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第124回 闘う本屋

「ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯」 あすなろ書房 2015年2月発行 179ページ
ヴォーンダ・ミショー・ネルソン/著者 R・グレゴリー・クリスティ/イラスト 原田勝/訳
原著「NO CRYSTAL STAIR」 Vaunda Micheaux Nelson R. Gregory Christie 2012年

1939年に、黒人がかいた、黒人に関する書籍や資料を扱う書店、「ナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストア」を開いた、ルイス・ミショーの評伝。著者は、ルイスの弟のお孫さん。
最初の品揃えは、書籍5冊だけだったそう。黒人が多く住む、ニューヨーク・ハーレムで本を提供しました。
本を読み、自分たちのルーツを知り知識を得て力とすること。そして肌の色の違いといういわれない差別や偏見と闘ったんですね。
ルイスの破天荒な少年~青年時代、実業家の父と伝道師であった兄など家族のこと、兄を支え教会の仕事をしたこと、44歳でハーレムで本屋を開店したこと、ラングストン・ヒューズの詩を引用したり、書店へやってくるお客さんの言葉、FBIの記録などが年代順に描かれています。黒人解放運動家のマルコムXも常連でたいへん親しくしていたそうです。

「ここに知識がある。きみには、今日、知恵に続く道を歩きはじめることより大切な用事はあるかい?」「あるさ。仕事をみつけなきゃならないんだ!」「頭に知識を入れることより大事な仕事はない」p.67
「きみを死ぬまで支えてくれるのは、頭の中に入れたものだぞ」p.84
本を売るということだけでなく、力強いメッセージを発信し続けました。とても魅力ある書店だったんですね。
もうこのお店はありませんが、知識を求めやってくるお客さんたちで活気あふれるお店を一度のぞいてみたかった。

わたしも古本屋をしていますから商売という観点からも勉強になりました。彼のまねはとてもとてもできませんが。
「わたしは、だれの話にも耳を傾けるが、誰の言い分でも聞きいれるわけじゃない。
話を聞くのはかまわないが、それをすべて認めちゃいけない。
そんなことをしていたら、自分らしさはなくなり、相手と似たような人間になってしまうだろう。
勢いこんで話してくれる人を喜ばせ、それでも、決して自分を見失わずにいるには、けっこう頭を使うものだ」p.161
発行したあすなろ書房がおもに子どもの本を発行しているためか、児童書の区切りで紹介されることが多いようですが、子供だけでなく大人にもぜひ手にとっていただけたらとおもいます。



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第108回 生命の樹 チャールズ・ダーウィンの生涯 みっしり緻密な絵本

「生命の樹 チャールズ・ダーウィンの生涯」 徳間書店 2005年6月発行 40ページ
ピーター・シス/文・絵 原田勝/訳
原著「The Tree of Life」 Peter Sis 2003年

博物学者、地質学者にして思索家、チャールズ・ダーウィンの生涯を描いた絵本です。
ページいっぱい緻密に描かれたイラストが読み応えがあります。
まずは、チャールズ・ダーウィンの生い立ちから。
父の望む医師や牧師という職業が好きではなく、植物や生き物や化学の実験に興味がありました。
南アメリカを調査するための船「ビーグル号」に博物学者として乗船するために、父を説得しますがその方法が面白いです。父の反対する理由を書き出し、母方の叔父にその反論を書いてもらいました。母方の祖父は、陶器メーカー”ウェッジウッド”の創業者なのですね。

それからビーグル号のこと。
ビーグル号の探検の出来事がみっしり描かれています。ダーウィンの旅日記とともに、乗船の費用や携行品、スケジュール、航跡、船の見取り図も!旅行中のハプニング、出会った異国の人々、植物・昆虫・鳥・猿・蛇などを標本にしたり、化石をほりだしたこと、ガラパゴス諸島での発見、などなどなど・・ 1831年12月27日~1836年10月2日、約5年の旅でした。
旅の終わりの方の日記には「わたしは憎み、かつ、呪う。海を、そして、海を行くすべての船を。」5年も船に乗ってるとそう思うようになるのでしょうか、もう船旅はうんざりだ、といった調子の文章があり吹き出してしまいました。わたしも一ヶ月ほどバイクで長期旅行をしましたが、天気の悪い日には旅することに疲れを感じることがありましたので共感しました。

そして探検ののち。
英国に戻ったダーウィンは、ビーグル号での調査での発見で、生物たちは様々な厳しい自然の環境により長い時間をかけて変化=進化していくのではないか(自然選択説)、いう説をかんがえたのです。
「地球上の生物は、何億年もかけて、一本の木が枝分かれするように生まれてきた。いわば、生命の樹である。」
化石や動物の分布などを観察し事実を積み重ね、1859年に『種の起源』をかきあげました。
「当時はまだ、あらゆる生き物は、神が最初から今の形に創造したと信じられていました」から、ダーウィンの説は非常に強い反発がおこり、大論争が起きます。「まるで自殺を告白したかのような気持ちです」神の教えに背くと感じるダーウィンの苦悩も描かれています。
「たとえ自分ではどんなに気に入っている仮説でも(しかも、わたしはあらゆる問題について仮説をたてずにはいられないのだが)、それに反する事実が明らかになれば、すぐにその仮説をすてられるよう、つねに心を自由にしておく努力を重ねてきた。」
一本芯の通ったこの考え方は人生の教訓としても忘れないでいたいとおもいます。

絵本としてはかなりの情報量ですが、ダーウィンの生涯について、さらりと要点把握できました。独特ですが美しい緻密な挿絵、小さめな文字でたくさんのことが、書き込まれてじっくり眺めて楽しめます。ご興味持たれた方はぜひどうぞ手にとってみてください。ですがやや老眼を感じるこの目には少々つらかったかな。拡大鏡を準備されておくと便利です。
けれど、たった160年ほどまえのことなんだなあ、とも感じました。人間の進化はどこまで行くのでしょうか・・

ピーター・シスの他の本に
「夢を追いかけろ」「星の使者」「飛行士と星の王子さま」クリストファー・コロンブス、ガリレオ・ガリレイ、サン=テグジュペリなどの伝記絵本
「かべ:鉄のカーテンのむこうで育って」チェコスロヴァキア生まれのシスの自伝的絵本
「マドレンカ」ニューヨークで暮らす女の子マドレンカの楽しいシリーズなど、たくさんあります。



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第59回 夜のあいだに

ターコイズブルーの闇夜に輝く月、そしてちょっとブキミなフクロウの表紙に惹かれ、手に取りました。夜のあいだに、いったい何が起きるのでしょうか。

「夜のあいだに」 ゴブリン書房 2019年6月発行 42ページ
テリー・ファン/作 エリック・ファン/作 原田勝/訳

垣根は壊れ、窓には板が打ち付けられ、荒んだ印象のグリムロック通り。「こどものいえ」に住むウィリアム少年。
ある朝、すまし顔のフクロウの形に刈り込まれた木が出来上がっていました。そしてその翌朝は大きなネコが。人懐こそうなウサギ・きれいなインコ・楽しげなゾウなど、一夜明けるごとに、素敵な動物が形作られていきます。通りに住む人たちが、楽しみにしているのがわかります。ウィリアムも、朝になると大急ぎで見物にでかけます。大作のドラゴンが素敵です。夜には提灯を灯し幻想的になっているのがまた素敵。そして、ウィリアム少年は、夜のあいだに木々を刈り込んでいた庭師に出会い、お手伝いを頼まれます。公園にあるたくさんの木々を刈り込むのです!

そして町には秋がきて、謎の庭師が刈り込んだ木々の葉は落ちていき、もうその痕跡はみつかりません。けれどグリムロック通りに住む人々の気持ちに変化が生まれています。家の屋根や窓は修繕され、庭に植物を植え、お家の窓のウインドウボックスに花を飾り、子供たちは通りで遊びます。緑の木々と少しの工夫が人々の心を明るくしました。庭師のおじいさんからの刈り込みバサミという贈り物をもらい、暗い表情だった少年の顔にも希望があります。
グリムロック通りは、様々な国籍の人たちの住む町のようです。ウィリアムの家庭環境や謎の庭師の詳しい正体など、そういったことは言及されません。想像の予知があるので謎のままというのもいいものですね。