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第170回 夏の美しい夜さんぽする

第120回投稿でもとりあげた、アリスン・アトリーの絵本をまたご紹介いたします。最近ミステリばかり読んでいるせいか、物語には何か問題が起こらないといけないような、そんな気がしてしまっています。そういう場合ですと、この絵本はちょいと肩透かしかもしれません。静かな時間を過ごしたい。気分転換に。涼しい夏の夜を味わいたい。そんなとき手にとってみると良い絵本とおもいます。

「むぎばたけ(日本傑作絵本シリーズ)」 福音館書店 1989年7月発行 40ページ
アリスン(アリソン)・アトリー/作 片山健/絵 矢川澄子/訳
原著「THE CORNFIELD From “The Weather Cock, and Other Stories”」 Allison Uttley 1945年

とても静かな静かな物語。ハリネズミが、ウサギとカワネズミを誘って、畑の麦が伸びるのを見に行くおはなしです。
『あたたかい、かぐわしい夏のゆうべ。
空にはお月さま。星が二つ三つ。
そのひかりに、丘のはらっぱは、いちめん 青じろい銀のシーツをひろげたみたいでした。』

夜空に月と星が美しく輝き、あたり一面をほんのり輝かせているの夜の光景が目に浮かびます。
はなうた口ずさみながら、小道をやってくるハリネズミ、とっても上機嫌。
誰にもききとれないくらい、かすかな声で口ずさみます。

『お月さんのランプに
お星さんのロウソク
夜ごとはるばる
さまよう おいら』

昼間の暑い空気がおさまって過ごしやすくなった夏の夜、美しい花や木々が茂る小道を、気ままに散歩するのは素晴らしいでしょう!うきうきと歩くハリネズミの気持ちがわかります。ああ、その感じ、いいですねえ。
道の途中で出会う若いうさぎとの会話が楽しい。「おれ、どうかしちゃってるんだ、月が明るくて飛びはねたくなってとまれない!」のだそうです。それっきり、まっしぐらにかけていってしまいました。元気がありあまる若き衝動、覚えがあります。微笑ましくうらやましいそんな気持ちになりました。

「シモツケソウのしろいかわいい花が背中にしだれかかるアーチの下」「やさしいヤナギランのしげみ」「しっとりとつゆのおりた草地」「スイカズラとノイバラの甘いにおい」「おびただしいムギの穂のさやさやといううつくしい音楽」
麦畑までの野原の道が美しくて、植物に関する言葉を抜書きしてみました。花の甘い香りが漂ってくるような気がします。そして、片山健さんの描く植物がほんとうに見事。のびのび元気よく咲き誇る草花の強い生命力を感じます。前後左右に目を配って歩くウサギの用心深さ(p.21のウサギのジャック、進行方向ではなくこちらを見ている)も表現されていて面白い。

ハリネズミたちの歩く野原の道から少しはなれたところに、ロンドンまで続く大きな広い道路もあり、自動車が駆け抜けていきます。小さな生き物たちには注意が必要です。物語中に「あのけたたましいスピードはやりきれません。」と書かれてあり、作者のアトリーさん、自動車はあんまりお好きでなかった様子。自然や小さな生き物たちを愛おしむ気持ちも込められていました。
作者のアトリーさんは、田舎の自然を深く愛し故郷の思い出を作品の中にたくさん描いているそうです。小説では、1939年に書かれた「時の旅人/岩波書店」16世紀と20世紀を行き来するタイムトラベルもの児童文学がたいへん有名。絵本ですと、グレイ・ラビット、こぶたのサム、チム・ラビットなど動物たちが主人公の絵本がたくさんあります。

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第130回 春夏秋冬を旅する

「12月くんの友だちめぐり(新装版)」 西村書店 2010年3月新装版発行 32ページ
ミーシャ・ダミヤン/文 ドゥシャン・カーライ/絵 矢川澄子/訳

原著「DEZEMBER UND SEINE FREUNDE」 Mischa Damjan Dusan Kallay 2010年(旧版発行年1986年)

一年のうち、12月をおさめる12月くんは、12月以外の季節をしりません。知りたいともおもっていなかったのですが、ある嵐の夜、物知りの大風が、春の野に咲く花々や花盛りの木々、素敵な果物の実りのことを教えてくれました。12月の大地には花はすでに枯れてないのです。凧作りの仕事にも身が入らず、なんだか寂しい12月くん、ほかの月のことを知る旅に出ることにしました。
12月くんのファッションがインパクト大です。なんと頭に小さな白い鳥小屋(取り外し可能)をのっけてるんです。コレすごいセンスですよねー。おまけにニンジンみたいな真っ赤の付け鼻。のどもとが赤い小鳥がおともです。(なんていう鳥なんでしょうか?)

3月へやってきた12月くん。3月をおさめる3月くんが野原を案内してくれました。
3月は、冬が終わり春を迎える月。ツグミが巣をかけさえずる歌にききほれます。草が芽吹きはじめています。ツバメ、ツル、コウノトリが海を超えてまもなくやってくる。春を告げるユキワリソウの鐘の音がきこえ、待ちに待った春がやってきました。春のお祭りを3月くんと楽しみ、大の仲良しになりましたが、月はさいごの日になって、お別れのときがやってきました。さあ、次は6月へ・・・

3月、6月、10月を旅して春夏秋冬を知った12月くんは、ちょっと大人になりました。それぞれの月にしっかり働くことで、実りを得ることを知ったのです。さあ、12月にはクリスマスという大イベントがありますよ。クリスマスプレゼントの支度にかかります。おいしそうなケーキやパンやビスケットをたくさんつくります。自分の月が始まって張り切って働く12月くんがかわいらしい。

カーライ氏の挿絵が美しいです。しかしよ~く見ると、一部未完成の部分があるんですよね。戸棚や壁の位置の構図がおかしな感じだったり、空や壁のフチなどあり得ないところありえないもの(カラフルな立方体、笛(?)、壺、マグカップ、弦楽器、漏斗などなど・・)が描き込まれていたりします。でもこの不思議さがとても魅力に感じました。不思議でファンタジックなんですがしっくりくる。リスベート・ツヴェルガーの挿絵をちょっと思い出しました。鳥や動物たちが密に描かれたページが圧倒的でとても魅力的です。よろしければお手にとってじっくり画面を眺めてみてください。
(10月くんのファッションも不思議でかわいいですよ。)

挿絵画家のドゥシャン・カーライは、1948年、スロヴァキアのブラチスラヴァ生まれ。ブラチスラヴァ国際絵本原画展で金のリンゴ賞を2度、「不思議の国のアリス」でグランプリを授賞。国際アンデルセン賞の画家賞も授賞。アンデルセンの童話に挿絵をつけています。