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第79回 それぞれの道を歩む父と娘のおはなし

挿し絵がとてもきれいなバーバラ・マクリントックをご紹介したいとおもいます。
舞台は19世紀頃の町並みとクラシックな装いです。女性は羽根を飾った帽子と長いドレス、男性は山高帽。車道には、馬車が走っています。
経済的に豊かではありませんが、仲良く暮らす芸術家の父と娘の物語です。

「ダニエルのふしぎな絵」 ほるぷ出版 2005年9月発行 32ページ
バーバラ・マクリントック/作 福本友美子/訳

 ダニエルは絵を描くのが大好きな女の子。
シルクハットをかぶった鳥、翼のはえたカエルなどおしゃれな服を着た動物たち、といった想像力の豊かな絵をかきます。そしてお父さんは、写真家。ダニエルのファンタジックな絵を見ると「目に見えるとおりに描けないなら写真にしたほうがいい。」見たままの世界に付け加えるものはない、とおもっているんですね。だからお父さんは、ダニエルの描く絵が理解できないのでした。感性の違いであって、どちらが良い・悪いということはないはずです。写真のように見えるままに描けないダニエルは、大好きなお父さんをがっかりさせるのがとても苦しい。苦しいけれどどうしても写真のように描けず想像力を付け足してしまいます。木の葉の落ちた寒々しい木々は大きなバラが咲き誇った姿に。 羽根飾りのついた帽子のレディは、カラスのレディに。帽子にはリボンや帽子をつけた小さな鳥(カラスのひな?)がたくさんおすまししています。すごく重そうですがだいじょうぶ? レディのつれた子犬は金色の四足歩行の魚になっています(これはちょっと不気味なのです)。 馬の石像は、羽根のある馬・ペガサスに。 紳士は、立派なしっぽの狐。 キリンの女性の帽子にはパイナップルや人参とセロリらしきものが飾られています!
ほんとに、豊かな想像力が素敵。見る人を楽しませる挿し絵とおもいます。写真を否定する気はないのですけれど、気持ちがあたたたかになる挿し絵のほうが、わたいは好きだなあ。
そんな時、お父さんが病で寝込んだりとトラブル発生。お父さんを助けたいとダニエルは売るための写真を撮りに、お父さんのカメラを持ってでかけます。この健気な頑張りに胸うたれます。そして幸運にであうことができたのでした。
最後に父は、ダニエルの表現したいことを理解してくれます。「この子はこの子で、自分の道をみつけたんだな」
理解を示すダニエルのお父さんに胸がぐっときてしまいました。ダニエルはすばらしい才能を心置きなく伸ばしていけるでしょう。



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第78回 おおきなねこにのって

今回は、レイン・スミスをチョイスしました。不思議な世界感の美しい挿し絵をかかれます。たくさんかいておられるので一点を選ぶ、となると迷うのですが、乗れちゃうくらい大きな猫や犬のお話をご紹介。幻想的な挿し絵、不思議な世界観に引き込まれます。

「大きなペットたち」 ほるぷ出版 1993年2月発行 32ページ
レイン・スミス/作 江國香織/訳

なぜかペットの猫や犬がとても大きいんです。挿し絵からすると、象より大きい感じ。子ども5〜6人は余裕で乗っかれます。この最初のページでなんだかもうノックアウト。私も乗ってみたい。あたたかでちょっとしっとり(毛づくろいするから)してそうな、ねこの毛皮に埋もれたいものですねぇ。
夜になると、大きなペットと出かけるこどもたち。ねこと出かけたおんなのこは、ミルクの池で泳ぎます。いぬと出かけたこどもたちは骨がうまった庭で化石発掘ごっこ。へびと出かけたこどもたちはやわらかな草むらでぐにゃぐにゃからまったりころがったり。ハムスターと出かけた子たちは穴のなか。
虫の好きな子は、少数派のようです。おとこのこは大きなむしのとなりに腰をおろし、こおろぎの入江で海をながめてる。ペットとふたりきり。ここでは静かで穏やかな時間がながれているという感じがします。ねこがペットのおんなのこは、もっと楽しく過ごせる場所があるのに・・といぶかしんでいますが。
こどもたちは、それぞれ大好きなペットたちと思い思いに時間を過ごします。
想像力を自由にはばたかせた摩訶不思議な空間がとても素敵です。
この挿し絵は、何で描かれているんでしょうか。色が様々に入り混じりグラデーションしていて版画のようなのですが違うみたい?とても美しい挿し絵です。
他にも単独の作品では「めがねなんか、かけないよ」「たのしいホッキーファミリー!」「これは本」「グランパ・グリーンの庭」「こどものなかま」など。ロアルド・ダール「ジャイアント・ピーチ」やジョン・シェスカ「三びきのコブタのほんとうの話」などの挿し絵もかいています。



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第69回 強すぎる王女

「はるかなアジアの高原」が舞台です。王が娘の婿を探しています。
王女あるいはおむこさん候補が知恵をしぼってうんぬん・・というよくあるとおりに話がすすまない、ちょっと変化球なお話なんです。
このお話の原著は1976年。40年以上も前のお話なのに新しく感じるというのは、なんだか寂しいものがあります。

「王さまのうま」 ほるぷ出版 1980年1月発行 32ページ
マイケル・フォアマン/作 じんぐうてるお(神宮輝夫)/訳

はるかなアジアの高原に、ひとりの王女さまがおりました。
金髪で、色白で、ほおにほんのり赤みがさしている、そんなかわいい娘ではありませんでした。
髪が黒くて、おはだも浅黒い、大きなひとでした。お城ぐらしが退屈で、馬に乗って高原を駆けめぐっている、そんなひとでした。
王さまがお婿さんに選んだ、国で一番のお金持ちに会ったとたん、からからと王女が笑い、階段の下へ投げ飛ばしてしまいました。「お金なんか関係ありません。尊敬できる人、私より強い人でなくては、結婚しません!」
そう、王女はとてもとても強かったのです。

さっさと娘を結婚させ片付けたかった王さまは、レスリング大会をひらくことにしました。娘をレスリングで負かせそうな男を、遠い遠い国々まで大募集します。対戦方法が、トーナメント形式ではなく、王女と一対一で戦うってのは、負担が大きくてたいへんそうですが、なんだか面白いです。ただし負けた際は、馬を100頭さしださねばなりません。なかなか抜けめない王さまですよね。ゼッタイ手放さない!というようなお父さんよりはまあマシでしょうか。
屈強な男たちを相手にリングで勝ち続ける王女さまでしたが、ある日、貧しいが姿の美しい若者がやってきます。「私は貧しい木こりの息子でございます。負けたときに差し上げる馬も、100頭どころか、1頭もございません。けれども、私は王女さまと試合をしたいのです。」
この実直そうな男なら勝つだろう。強すぎて誰も勝てない娘をはやく片付けたい王さま、有頂天。木こりの男と結婚して思い知るがいい・・と、試合することを許します。

見物人たちも、この試合には何か特別なものがある・・と感じとっていました。
王女と若者は、リングでがっしりと組みあい、そのまま動かなくなりました。ほんとうに姿の良い若者でした。王女は、若者の顔をじっとみました。
そして・・・
いつもどおり、ひねってたたんでおしつぶしてもみくちゃにして、リングの外へと投げ飛ばしてしまいます。
予想外の行動に読む度に笑ってしまいます。

この時の見物人たちの表情に明るさはありません。今までは挑戦者たちが負けても、笑いながら観戦していたのに。これまでの挑戦者には足りないものがある=王女が勝って当然、と思っていたということでしょうか。ハンサムで実直そう、それでもダメ。王女の結婚したいとおもう男は、いったいどんな男なのだろう、とみんなもびっくり仰天したんではないでしょうか。
しかし、さすがの王女も、ちょっと迷ったのかなあ・・という感じが面白いですね。何かと何かを天秤にかけたのだと推察いたしますが、それは一体なんでしょう。
ムコ候補者たちをちぎっては投げたリングの上から、ぴょんと馬に飛び乗り、男たちから勝ち取った何百・何千・何万の馬を引き連れ、高原を走り出します。
ああ、なんと軽やかな王女なんでしょう。

このお話をわたしが初めて読んだのは、たしか15年ほど前。当時は、姿の良い若者を受け入れなかった王女さまを不思議におもったものですが、年を経て再読しましたら印象がコロリとかわりました。拒絶ではなく選択なのだ、と感じます。年齢もありましょうが、立場や性別でも感じ方はおおいに違うでしょう。いろんな方の感想をきいてみたい絵本です。

『今でも、時々、王さまや王女さまたちの夢の中を、黒髪の王女に率いられた馬の大群が、足音高く駆けぬけるそうです。そんな時、王さまたちはうなされ、王女さまたちはあこがれるといいます。』
という最後の一文にも含みを感じ、フフッと笑ってしまいます。



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第19回 みんなで家出

「いえでをしたくなったので」 ほるぷ出版 2014年7月発行
リーゼル・モーク・スコーペン/文 ドリス・バーン/絵 松井るり子/訳

おとうさんとおかあさんがケンカしていて、なんだかつまんない。よっしゃ、家出しようぜ!
兄姉弟妹の4人きょうだいと愛犬・愛猫をおともに、荷物をつめて出発します。素敵な場所を見つけて落ち着こうとすると、邪魔がはいります。次へ次へと移動して結局おうちへかえるのです。やっぱおうちがいちばん。きょうだい達それぞれも思う所あったか、少し成長した感じなのもまたいい。
両親が帰ってきた子供たちを出迎えますが、彼らの冒険を陰からこっそり見てるのじゃないかしら、そして子供たちも見守ってる両親がいることをうすうす知っているのでは、なんて感じました。だから楽しく家出し、意気揚々とおうちへ戻るのでしょう。
黒一色の挿し絵ですが、さびしくない、素敵な挿絵です。アメリカで1969年に発行された絵本のこと。