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第99回 雪が降ったらテンションマックスですよね

「ゆきのひ」 偕成社 1969年12月発行 32ページ
エズラ・ジャック・キーツ/作 木島始(きじまはじめ)/訳
「THE SNOWY DAY 」Ezra Jack Keats 1962年

気温が高くて体がしんどいので、涼し気なタイトルを選んでみました。すこ~しでも涼しさが伝わればと思います。熱中症にお気をつけてどうぞお元気に過ごせますように。
「冬のある朝、ピーターは、目を覚まし、窓の外を見た。雪が夜中、降っていたんだ。どこをみても、雪が積もっていた。」
もうすでにそれで、わくわくが伝わってきます。何をして遊ぼうか?赤いマントを着て、お外へ飛び出す。
道路に積もった雪に足跡をつける、それだけでもう楽しいの、すごくわかります。
棒で線をひいてみたり、木の枝に積もった雪をつついたら、頭の上にどっさり落ちてきてしまったよ。
雪合戦には、ピーターはまだ小さくて仲間にいれてもらえない、それがちょっと不満。
にっこり笑う雪だるまを作ったり、雪の上に寝転がって、「天使のかたち」を作ってみたり。

雪遊びをおおいに楽しんだ、寒い一日というそれだけなストーリーなんです。
そうなんだけれども、雪が積もった、それだけでテンションマックスになる子供の楽しい気持ちが伝わってきます。
あたたかいおうちへ入る前に雪玉をこしらえて、ポケットにいれたピーター。明日、この雪玉で遊ぶんだ。
寝る前に、ポケットをさぐると・・雪がなくなっている、なんてこった! 悲しむピーターがかわいそうなんだけれども、なんだかちょっとおかしくて面白い。
だいじょうぶ、寒い日はまだ続き、雪遊びを楽しめます。

挿絵のうえに布やカラフルな紙を切って貼り付けたコラージュという技法を使って描かれて色あいがとてもかわいらしいです。
見返しの雪の結晶が美しくって、こんぺいとうみたいでおいしそうなんです。
エズラ・ジャック・キーツは、この絵本でアメリカの優れた絵本に授与されるコルデコット賞を受賞。ピーターの登場する絵本がほかにも6冊あります。ルイという少年を主人公にした絵本など、ほかにもたくさん描いておられます。
「ピーターのいす」「ピーターのくちぶえ」「ピーターのめがね」「ピーターのてがみ」「やぁ、ねこくん!(この絵本ではピーターは準主役)」「いきものくらべ!」



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第86回 魅力のツリーハウス

「おおきな きが ほしい」 偕成社 1971年1月発行 32ページ
佐藤さとる/文 村上勉/絵

「おおきな おおきな 木があるといいな。ねえ、おかあさん。」
かおるくんが、夢見ています。 大きな大きな木があって、そこへハシゴをかけてのぼるんだ。
ハシゴをのぼっていくと、小屋があって、そこでお料理もできるようになっていて、ホットケーキがやけるようになっています。焦げて煙がでてもだいじょうぶなように、エントツもついている。部屋をもうひとつ作って、ベッドをおきます。
3才の妹かよちゃんもあがってこれるように、つりかごをつけるんです。ハンドルをまわすと、つりかごがあがってくる仕組み。結構考えてますね。妹ものぼらせてあげるのは優しいおにいちゃんです。
さらにまだまだハシゴがあって、どんどん登ると、見晴台があります。ちゃんと手すりもあってあんぜんです。遠くまで見渡せます。児童車がかぶとむしみたいに小さく見えるほど。ヤマガラやカケス、リスの家があって、こんにちは、とあいさつします。

ああ、もうただただわくわくします。私も大きな木が欲しい。想像の翼を広げる楽しさ。おかあさん・おとうさんが、かおるのおはなしをしっかり聞いてくれるのも嬉しいですよね。ツリーハウスの春夏秋冬もきちんと想像されていて、部屋の壁には絵や季節のお花が飾られています。お話ももちろん、挿し絵も楽しい絵本です。
正直申し上げますと、わたしは高いところに行くと足がすくんでしまうのですが、それでもやはりツリーハウスって魅力があります。ふしぎな島のフローネ(というアニメがありました)、ハックルベリー・フィンのツリーハウスの影響でしょう。自分だけの場所ってのがいいのでしょうねえ。



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第72回 ねむれない という恐怖

「ねむれないふくろう オルガ」 偕成社 2011年2月発行 32ページ
ルイス・スロボドキン/作 三原泉/訳

眠れなくて困っているふくろうのオルガのおはなしです。明日は早起きしなくちゃいけない・・というときほど眠れなくなることのあるわたしですのでわかります。眠れないってほんと辛いですよね。焦れば焦るほど眠りから遠くなっていく恐怖。とても共感しながら読みました。表紙のオルガのハの字まゆ毛の困り顔が、かわいそうなんだけれどふふっと笑ってしまいます。

ふくろうのこどもならば、眠っているはずの時間なのですが、眠れないオルガ。片ほうの目をつぶると眠くなるはずなのに眠りはやってきません。こんどは反対の目をつぶってみますが、だめなようです。両方つぶって、がんばりますが、だめ。
物知りふくろうの長老がねぐらにしている木へ飛んでいって相談してみることにしました。
眠りについていたところ起こされて、迷惑そうな長老さま。
そうですよねぇ、寝てたのを起こされたら。わかる。でも助けてあげてほしいですよね・・・
長老さまの言う通り、片方ずつそれから両目をつぶって・・を試しても眠れません。
「そうか。きのどくだが、もう なにも おもいつかん」とさじをなげられてしまいました。
物知りの長老さまでもどうにも出来ない不眠。ますますあせりますよね・・

自分の寝床に帰って途方にくれていると、森の動物たち・・・しまりす、オポッサム、あおかけす、こまどり、つぐみ が集まってアドバイスしてくれます。親切ですね。
丸まって寝てみたら? 枝にぶらさがってみたら? つばさの下に頭をかくしてみたら? 細い枝につかまってゆ〜らゆ〜らしてみたら?
そして最後にはつぐみの子守唄。
文章とイラストが交互に書かれ、おかしみがあります。漫画のようです。それぞれのイラストがかわいくて面白い。わたしは、丸まって・・のイラストが一発芸のようでふきだしてしまいました。かわいくて一番好きですね

ルイス・スロボドキン(1903-1975)は、アメリカの彫刻家、作家、イラストレーター。エレノア・エスティス「元気なモファットきょうだい/(岩波書店)1941年発行」の挿し絵でデビュー。絵本は他にも「たくさんのお月さま(徳間書店)」「ピーターサンドさんのねこ(あすなろ書房)」「てぶくろがいっぱい(偕成社)」「ふたごのカウボーイ(瑞雲舎)」などたくさん発行されています。絶版ですが児童文学では「リンゴの木の下の宇宙船・シリーズ(学研)」もあります。



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第60回 白い狐の歴史ファンタジー

「白狐魔記1 源平の風」 偕成社 1996年2月発行 221ページ
斉藤洋/作  高畠純/挿絵

今回は、歴史ファンタジーをご紹介いたします。
野生の生物たちが、生きていくうえで一番警戒すべき生物「人間」。人間の矛盾する考えや行動に興味を持った、キツネがいた。人の言葉を覚え放浪するうち、殺生してはいけないという白駒山に入り込み、”仙人”に出会います。仙人もまたキツネで、大変に長生きをしていて様々な術が使えるのだという。仙人のもとで修行し変身術を伝授してもらう。
人はなぜ人を殺すのかという問いの答えを探し、キツネは世の無常や人の感情を知る旅に出る。

この斉藤洋という作者は、設定が細かい(理屈をひねるというか)のが持ち味で、そこがおもしろいのだと思います。
例えば狐にはシッポがありますが、ヒトにはありません。狐がヒトに変身する際、シッポという存在をどうするか、という問題には、シッポは「空(クウ)」という状態にする、という理屈を編み出すのです。最初は、シッポをなくすことが出来ずにいたキツネでしたが、ある人物たちとの出会いと別れによりシッポを「空」の状態にすることが出来るようになるのでした。
その人物が、源義経(とその部下)なのです。

1巻は平安時代→ 2巻・鎌倉→ 3巻・室町初期→ 4巻・戦国時代→ 5巻・江戸初期→ 6巻・江戸中期 ・・と50年~250年を「眠る」ことにより、キツネは時間を乗り越え、様々な人々に会い時代を体験します。
源義経、 楠木正成、織田信長、天草四郎時貞、浅野内匠頭・吉良上野介など、大きく歴史を動かす人物と関わるのが面白いです。「天草四郎」は私は意外な解釈と感じました。歴史が苦手な人でも楽しめる児童文学とおもいます。
キツネの師匠の仙人の素性など明かされないままですし、キツネと同じように時を越え歴史に関わる妖狐の雅姫(つねひめ)という存在もいて、彼女も気になるところ。次巻がとても待ち遠しいシリーズ。
キツネが現代を見たらどう感じるでしょうか・・

2019年10月現在「源平の風」「蒙古の波」「洛中の火」「戦国の雲」「天草の霧」「元禄の雪」 6巻まででていて、今年11月に7巻「天保の虹」が刊行です。すごく楽しみです。



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第39回 楽しい一日が終わってしまうさびしい感じ

「よるのかえりみち」 偕成社 2015年5月発行 32ページ
みやこしあきこ/作

妖怪に襲われたり・追っかけられたり・さらわれそうになったりするのをかいくぐって、家に向かって突っ走れ! というそんなような怖い内容なのかと、タイトルから勝手に想像していたのですが、そうではありませんでした。
遊び疲れた男の子。日が暮れた町を、お母さんにだっこしてもらいお家へと帰っています。
店じまいする本屋さんやレストラン。町を歩いている人もいなくて、しんとしている。でも耳を澄ませば、通りに並ぶおうちには人がいる。窓に明かりが灯っている。
パーティが開かれているおうち。ソファに座ってテレビをみたり。晩ごはんを準備する。本を少し読んでうたたねをする。お風呂で足をのばして疲れを癒やす。
みんなそれぞれの夜を過ごして一日の終わりを迎える。
楽しい一日が終わったけれど、眠るには名残惜しい、ちょっと寂しくなっちゃうような、そんな夜の終わりの感じが素敵。
家に帰り着いた男の子には、穏やかな眠りがおとずれるのでしょう。
黒が基調の挿し絵が懐かしいような雰囲気でひきこまれます。とても静かな絵本です。おやすみ前に読むと良い夢が見れそう・・