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第179回 仕事場にお邪魔する絵本

世の中にはたくさんの仕事があります。
でも何がやりたいのかわからない、未来が見えない、そんな人もいるんじゃないでしょうか。いろんな職業をちょっとだけのぞいてみれたら、いろいろ知れて楽しいかも。自分に合った仕事が探せるかも。いろいろの仕事をちょっとずつでも知ることができたらなんか納得できそうな気がするのです。押し付けがましくなくそっと手渡したい、そうおもう絵本です。

「しごとば【正】」 ブロンズ新社 2009年3月発行 40ページ
鈴木のりたけ/作

様々な仕事とその仕事場を、ちょっとのぞいてみる絵本です。
挿絵で具体的にご紹介。たくさんの仕事道具も名前とともにみっちり・しっかり描き込まれています。たいていは、ひとつの仕事につき4ページ。仕事場の様子2ページ+仕事の手順で2ページです。4ページですがよくまとまっているとおもいます。
例えば歯医者さん。歯ぐきの検査・歯の矯正・虫歯の治療などをしてくれます。診てもらいに行ったことはあるけれど、具体的に何をするのかはよく知りませんよね。治してくれてるなーくらいなものですよね、診てもらうほうとしては。
この絵本では、虫歯の治療の手順です。いろんな道具を使います。きゅィィーーーん、とうなるあの道具の名前もわかりますよ。いろんな道具を使って虫歯治療をする工程が描かれています。「虫歯の進行具合」によって麻酔をするんですね。(麻酔が効いてくるとだんだんアゴに力が入らなくなって怖いんですよね・・)
歯科医の仕事場ってこうなのか。なるほどなるほど、と納得できます。今度、歯医者さんへ診察をしてもらいに行った時、ちょっと親近感が湧く、かもしれない。
よ~く読み込むと、前のページに登場した職業の方がちらりと登場する著者の遊び心も面白いです。

この絵本でご紹介する仕事場は、こちら。
美容師、新幹線運転士、すし職人、自動車整備士、木のおもちゃ職人、革職人、歯医者、パティシエ、グラフィックデザイナー。
とりあげられていて意外だなとおもったのは革職人さん。失礼な言い方とおもいますが知名度は低めなお仕事(古本屋もそうですよね)。人気のある有名な仕事だけでなく、世の中にあるお仕事をもっとたくさん紹介すれば、興味を持つ人もでてくるやもしれません。今後に就くかもしれない仕事を選択するとっかかりになれば幸いなのです。

この「しごとば」の絵本、いまのところ(2022年4月)6巻まで出版されています。
「しごとば」「続 しごとば」「続々 しごとば」「しごとば 第4巻:東京スカイツリー」「もっと しごとば」「やっぱり しごとば」
ちなみに、2021年度・小学生がなりたい職業のNo.1は「ユーチューバー」なのだそうですね。楽しく儲かりそうだからかな?わからんでないです。でもアイディア勝負だから、ほんとのところはものっすごく大変な仕事でしょうけれど・・・。 時代なんだなあ。

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第174回 105人も参加する仕事ってなんだろう。

「105にんのすてきなしごと」 あすなろ書房 2012年6月発行(すえもりブックス版1995年) 46ページ
カーラ・カスキン/文 マーク・シーモント(シマント、サイモントの表記あり)/絵 なかがわちひろ(中川千尋)/訳
原著「The Philharmonic Gets Dressed」 Karla Kuskin, Marc Simont 1982年

タイトルが面白くて、手に取りました。105人も参加する仕事ってなんでしょうか。表紙にヒントあり。でもまだわかりませんねぇ。
金曜日の夕暮れどき、とても寒くなってきました。暗くなった街の建物の窓に明かりがつき始めます。
週末は遊びに行くとか居酒屋に行くだとか家で家族奉仕とか家で飲むとか、ゆったり過ごす人が多いかもしれませんが、この絵本に登場する105人の皆さんはこれから仕事です。お仕事に行く準備が始まります。まずは、お風呂。お風呂というの、ちょっと驚きました。すごくリアルだなあ。まあそうだよねえ、仕事前のひとっ風呂、確かに確かに。
ひとりひとりがどうやって、お風呂に入るのか、なかなか詳しく書いてます。「シャワーをあびるだけの人がほとんどですが、二人の男の人と三人の女の人は湯船につかります。」へー。なんか妙にくわしいなあ、アンケートしたんですかねえ。一人の男の人は、湯船で本を読んでいて、しかも横で猫がそれを観察してますよ。仲いいですね。
お風呂からあがって体を拭き、良い匂いのパウダーをふりかけたり、ヒゲをそったり。ヒゲソリしない3人の男性は、ハサミでおヒゲを整えます。一人の女の人は、髪にパーマをあてるような道具を使いながら「MOZART」の本を読んでます。(この機械、なんでしょうか。)
そして下着をつけます。みなさん、どんな下着をつけますか?
まずは男性の場合。トランクスもしくはブリーフ。半袖あるいは袖なしのシャツ。一人の寒がりの男の人は、シャツと長ズボンがつながったあったか~い下着を重装備しました。それから靴下。座って履いたり立って履いたり、いろいろです。親指のとこが破れてしまってる人、黒い靴下がなかなか見つからない人もいるようですよ。
次は女性編。女の人はいろいろ着なくちゃいけないので面倒です。パンツ、ストッキング、ガードル、タイツ、上はブラジャーそしてスリップ。フーッ、すごい枚数だ。冷え性さんは、毛糸の靴下も必要です!
と、こんな具合に、仕事へ出かける支度をながめる絵本です。挿絵を確かめながら文章を読んでいくと楽しいんです、これが。

105人の仕事は、「オーケストラの音楽家」でした。
音楽ホールに集まったみなさんが、いろいろなかたちのかばんからだしたのは、楽器。
舞台の上には、102脚の椅子と2つのスツールが置いてあります。あれ?105人でしたよね。1つ、椅子がたりないぞ?そう、一人は座りません。立ったままの人がいますね。指揮者です。
「金曜日の夜、8時30分。黒と白の服を着た105人の男の人と女の人の仕事が、今始まりました。その仕事とは、白い紙に書かれた黒い音符を音楽に変えることです。」
「105のこころをひとつにあわせて作り上げたのは、うっとりするほど美しい音楽でした。」

作者のカーラ・カスキンさんは、アメリカの詩人、作家、児童文学評論家。「どれがぼくか わかる?」「マウス一家のふしぎなさんぽ」「あめのひってすてきだな」などの邦訳あり。「105にん~」の第2弾、フットボール選手版「ダラス タイタンの月曜日」という本も発行されている模様です。ご主人は、オーボエ奏者なのですって。リアルな体験談なんですね、やっぱり。
挿絵のマーク・シーモントさんは、フランス・パリ生まれ。「はなをくんくん」春が待ち遠しいどうぶつたちのおはなし、「のら犬ウィリー」ピクニックにでかけた一家が一匹の犬に出会うほのぼの絵本、「ぼくはめいたんてい 全17巻」9歳男子ネートはだれもがみとめる名探偵。などの挿絵をかいています。

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第111回 はたらく車、働くひとびと

鎌田歩氏の描くカッコイイ働く車・働く人たちが登場するおしごと・のりもの絵本4冊をピックアップしてみました。

「なんでもあらう」 福音館書店 2014年5月発行 32ページ
鎌田歩/作

けんちゃんの自転車、よごれている。きたないままだとあぶないよ、と教えてくれたおじさんがいました。
きたないとどうして危ないのかな?
汚れた車輪やチェーンだと、ブレーキがきかなくなったりチェーンがきれたりするかもしれないよ。きれいすることで安心して自転車に乗ることができるんだよ。
最初に登場する働く車たちは、水をまく散水車、ごみを吸い込むスイーパー、ごみを運ぶダンプトラック。3台一組で道路を洗います。道路がきれいだと安心して道路を走ることができます。
お次は、電車を洗うおしごとです。電車を洗うための線路には、ガソスタにある洗車の機械のようなものがあります。そして機械のブラシでは届かない正面や連結部分や窓枠をスポンジやブラシを使って丁寧に人があらうのです。
高いビルの窓ガラスや道路の標識も洗います。きれいにしないと傷んでしまうんだ。
きわめつけは、飛行機!飛行機は真夜中に洗うんです。やはり飛行機も洗うんですね。洗うにはおうちで使うひと月分ほどの水が必要ですが、故障を見つけやすくするため、整備のために、汚れをしっかり落とすことが必要です。
最後の仕上げに、働いたみんなでお風呂にはいります。ゆったり湯船につかってゆっくり休んでくださいね。

「そらのうえのそうでんせん」 アリス館 2018年12月発行 32ページ
鎌田歩/作

こちらもおしごと絵本です。事故がおきないよう怪我しないよう安全に仕事をするため、準備、確認、慎重を期して行動します。
送電線は、発電所で作った電気を、遠くに届ける仕事をしています。その送電線を支えるのが送電鉄塔といいます。
その送電線を点検整備をするひとたち、「ラインマン」。
装備品とその解説ページの「ラインマン図解」がかっこいいです。
どうやって鉄塔に登るか、古い部品を交換していくか、じっくりみせてくれます。
鉄塔のてっぺんは、地面から50メートル。20階建てのビルくらいの高さだそうです。足がすくみますね。
送電線に宙乗り器(ちゅうのりき)をかけて、鉄塔から鉄塔を移動して古い部品を交換していきます。(途中でトイレに行きたくなったらどうするんだろうという疑問がわきました。ごめんなさい。)

「まよなかのせんろ」 アリス館 2016年11月発行 32ページ
鎌田歩/作

こちらもおしごと+のりもの絵本、今度は電車のはしる線路をなおす車両「マルチプルタイタンパー」が主人公。
夜、お客さんがおりた最終電車が車庫へ帰っていきます。
そのとなりの留置線に、大きな車両がとまっています。線路のゆがみをはかり、レールをはさんで持ち上げて、線路にしかれた石ころ=さいせきを整えて固め、再度線路のゆがみをチェック というたくさんの機能のある便利な車両「マルチプルタイタンパー」があります。マルチタイタンパーが通ったあと、作業員さんたちが線路に残ったさいせきを掃除し、もう一度人間の目でゆがみなどを確認し、整備作業が完了します。
毎晩、電車の走らない真夜中に、作業してくれています。だから安心して電車に乗ることができるんですね。力強く働く大きな乗り物はやはりかっこいい。

「はこぶ」 教育画劇 2014年1月発行 32ページ
鎌田歩/作

これは、しごと絵本ではないですね~、なに絵本っていうんでしょうか。進化絵本?のりものはたくさん登場します。
遠い遠い昔の時代のひと(旧石器時代あたりでしょうか)がリンゴをはこんでいます。手にいっぱいもてるだけをはこぶ。
いれものに入れたら運びやすくなるね。
ひもでしばって棒につるしたらいれもの2個はこべるぞ!
ふたりがかりなら、もっとたくさんはこべるね。
背中にかつぐ道具を作ったらもっとたくさんはこべるよ。
牛の背中に乗っけてはこんでもらおう。
牛にひいてもらう荷車ができました。
雅な人々をはこぶ素敵な牛車も。

どんどん、進化していきます。
自転車やバイクに乗せて運ぼう。
おそばやラーメンをこぼさず運ぶ工夫もできました。
車が登場。三輪自動車、トラック、バス。
火事に出動する消防車、具合の悪い人を運ぶ救急車、安全に燃料を運ぶタンカー、車を運ぶ車、コンテナを運ぶ列車・・・など用途もいろいろ。かたちもいろいろ。

いろんなものを、たくさん、遠くへ、急いで、運びます。
どんどんどんどん、進化します。
あれれ、途中で山崩れが発生。荷物が運べない状況に。ここで絵本の流れがいったん止まるのが面白いですね。
山崩れをなおし、ジャリを運び、道路をなおす作業員さんや働く車たちが登場。
どんどんなおし、どんどん道路を作り、トンネルを掘って、橋をつくり、遠くへ続く道ができていきます。
技術が進化していきます。遠くへ行ける飛行機や大容量を運べる貨物船が登場。海の上も空の上も。
遠くへ、遠くへ。急いで、急いで。運べ運べ。
宇宙へだって届けるさ!と、最後は空へ向かってロケットが飛び出します。このシーンは、迫力ありますね。宇宙飛行士にリンゴを届けます。おいしそうにリンゴを食べる宇宙飛行士がいいです。

後半、知識・文化・技術が発展し、たくさんの車が登場します。ページの左から右へせわしなくどんどん運ぶためにみっしり描かれた乗り物に少し不穏な空気を感じてしまいます。作者の鎌田さんは乗り物がとってもお好きなのはたくさん描かれた乗り物から感じますが、反面、犠牲にしてきたものがあることを訴えていると感じます。遠い場所で作られているものを買うことができたり遠くへたくさんの人々を運べたり、短時間で遠くへ行けたりと、確かにいろいろ便利ですけれど。否定はできませんけれど。機械や技術は発展したけれど何か置き去りにしたものがありそう。・・そんなこと言ってないで絵本を楽しめばいいのかもしれませんけど。
「子供の頃、乗り物がたくさん書かれていたあの楽しい絵本、大人になって読み返してみたら、こんな仕掛けがあったんだとわかる絵本」なのかなあとおもいました。未知の宇宙空間に滞在する宇宙飛行士のために届けられたリンゴに喜ぶ笑顔、これこそが「運ぶこと」の目的であってほしいとおもいます。

鎌田歩氏の絵本は、擬音語が描かれ漫画風で見やすいです。たくさんののりものがしっかり描かれて、登場人物たちもかわいらしい。特に「なんでもあらう」のぶしょうひげのおじさんの絵がわたしは好きです。ほかにも楽しい乗り物絵本をたくさんかいておられます。