるけれど、勇気をだして、苦難を乗り越えた先にあるものは・・・・
いいことであればいい。そうであってほしい。未来には必ず希望がある、と断言できない不安定な世界ですが、願わずに祈らずにいられません。

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第193回 魚類最強のハンター

今回はホホジロザメを扱った科学絵本をご紹介いたします。
ホホジロザメは、魚類最強のハンターなのだそうです。と言えば、やはり映画「ジョーズ/JAWS」を思い出しますね。(人間を襲う巨大ザメと戦う映画。その巨大ザメのモデルがホホジロザメだそうです。)
サメが海底からぐわーっとうかびあがってくるんですよね。(だいぶ昔に見たので違うかもしれない。)絶対海に入りたくなくなる、怖い映画でした。そんなホホジロザメの生態に迫ります。

「ホホジロザメ (福音館の科学)」 福音館書店 2022年6月発行 40ページ
沼口麻子/文 関俊一/絵

広い広い海を泳ぐ一頭のオットセイ。
忍び寄る大きな影は・・・ホホジロザメだ。
気づかれないよう、オットセイの真下へとこっそり移動していく。
そして、海面に向かって、一気に急上昇!!
・・・暗い海から一気に浮き上がり、オットセイを狙うホホジロザメを海面から見る絵です。海の中に大きく口を開けているこの絵がとても怖い。映画ジョーズそのもの、と思いました。実際に手にとってぜひとも見ていただきたい挿絵です。
次のページには、アザラシをしっかり口にしたホホジロザメの挿絵。海面が波立つ音が聞こえてきそう。とても迫力があります。

さて、ホホジロザメのプロフィールです。
大きさは最大で6mを超える。魚介はもちろん、アザラシやオットセイもいただきますよ。だいたいどこの海にもいます。北極・南極のような冷たすぎる海は苦手らしい。
普段はおとなしくて、ゆっくりと泳いでいる。(お腹いっぱいの時は、ってことですよね。)
水が沿うようになめらかにながれる、硬いウロコがびっしり肌に並んでいるので、狩りする時は素早く泳ぐことができる。
顔の前にあるぶつぶつ穴は、生き物からでている弱い電気を感じる「ロレンチーニ器官」。大きな鼻の穴はわずかな臭いだってかぎとることができてとっても敏感・優秀なのだ。
ホホジロザメの特徴、大きな歯。抜群によく切れますがすぐ抜けます。ですが歯の内側にすでにもう新しい歯がスタンバイしているのです・・何度でも生え変わるんですって。すごいですね。
獲物にかぶりつく時は、白目をむきます。えっなぜ白目むかなきゃならんのかしら。映像として怖すぎますよね・・ホラー映画みたいで夢に見そうです。
オスは2本の交尾器を持ってます。おちんちん2本ってことですね。これも不思議な。べつに1本で充分じゃないかしら??どういう理由でそうなのか科学的に説明できたらすごく面白いでしょうね。
120センチほどに育つまで母ザメのお腹の中にいます。結構大きなサイズに育つまでお腹にいるんだなという印象。生まれてからは一匹一本立ち。自分より大きなサメやシャチに食べられないよう、広くて大きな海の中を生き抜きます。

迫力ある挿絵を描く画家の関俊一さんのプロフィールをみますと、「幼少の頃から自然へ生き物への愛着があり・・魚や動物の絵を描く。・・趣味は磯釣り。船で一日中波に揺られ、釣った魚を描き、捌いて頂くまでを大切にしている。」だそうです。「捌いて頂く」ってので大好き・熱心な気持ち、伝わります。魚おいしいし、いいですねー。
文を書いた沼口麻子さんもなかなか独特な方で、世界で唯一の「シャークジャーナリスト」だそうです。他著書に「ほぼ命がけサメ図鑑」。
子供の頃、海辺で溺れかけたことがあるためか、わたし海が苦手です。苦手はできれば克服したい。海に生きる生命を知ることが克服につながるのじゃないかしら、ということで今後も、海や水辺に棲む生き物の本を読んでいきたいとおもっています。おつきあいくだされば幸いと存じます。よろしくお願い申し上げます。

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第192回 ネコ科バンザイ

「サイモンは、ねこである。」 あすなろ書房 2017年8月発行 32ページ
ガリア・バーンスタイン/作 なかがわちひろ/訳
原著「I AM A CAT」 Galia Bernstein 2017年

子猫のサイモンが、ライオン・ピューマ・クロヒョウ・トラ・チーターに出会いました。
「ぼく、サイモンです。ぼくたち、にてますね。」
鼻で笑う、ライオン・チーター・ピューマ・クロヒョウ・トラ。
みなさんそれぞれ、自分らしいところをあげていきます。
ライオン(以下では「ラ」)は、
たてがみとしっぽのふさがあるのは、わたしだけ。だって百獣の王なんだも~ん。
と自信満々。
チーター(以下では「チ」)は、
このすらりと長ぇ足見てみろやぁ。世界でいっちゃん早い足持ってんだぞぉ。ころころ太った毛玉と訳が違ぇんだ!
ピューマ(以下では「ピ」)
あたしは山に住んでんの!岩から岩へ飛び移る、軽やかな足持ってんの!子猫ちゃんなんかまっさかさまーでしょ!
と自信満々。
クロヒョウ(以下では「ク」)は、
おまえ、黒くないじゃん。
オレなんかジャングルの木の上で寝てんだぞ?!子猫ちゃんはジャングルなんて見たことねぇだろぉ?
と、自信満々。
・・・ま、他のみんなも、黒くないですがね。
最後に、トラ。(以下では「ト」)
黄色・黒の美しい堂々としたこの縞模様をば見よ!つまり俺様つよい!
と自信満々。
*ご注意:各セリフは、ちょっと端折ってアウトサイダー風に変化させている部分があります。

「ほんとだ、ぜんぜん違います。似てると思ったんですけどね・・」としょんぼりするサイモン。敬語なのがとってもかわいいんだよね。
俺たち、似てるところなんか あるか?と、ラ・チ・ピ・ク・トの5匹。お互いをじっくり見比べます。
似ているところは、
– かすかな音でも聞こえる良い耳
– 立派なヒゲ
– 長いしっぽ
– するどい歯
– とがった爪
– まっくらやみでもよく見える、大きな目
サイモン、元気よくお返事。
「それぜんぶ、僕も持ってます。   ちっちゃいですけど!」
俺たちより小さいけど、子猫のサイモンも、仲間なんだ・・
とラ・チ・ピ・ク・トの5匹。

サイモンは にっこり わらいました。
「やっぱり、ぼくたち なかまですよね」
「ほんとだな!」
ラ・チ・ピ・ク・トの5匹も こえを そろえて いいました。
それぞれ違う特徴があるけど、同じネコ科なんです。
身体の大きい小さいなんか関係なく、みんなで じゃれて はねて、ねこパンチ。しのびあるきでとびかかり、ごろんごろんところがって いちにちじゅうあそびました。
猫パンチ、こねこ以外のは痛いだろうなあ。いや多分死ぬ。
ネコ科バンザイ絵本なのである。奥付ページにある、ネコ科たちがダンゴになって眠るイラストがたまりません。
にんげんにも、これをあてはめてかんがえられたらいいよね。いろんな違いあれど同じ世界に住む生き物なんですから。

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第191回 くつしたはぼうしじゃない

ちょっと変わった味わいの絵本を書くカタリーナ・ヴァルクスの「リゼッテ」シリーズです。
「フランスからやってきた、かわいくってちょっとヘン! な絵本」という惹句です。ふ~む、読んでみようじゃありませんか。

「リゼッテとみどりのくつした かたいっぽう」 クレヨンハウス 2008年7月発行 32ページ
カタリーナ・ヴァルクス/作 ふしみみさを/訳
原著「LA CHAUSSETTE VERTE DE LISETTE」 Catharina Valckx 2002年

おさんぽにでかけたリゼッテ、みどりいろのすてきなくつしたをかたいっぽうだけ見つけます。
くつしたかたいっぽだけはいて、大得意で歩いていきます。ですが、いたずら大好きネコのきょうだいマトゥとマトゥシュにからかわれます。「くつしたは2つでひとつなんだから、役に立たないじゃないか。」
確かに、くつしたかたいっぽうだけはいてるなんて、なんかヘン。
そもそも、ひろったくつしたをはくのもなんかヘン。
いやいや、くつしたをひろうの自体、ちょっとどうでしょうかねぇ?
もうかたいっぽうを探しますがみつかりません。がっかりしてお家へ戻ったら、案の定、お母さんに「ひろったくつした、はいちゃダメ」と言われました。
でも、リゼッテのお母さんは、すてなさい!って言わないんです。ちゃあんと洗ってくれるんですよ。ちょっと変わった対処ですよね。くつしたを気に入ったリゼッテを否定しません。優しい素敵なおかあさんだわ~。
そこへネズミのべベールがやってきて、干したくつしたをぼうしと思って気に入ってしまいました。かぶっていい?と聞かれ、いいよと気軽に答えるリゼッテ。ええ?いいんだ!?くつしたはぼうしじゃないけど・・・・いいの?
さっきのいたずらなねこきょうだいが、もうかたいっぽうを見つけて、見せびらかします。でもリゼットとベベールにはくれずに、沼に投げ捨ててしまいました。なんていじわるニャンコ!

結局、くつしたは2つだけ。
でもでも、たとえ2つあったとしても、くつしたとして使いたいリゼッテには2つ必要で、ベベールにはあげられません。がっくり家に帰ったふたり。
ところが、リゼッテのおかあさんが、新しくくつしたをあんでくれているのです。これでくつした2つありますが、くつした3つないと二人はいがみあうことになっちゃいますよね・・?どうなるの?どうするの?
リゼッテは、2つのくつしたを、ふたりでひとつずつ分け合います。なんとリゼッテもぼうしとして使うんですよ、くつしたを。
このラストには、ちょっとたまげましたねー。やっぱりおかあさんも「あたまに かぶるの!?」とおどろいてます。くつしたが欲しかったリゼッテなのに、友達のために利用方法を変更するんですね。
くつしたじゃなくてもいいんだあ・・・。予想もしないオチが楽しくてうれしい。リゼッテがかわいいです。
確かに、(ちょっとヘン!)な変わった味わいのある楽しい絵本でした。
「リゼッテ」シリーズは今のところ(2022年12月現在)全部で3作あります。
「リゼッテとかたつむりのうばぐるま」「リゼッテうそをつくにいく」
ほかにも、ハムスターの「ビリー」シリーズ(4作)、ねずみの「トトシュ」シリーズ(2作)などがあります。

↓ ハムスターの「ビリー」シリーズ

↓ ネズミの「トトシュ」シリーズ

↓ その他のシリーズではない本

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第190回 悲しすぎる絵本

忘れられない本というのがあります。忘れられない理由には、良い印象または良くない印象の2種類があるとおもいます。
この絵本は、わたしにとって良くない印象です。ひどく悲しいのに再読してしまう絵本なんです。
良い印象のものばかりをご紹介するというのも、どうかなあ?とおもうので、今回の投稿で選んでみました。そんな穿った選書なんて、いらぬお世話かとも思いますが、気になって手にとってしまってう~ん何これ・・と一緒にうなっていただけるととうれしいです。

「ひとりぼっちのかいぶつといしのうさぎ」 徳間書店 2004年8月発行 32ページ
クリス・ウォーメル/作・絵 吉上恭太/訳
原著「THE BIG UGLY MONSTER AND THE LITTLE STONE RABBIT」 Chris Wormell 2004

とっても醜い怪物がいました。その醜さといえば、花は散り、木々から葉が落ち、草は枯れてしまいます。怪物が太陽が隠れ、空を見上げれば雨が降り出し、水につかろうとすればシュウっと蒸発し、にっこり笑えば石は粉々に砕け、歌って踊ると大地にひび割れができてしまう。
一体どんな能力なの、それは!?
恐ろしさのあまり誰も近寄らないので、怪物には友達がいませんでした。荒れ果てた荒野で一人。あまりに寂しくて寂しくて石に話しかけています。ある日、岩を削って、きつね、くま、しか、うさぎなど動物をかたどった石像を作ったのです。
出来栄えはよくありません。動物の逃げるうしろ姿しか見たことがないからです。それでもうれしくてにっこり笑うと、石像は、ひとつを残しすべて粉々に砕け散りました。

 ああ、かわいそうに。かわいそうすぎる。絵本なのに、ひどくない?この設定?良くないラストになりそうな気配なので、このへんで読むのをやめようとおもったのですが、どうしても本をおけませんでした。ラストがどう転がるのか~良い方へどんでん返しするのか、このまま悲しいままか?~気になって、読むのをやめられませんでした。

たったひとつ残ったうさぎの像のために、歌を歌ったり、曲芸したり、嵐が去る空を眺めたり。石のうさぎは、一緒に踊ったり歌ったりすることはなかったのに、かいぶつは石のうさぎがいることを喜びました。
年をとり、かいぶつは弱っていきました。曲芸をすることもできなくなりとうとう・・。
かいぶつがいなくなると、大地に草が生え、花が咲きみだれ、世界で一番美しいところになりました。

カバーの折り返しに出版社お勧め文がのっています。『みにくい外見の内にかくされたやさしく美しい心・・・ 読後、静かな感動で心がふるえる忘れられない一冊です。』
静かな感動を感じる人もいるんだなあ・・。わたしは、ただただ悲しくなりました。怪物は、破壊するのみの強大な力を自ら望んで得たわけでなく、それを制御することができず、恐ろしい外見だから、という理由で一人ぽっちで過ごすしかないのです。そして物言わぬ石に出来得る限りの友情をそそぎました。そして「かいぶつはそれでも幸せだった」のです。

怪物って自分のことなのかもしれません。感情にいちいち左右されてしまう未熟なわたしを投影します。外見にとらわれない心を養えるというのもあるかもしれません。理不尽を感じつつも、確かにひきつけられるものがあり、忘れられない一冊なのは間違いありません。
間違いない、間違いないんですけれど!このラストはしんどすぎる。
「イヤミス(読後イヤな気持ちになるのに、妙に惹きつけられるミステリーのこと)」なんていうジャンルもありますから、(イヤイヤ悲しすぎるだろう、絵本なのに?!)=>「イヤ絵本」もあっていい、のかもしれない。悲しすぎる絵本なんて読みたくない、というかたもおられるかもしれないと思いつつ、今後も悲しすぎて気になる忘れられない絵本がありましたらとりあげていきたいとおもっています。どうしてこんなに悲しく感じるのかを考えたいのです。
この絵本、皆さんはどう感じましたでしょうか。
著者クリス・ウォーメルさんの他の作品↓