に投稿

第151回 旅する犬エルネスト

「エルネスト  たびする いぬの ものがたり」 フレーベル館 2009年8月発行 24ページ
ヨッヘン・シュトゥーアマン/作、文 関口裕昭/訳
原著「Ernesto -Eine lange Reise auf kurzen Beinen-」 Jochen Stuhrmann 2006年

表紙の3つも浮き輪をつけた犬、エルネストが主人公です。旅する犬の物語です。
生まれ育った自分の街が大好きな犬のエルネスト。月曜から日曜日まで、毎日毎日、同じリズムで決まった通りに生活してきました。決まった毎日を繰り返す満たされている毎日。
ある日、絵葉書がおうちに届いたのです。外国から、しかも見たこともない文字でかかれた絵葉書。写真の島の景色もまったく見知らぬ場所。彼に葉書を送ってくれそうなひとに心当たりはありません。いったい誰が送ってきたのだろう。好奇心が彼を突き動かします。
どこから来たものなのか、あちらこちらといろんな動物にたずねて歩き、なんと外国へ出発。彼の行動力にはおそれいります。
結局、絵葉書は間違って届けられたものと判明。本来受け取るべきひとへと手渡すことができ、ほっとしたエルネストですが・・・。初めて受け取った絵葉書が、自分宛ではなかったことが悲しくなってしまったのです。やや無表情にかかれたエルネストですが目を伏せた悲しげな表情が胸を刺します。(抱きしめてやりたい。)
長い旅から戻り、自分の家の前にあるものを見たときのエルネストの顔が楽しいです。
いつもと同じ生活に満足していたつもりですが、思い切って住み慣れた街を飛び出し冒険してみたら、たくさんの出会いがありました。ちょっと勇気がいりますが一歩踏み出してみると新しい楽しみを見つけることができたのです。

作者のヨッヘン・シュトゥーアマンの挿絵は、なんだか不思議な味わいがあります。油絵のように色を重ねて塗っています。木彫りのようにやや角張っているなかにも曲線が組み合わさって、なんともかわいい造形です。
エルネスト以外にも、ネズミ・カンガルー・ゴリラ・モグラ・アナグマ・ペンギン・イグアナ・・などなど動物たちがたくさん登場しますがたいてい二足歩行で服も着ています。ただエルネストだけは犬らしく4本足で駆け回っているんですよね。なんででしょうね?扉絵の長い耳をだらりと伸ばして伏せたエルネストはこれほんとかわいいですね。
動物たちはみな個性的で、街や部屋の中の椅子やポスターなどの小道具なども描きこまれていてながめていると楽しいです。わたしは特に刺青のたくさん入った関西弁の口下手なセイウチが好みでした。
あとひとつ不明なのは、エルネストのお隣さん(全体が緑色でまゆげ太く目が大きい)は、なんの生き物なのかしら。

シュトゥーアマンさんの他の邦訳された書籍は
「ニコとねずみのすてきなせかい」「せかいいっしゅうビッグラリー」「はだかのサイ」

に投稿

第30回 みんなで楽しく住む家を設計します。

「ドワーフじいさんのいえづくり」 フレーベル館 2003年10月発行
青山邦彦/作・絵

気難しいドワーフじいさんが家を建てようと、設計図を書いています。狭くて暗い洞窟暮らしはもうたくさん。見晴らし台のある一軒家を作ろうと模型まで製作している気合の入れよう。
さて建築を始めたのですが、木材が重くて大変。それを見たクマが、運ぶのを手伝うのでぼくの部屋も作って、と言い出した。アナグマ・イタチ・イノシシ・ウサギ・オオカミ・サル・キツツキ・キツネ・鹿・スカンク・タヌキ・フクロウ・鳩・ネズミ・ムササビ・リス・・・傍若無人なほどとつぎからつぎへと動物たちが増え、作らねばならぬ部屋がどんどん増えていきます。設計図がどんどん書き足されすごいことになっています。ついには、ドワーフじいさんの見晴らし台を作る場所がなくなってしまいました。というとなんだか悲しい話になってしまいますが、みんなで楽しく過ごせるおうちが出来上がりました。
動物たちの頑張る様子がかわいくて面白いのです。クマやサルたちは器用に手を使って仕事が出来ますが、手指のない鳥類など小さな生き物たちもそれぞれ工夫してみんな頑張ってるのが書き込まれています。鹿の上にオオカミとキツネとタヌキとウサギが乗って作業している絵がすごくいいんですねえ。ドワーフじいさんは気難しいと言われているけれど、動物たちが集まるのは、みんなに好かれているから、ですね。設計図と建物を見比べるのも楽しいです。ものづくりが好きな方は、心のどまんなかにくるとおもいますよお〜。建築家出身の作家さんとのこと。わくわく素敵な絵本です。

 他の作品に・・
「こびとのまち パロル舎」こちらは、小人と人間が共存するためのおうちを設計するお話。
「江戸の妖怪一座 フレーベル館」お江戸の芝居小屋。演じる役者たちがどんどんやめてしまい、座長が困っています。そこへ妖怪たちが出演したい・・・ともちかけます。江戸の俯瞰図が素晴らしい。
「大坂城」のちの豊臣秀吉が築城した大坂城の建築風景を細かに細かに描き込んでいます。建築のウンチクも下部に掲載。勉強になります!子供忍者3人がどのページにも隠れていて探すのが楽しいよ。 ほかにも著書たくさん。



に投稿

第26回 オオカミだって学ぶ

「おおかみだって きをつけて」 フレーベル館 2014年発行
重森千佳/著

3匹のこぶた、7ひきのこやぎ、あかずきんちゃん・・・昔話や絵本で、常に負けてきたワルモノたるオオカミ。そう、彼らも学ぶんです。それを、オオカミ目線で描いた絵本です。

どうすれば獲物を捕まえられるか、鍋で煮られないように、狩人につかまらないようにするにはどうするか。おばあちゃんの忠告や本から彼らがどれだけコワイのか学んでいる、この絵本の主人公のオオカミくん。
7匹の子ヤギはなんと、首からハサミをさげています。(オオカミ視点で見ればホラーですよね。かわいい挿絵なのに。)あかずきんちゃんにお花を摘んでおゆきなさい・・・とそそのかしたのに、彼女は先にばあちゃんのお宅へ着いていて、オオカミを戸口で出迎えます。
そう、やはりオオカミの敗退が描かれます。こひつじやこぶたやあかずきんちゃんのほうが絵本では一枚ウワテなんですね。弱きものが食べられずにほっとするけど、オオカミくんのお腹を満たしてやりたいというなんだか微妙な相反する気持ちになります。

作者のイラストがほんと素敵です。お部屋の中の小物や洋服などが書き込まれていて、とても可愛いくて、1ページ1ページ眺めるのが楽しい。青を基調としたオオカミくんのお部屋が特にカワイイんです❤肩からさげたバッグがおしゃれで、私も欲しい〜。

絵本のラスト、反撃されず命は奪われずにすんだ、と安心して眠りにつくオオカミくん。おなかはペコペコですが。リンゴで飢えをしのいだ形跡があります。捕食者なのに優しいっていうか、不甲斐ないオオカミくん。でもそこがイイ❤明日は羊のお肉が食べられるといいね、とかいうとなんか残酷に聞こえますか。
オオカミも学ぶけど、オオカミに狙われる彼らもさらにずる賢くいえいえ賢く学んでいます。そりゃそうですよね。食べられたくないですもん。オオカミは現実ではただただ強者なので、こういう遊んだ設定の絵本は楽しいですね。



に投稿

第3回 ぐずるドラゴンがかわいらしい絵本

「もっかい!」 フレーベル館 2012年発行
エミリー・グラヴェット/作・絵 福本友美子/訳

 ぐずるドラゴンなんてありそうにない、のが面白いこの絵本。
幼いドラゴンのセドリックが主人公です。おやすみ前に、お母さんドラゴンが、絵本を読んでくれました。まだねむくないので、もっかい読んで、とせがみます。もっかい!という舌足らずな言葉も可愛らしい。セドリックではなく、母ドラゴンのほうが眠くなってきてしまい、読む内容が適当になっていくところが面白いんです。(本の挿し絵も適当になっていくのですよ。)ちゃんと読んでママ、とセドリックがいらだちはじめ、体がだんだん赤~い色になっていきます。可愛いんだけれど子供といえ、ドラゴンなだけあって愚図りが強烈です。怒り爆発! 強烈な炎をはいて、焼けこげが!(裏表紙を先に見ないことをおすすめします。)

 お子さんと一緒に読むととっても受けそう。おやすみ前には逆効果になりそうな楽しい絵本ですが、もしかしたら小さなドラゴンの登場する楽しい夢が見られるかもしれません。



に投稿

第1回 猫の本

なちぐろ堂は、科学史関連の書籍の収集に力を入れております。店員の私は、「子どもの本」に興味がございます。
このブログでは、おもに絵本・児童文学のご紹介してまいります。一話一冊ピックアップの予定なのですが、しょっぱから規定破り3点のご紹介。「なちぐろ堂」という店名は猫からもらったものであることと、猫およびネコ科の生き物がとても好きなので、最初はやはり「ねこ本」を選書しました。よろしくどうぞおつきあいください。

「せいくんとねこ 」フレーベル館 30ページ
矢崎節夫/作 長新太/絵

魚をめぐる、”せいくん”と”ねこ”の攻防。両者、我こそが魚を食べるにふさわしいと 主張します。最後はせいくんに軍配が上がりますが、ねこに魚のあたまとしっぽをあげるせいくんの優しさがうれしい。気弱なだけかもしれませんが。長新太さんのカラフルなふにゃぁ〜っとした絵も楽しい。

「ネコのタクシー 」福音館書店 84ページ 2001年5月発行
南部和也/作 さとうあや/絵

 トムは速く走るのが特技のネコ。足を骨折して仕事が出来ない飼い主のランスさん(タクシー運転手さん)のかわりに、特技を生かし ネコ専用の小さなタクシーをはじめます。お母さんから教わった生きる知恵を、トムが時々思い出すところがとてもかわいらしいのです。母の言葉はすべて正しい、と鵜呑みにしていないところもおもしろくって好感がもてますね。絵本よりは文字多めなので、読むのなら小学低学年くらいからでしょうか。とても楽しい読み物です。「ネコのタクシー アフリカへ行く」という続きもでています。

「すてきなレインコート 」フレーベル館 34ページ
西村祐見子/作 松永禎郎/絵

 ぬいものがすきなおばあさんのおうちへ、猫のミケがぬいものを教えてほしい、と布をもってやってきました。それは見事なうすみどりの生地。ふしぎに ほんのり あまいかおりがするのです。このすてきな生地でミケは何をつくるのでしょうか。残念ながら、タイトルで何を作るかわかってしまうので ちょっとさびしいのですが、誰のために作ったのかわかると 心がほんわり温まる素敵な絵本。猫が主人公の絵本はたくさんありますが、不思議に素敵な生地の出てくるこの絵本が好きです。

手に入れやすいかどうかはお構いなしの選書です。ごめんなさい。
今後もねこ絵本に限らず、面白い絵本・児童書をご紹介していきたいと思っております。