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第174回 105人も参加する仕事ってなんだろう。

「105にんのすてきなしごと」 あすなろ書房 2012年6月発行(すえもりブックス版1995年) 46ページ
カーラ・カスキン/文 マーク・シーモント(シマント、サイモントの表記あり)/絵 なかがわちひろ(中川千尋)/訳
原著「The Philharmonic Gets Dressed」 Karla Kuskin, Marc Simont 1982年

タイトルが面白くて、手に取りました。105人も参加する仕事ってなんでしょうか。表紙にヒントあり。でもまだわかりませんねぇ。
金曜日の夕暮れどき、とても寒くなってきました。暗くなった街の建物の窓に明かりがつき始めます。
週末は遊びに行くとか居酒屋に行くだとか家で家族奉仕とか家で飲むとか、ゆったり過ごす人が多いかもしれませんが、この絵本に登場する105人の皆さんはこれから仕事です。お仕事に行く準備が始まります。まずは、お風呂。お風呂というの、ちょっと驚きました。すごくリアルだなあ。まあそうだよねえ、仕事前のひとっ風呂、確かに確かに。
ひとりひとりがどうやって、お風呂に入るのか、なかなか詳しく書いてます。「シャワーをあびるだけの人がほとんどですが、二人の男の人と三人の女の人は湯船につかります。」へー。なんか妙にくわしいなあ、アンケートしたんですかねえ。一人の男の人は、湯船で本を読んでいて、しかも横で猫がそれを観察してますよ。仲いいですね。
お風呂からあがって体を拭き、良い匂いのパウダーをふりかけたり、ヒゲをそったり。ヒゲソリしない3人の男性は、ハサミでおヒゲを整えます。一人の女の人は、髪にパーマをあてるような道具を使いながら「MOZART」の本を読んでます。(この機械、なんでしょうか。)
そして下着をつけます。みなさん、どんな下着をつけますか?
まずは男性の場合。トランクスもしくはブリーフ。半袖あるいは袖なしのシャツ。一人の寒がりの男の人は、シャツと長ズボンがつながったあったか~い下着を重装備しました。それから靴下。座って履いたり立って履いたり、いろいろです。親指のとこが破れてしまってる人、黒い靴下がなかなか見つからない人もいるようですよ。
次は女性編。女の人はいろいろ着なくちゃいけないので面倒です。パンツ、ストッキング、ガードル、タイツ、上はブラジャーそしてスリップ。フーッ、すごい枚数だ。冷え性さんは、毛糸の靴下も必要です!
と、こんな具合に、仕事へ出かける支度をながめる絵本です。挿絵を確かめながら文章を読んでいくと楽しいんです、これが。

105人の仕事は、「オーケストラの音楽家」でした。
音楽ホールに集まったみなさんが、いろいろなかたちのかばんからだしたのは、楽器。
舞台の上には、102脚の椅子と2つのスツールが置いてあります。あれ?105人でしたよね。1つ、椅子がたりないぞ?そう、一人は座りません。立ったままの人がいますね。指揮者です。
「金曜日の夜、8時30分。黒と白の服を着た105人の男の人と女の人の仕事が、今始まりました。その仕事とは、白い紙に書かれた黒い音符を音楽に変えることです。」
「105のこころをひとつにあわせて作り上げたのは、うっとりするほど美しい音楽でした。」

作者のカーラ・カスキンさんは、アメリカの詩人、作家、児童文学評論家。「どれがぼくか わかる?」「マウス一家のふしぎなさんぽ」「あめのひってすてきだな」などの邦訳あり。「105にん~」の第2弾、フットボール選手版「ダラス タイタンの月曜日」という本も発行されている模様です。ご主人は、オーボエ奏者なのですって。リアルな体験談なんですね、やっぱり。
挿絵のマーク・シーモントさんは、フランス・パリ生まれ。「はなをくんくん」春が待ち遠しいどうぶつたちのおはなし、「のら犬ウィリー」ピクニックにでかけた一家が一匹の犬に出会うほのぼの絵本、「ぼくはめいたんてい 全17巻」9歳男子ネートはだれもがみとめる名探偵。などの挿絵をかいています。

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第173回 ぼくは不安なんだ

こちら、北欧ノルウェーの作品です。
この表紙の絵、すごくリアルでしょう?広い海に腰までどぷりとつかり、ご来光のようなものを背にして、なんだかお間抜けな感じの少年が困った顔をしています。暗い表情なので、楽しいお話ではなさそうかしら、とちょっと手に取るのをためらったのですが、いやいや、読んでよかった!最初の印象とは違う予想だにしない素晴らしい絵本でした。
ただ、かなりファンキーでポップさの強い独特な挿絵です。内容とあわせると、ぴったりと思いますが、好みのわかれる挿絵とおもいます。でもでも気になりましたらどうぞお手にとってみてください。

「ガルマンの夏」 三元社 2017年5月発行 A4判48ページ
スティアン・ホーレ/絵・文 小柳隆之/訳
原著「Garmanns sommer」 Stian Hole 2006年

表紙の男の子は主人公のガルマン、6才。
今日は夏休みの最後の日。短い夏が終わります。ああ~切ない日ですねえ。
ガルマンは不安です。歯がまだ一本も生え変わらないし、近所の友達ができるカッコイイこと(自転車に乗れるし、フェンスの上でバランスを取れるし、本も読める)がひとつもできない。そして、明日から、小学校に入学するんです。(ノルウェーでは、春ではなく夏から入学なんですね。)
環境が変化するので不安なのです。気持ち、すごくよくわかります。
年に数度、遊びに来るおばさまたち、ボルギル・ルート・アウグスタの3人に相談です。
ぼくは不安なんだ。おばさんたちは?
3人のおばさまたちとガルマンの身長は同じくらいですが、夏が来る度、おばさまたちは縮んでいってます。皆様、かなりのお年。顔のシワは木の年輪に似ています。
「おばさんはもうすぐ死んじゃうの?」
わあ~ずばっと聞いちゃいましたよねぇ~。ストレートすぎない?とちょっとなんか心配になります。幼い子供らしい率直さで、無礼にも真正面から尋ねましたが、おばさまは怒ったりなんかしないでこういいます。
「そうね、多分そんなに先のことじゃないわね」
「そのときは、口紅をつけて、きれいな服を着るの。それから北斗七星の馬車にのって、おおきな門につくまで空を旅するのよ。門をくぐったら、歩いて、ここみたいにすてきなお庭にはいって。ただもっと広いわね」
「そうね、ガルマン、あなたと別れるのが不安だわ。でもおおきなお庭はたのしみかもしれない」
素敵な答えだなあと思いました。いつかやってくる。だれにでも訪れる死。少年は夏の終りと愛する人達の死を重ねているんですね。
お父さん、お母さんにもたずねます。「なにか不安なことがある?」素直ですよね、ガルマンって。なんだか妙に肩入れしたくなる素直さです。お父さん、お母さんにももちろん不安があります。不安なガルマンにそっと寄り添って、不安への対処方法を考えてくれ勇気づけ愛していることを伝えてくれます。その伝え方がいい。
ですが、相談したことでガルマンの不安がまったくなくなるわけではありません。学校が始まるまであと13時間、少年の不安は続くのです、というこのラストがすごくいい。

文字が多いので、小学高学年以上向きなのかもしれませんが、すべてフリガナつきですので低学年の人も読むことはできると思います。すべての年代の人たちが、生きていく上で感じる不安な気持ちに共感できるのでは、とおもいます。良い絵本と思います。気になりましたらどうぞ手にとってみてください。

カバー折返しにある、作者のスティアン・ホーレさんの紹介文をみますと、発表した作品名が書かれております。なんとガルマン少年のお話、シリーズ化してるようです!「ガルマンの通り」「ガルマンの秘密」の2冊。でも未訳なのですよぉ~残念。翻訳されたらすごく嬉しいです。ぜひ読みたいです。
ホーレさん他の翻訳絵本に「アンナの空」があります。

↓「ガルマンの通り」「ガルマンの秘密」英語版の表紙です↓

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第172回 本の歴史 カエサルくんたちの発明

「カエサルくんと本のおはなし」 福音館書店 2015年2月発行 32ページ 31×22cm
池上俊一(いけがみしゅんいち)/文 関口喜美(せきぐちよしみ)/絵

知識を得たり、空想を楽しんだり、挿絵を楽しんだり、とにかく素晴らしい「本」。本はどうやって作られたの?という絵本です。
本が好きなしょうたくんが、学校の図書室で、本を開くと・・・小さなおじさんが本の中からでてきました。「わしは、偉大なるローマの将軍、カエサルじゃ」
ユリウス・カエサル、古代ローマ最大の野心家といわれた人物をガイド役にしているのが面白いですよね。
(ちょっとだけ、カエサルについて書いておきましょう。紀元前100年頃・ローマ生まれ。共和政ローマの政治家・軍人・文筆家でした。終身独裁官という大きな権限を持つ役職につき、ぶいぶいいわせていた人です。最期の言葉「ブルータスお前もか」で有名。つまり暗殺されました。紀元前45年から1582年、という長い長い期間、ヨーロッパで使われていた暦法「ユリウス暦」は彼がつくったものです。「ガリア戦記」という簡潔明瞭な文体の遠征記録を著しています。)
かなり血なまぐさそうな人だけど大丈夫かしら、とおもった方はご安心ください。逆ギレだとか恫喝だとかのトラブルはおきません。ちゃんとガイドしてくれます。
で、本からでてきた小さいおじさん・カエサルに、しょうたは「カエサルくんか、よろしく」と言ってます。『カエサルくん』ですって、しょうたくんって豪胆ですねぇ。

今の本の形を「冊子」といいます。紙をたくさん束ねてあってページをめくる、このかたち。
大昔は、「紙」というものがなかったのです。今から2000年以上前、エジプトで作られたパピルスという植物の繊維から作った「パピルス紙」で、最初の本が作られました。
(ちなみに、このパピルス紙の手触りは「ゴワゴワして新聞紙より厚くて硬い」そうです。)
パピルス紙が発明されましたが、まだ、冊子のかたちではありませんでした。横に長く長ぁくはり合わせて、ぐるっと巻いた状態「巻物」になっていました。ですが、ぐるぐると巻いてあるので、読むときや持ち運びが大変です。
本の形が変わっていったのには、図書館と関係があるんじゃぞ、とカエサルくん。
エジプトのアレクサンドリア図書館とペルガモン図書館(今のトルコ)の書物所有数の多さをあらそっていたのです。エジプト王は、ペルガモンに紙のもととなるパピルスを売るのを禁止、という姑息な手を使いました。これにはしょうたくんもいいツッコミいれてます。(ちなみに、カエサルくんがおこした火事がアレクサンドリア図書館の一部を焼いたと言われています。)
これには困ったペルガモン。材料がなくては本を作れない。パピルス紙に代わる「羊皮紙」を発明しました。羊や子牛の皮を伸ばして毛や脂をとって乾かしたものです。ですが、長い年月が経つと、固くなってパリパリになってしまいます。丸めた状態では長期保管に向きません。
短く切ってまとめてとじる「冊子」の状態にしておくと便利、とだんだんにわかってきました。(ちなみに、最初にパピルス紙を蛇腹に折った状態にしたのは、カエサルくん。でもあまり流行らなかったそうです)

それでもまだまだ今の本に至るには技術の向上が必要でした。
一字一字を手書きで書いていたので、一冊作るのにものすごく時間がかかりました。同じものが欲しいとなると、さらに羊皮紙を用意し一字一字を書き写していかねばなりません(同じ様に書き写して作った本を写本といいます)。一冊の本のために15頭の羊が必要なのだそう。とても贅沢で貴重なものだったのです。
今から700~800年ほど前の中国で、羊皮紙よりもっと便利なものが発明されました。木の皮などを材料にして作った「紙」です。安く作れるし、軽いし、薄くて束ねやすいので冊子にするのに向いていました。しかしその紙は破れやすくて、一字一字を書き写していく写本には向いていませんでした。

そしてなんと、活版印刷の発明者グーテンベルクさんも、ちいさいおじさんの姿で登場。活版印刷とは、金属のハンコのようなものを一字一字並べ、インクをつけて刷るという、印刷術なのです。
写本に代わる技術が生まれました。
それをさらに改良したのが、アルドゥスさん。この方も、小さい姿で登場。いろいろ説明してくれます。グーテンベルクの本は、教会で使われる儀式用のもので、大きくて使いづらいし、読みにくい字(フォント)でした。アルドゥスさんは、本を小型化し、読みやすいフォントを作り、そして、本にページの順序の数字をつけました。読みたいところがすぐにわかります。ページをふるのは、今では当たり前ですが、当時は画期的なアイディアだったのですね。

少しですが、電子書籍のお話もでてきます。印刷しない「電子書籍」はなんだか面白くないとつぶやくグーテンベルクさんやアルドゥスさんですが、世界を変えた発明を作った人たちなので、ほんとは興味津々なようです。

カエサルくんシリーズ、他に「カエサルくんとカレンダー 2月はどうしてみじかいの?」があります。上の方で書いた「ユリウス暦」のことです。

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第171回 みんしゅしゅぎってなんだろか

「どうぶつせんきょ」 ほるぷ出版 2021年6月発行 44ページ
アンドレ・ホドリゲス、ラリッサ・ヒベイロ、パウラ・デスグアウド、ペドロ・マルクン/作 木下眞穂/訳 林大介/監修・解説
原著「A Eleição dos Bichos」 Andre Rodrigues, Larissa Ribeiro, Paula Desguald, Pedro Markun 2018年

今回ご紹介したい絵本は「選挙」がテーマです。絵本でこのテーマ?だいじょうぶ?とおもっていたんですが、たいへんわかりやすく楽しい。
王様のライオンが、勝手に川をせきとめて、自分の巣穴の前にプールを作ったんです。川下には、水が流れてきません。ひどい勝手ですよね!これには我慢の限界、怒った動物たちは、デモ(みんなで道を行進し、伝えたいことを主張します)をしました。だけど、ライオンは何を言われてもへっちゃら。(話が全く通じない、こういう政治家のかたいますよね・・・・)
森のみんなは、ライオン以外の動物にリーダーになってもらいたい。そこで賢いフクロウが選挙を提案しました。
その土地のリーダーになりたいものは、立候補して、選挙運動をし自分の考えを伝える。
そして、みんな(有権者)は、立候補した人(候補者)に投票する。
たくさん投票をあつめたものが勝ち!みんなのリーダー(大統領)になります。

=選挙の規則=
1)選挙は、春におこなう
2)動物は、誰でも立候補できる
3)ひとり一票、投票できる
4)投票用紙は、誰にも見せない
5)票を一番多く集めたものが勝つ
6)候補者と有権者は、お互いに贈り物をあげたり、もらったりしない
7)対立する動物を食べてはいけない

サル、ナマケモノ、ヘビが大統領に立候補しました。ずうずうしくもライオンも参加します。誰にでも立候補する権利があるので、拒否できないのです。

選挙運動が始まりました。
テレビ番組にでたり、他の動物と一緒に自撮りしたり(自撮りって選挙活動なのね)、チラシを配ったり、意見を聞いたり、集会を開いて互いの悪口を言い合ったり(「それはいいことではありません」の注釈あり)、候補者同士で討論をする会も開きました。
立候補者もみんな頑張っています。有権者だってみんな真剣です。どの候補者が住んでいるこの森を良くしてくれるでしょうか?
この土地に住むどの動物にも望みがあります。

この絵本は、ブラジルで書かれました。4~11歳の子どもたちが実際に投票し、当選した動物がリーダーになっています。(当選した動物は秘密にしておきましょうね・・・)
民主主義ってなに?ということがよく理解できます。
巻末の解説に、「自分の想いや考えを大事にし、周りの人と話し合ってください。そして、自分とは異なる考えや願いと出会ったら、それを否定するのではなく、どうしてそのように考えるのかを丁寧に話し合い、違いを認め合い、おたがいの理解を深める努力をしてください。なぜなら、民主主義は、わたしたちひとりひひとりの意識によって支えられているのですから。」
たくさんの意見をまとめたり、”理解を深める努力をする”のは、なかなか難しいですが、ケンカしたり戦争するのよりはずっといいですもんね。人だから難しい、でも人だからこそできる、そう信じたいです。
カバーのうしろソデに作者の方たちの一言がのっています。「民主主義は、いままでの中で一番良い仕組みとおもう。でも今後もっとよい方法が発明されるだろう」とおっしゃっている方がいました。これが一番シみた気がします。

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第170回 夏の美しい夜さんぽする

第120回投稿でもとりあげた、アリスン・アトリーの絵本をまたご紹介いたします。最近ミステリばかり読んでいるせいか、物語には何か問題が起こらないといけないような、そんな気がしてしまっています。そういう場合ですと、この絵本はちょいと肩透かしかもしれません。静かな時間を過ごしたい。気分転換に。涼しい夏の夜を味わいたい。そんなとき手にとってみると良い絵本とおもいます。

「むぎばたけ(日本傑作絵本シリーズ)」 福音館書店 1989年7月発行 40ページ
アリスン(アリソン)・アトリー/作 片山健/絵 矢川澄子/訳
原著「THE CORNFIELD From “The Weather Cock, and Other Stories”」 Allison Uttley 1945年

とても静かな静かな物語。ハリネズミが、ウサギとカワネズミを誘って、畑の麦が伸びるのを見に行くおはなしです。
『あたたかい、かぐわしい夏のゆうべ。
空にはお月さま。星が二つ三つ。
そのひかりに、丘のはらっぱは、いちめん 青じろい銀のシーツをひろげたみたいでした。』

夜空に月と星が美しく輝き、あたり一面をほんのり輝かせているの夜の光景が目に浮かびます。
はなうた口ずさみながら、小道をやってくるハリネズミ、とっても上機嫌。
誰にもききとれないくらい、かすかな声で口ずさみます。

『お月さんのランプに
お星さんのロウソク
夜ごとはるばる
さまよう おいら』

昼間の暑い空気がおさまって過ごしやすくなった夏の夜、美しい花や木々が茂る小道を、気ままに散歩するのは素晴らしいでしょう!うきうきと歩くハリネズミの気持ちがわかります。ああ、その感じ、いいですねえ。
道の途中で出会う若いうさぎとの会話が楽しい。「おれ、どうかしちゃってるんだ、月が明るくて飛びはねたくなってとまれない!」のだそうです。それっきり、まっしぐらにかけていってしまいました。元気がありあまる若き衝動、覚えがあります。微笑ましくうらやましいそんな気持ちになりました。

「シモツケソウのしろいかわいい花が背中にしだれかかるアーチの下」「やさしいヤナギランのしげみ」「しっとりとつゆのおりた草地」「スイカズラとノイバラの甘いにおい」「おびただしいムギの穂のさやさやといううつくしい音楽」
麦畑までの野原の道が美しくて、植物に関する言葉を抜書きしてみました。花の甘い香りが漂ってくるような気がします。そして、片山健さんの描く植物がほんとうに見事。のびのび元気よく咲き誇る草花の強い生命力を感じます。前後左右に目を配って歩くウサギの用心深さ(p.21のウサギのジャック、進行方向ではなくこちらを見ている)も表現されていて面白い。

ハリネズミたちの歩く野原の道から少しはなれたところに、ロンドンまで続く大きな広い道路もあり、自動車が駆け抜けていきます。小さな生き物たちには注意が必要です。物語中に「あのけたたましいスピードはやりきれません。」と書かれてあり、作者のアトリーさん、自動車はあんまりお好きでなかった様子。自然や小さな生き物たちを愛おしむ気持ちも込められていました。
作者のアトリーさんは、田舎の自然を深く愛し故郷の思い出を作品の中にたくさん描いているそうです。小説では、1939年に書かれた「時の旅人/岩波書店」16世紀と20世紀を行き来するタイムトラベルもの児童文学がたいへん有名。絵本ですと、グレイ・ラビット、こぶたのサム、チム・ラビットなど動物たちが主人公の絵本がたくさんあります。