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第56回 夜のガーゴイルたちは・・

「ガーゴイル」が主人公です。ガーゴイルとは、『建物の屋根やひさしからつきだした、奇怪な人間や動物のかたちをした雨どい』。
昼のあいだ動けず、ずっと屋根の上でいるように作られた彼らには、いろいろ不満があるようです。

「夜がくるまでは」 ブックローン出版 1996年3月発行 32ページ
イヴ・バンティング/作 デイヴィッド・ウィーズナー/絵 江國香織/訳

美術館や時計塔などの屋根や壁にはりついている、ガーゴイルたち。ぴくりともしないで、からっぽの目で虚空を見つめている。夜がくるまでは。
月が出ると、動き出す。美術館のガーゴイルたちは、窓から中を覗き込みます。鎧たちやエジプトの王の棺たちが眠っているのをながめます。同じような境遇の彼らは、夜がきても動かないのですね。そこがちょっとおもしろい。眺めるのに飽きると、ダベリにいきます。木の上にねそべったり、ぶらさがったり。あるいは、天使が水を吹き出す噴水で、グチを語り合う。夏の暑さや時計台の鐘の音の大きさ、鳩のふん! 水浴び・水のかけっこ、飛びこみをして、うっぷんをはらします。(噴水を彼らに占領された天使が手を振り上げて怒っているのがご愛嬌。)そして、朝が近づきます・・。定位置へ戻り、虚空を見つめます、夜がくるまでは。
白と黒のみのモノトーン絵本ですが、たいへん迫力のある美しい絵本です。小さなひとには、ちょっと怖いかもしれませんが、昼の拘束からの、夜の開放が素晴らしく楽しいです。人間が嫌いである、ということもかかれているのが興味深いです。ガーゴイルとは何かをもっと詳しく知りたくなりました。

以前にご紹介した「セクター7」の作者が挿絵をかかれています。こちらも空想の詰まったお話ですが、また違った雰囲気の絵でとても好きなお話です。



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第49回 仲間と一緒にすてきな夜を過ごそう

「すてきなよるに」 ブックローン出版(BL出版) 1997年2月発行 32ページ
ヴォルフ・エァルブルッフ/作 上野陽子/訳

ヒキガエル・ドブネズミ・コウモリ・クモ・ハイエナ、というあまり光の当たらない動物たちが主人公です。見た目が美しくない、と自信を失ってナーバスになっている模様。
橋の下の川べりを、まんまるお月さまがお芝居の舞台のように明るく照らしています。着物を着たなかなかおしゃれなヒキガエルのお嬢さんが鏡をのぞきこみ、顔のイボを気にしてため息をついています。そこへ、ドブネズミが「おれたちはきれいになりはしないぜ」と自虐の一言を鋭いナイフのように投げかけ登場。そしてクモ、コウモリも登場しお互いを威嚇しあっています。
最後に登場したハイエナのみ、かなり前向き。「かっこわるいとか、きれいだとか、人がどうおもってるなんて、ぜんぜん、関係ない。大切なのは、なにをするかだ。なにかをするべきだよ! 自分のために。そして、人のために!」
ハイエナ氏は、サキソフォンをとりだし奏でます。素敵な音楽でお互いにわかりあってきます。ドブネズミはウクレレをつまびき、クモが歌って、コウモリが心を込めて口笛をふきました。それぞれが得意なことで力をあわせて美しい音楽を作りました。歌も楽器も苦手なヒキガエルは、わたしはパンケーキが焼けるの!ととうとう口を開きました。それを全部あわせたら・・、何かできそうです。音楽演奏とパンケーキのお店なんかどう?
毎晩、素敵な夜がやってきます。
前向きな気持ちでいることが大事ですよね・・。そして自分のため、人のために。「自分のため」はあっても「人のために」という言葉はなかなか言えないように思います。勇気を持てそうな絵本。

ヴォルフ・エァルブルッフは、ドイツの作家。ほかにも、心配症が開放されるお話「マイヤー夫人のしんぱいのたねは?」死がテーマの「死神さんとアヒルさん」など。



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第36回 雲と遊ぶ ながめる絵本

「セクター7」 BL出版 2000年11月発行 48ページ
デイヴィッド・ウィーズナー/作

マンハッタンのエンパイアステートビルに社会見学にやってきた少年。展望台で雲の子どもと出会い仲良くなった。そして雲の子と空の旅へ。着いたところは「セクター7」。そこでは、雲たちがどんなかたちの雲になるか(積乱雲とか巻層雲とか)、指示する場所のよう。
絵のみで文章のない絵本ですが、少年や雲たちの表情や仕草で、何が言いたいかわかります。
雲たちは、どうもただの雲っぽいかたちがつまらないと感じていて、絵の上手な少年に素敵な魚の絵(カサゴのようなトゲある魚やフグ、タコも!)を描いてもらって、それに変身します。
社会見学を終え、ビルからでてきた子供たち。空を見上げると、美しい魚の雲が浮かんでいます。

豊かな想像力でよく考えられ描き込まれてます。「セクター7」の存在も不思議。大きなプロペラのようなものがくっついたお城のような造形がまた素敵でワクワクします。空に浮かぶ島の某アニメを思い出しました。施設内の様子も面白いのです。「ARRIVALS」と「DEPARTURES」という駅の発着時間お知らせ板のようなもの(レトロさがかっこいい!)や、「ASSIGNMENT STATION」という雲たちにどのような形の雲になるかを指示するらしき詰め所もあって、1ページ1ページよ〜く眺めているとワクワクします。ターミナルの長い長い石の階段が好きだなあ。雲は浮いてるので使わないでしょーけど、海外の重々しい石造り建築で素敵です。ちょっと登ってみたくなる。
人間の少年と雲の子の友情にも心温まります。ふくらむ空想がとても楽しい絵本。空を見上げると、いろんな魚の雲が浮いていたら、楽しいでしょうねえ。天気の良い日に空を眺めながらぼーっとしたくなります。



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第32回 火星の探検

「キュリオシティ ーぼくは、火星にいる」 BL出版 2019年2月発行 50ページ
マーカス・モートン/作 松田素子/訳 渡部潤一/日本語版監修

キュリオシティ(好奇心)という名前の火星探査ロボットについての絵本です。
地球のお隣の惑星、火星。地球から火星まで6億キロ。岩や土ばかりで、地球より大気が薄くて生き物はいないような環境でした。けれど、ずっと昔、川や湖、海もあったということがわかってきた。水があったということは、生きものもいたかもしれないということなのだ。もしかしたら、今も小さな微生物がいるかもしれない。そういうことを調べにキュリオシティは火星に送り込まれたのです。
キュリオシティの大きさは、長さ3メートル、幅2.8メートル。自動車くらい。火星の環境を観測する装置やカメラ、サンプルを採取するロボットアーム、動力源の原子力電池、など様々な機器がたくさん搭載されています。火星への着地方法などについてもくわしい説明があります。
科学の粋を集めて、作られたキュリオシティ。苦心の上に出来上がったものなのでしょう。冒険心・探究心を刺激されわくわくします。
難しい言葉は少ないので、小学中学年くらいから読めると思います。おんなの子もおとこの子も興味あったらぜひどうぞ。
宇宙の謎の解明、地球以外の生命の発見などを目指す好奇心はとどまるところを知らない。キュリオシティは、2012年8月6日、火星に到着し、今も火星の調査を続けている。(2019年7月現在)