に投稿

第169回 奇妙すぎて癖になるスズキコージ

「イモヅル式物語」 ブッキング 2005年12月発行 76ページ
スズキコージ (コージズキンとも名乗っておられるそうです)/作・絵

以前にもスズキコージ氏の絵本をご紹介いたしましたが、本棚を眺めていると、目があってしまいました(と感じました)。1995~1996年発行の「月刊おおきなポケット(ただいま休刊)」に1年間掲載されていたものを、2005年に単行本化されたものです。
独特の明るく派手なそれでいて暗い色使い、歪んだ造形の不思議で不気味な登場人物たち、シュールなお話・・・どれをとっても人にお勧めするのに実は躊躇するのですが、そこがいいんだよねえ! 大人向けという言葉はあまり使いたくないのですが、年齢高めのかたの方が楽しめるのかも。なにせ1995年に描かれたお話なのでちょっと言葉が古いところもあるのです。(例・電気ガマ)しかし、「おおきなポケット」は小学1・2年生むけの月刊誌ですから、当時、楽しんで読んだ小さなひとたちもいたはずです(よね?)。このゴーインなお話展開に固まった心がほぐれてくる、はずです(だといいな)。

すごくすごくすごく短いお話12話が収録されております。奇妙すぎて説明が難しいので、タイトルをご紹介。タイトルで内容を想像できないんですけどもね。
第1話 ガマ夫くんの早朝マラソン(電気ガマ)
第2話 ほえろうくんのハエたたき(イヌ)
第3話 オートバイでデート(ブタとオオカミ)
第4話 ミタコさんの日ようび(タコ)
第5話 水中画家のバッカスくん(カッパ)
第6話 ボートでデート(ウシとカビン)
第7話 ハリコさんのフッションショー(ハリネズミ)
第8話 ヘビの古着屋(ヘビ)
第9話 映画でデート(ゾウとコウモリ)
第10話 バリカンくんの仙人修行(ニンゲン)
第11話 カルタくんのひっこし(カエル)
第12話 森のおばけ、ゴッゴレゾッゾーとメラフンニーセン(おばけ)
*リスト中↑(カッコ内)は、登場人物の動物名

読み終わった瞬間、物足りない・この続きが読みたい、と激しく感じます。絵とお話展開がパワフルすぎるためではないかと思います。
「●●でデート」のお話は、たいていはデート相手を怒らせてしまいフラレちゃうという失敗談。作者の経験談なのではないか(うしろのソデにバイクに乗るスズキコージ氏の絵あるため)と想像しました。うふふ。
特にブタのはだこさんとオオカミのめりはりくんのおはなしなどは、めりはりくんのせいばかりでもない。ちょっと可哀想よねえ・・それにブタとオオカミの恋人たちがうまくいくわけないよな・・というのが読み始めた時点で頭をよぎるのです・・・・
第10話のバリカンくんの仙人修行のお話が好きでたまりません。長い間、山にこもって修行をしていたので、家に帰ったらおばあちゃんに「あんただれ?」と言われてしまうのです。髪が伸びていて顔が隠れていますよ、そりゃわかりません。爪も伸び過ぎ状態なのがリアル。バリカンくんが山に帰って言われる言葉がまたたまらない。
第12話の森のおばけのお話も良いですよ。濁点が多くてすごく強そうで怖そうなおばけのゴッゴレゾッゾーですが、あるものに閉じ込められてしまいます。ああ、わかる。のぞきこみたくなるのわかる。
不思議な気持ちになれること間違いなしなこの奇妙なお話に惹かれましたらどうぞ手にとってみてください。ウフフフ・・・。

以前にご紹介したスズキコージ氏の絵本「ガッタンゴットン」もおすすめいたします。「ただただ、列車が行くのを見守る絵本」なのですが、色使いがとてもとても美しい。おっ?!とおもうラストもいい。

に投稿

第168回 ウソを許せる?許せない?

「エイドリアンはぜったいウソをついている」 岩波書店 2021年1月発行 36ページ
マーシー・キャンベル/文 コリーナ・ルーケン/絵 服部雄一郎/訳
原著「ADRIAN SIMCOX DOES NOT HAVE A HORSE」 Marcy Campbell, Corinna Luyken 2018年

どんなウソをついてるんだろう、とついつい手に取ってしまう目をひくタイトルですよね。。
ウソが許せない女の子のおはなしです。
同じクラスのエイドリアンは、「うちには馬がいるんだよ」という。
エイドリアンは、ぼんやりしていて、整理整頓もへた、靴には穴があいてるし、おじいちゃんと二人暮らし、おうちも庭もすごく小さいから、馬なんか飼えっこないのに。
「それウソだよ!」とつい言ったら、すごく悲しい目をしたエイドリアン。傷つけてしまったことがわかりました。
お母さんがエイドリアンのおうちへ連れて行ってくれました。やっぱり、馬はいそうにない小さなおうち。ウソがばれた、とそんな顔をしているエイドリアンをみてるうち、彼の心に寄り添うことができます。何か悲しい事情があって、想像上の素敵な馬が彼の心の拠り所になっていることを感じます。
「もしかしたら エイドリアンは 学校にいるだれよりも すごいそうぞうりょくの もちぬしなのかも」「エイドリアンの心には きっと 世界中のだれよりも きれいな馬がいるのかも」

「悲しい嘘」ではなく「想像力が豊か」という表現が新鮮に感じました。
ちょっと大人になったらば、ウソを言うには何か理由があるのかも?と相手の気持ちを察することができたりもしますが、幼い頃ですと少し難しいかもしれません。ウソが許せないその気持ちもわからんでないですよね。ウソに怒りが募るのは、羨ましいからかなあ。生死にかかわるうそでなければ、あっはっはと笑って聞けるようになりたいものですね。ウソが許せないのとウソをついちゃう気持ちにも、どちらにも共感して、涙こぼれそうになりました。
蛇足ですが「エイドリアン」というと、某ボクシング映画のヒロインを思い出し、表紙の右にいる女の子のことかと思っちゃいました。

に投稿

第167回 本が読みたい!6この点

6この点のでこぼこの組み合わせで文字や数字を表現できる点字。点字の発明のおはなしです。

「6この点 点字を発明したルイ・ブライユのおはなし」 岩崎書店 2017年8月発行 34ページ
ジェン・ブライアント/文 ボリス・クリコフ/絵 日当陽子/訳
原著「SIX DOTS A STORY OF YOUNG LOUIS BRAILLE」 Jen Bryant, Boris Kulicov 2016年

点字を発明したのは10代の少年でした。1809年、フランスのクヴレ村に生まれたルイ・ブライユです。
ルイは痛ましい事故のために5才で失明しました。学校で大変優秀な成績を修めたので、パリの王立盲学校へ入学することができました。そこで点字のもととなる「暗やみの字」という戦場で使われる暗号に出会います。
王立盲学校は、目の見えない人のための本があるのです。もとは刑務所だったところで、非衛生的で良い環境とはとても言えませんでした。たった10才で、優しい家族たちのいる故郷から遠く離れたところへやってきたルイ少年。本が読みたい、その一心だったのです。
彼の熱意にはかなわないですが、わたしも本が好きです。本を読み、世界の一部を知る楽しさは何にも代えがたい。ルイ少年がたった一人で作った点字は、こんにちも目の見えない人たちが使っています。
ちょくちょくフランス語で励ましやら快哉!の文句がはいるのがちょっと面白い。臨場感たっぷりです。

に投稿

第166回 旅立つあなたに

「ヤマネコ毛布」 復刊ドットコム 2015年2月発行(もとは2007年パロル舎で発行) 40ページ
山福朱実/作・画

旅に出ようとおもう、というヤマネコが突然ハリネズミに告げます。引き止めることもできなさそうな決意みなぎる表情のヤマネコ。
次のページでは、手を上げ立ち去るヤマネコ、ハリネズミがぽつりと立ちつくす。言葉はなく絵のみ。ハリネズミの驚きがくっきり伝わってきます。
なぜ急に?どういうこと?と置いてきぼり感もありますが、まあじっくり見てまいりましょう。
ハリネズミは、森に住む動物たち(サル、クマ、トラ、カワウソ、オオカミ、トリたち、ウサギ、リス)に、針と布(おそらくハリネズミの針も一緒に)を配って言います。
「ヤマネコが森をでていく。おもいでを ししゅうして プレゼントしよう。」
それぞれが語る思い出を心を込めて刺繍します。サルは、ヤマネコをつかんで木から木へびゅんびゅんわたった楽しい思い出。クマは、冬眠中にヤマネコがクマをコタツがわりにしていたこと。トラは、二匹で思い切り爪とぎしたこと。ハリネズミは、ハリが邪魔で食べづらそうだと言われた月のきれいな夜を。トリたちは、フンの雨をヤマネコにおとしたこと。リスは、追いかけられた恨みがあるので刺繍を拒否。
いい思い出ばかりでなく、良くないのもあるのがいいですねえ。面白いです。
ヤマネコ自身はあまりしゃべらないのですが、思い出によってどんなやつだったのかがわかります。出来上がった布地を合わせて毛布にし、旅立ちの日に贈りました。リスも意外な贈り物。旅の道中、ヤマネコが凍えることはきっとないでしょう。
別れがテーマなのですが、まったく悲しくなりません。唐突の旅の理由というのもあかされず、不思議な読後感です。わりと奔放な感じがするヤマネコなので、まあヤマネコらしい。ヤマネコは一体どこへ行ったのか、考えるのもまた楽しい。

山福朱実さんの版画の挿絵が楽しいです。食欲で眼がギラリ光るヤマネコが怖くていい。思い出のページはデザイン性ばっちり。
ほかの児童作品に「ぐるうんぐるん (わくわくたべものおはなしえほん)」「地球と宇宙のおはなし/チョン・チャンフン・文」「きたかぜとたいよう(イソップえほん)/蜂飼耳・文」があります。

に投稿

第165回 妖精がサバイバル

羽を失った幼い妖精のフローリーの物語です。飛べないので仲間のもとに戻れない上に、危険な巨人の住む庭に落ちてしまいました。頑張るフローリーの冒険譚です。

「夜の妖精フローリー(ティーンズ文学館)」 学研プラス 2020年11月発行 141ページ
ローラ・エイミー・シュリッツ/作 日当陽子/訳 さとうゆうすけ/絵
原著「THE NIGHT FAIRY」 Laura Amy Schlitz 2010年

妖精は生まれてすぐに歩くことも話すこともできるので、妖精の親は子育てをしないのだそうです。生後3日で、妖精の子どもは自分で自分のめんどうをみなければいけません。生まれて3ヶ月ほどのフローリーの身長は、ドングリほどの大きさ。ヘビ、フクロウ、カマキリ、リス(リスって木の実だけでなく鳥のヒナや卵などを食べる雑食なんですって。)などなど小さな獲物を狙う生き物から身を守らねばなりません。大きくなる前に死んでしまう妖精の子どももいます。
ファンタジーなのに、なかなかシビアな設定がわたしは気に入りました。それに妖精の使う魔法は、成長するに従って必要なときに使えるようになるというのもなかなか考えられていると思いました。
礼儀作法を教わっていない小生意気なフローリーが、生きる上で関わっていく相手から学んでいくことも、興味深い。いつも腹減らしなリスのスカッグルや頑固なクモとの丁々発止のやりとりが面白いです。なかなかたくましい妖精の子です。

さとうゆうすけ氏の挿絵が非常にきれいです。フローリーの生意気そうな顔も愛らしい。一人になって初めての夜を過ごした鳥の巣箱からのぞいた花の咲く庭の景色が美しいです。フローリーが心奪われる気持ちがわかります。コウモリ、アライグマ、ハチドリなど生き物たちもまたかわいい。わたしはカマキリが嫌いなんですが美しいんですよね。カラーでみたかったです。