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第80回 ひげとらいおん

「ちょびひげらいおん あかね幼年童話」 あかね書房 1977年9月発行 69ページ
長新太/作・絵

「絵本ナビURL」貼り付け、そのまた下に「画像アフィリ(divでかこむ)」貼り付け
長い長いひげをはやしたライオン。挿絵を見るに3・4mほどでしょうか。長いですね!毎日のひげそりを怠ったのでそこまで伸びちゃったのでしょうか。あまりに怠惰。しかしそこが面白さの発端なのです。
ひげが長くて苦労しているという話から、そのひげをヘビにかじられてしまって苦労し、やっとヘビをひきはがせたとおもったら、ひげが木の枝にひっかかって大風にあおられ凧のように舞い、とうとう・・というなんとも反応に困るシュールな童話です。オチがタイトルなのも、いいですネ。
この本を読んだ小さな人たちが、どんな反応をするか、見てみたいものです。
作者はきっとにやにやしながら書いたんだろうとおもうのですが、それを想像しますとまた楽しい。
なぜこういう展開になるのか・・と不思議な筋立ての楽しい絵本をたくさん描いておられる長新太さん。ナンセンスの神様、という異名をお持ちだそう。なるほど。
多分わたしが長新太さんの作品で初めて読んだのは「ごろごろにゃーん/福音館書店」。意味不明さに圧倒されました。ごろごろにゃーんごろごろにゃーん飛行機に猫がのりこみ、ただただ飛んでいく・・というお話です。が、意味不明さに圧倒されました。雑誌・母の友に掲載されていた「なんじゃもんじゃ博士」も好きでした。博士とアザラシが旅していくというただただそれだけなのですが、なんだか面白い。あまり記憶には残らないのですけれど(ごめん!)、不思議な魅力のあるお話です。



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第70回 ダガジグダガジグ ブンチャッチャ♪ 探偵団結成!

「こちらマガーク探偵団 マガーク少年探偵団シリーズ1」 あかね書房 1977年7月発行
E・W・ヒルディック/作 蕗沢忠枝/訳 山口太一/絵

イギリスの児童文学、探偵小説です。10才の子供たちが探偵団を結成。
ワガママだが独創的、元気な少年、団長のジャック・マガーク、
タイプライターが使える記録係のジョーイ・ロカウェイ、
うっかりやだが敏感な鼻の持ち主、ウイリー・サンドフスキー、
そして木登り上手の行動派おしゃまなワンダ・グリーグ。
(シリーズ進むに従い、団員が2人、増えます。
科学知識が豊富な頭脳派ブレインズ・ベリンガム、
空手をたしなむヤマトナデシコ、マリ・ヨシムラ 日本人です!)

第1巻の日本語版発行は1978年。
最初の事件は、引っ越してきたばかりのウイリーの野球のミットが消えうせた。
ミットを盗んだ犯人を見つけ出せ!

探偵団、というそれだけでわくわくして小学生の頃、夢中になって読みました。団員がそれぞれの得意を活かして謎にせまっていくのがおもしろかったです。団長マガークの家の地下室を本拠地にして(隠れ家があるってすごく楽しそう!)、尾行の訓練をしたり、探偵のしるしであるI.D.カード(身分証明書)など小物をつくったりするのも楽しい。
おのおのの団員の得意を売り込む殺し文句は何にするか、という話になりますが、ウイリーは鼻がよくって、俺は口がうまい、ジョーイは何にする?とマガークがたずねます。ジョーイは、ぼくはアタマが良いのが売りだと言いますが、『でも、ぼくは、マガークが本気になれば、とてもぼくの頭なんか、かなわないって知っていた。』と独白しています。
それから、こんなこともいっています。マガークがフルーツ入りキャンディを食べるのですが、誰にもわけてあげません。『彼は自分のキャンデーを、およそだれにもくれたことがない。でもね、欲ばりじゃないんだ。もし、誰かかが、「ぼくにも一つくれよ」と言えば、きっとくれるよ。彼はただね、立ちどまって、そういうことを考えたりしない男なのさ。』
ジョーイはお話の語り手ではありますが、わりと地味な少年です。マガークに近い立場で彼を観察し、人柄を一番よくわかっている友人でもあるんだなあと思ったものです。10才なのに随分と大人なセリフだと、とても印象に残った文章でした。そしてキャンディが滅法おいしそうなのが記憶に残っています。

調べてみますと、シリーズ24作あり、そのうち18作が邦訳されています。絶版となっていたのですが、2003年に新装版が8巻まで発行されました。9巻以降は残念なことに復刊されていません。
そして、もうひとつの魅力が、山田太一さんのイラストでした。旧版の後見返しには、団員の紹介漫画がありました。山口太一さんの挿絵がお話にあっていて、ほんとうに楽しかった。新装版にこの紹介漫画がないのは残念。

ボンボコ マガーク探偵団♪
ペンペコ 仲良し五人組♪
ブンチャチャ 難問即解決♪
鼻のウイリー
記録のジョーイ
頭脳のベリンガム
木のぼりおてんばワンダちゃん
そしてもひとりブンチャッチャ♪
その名も高きガキ大将 ジャック・マガーク ブンチャッチャ♪
ダガジグダガジグブンチャッチャ♪
(調べたところ、こんな歌詞のようです。)

イギリスの少年少女たちの活躍に胸躍ったものです。外国へのあこがれがこの本で刷り込まれました。ただ、出版年が古いためちょっと訳が古いのです。「奴さん」だとか「せんこく承知のすけ」「このダムダム弾め!」「生意気太郎!」だとか。私はこういう時代がかった文章って好きなんですが。しかしながらミステリを苦なく読めるのならば、今の子供たちも楽しく読めるとおもいます。すべての漢字にフリガナがふられています(新装版はフリガナありですが旧版は未確認です、ごめんなさい)ので、小学中学年くらいから楽しめると思います。



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第68回 パソコン・コンピューターに苦手感のあるかたに

パソコンの調子が悪くなると、ただただおろおろとしてしまうわたしですので、コンピューターのこと、と言われると難しそうで抵抗があります(個人的感想です)。 炊飯器、冷蔵庫、エアコン、電子レンジなど身の回りの様々な機械にコンピューターは内蔵されていて、大変身近な存在なはずなのです。パソコンの基本も理解せずに使う毎日、いいのかそれで!?・・と妙に危機感が募り手に取ってみましたが、これが面白い!のでご紹介させていただきました。

「コンピューターってどんなしくみ? 子供の科学★ミライサイエンス」 誠文堂新光社 2018年4月発行 155ページ
村井純、佐藤雅明/監修

子供の科学★ミライサイエンスシリーズは、「科学のお話を紹介していくシリーズ」です。
この巻では、コンピューターについて。
炊飯器でおいしくごはんを炊けるように制御したり、インターネット(情報)にアクセスできたり、などなどコンピューター:パソコンってそもそもなんなのか、イラスト多数で、順序立てて、平易な文章で、わかりやすく説明してくれています。
パソコンの中身やそれらの働きはどういうものか。CPU(コンピューターの頭脳)、メモリ(勉強机のような場所:電源を切ると記録はされない)、ハードディスク(記憶装置/電源切ってもデータは消えない) というような基礎から教えてくれます。
子供たちの未来へ向けての書籍、ではありますが、大人(のパソ初心者)にもあなどれぬ情報まんさい。「もっと知りたい」の読物コーナーでは、なかなか難しいこともとりあげます。例えば、クロック周波数について。CPUの性能、つまり命令を処理するスピードはHz(ヘルツ)という単位であらわされます。処理スピードが早ければ早いほど(Hzが大きいほど)賢いパソコンなのだそうです。知ってました?わたし知りませんでした。パソコンを買うときに、役立ちそうな情報です。  このような基本のキがかかれていますので、パソコン初心者は、ははあん・なるほどな・・ってきっとなりますから、どうぞ手にとってみてくださいね。
ほかにも、パソコンの歴史・アプリ・ブラウザー・OSのこと・インターネットがつながる仕組み、ネットを使う際の危険など、いろいろ解説してくれます。忘れっぽいわたしですので半年に一度くらい読んで勉強しなおしたい、そんな書籍でした。

ちょっと賢くなったような気になれるいやいや賢くなれる、このシリーズ。ほかにも、
「プログラミングでなにができる?ゲーム・ロボット・AR・アプリ・Webサイト……新時代のモノづくりを体験」
「統計ってなんの役に立つの?数・表・グラフを自在に使ってビッグデータ時代を生き抜く」
「人工知能と友だちになれる?もし、隣の席の子がロボットだったら…マンガでわかるAIと生きる未来」
「宇宙探査ってどこまで進んでいる?新型ロケット、月面基地建設、火星移住計画まで」
「タイムマシンって実現できる?理系脳をきたえる! はじめての相対性理論と量子論」
「宇宙の終わりってどうなるの?超図解! 宇宙のしくみと最新宇宙論がよくわかる」
が発行されております。(2019年12月)



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第66回 奈良時代のお仕事小説といってもいいとおもう。

「鈴駅(はゆまのすず)」 くもん出版 2016年7月発行 352ページ
久保田香里/作 坂本ヒメミ/絵 寺崎保広/解説

日本の奈良時代、近江国が舞台のお話です。奈良時代は西暦700年代ごろ、近江国は今の滋賀県のあたりです。
ネットも携帯もない時代ですので、人が馬にのって伝言を運びます。大急ぎで走らせていると馬がつかれるのでおよそ16キロごとにある駅家(うまや)で馬を交換します。伝言を運ぶ人のことを駅使(はゆまづかい)といい、駅使であることの証として使者は、銅で出来た駅鈴(はゆまのすず)を持っていたのです。
駅家は、交換用の馬がいるだけでなく、宿屋でもありました。使者を隣の駅家まで送ったり、食事の用意、馬の世話をしたりと、駅家で働く人たちを駅子(うまやのこ)と言いました。
その駅子になりたいと憧れる少女「小里(こざと)」が主人公。馬をひいて次の駅家まで馬をひいて案内したり、馬をおとなしくさせたり世話をしたりするには、やはり体力が必要です。ですので、女の子には向いてない、と思う人がいるのです。現代とあまりかわりませんね。
最初は華やかな仕事しかやりたがらなかった小里でしたが、駅子の仕事はどういうことなのかを考えます。駅家を利用する人々のためになるように働くこと。女子には出来ぬと言っていた人たちも、少しずつ認めてくれます。
そして、駅使の少年「若見(わかみ)」との恋も少しずつ育まれます。
この若見が、アタマはいいのだけど体力はいまいちという感じでちょっと頼りなさそうなのがなんだかいいんですねー。若見が小里に歌を渡すシーンがぜんぜんロマンチックじゃないのですがいい。歌で恋のやりとりするのは、時代ならではでしょうね。すてきだなあ。
大地震が起きたり、駅家をおいだされてしまったり・・と様々な試練があり、読み応えもございますよ。気になった方、どうぞ手にとってみて下さい。

「駅」が「はゆま」「うまや」のどちらの読みなのか、読んでる途中で混乱したりしますが、面白い小説でした。
巻末に作品解説が面白くわかりやすいです。それを先に読んでおくのもいいかもしれません。
読み方リスト・・・・
はゆま:駅鈴(はゆまのすず)、駅路(はゆまじ)、駅使(はゆまづかい)
うまや:駅家(うまや)、駅子(うまやのこ)、駅長(うまやのおさ)



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第63回 どろぼうのどろぼん

「どろぼうのどろぼん」 福音館書店 2014年9月発行 280ページ
斉藤倫/作 牡丹靖佳/絵

警察の取り調べ室から話がはじまる児童文学は、あんまりみたことないようにおもいますね。そこからすでに引き込まれてしまいます。設定は不思議で奇妙な話という感じですが、罪とは何か、ということに触れられていて心に残る小説でした。
ちなみに、同姓同名の漫画家の「斉藤倫」さんとは別なかたです。詩人の斉藤倫さんはこれが初の長編小説のこと。

刑事のチボリ、が主人公。取り調べ室で、泥棒を尋問しています。どろぼうのどろぼんと泥棒は名乗りました。「子どもというには年を取りすぎているけれど、おじいさんというには若すぎる。背はのっぽというには低すぎるけれど、ちびというには高すぎる。」という印象に残らない顔立ち。何件盗みをやったのかという問いには、はっきり覚えていないけれど千件くらい。とんでもない件数です。それにそもそも、刑事が捕まえた時、まだ盗みには入っていませんでした。なのに、なぜ逮捕されたのか。どろぼんのふしぎな生い立ちから話が始まります。どろぼんには物の声が聞こえる、というのです。
お手伝いさんの仕事をする母に連れられ、あるお屋敷にお邪魔していた時のこと。棚のすみっこにいた花瓶がこっちをみてと必死に話しかけてきます。花瓶はどろぼんのお母さんを見つめ、このひとが気にいった、と言います。花を活けられたことがないんだ、となんだか黒いものが出ている不気味な花瓶。そして言います。ぼくをころして と。そして花瓶は棚からとびおりて、こなみじんになります。どろぼんには、花瓶が自殺したのだとわかります。 このシーンは強烈です。ぞうっとしますね。私の棚の上にも、物や本がたくさんありますがほこりをかぶっている・・・。

どろぼんの勾留期間は10日間、彼と物と物の持ち主との奇妙なお話が披露されます。愛されていないかわいそうな物たちの声に耳を傾け盗みだし、必要とする人のもとへ送り出す。物を盗まれた人の人生にも変化をおこします。大抵は良い方向に。持ち主は物があったことさえ覚えていないので盗まれても気がつかない。だから刑事事件として立件するのはかなり難しい。しかしあるモノを盗んだ時から、彼の物の声を聞く力は弱まってきています。盗んではいけないものを盗んでしまったからだと彼はいいます。刑事たちは、どろぼんの話に魅了されていきます。

盗みは罪です。ですが、どろぼんの盗みは罪だと言いきれず、どろぼんに好意を感じはじめてしまい、刑事は立場上苦悩しますが、彼のために行動しはじめるのがいいです。盗みは断罪されるというのが児童文学としてはそういう流れに向かうと思うのですがそうならないのがほっ とします。登場人物、話のきっかけとなる場所、物たちの想い、物と人のかかわり、それぞれがうまくまとまっていて、大変面白い小説です。子供向けに書かれたものですが、大人のひとが読んでも遜色なし。書記係のあさみさんや刑事チボリの部下のオーハスなど登場人物がまた面白い。書記のあさみさんを表現する文章がすごくかわいらしいんです。実際にいる人を表現したんじゃないかしら、なんておもいました。
牡丹靖佳氏の挿絵がまた不思議で柔らかく、お話と奇妙にマッチしていて素晴らしい。