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第162回 自分の名前、好きですか?

自分の名前、好きですか?名前を言う度にからかわれちゃう少年へいたろうくんのお話です。ヘンじゃあない、とわたしは思いますけれど、本人は気になって気になって仕方がないのです。

「ぼくのなまえはへいたろう (ランドセル ブックス)」 福音館書店 2018年6月発行 28ページ
(月刊大きなポケット2005年12月号に掲載された「ぼくのなまえはへいたろう」を加筆編集したものです。)
灰島かり/文 殿内真帆/絵

へいたろうくんはおこっているのです。
自分の名前が昔のひとみたいで、長くて古臭い名前だね、と呼ばれる度に笑われるのです。音が重視で読み方の難しい名前が大流行の今だと、「平太郎」ですと目につく名前かもしれませんね。
スタンダードで良い名前だとわたしはおもいますがねえ。自分の名前なのですから、そのあたり、本人でないとわかりにくいものでしょう。
どうしても自分の名前がイヤなへいたろうくんは、笑われるのをどうにかしたくて、「名前」について調べます。

*名前は変えることができる。(正当な理由があると裁判所に認めてもらわねばなりません)
*名前には流行がある。
*へいたろう、という名前には、おおらかで堂々とした男の子、という意味がある。(へいたろうくんお父さん談。)
*生まれたときからへいたろうくんを「へいたろう」と読んでいるのでもう名前と本人はセットになっているように感じる。へいたろうという名前もへいたろうくんと同じくらい大好き。(へいたろうくんお母さん談。)
*愛や願いをこめて子供に名前をつける。
*病気や魔物から守るために、子供が小さいうちは、変な名前をつける時代や国がある。
*名前はみずからが育てるもの。(素敵な人の名前は、カッコイイ!と感じるようになるもんなのよ。)

わたしの名前は、ある漫画からとった名前で、どことなくカラフル(とわたしは感じる)・・そんな感じの名前なもんですから、子供の頃は名乗るのが少し恥ずかしい気持ちがありました。「漫画(の登場人物)みたいな名前だね」とズバリ言われたことも。いやはやまさにそうなんです、とはちょっと言えませんでした。大人になった今は、嫌いじゃないのですが。
人に名前を笑われちゃうって悲しいものなのですよね・・大いにへいたろうくんに共感いたします。ですのでどうぞ人の名前を笑わないであげてくださいね・・
子供は生まれた時に親が名前をつけます。自分で自分に名前をつけるわけでないからこそ、名付けって難しいのでしょうね。大人(親)が良いと思うものが、子も良いと思うかどうかはまた違うものでしょうから。わたしのように、自分の名前がしっくり馴染むまで少し時間がかかることもあるでしょう。
ただ、へいたろうくんのお父さんは、へいたろうくんが素敵な大人になりますように、と願いを込めて名付けたことが物語中にわかります。愛されてるんだよ~、へいたろうくん。

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第161回 なんでなくのか

「ないた」 金の星社 2004年9月発行 32ページ
中川ひろたか/作 長新太/絵

一日一回 ぼくはなく。どうしてだろう? そんな絵本をご紹介いたします。
大人になったら泣けません。いやうそです。わたしは映画を見ては本を読んでは泣き泣きしています、こっそりと。心が震えるとどうしたって涙がでちゃうんですもの。
実際に苦しいこと、悲しいこと、困ったことがあっても、大人はその場では泣きません。ぐぅっとこらえ、あとで泣こう、とおもうので精一杯。
感情をあらわにすると、後でおもいかえした時に恥ずかしいのです。丸裸にされたような気持ちになるのです。酔っ払って気分が開放されてしまい、ついつい喋りすぎたりはしゃぎすぎたりしたのを悔やむのと似ておりますね。ちょっといや大いに違うかもしれませんが、まあお許しくださいませよ。

この絵本の少年は、転んで泣き、ぶつけて泣く。けんかして、しかられて、悔しくて、寂しくて、心配で、嬉しくて、一日に一回は泣く。子供の頃、わたしもよく泣きました。泣くのを我慢してさらに泣いちゃったりね。きょうだいとケンカして泣かしたり泣かされたりしたこと、思い出しました。
幼い涙なんですよね。だがしかし今思えば、なんにも考えず感情のままに泣くことの、ああ、それのなんと気持ちよかったことよ。幼い涙もこれまた良いもの。

『おかあさんの おふとんにはいったとき、おかあさんの めから なみだが でた。つーっと、まくらに ながれて おちた。』
『ないてるのっ てきいたら「ううん」って、いった。』

大人になってくると、そうはいきません。お父さんやお母さんは、包丁で指を切ったくらいでは、人前で泣いてはいけないのです。だからこそ、おかあさんの目から流れる一粒の涙の意味が重いのです。大人になると涙する回数は減るけれど、どうしたって流れてしまう涙は大切なものになっていくように思います。
このシーンの涙がどんな涙なのか説明がないためいろいろ想像してしまって、こみ上げるものがあります。嬉し涙だといいなあ。
人前で泣けなくなってきた皆様におすすめしたい作品です。
長新太さんの挿し絵も素敵です。明るい黄色・オレンジをポイントに明暗がくっきりしていて目を引きます。「こわくてないた」の見開きページにはちょいと衝撃がきました。じっとみていたいような早くページをめくってしまいたいような、そんな気持ちになる挿し絵でした。

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第160回 風の強い日はオオカミがとんでる

今日の絵本は、ミロコマチコさんの作品をご紹介いたします。筆のあとがくっきり見える大胆な挿し絵。率直に申しまして「きれい」「かわいい」挿し絵ではないので好き嫌いがくっきりわかれそうです。ですが、このダイナミックな挿し絵はなんだかくせになります。
オオカミが飛ぶ?どういう意味だろう?とお思いの方はページを少しめくっていくと・・意味がわかりま~す。動物たちが大活躍なちょっと不思議な言い回し。

「オオカミがとぶひ」 イースト・プレス 2012年8月発行 34ページ
ミロコマチコ/著者

「きょうは かぜが つよい
びゅうびゅう びょうびょう ふきぬける」
「だって オオカミがかけまわっているから」
赤いベロがだらりととびでた鋭い目つきのオオカミの絵が見開き2ページに どーん! と表現されています。体よりしっぽのほうが大きい・・・ 不思議な絵です。前足を伸ばし、しっぽを力強くふりまわし風を切って駆けまわっています。

「とおくで カミナリが なっている
ゴロゴロ ドンドン なっている
ああ そうか
ゴリラがむねをたたいているんだ」
真っ黒いゴリラ、 どーん! 腕が太くて厚い胸板、大きく口を開け叫んでいます。カミナリの音をゴリラのドラミングに例えるのはオモシロイですねぇ。今後は、雷様がタイコたたいてる、でなく「ゴリラがドラミングしてる」という言い回しになるかもしれませぬ。

「かぜに ふかれて かみが さかだった
ツンツン トゲトゲ うえをむく
ああ ちがった
あたまに ハリネズミが のってたのか」
頭の上にハリネズミ、 どーん! 強い風に吹かれた髪の毛ってやっかい。手に負えません。髪の毛がハリネズミになるという表現、わかるようにおもいます。

そう、日常でおこること・感じることを動物たちで例えています。ミロコマチコさんの感覚が面白いですね。
時間がたつのが早く感じるのはリスが時計を早めたから、時間をゆったりに戻してくれるのはカメ(エンデの「モモ」ちょっと思い起こします)、部屋の中のものがなくなるのは、コウモリのしわざ、なのだそうです、彼らのせいだったのだ、テレビのリモコンがなくなるのは!
ちょっと不思議なのは「眠れないのはばっちりトナカイがみているから」
なんでトナカイなんだろう?残念ながらこれには想像がふくらみませんでした。日本にいないからかしら・・

うなずけるのも、う~ん?とおもうのもありますが、作者の不思議な感性がとっても楽しいですよ。ラストの文章「雨がやんでもうかみなりはならないのは、ぼくがねむったから」が面白い。ちょっと哲学なかおりがする(?)。よろしければお手にとってみてください。

ミロコマチコさんの他の絵本
「ぼくのふとんはうみでできている」「オレときいろ」「つちたち」「けもののにおいがしてきたぞ」「まっくらやみのまっくろ」「ドクルジン」巨大な創造主のおはなし。「てつぞうはね」暴れん坊の猫(8kg)てつぞうのお話。読む度泣いてしまう。
エッセイ・画集
「ホロホロチョウのよる」「けだらけ・ミロコマチコ画集」

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第159回 待望あかんぼう

「あかちゃんのゆりかご」 偕成社 2002年1月発行 32ページ
レベッカ・ボンド/作 さくまゆみこ/訳
原著「Just Like a Baby」 Rebecca Bond 1999年

あかちゃんが生まれます!おじいちゃん・おばあちゃん・おとうさん・おかあさん・おにいちゃん、みんな大喜び。
おとうさんは、ゆりかごを作ります。板をすべすべにみがきあげました。
おじいちゃんは、ゆりかごに色をぬり絵を描きます。きりん、しまうま、かば、おさる、ぞう、とりやクジラ、地球に暮らす生き物たち。
おばあちゃんは、ベッドカバーをぬいました。小さな布をたくさん縫い合わせたキルトの素敵なカバーです。
おにいちゃんは、モビールを作りました。これがあればねててもたのしいよ。
しっぽの長いおちゃめな黒いわんこは、ゆりかごに工夫を凝らすみんなのそばにつきしたがっています。
家族みんなが新しい命をそれぞれのやり方で待ち望んでいるのが素敵です。
みんな一度はゆりかごに入って眠り心地を試すのにはくすりときます。多分いや絶対わたしも試します。試さないではいられないほど素敵なゆりかごなんですもの。
あかちゃんの誕生が待ち遠しくて楽しみでたまらない喜びが伝わってきます。子どもたちが大事にされないという悲しいニュースも聞きますので、幸せな気持ちでいっぱいになる絵本でした。
レベッカ・ボンドさんの他の絵本
「ゆきがふったら」「ドーナツだいこうしん」「牛をかぶったカメラマン:キーアトン兄弟の物語」「森のおくから:むかし、カナダであったほんとうのはなし」

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第158回 アポロ!!

宇宙飛行士ではない民間人でも宇宙旅行が夢ではない(高額ですけれど)とか、火星移住計画進行中?とか、アメリカ宇宙軍が編成されたとか、宇宙に関するニュースをよくきく今日このごろです。
そしてこれは人類が初めて月へと旅をした物語の絵本なのである。

「月へ アポロ11号のはるかなる旅」 偕成社 2012年2月発行 40ページ
ブライアン・フロッカ/作・絵 日暮雅通/訳
原著「MOON SHOT THE FLIGHT OF APOLLO11」 Brian Floca 2009年

1969年7月16日、3人の宇宙飛行士が、アポロ11号に乗って、月に向かって飛び出した。
今から(2021年現在)52年前のお話です。地球から月まで往復で「すべてがうまくいけば、1週間の旅」。日数だけで考えると意外と近いなあ、という印象。
本文は簡潔なやわらかい言葉でわかりやすい。リアルな挿し絵がものをいう感じですね。
船長のアームストロング、パイロットのコリンズとオルドリンが、月へと向かう大冒険。地球から離れるに従い段階的に切り離されていくロケット、宇宙の暗さ、冷たさ。月へと向かう思い。
船内のいろんなことも。物品にマジックテープがはりつけられている理由。無重力状態の船内での食事やトイレするコツ。船内、やはり臭ってくるそうです。う~ん。

月への着陸の冒険の臨場感はたまりません。機器の不具合によって着陸に時間がかかり制限時間あと60秒しかない!という状況になっていたのだそうです。
「ヒューストン、こちらは〈静かの海〉。イーグル(ワシ)は舞い降りた。」「ついさっき、駐車場に車をとめたとでもいうような、おちついた声。 でも地球のみんなは大さわぎだ!」ひゅ~!
月からの帰りが2ページなのがあっさりで残念です。もうちょっとページがあってもよかったのでは。
前・後ろの見返しに、サターン5型打ち上げロケット・アポロ宇宙船・月からの離陸のこと・ソ連×アメリカ宇宙開発競争・アポロ計画のことなども少しずつですが解説あり、情報満載。
1972年12月から人類は月に降り立っていないそうです。これから身近になっていくのでしょう。やっぱり行けるなら行ってみたいものですね。幼い方々がこの絵本を読んで宇宙に興味が湧いたらば幸いと存じます。

著者のブライアン・フロッカの他の作品
「走れ!!機関車」1869年アメリカ大陸横断鉄道に乗った家族のおはなし。当時の列車の旅がどんなだったかわかります。機関室内の描写もアリ!
宇宙開発が題材の読みやすいSFもついでに。(わたし好みですのでお好みに合わなくてもお許しを)
「火星の人/アンディ・ウィアー」映画にもなりました。アクシデントで火星でたった一人、でもへこたれない主人公マークがとにかく魅力的。「夢みる葦笛/上田早夕里」SFいろいろ短編集。「プラネテス(全5巻)/幸村誠」スペースデブリ回収業の青年の成長。マンガです。「タフの方舟(全2巻)/ジョージ・R.R. マーティン」最強の宇宙船・方舟号をめぐる人々と商魂たくましい(猫好き)タフの駆け引きがグッド。ゲーム・オブ・スローンズ作者です。