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第104回 中学生へのアンケートとその回答の物語

「Q→A(キューエー)」 講談社 2016年6月発行 244ページ
草野たき/著者

「現在仲のいい友だちはいますか?」「自分の両親は好きですか、嫌いですか?」「おつきあいしている異性はいますか?」「将来の夢はなんですか?」「中学生最後の学年です。どんな一年にしたいですか?」
中学3年は、高校受験がせまり、未来の方向を考えねばならない時期です。
5人の中学3年へのアンケート、という形式でお話がすすみます。アンケート?うざい!とならずに、真面目に考えるのは、えらいですね。5人それぞれに悩みがあり、その悩みから今後どうありたいかを真剣に考えアンケートに向きあいます。やはり悩みを解消したい、成長していきたい、こんな自分になりたい・・という気持ちがあるからでしょう。
5人の少年少女のうち、3人のアンケートをかんたんにご紹介。

体質のせいで太れない、痩せすぎな体が嫌いな朝子(アサコ)。4月、中学3年生なって新しい教室へ入るのは違和感があった。一つ一つのアンケートを前に、今までの自分はどうだったか、そしてこれからの一年をどうしたいか、考える。 「Q.どんな一年にしたいですか?」「A. 勝負の年にしたい。」

バレーボール部キャプテンをつとめた征児(セイジ)。夏休み、冬休み、春休みを返上して勝ち抜くチーム作りに取り組んだ、にもかかわらず、三年最後の地区大会も敗退に終わった。残るは受験を残すのみなのだが、燃えつき気力が残っていない。図書券をもらえる、というのに釣られてアンケートを書いてみる。中学生活の総括。今後どうしたいだろう。「どんな大人になりたいですか?」の回答にぐっとくる。セイジくんのおとうさんは、息子にエロ本をくれるちょっと変わった気遣いをします。そんな気遣いはっきり言って相手するのめんどくさいですが、考えてくれてたんだと、年をとったら愛情がわかるんでしょう、キライではないです、ていうかステキです。

不登校になってしまった雅恵(マサエ)。
「学校に来たくなかった理由を教えて下さい」「両親との関係でなにか悩み事はありますか?」「学校生活を再開するにあたり、そのほか不安なことがあれば教えて下さい」
不登校の理由は、恋をして目指したダイエットの失敗。
太っていても、勉強も運動もできて明るい子と過大に評価されるので、ぽっちゃりした自分を気にせずにきたのだけれど、恋をして痩せたくなった。しゅっと痩せてカッコイイ彼の隣に立つのは痩せた自分でありたい。どんなに頑張っても痩せることができなくてダイエットに失敗して入院することになった。もっさり太った自分を受け入れられなくて学校にいけなくなってしまった。太っているけど明るい、というキャラクターである自分が偽りであると思ったのだ。三年生の夏休みに勇気をだして登校した。引きこもったままなのはイヤだ、自分を変えたいと頑張って学校へ来たのだった。

アンケートの後、さらにこのアンケートの答えを再度考える、という構成です。
受験と卒業目前の5人の中学生の新たなアンサー。未来が広がっていることを感じる回答が爽やかで力強いです。

草野さんは、ほかにもたくさんかいておられます。
「ハーフ」茶色の毛並みの犬「ヨウコ」がおかあさんと教えられ一緒に暮らしてきたぼく。大人になるにつれそれは嘘だとわかっていく。どうしてそんな嘘を言ったのか、大人であるお父さんの弱さを責められない。変わった設定ですが読み応えあります。
「反撃」中学生女子5人それぞれが、挫折を経験しつつも明るく前向きにがんばっていく短編集。目指したり憧れたりするのがちょっとかわったことだったりもするんですが、好感がわきました。おもしろかったです。



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第62回 八方にらむ迫力ある猫

今日は、猫絵本をご紹介。
カイコガという虫は、幼虫から成虫になるため、サナギになりますが、その時、マユ玉を作ります。細い糸を口から吐き出し、丸長のかたちのマユを作りますが、これが美しい絹の生地のもとなのです。おかいこさまとよばれ、昔から大事に育てられてきました。5000年の歴史があるのだそうです。
おかいこさまを食い荒らすネズミがたくさんいました。それを猫が退治するお話です。表紙の三毛猫の「みけ」が主人公です。
ちなみに、八方は「東・西・南・北・北東・南東・北西・南西」のことで、あらゆる方向と言う意味だそうです。

「八方にらみねこ」 講談社 1981年2月発行 31ページ
武田英子/文 清水耕造/絵

捨てられた子猫のみけが雪の積もる道をとぼとぼと歩いています。
おかいこさまを育てているおじいさんとおばあさんが、捨て猫だった三毛の子猫のみけをおうちにいれてくれます。今日は、小正月。神さまにごちそうやお花を供えてお祭りする日、きっと神さまのおひきあわせだろう、とおばあさんが優しく迎え入れてくれます。いろりばたにいたおじいさんも、みけにおいでおいでと手招きしてくれるのです。優しさにほっとしますね。胸にほんわり火が灯るような心持ちがします。
ネズミたちから、おかいこを守ろうと、じいさまばあさまの優しい気持ちに報いようと、みけは頑張りますが、まだまだ子猫、破れてしまいます。
おれたちネズミが怖いのは、「やまねこ様」である。やまねこの八方にらみの術こそ怖いのであって、子猫なんか怖くないのである(意訳しております)。そんな歌をうたってみけをバカにします。けっとばされシッポやヒゲをかじられて気が遠くなってしまったみけ。かいこを好き放題に食い荒らされてしまい、惨敗です。

猫なのに、情けないと落ち込むみけ。優しいおじいさんとおばあさんに恩返ししたいのです。決心したみけは山へと向かいます。やまねこに会い、八方にらみの術を教えてもらおうと、真っ暗でおそろしい山をずいずいと登っていくのです。
にらみで火を消す術の修行は厳しいものでした。燃えあがる枯れ木をにらみます。ヒゲが焦げても「うむ。」とにらみます。両足を踏みしめ地面をツメでひっつかみ、こらえにこらえ、毎日・毎晩、睨みます。熱さで目から涙がにじみ、その涙が熱で蒸発しても、睨み続けます。みけがだんだん、迫力ある顔つき・体つきになり、まあるい子猫の体型からシェイプアップされた大人の猫の体になっていくのが挿絵でわかります。目に力がこもり、らんらんとした大目玉になっていくみけ。

修行がはじまって一年過ぎ、おかいこ様を育てる春が近づいています。とうとう、にらみで火を消すことができるようになります。八方睨みの術を会得したのでした。
山をおり、じいさまばあさまの待つ家に戻りました。みけがにらめば、ネズミは体がすくんで逃げられません。おかいこに害なすネズミたちをにらみころし一網打尽。「にらみころす」という文章がちょっとこわいくらいですが、ねずみを睨むイラストのみけは、なんだかおかしみがあります。なんでしょうね・・何かに似てると思って考えてたのですが ・・・パグだ!
にらみのみけのうわさが広まると、村の人たちがみけを貸して下さい、と頼みに来たそうです。大忙しのみけ、一匹では足りない。そこでじいさまは、みけを絵に描いて配ったんだって。みけの絵が描かれただけの御札でも、ネズミ退治効果があったそう。
最後のページの猫札が、迫力ありつつとてもかわいいです。わたし養蚕はしてないですが、猫札、欲しいなあ。
・・ちなみに、三毛猫のオスはなかなか生まれないのでたいへん珍しいんだそうですから、このみけさんは、女の子なのでしょうか。表紙を見ると、腕や胸の筋肉がかなりついてる感じのむきむきボディです。・・頼もしいですね!



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第61回 夜にみまわるこびと

「みまわりこびと」 講談社 2014年10月27発行(原著は1960年) 25ページ
アストリッド・リンドグレーン/文 キティ・クローザー/絵 ふしみみさを/訳

大事にすると、農場をまもってくれる小人のおはなしです。スウェーデンではトムテ、ノルウェー・デンマークではニッセ、とよばれています。敬意を払って接しないと農場を出ていってしまうんだそうです。日本の妖怪のざしきわらしに似ているようですね。

冬の真夜中、森の農場では、人も動物もぐっすり眠っています。雪は深く積り白く輝いています。肌を刺すような寒さなので、夜も暖炉で火を燃やし家の中を暖めます。
真夜中、一人起きているのは・・・こびとです。いつからいるのか誰も知らないほど、昔からこの農場にいるのです。その年とったこびとは納屋に住んでいます。夜にこびとは、農場をみまわり、牛・馬・鶏や羊たちに声をかけます。耳には聞こえないその小さな言葉が動物たちにはわかります。冬はきて、また去っていくもの。夏はきて、また去っていくもの。時は巡って、温かで緑多く楽しい季節がまたやってくると、動物たちを励ましています。
そして犬のカーロの鼻に優しくふれてご挨拶(表紙をごらんください)。カーロへの挨拶が特になんだかぐっときます。カーロも毎晩、友達のこびとがくるのが楽しみなのです。犬のみ名前が明かされてますので身近に感じるのでしょうか。

夜に見回って農場を気にかけてくれるけれど、人間には、こびとの姿が見えないし声も届きません。それでもみんな、こびとがいるのを知っているのは、朝になると、雪の上にてんてんと、小さな足跡が残っているからなのです。こびとは寂しくおもっています。そうして、納屋に戻ります。納屋で待っていた猫にミルクをあげ、本を読み、夏を夢見てベッドで眠るのです。
こびとの声をきくことができないというのはかなり寂しいですね。人間は取り残されているという感じがちょっとしますが、寂しくもあっためてくれる絵本です。ぜひ小人に会ってみたいですね。



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第12回 だめな自分という絶望

「となりの火星人」 講談社 222ページ 2018年2月発行
工藤純子/著 ヒロミチイト/装画・挿絵

おのおの悩みを抱える4人の子供たち。
相手の気持ちを慮ることに疎い、かえで
怒りに支配されてしまうことに怯えている、和樹
不安になるとパニックになってしまう、美咲
相手が壁を作っているのを感じる、天然で優しい、湊
中学受験に失敗し挫折感に潰されそうになっている、聡

 連作短編7話が収録。かえでを中心に話がすすみます。
かえでは、相手の話すことを「言葉通り」に解釈してしまいます。”一番厄介なのは、人間の感情だ。表情と心の中が違う。いってることと、やってることが違う。親切そうに見せかけて、ウソをつく。” ”道徳(の時間の問題)は難しい。正しい答えが分からないから。”それでも自分の返答や行動で相手が困ったり、悲しませたりすることを恐れ、人の気持ちを理解できない自分はダメだ、と絶望を感じています。

 和樹は、怒りに支配されると暴れてしまいます。今日も、ズボンが破れているのをからかわれ、怒りで頭が真っ白になって教卓をけとばし大きくヘコませてしまいスクールカウンセラーと面会させられています。問題を起こす困った子と言われて、いつもお母さんを悲しませていることに絶望を感じています。
整理整頓が出来ないという自らの弱さも見せながら、子供たちの心に寄りそうスクールカウンセラーの真鍋先生や、「これからは人と違うことが大切な時代になる」というかえでのおばあちゃんがいい味をだしている。大人だって、子どもだって、みんな、たくさんの人に助けられて生きている。

 「ダメな子なんて、一人もいない。」とふっと感じるかえでに希望を感じほっとします。
繊細で人とコミュニケーションをとるのが上手でない子供たちを「火星人」と表現したことにとても驚きました。とってもストレートな言い方に感じます。が、なるほどうまい言い回し。感じ方によっては悪口になるかもしれませんが、誉め言葉にも励ましにもなるとわたしは思います。人との関係で辛さを感じるけれど、さらに人と関わることで心が成長したり希望を感じたりします。辛い気持ちでいる子どもたちを導くことのできる真鍋先生の存在がすばらしい。読んでよかった・・と感じる児童文学でした。