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第102回 よるのまんなか、静かな夜に目を覚ますおはなし

よるのまんなか、ちょうちょも ありんこも ゆめのなか。
よるのまんなか、くさもきも みいんな みんな ゆめのなか。
みんな眠っている静かな夜に、目を覚ました「れいぞうこ」「かまきりくん」「みずたまり」「あかちゃん」「チューリップ」の5つの夜のおはなしです。
夏に読むと、気温がすこーし下がって涼しくなるような気がします。暑くて眠りづらい夜にいかがでしょう。

「よるのまんなか」 理論社 2019年9月発行 56ページ
おくはらゆめ/作 絵

「れいぞうこ」のおはなし
夜に目を覚ましたれいぞうこ。静かな夜だとぶ~んぶ~んとうなっているのがやたら気になる冷蔵庫は、夜起きてきそうなイメージですよね。うまいとおもいます。
さんぽにいこうかな、と冷蔵庫がのしんのしんと歩きだすのには、ちょっとびっくりします。野原にたたずむ冷蔵庫のうしろに電源コードがのびている、そんな挿絵がかわいらしい。
宇宙の図鑑を持ち出して、月や星座のページを見ながら空を見上げます。
「みえないけれど、うちゅうには もっと いろんな ほしがある」
そうつぶやいてどきどきする、れいぞうこ。
ああ、この冷蔵庫と友だちになりたい、とおもいました。
トマトのくだりのオチもいい。あっトマト食べたくなっちゃった。
「かまきりくん」
透きとおるような黄緑色の肌。なんでも切り裂けそうなとがった指先。きらりと光るつぶらな瞳。そんなかまきりちゃんに恋する、かまきりくんのおはなし。恋のせいで夜に眠れないかまきりくん、昼間に眠ってしまい夜に目が覚める。朝と夜が反対になってしまったのです。
月を見ても蝉が鳴くのをきいても、あの子をおもいだしてしまうので、恋の俳句をたくさんつくる、いつかきっと気持ちを伝えようと。
カマキリの恋は命がけ(交尾後、雄は雌に食べられることがあるそうです)とききますので、読んでいてなんだかドキドキするのです。・・・・かまきりくんに幸あれ。
「あかちゃん」
夜の真ん中、あかちゃんが静かに目を覚まします。外からうたが聞こえてきた。ふしぎなふしぎなうた。
けむくじゃらでくまみたいな大きな大きな生き物が浮かんでいます。目と足がたくさんあって、どこまでも長い足、ぎざぎざの歯が月でぎらりと光ります。 ここでホラーになりそうですが、だいじょうぶだいじょうぶ。
けむくじゃらの手が伸びてきてあかちゃんのからだをつかむと、そのまま外へ連れ出します。
すわピンチか、とおもうところですが、なんとも優しいいきものです。その大きな生き物のむなもとには、けむくじゃらのあかちゃんがいるので怖くなんかありません。目を にやり、とさせるそのあかちゃん、いたずらっこのかお。
けむくじゃらおかあさんは、ふたりをゆったり包み込むように抱いて、やさしいやさしい不思議なうたをうたってくれます。
寝る前に読むと、すぐに眠たくなりそうなこのお話が、寝付きのよくないわたしは特に好きです。わたしのそばでもうたってくれないかしら。
他の2つ「みずたまり」「チューリップ」も、楽しいお話です。
まよなか、じゃなくて「よるのまんなか」という言葉が不思議で楽しくてうつくしい。
夜の静かな時間のおはなし、想像力が広がります。おやすみ前にぴったりとおもいます。

作者のおくはらゆめさんは、絵本「ワニばあちゃん」でデビュー。ワニばあちゃんと鼻の穴にくらすありじいちゃん。不思議系な楽しいお話。なぜか関西弁のワニばあちゃんがかわいい。
おすすめは
「くさをはむ」朝昼夜、毎日毎日、草をはむ、シマウマの一日。草の気持ちになってそよそよとたつシマウマのこどもが楽しい。
「わたしといろんなねこ」余計な一言を言ってしまうあやちゃん、友だちが大好きなアイドルの話ばかりするのにいらっとしてしまってケンカしてしまいました。あやまりたいけどどうしても言えなくて悩んでいます。おうちへ帰ると、部屋のドアに大きな大きな猫がなぜかはさまっています。大好きな猫や亡くなった祖母のおはなしに絡めて友だちを大事にする方法を一生懸命考えていきます。友だちつきあいがちょっと不器用なあやちゃんと不思議な猫の素敵なお話です。
ほかにも「チュンタのあしあと」「まんまるがかり」「バケミちゃん」「やすんでいいよ」「シルクハットぞくはよなかのいちじにやってくる」など著書多数。



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第98回 職場体験

「天使のにもつ」 童心社 2019年2月発行 223ページ
いとうみく/著 丹下京子/絵

中学2年生、斗羽風汰(トバ フウタ)。
あるお店・会社へ行って5日間お手伝いするという「職場体験」に、保育園を選びました。ちびっこの相手してればいいんでしょ、楽そう、というのが理由。
返事を「はい」ではなく「うん」って言っちゃうし、前髪をちょんまげみたいに結わえていて、語尾も「~っす」だし、体験先へパキパキに折れあとのついた書類を平気でだしたりする。
今の中学生にしてもちょっと世間知らずな感じ。敬語・丁寧語の存在すら知らなさそうなそんな中学生が、保育園に職場体験なんてだいじょーぶなのかい、と心配になる始まりだし。
案の定、保育士の林田先生は、中学生にしたって幼稚で無礼なフウタにかちんときている様子。それはそうでしょう、保育士としての技術も心得もないうえに、かる~い気持ちでやってきた少年を受けいれて仕事を教える、ってすごく大変ですよね。度量の大きな保育園ですよほんとに。

職場体験がはじまるというのに、おまけに子犬まで拾ってしまう風汰。団地なので引き受けるわけもいかないのに先を考えず連れ帰って倉庫にかくまってしまいます。そんなとき、まーくん先輩という3歳上の近所のおにいちゃんが手助けしてくれます。まーくん、いい子です。

保育園には、家庭事情が様々な子どもがいます。
2・3日で治るほっぺのひっかき傷に腹を立てて怒鳴り込む親。仕事があるからと熱を出た子供を迎えに行けぬ親。
風汰の通う保育園にも、児童虐待されているおそれのある子供がいます。しおん君、4歳。
こどもたちは、おかあさんおとうさんが大好き。うそをついても嫌われるようなことはしない。愛されたくて、困らせたくなくて、そばにいてほしくて、むりやり笑顔を作る。まだ4歳なのに。

愛されない子どもを助けるには、風汰は子どもなのです。自分が無力であることを素直に受け止め、それでも今何ができるかを考えようとしています。
危機にある命を守るために、自分なりに手をのばすということ。風汰の成長がとても心地よい。

そして、ほかの登場人物も魅力的です。
風汰を受け入れてくれた保育園の園長先生。
「子どもがどうしたらその子らしく、幸せに生活することができるか。その子の持っている力を引き出すことができるか。正しい成長や発達を遂げることができるか、とかね。そういうことを考えて保育しているの。」たったの5日間だけしかやってこない世間知らずの風汰にきちんと向き合って説明しています。ほんと度量の大きい素敵な大人です。
林田先生も、わかりやすく例えで説明しようとしてくれます。「保育園はサービスじゃない。お母さんのためじゃなく子どものためを第一に考えてるんだってこと」。
そして、まーくん先輩。彼の職場体験は老人ホームでした。曾祖母が認知症による徘徊をし交通事故にあったという体験を話してくれます。風汰がしおんを心配する気持ちを察して寄り添ってくれます。ほんと、まーくん、いい子。
みんな、風汰を支えてくれています。

作者のいとうみくさんは、「糸子の体重計」「かあちゃん取扱説明書」「車夫(3巻まで既刊)」「カーネーション」「唐木田さん物語」「トリガー」などたくさんかいておられます。ユーモアのある軽い口調のお話もありますが、「カーネーション」はかなり強烈なYA作品。娘を愛せない母・母に愛されたい娘の厳しい状況を描いているかなり重いお話です。
どれも読み応えがあります。よろしければ手にとってみてください。



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第96回 銃声がしたら

「エレベーター」 早川書房 2019年8月発行 317ページ
ジェイソン・レナルズ/著者 青木千鶴/訳 サイトウユウスケ/表紙装画

アパートの外で、友達とおしゃべりしていた。そこへ銃声が響く。
そんなときは、駆けだしたり、地べたに突っ伏したり、物陰に隠れたり、ぎゅっと身を縮こませたり。小さいころから叩き込まれている行動をとる。流れ弾があたらないように。
銃声がやんでもしばらく待つ。あたりが静まりかえったら身を起こし、いったい何人が殺されたかと、物陰から顔を出して通りを見る。
今日は、一人だけ。自分の兄だけだった。

掟1,何があろうと泣いてはいけない。掟2,密告はするな。掟3,愛する誰かが殺されたなら殺したやつを見つけだし、必ずそいつを殺さなければならない。父から子へ、兄から弟へ、年長のものから年少のものへ伝わっていく掟。

掟により、兄を射殺したものを殺すため、兄が残した銃を腰にさし、エレベーターに乗って階下へと向かう少年。
友人、叔父、父、そして兄を、銃によって奪われている。けれど、掟は、復讐することは、殺人は、ほんとうに正しいのか?迷いながらも銃を手にする。階下を目指すエレベーターで出会う人々の言葉に耳を傾けてみましょう・・・・・

著者のレナルズの最初にだした本は詩集でした。この書籍も、詩のような、少年と会話しているような短い文章です。
愛するものを突然奪われる悲しみ苦しみが、ダイレクトにつたわってきます。
掟という名の憎しみの連鎖について考えたいとおもいます。
銃声がしたら、逃げろ、伏せろ、隠れろ。何度もでてくるフレーズです。こんなにも危険が身近であるのが恐怖です。銃の是非はすごく難しい問題ですが、銃規制のある国に住んでいることはやはりありがたいことだと感じました。



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第91回 美しい幻の庭で

ラストにふるえがきちゃうこの児童文学が大好きなのですが、ねたばれさせずにご紹介するのは難しいお話。想像がついちゃった、という方には先にお詫びいたします。わかったとしても素晴らしいお話ですので、よろしければどうぞ手に取ってみてください。

「トムは真夜中の庭で」 岩波書店 邦訳初版は1967年12月発行 304ページ
フィリパ・ピアス/作 高杉一郎/訳 スーザン・アインツィヒ/挿絵

今年の夏休みは、リンゴの木にツリーハウスを作るという楽しい計画をたてていたのに、弟がはしかにかかってしまいました。病気がうつらないようにと叔母の家へとあずけられることになったトムのお話です。
叔母と叔父の家は、昔は一軒の大きな邸宅だったものをいくつかに区切ってアパートになったものでした。立派な建物ですが、敷地は狭く小さな庭すらもない見知らぬ建物にはよそよそしさを感じ馴染めそうにありません。ただ玄関ホールには、00分になると時刻の数だけ鐘がなる大きな柱時計がありました。ですが、ただしい時刻どおりに時を打つことがありません。少なかったり多かったりと不正確なのですね。大きな鐘の音が2階の部屋にいても聞こえます。この時計には心がひかれています。けれど案の定、時計にはさわってはいけません、と叱られます。3階に住むこの邸宅の持ち主、バーソロミュー夫人がとても厳しい人だから。

すでにはしかに罹っている可能性もあるので、外にはだしてもらえません。叔母は大事にしてくれますが、仲の良い弟や両親のもとから強制的に隔離されてしまったトムの寂しさがぎりぎり伝わってきます。運動不足や外にでられないストレスなどで眠れずにいると、あの大きな時計が13も鐘をならしました。13時なんてありはしないのに。階下へおり、外への扉をあけると、素晴らしい庭が広がっていました。こんな庭はないはずなのに。木登りできる立派なイチイの木、ヒヤシンスが咲いて、温室もあって、かくれんぼしほうだい、広くて美しい庭に夢中になるトム。どうやら、時計が真夜中に13の時を打つと、この素晴らしい庭へと行けるようになるのです。夜になるまで、じっと我慢。それがまたわくわくを誘います。この庭は不思議です。時が戻ったり進んだりするのです。しかも、庭園で出会う人にはトムが見えていないのです。

しかし唯一、トムを見ることのできるハティ・メルバンという少女に出会い友達になります。ちょっと嘘つきで夢見がちな女の子でしかも年下なのが、ちょっと不満だけど。実はハティは両親を失った寂しい身の上であることがわかります。トムは決してばかにしたりはしません。理屈っぽい叔父には反発して生意気を言いますが孤独なハティに優しい。それがうれしいんですよね。
会うたびにハティはどんどん大人になっています。この素敵な庭にトムがやってこられるのはなぜなのか。大時計とこの庭が関係あるようですがそのなぞにせまることができるのか。凍りついた川をスケートで遠くの町まで滑っていくの二人の冒険の最後の切なさ。この美しい庭園を共有した時間とそして最後に庭を失ってしまった二人の想いに何度読んでも涙がこぼれてしまいます。
ラストまで一気読み。ためいきがでます。現在のこどもたちにもわかるよい児童文学とおもいますが、ほんのり胸のあたたまる思い出や時の過ぎいく切なさを知る年齢の方々にはもっと共感できるのではないかとおもいます。



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第81回 最強のおばあちゃん といえばこのひと!

「シカゴよりこわい町」 東京創元社 2001年2月発行 190ページ
リチャード・ペック/著者 齋藤倫子/訳者

1929〜1935年のアメリカが舞台です。1929年は、アメリカで大恐慌がはじまりました。世界中で経済が不安定になり、企業や銀行が倒産し、職や住む家を失う人がたくさんではじめる苦難の年でした。
9才のジョーイと7才のメアリ・アリスのダウデルきょうだいは、父方の祖母の住む小さな町で、夏の一週間を過ごすことになります。シカゴという大きな街に住む二人ですので田舎町は退屈・・とおもっていたら、とんでもない。7つの夏の一週間を、とても刺激的に過ごせるのでした。おばあちゃんは、大ぼらをふく、銃をぶっ放す、密漁する、ニセのコレクターものを作ってバザーで売る・・・などなどタフでしたたかな女性です。

ある夏では、家の前の郵便受けをチェリーボム(さくらんぼのようなかたちの爆竹)で爆破されました。金属でできている郵便受けが粉々になっているのでわりと威力ある爆竹のようですよね、なんて危ない!町の荒くれ者、カウギル兄弟のしわざです。彼らをこらしめる算段をするおばあちゃんがちょっと怖くも素敵。(ついでに隣人にもいたずらを仕掛けたようですが・・)
またある夏では、町を牛耳る見栄っ張りな銀行家の奥さんを、発展百周年記念のお祭りで、鼻をへし折ってやります。とことんまでやり抜くばあちゃんが素敵。ショーのダンスがロマンチックでとても好きです。(メアリ・アリスに言わせればちょっと違うようですが・・)

彼女のやり方は、かなり強引で乱暴ではあるけれど、その行動の本当の意味がわかると、ユーモアにあふれた正義感の強い人であるとわかります。無愛想だし子供をからかうのが好きだけれど、格好いいおばあちゃんとわたしも一緒に夏をすごしたいです。

そして料理がお上手。コーンシロップをたっぷりかけたパンケーキ、スパイス入りりんごジャム、ナマズとジャガイモのフライ、スグリのパイ、サワークリームレーズンパイそして自家製ビール! たまらなくおいしそうなお料理がたくさんでてきます。サワークリームレーズンパイ、おいしそうだなあ。

近所付き合いをしない、めったに本心をみせない、おばあちゃん。ハグなんか絶対にしないでしょうね。けれど最後の最後に深い愛情を見せ、物語をぐっと締めます。涙がこぼれます。
ダウデル夫人が人付き合いを避ける生き方をするのには、理由があったのでしょう。彼女の過去に何があったのか興味が湧きますが、ほとんど明らかにされません。それもまたよし。
おまけに、おばあちゃんのファーストネームも明らかになっていませんが、あまり謎におもわないのは、彼女の人となりがきちんと描かれているからだろうと思います。
さらにおまけに、気の弱いメアリ・アリスがおばあちゃんに影響され、強い女になっていくのが痛快。「なにもわかってないのね。男って、ちっとも女のことなんてわかってないんだから」という12才の少女のちょっとたどたどしいこのセリフが好き。
愛すべき最強のおばあちゃんといえば、この方をわたしは思い出します。大好きな物語です。興味引かれましたらどうぞ手にとってみてください。

「シカゴより好きな町」続編のこちらは、高校生のメアリ・アリスの視点で描かれた作品。理由あってばあちゃんの町で1年を過ごします。「シカゴよりとんでもない町」ばあちゃんのお隣りに引っ越してきた牧師一家の息子が語り手です。一家の家計は火の車で、教会は傷みがひどくて信徒が少ない、学校ではいじめがあったりとなかなか深刻です。巻ごとにお年を召していき、3巻ではばあちゃん90才を過ぎているようですが、むろんお元気!そして痛快!