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第60回 白い狐の歴史ファンタジー

「白狐魔記1 源平の風」 偕成社 1996年2月発行 221ページ
斉藤洋/作  高畠純/挿絵

今回は、歴史ファンタジーをご紹介いたします。
野生の生物たちが、生きていくうえで一番警戒すべき生物「人間」。人間の矛盾する考えや行動に興味を持った、キツネがいた。人の言葉を覚え放浪するうち、殺生してはいけないという白駒山に入り込み、”仙人”に出会います。仙人もまたキツネで、大変に長生きをしていて様々な術が使えるのだという。仙人のもとで修行し変身術を伝授してもらう。
人はなぜ人を殺すのかという問いの答えを探し、キツネは世の無常や人の感情を知る旅に出る。

この斉藤洋という作者は、設定が細かい(理屈をひねるというか)のが持ち味で、そこがおもしろいのだと思います。
例えば狐にはシッポがありますが、ヒトにはありません。狐がヒトに変身する際、シッポという存在をどうするか、という問題には、シッポは「空(クウ)」という状態にする、という理屈を編み出すのです。最初は、シッポをなくすことが出来ずにいたキツネでしたが、ある人物たちとの出会いと別れによりシッポを「空」の状態にすることが出来るようになるのでした。
その人物が、源義経(とその部下)なのです。

1巻は平安時代→ 2巻・鎌倉→ 3巻・室町初期→ 4巻・戦国時代→ 5巻・江戸初期→ 6巻・江戸中期 ・・と50年~250年を「眠る」ことにより、キツネは時間を乗り越え、様々な人々に会い時代を体験します。
源義経、 楠木正成、織田信長、天草四郎時貞、浅野内匠頭・吉良上野介など、大きく歴史を動かす人物と関わるのが面白いです。「天草四郎」は私は意外な解釈と感じました。歴史が苦手な人でも楽しめる児童文学とおもいます。
キツネの師匠の仙人の素性など明かされないままですし、キツネと同じように時を越え歴史に関わる妖狐の雅姫(つねひめ)という存在もいて、彼女も気になるところ。次巻がとても待ち遠しいシリーズ。
キツネが現代を見たらどう感じるでしょうか・・

2019年10月現在「源平の風」「蒙古の波」「洛中の火」「戦国の雲」「天草の霧」「元禄の雪」 6巻まででていて、今年11月に7巻「天保の虹」が刊行です。すごく楽しみです。



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第52回 スクラブルでなぞとき

スクラブルというのは、文字タイル(コマ)をならべて単語を作るゲームです。使うアルファベットやコマの置く場所によって得点が加算されます。
今回ご紹介するのは、このゲームをからめた物語です。

「セブン・レター・ワード 7つの文字の謎」 評論社 2017年10月発行 358ページ
キム・スレイター/作 武富博子/訳

14才のフィンレイ。2年前、母が別れを告げることなく家を出ていってしまい、父はそのことを話したがらず、仕事ばかり。引越し先では、吃音がひどくなってしまい、友達ができずいじめにあっている。過酷な状況にいるフィンレイの唯一の心の支えは、母が教えてくれた、言葉を作るゲーム、スクラブル。放課後に学校でスクラブルをすることになり、マリアムと知り合うが、彼女もまたヘッドスカーフをしていること・移民であることを理由に、差別や言葉の暴力を受けている。オンラインゲームのスクラブルで対戦したアレックスとは友達になれそうな上、しかもいなくなった母の行方の手がかりを持っているかもしれないことがわかってきます。そして、スクラブル大会への出場も決まって、どんどん物語の緊張がたかまっていきます。

吃音のため、言葉を口にだすのが難解なフィンレイが、スクラブルに熱中するのは、とても心が苦しいからなのでしょうね。いじめ、ひどくなる吃音、母に捨てられた苦しみなどで、押し潰されそうなのに、父が一緒にこの状況に向き合ってくれないのには、読んでいて辛かった。お父さんもこの状況に打ちのめされ立ち直ろうとしていたとわかり、ほっとします。スクラブルを通じて知り合ったパキスタンからの移民であるマリアムもヘッドスカーフをつけ続ける強い意思を持つ少女です。彼女の応援が心強い。友達が欲しくて、ネット上の”知り合い”を信じきってしまう、という切羽詰まった状況が怖かったですね。お母さんの失踪の理由を探るミステリ部分も読む手をとめられません。



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第46回 おれからもうひとりのぼくへ

並行世界とは「この現実とは別に、もう一つの現実が存在する」ということだそうです。
今回はその「並行世界」のお話をご紹介。別の現実へまぎれこんでしまった小学生の奮闘(というほどでもないですが)が面白く、小学生たちがSFを読むとっかかりにちょうど良いと思います。

「おれからもうひとりのぼくへ (おはなしガーデン53)」 岩崎書店 2018年8月発行 94ページ
相川郁恵/作 佐藤真紀子/絵

小学四年生、大岡智。友人のまさと、しょうへいと遊ぶため、公園へと出かけたのだけれど、やってこない友人たち。約束を忘れたのかも?と友人宅へ行き確かめると、彼らは二人で遊んでいて、約束なんかしていない、と言われます。なんだか様子がヘン。おれと遊ぶのは、初めてのような、居心地の悪い顔をしている。まさともしょうへいも、2人共、落ち着いて頭が良さそう。本が好きでいろんなことを知っている。普段はお調子もので本なんか読まないのに。
家に帰れば、部屋のサッカー選手のポスターがない、そのかわりに本棚にぎっしりの本。本なんか読んだことないのに。父ちゃん、母ちゃん、姉ちゃんもなんだか優しくて、ヘン。元気のいいおれが珍しいらしくしゃべることに、いちいち笑ってくれる。
学校のクラスメイトも、ヘン。普段、大人しいやつが威張っているし、いつも何も言わない静かな委員長の女子はきちんと発言・注意をする。誰も彼もが、なんだかいつもと違うのです。

この世界の「ぼく」は、本が好きで大人しくて、友人がいなかったようなのですが、「おれ」が物怖じしない性格のため、人に関わります。そのおかげで、ここがパラレルワールドであることが判明しますし、関わり合う人たちのあの世界とこの世界での性格の違いを比較して、クラスメイトたちの人間関係を推測するのですが、そこがうまいとおもいます。この世界ではただのクラスメイトだった、まさと・しょうへいは、あちらでもこちらでもぼくたちは親友となる運命だったんだよ、と言ってくれました。少年たちの友情に、ムネアツ。
こちらの世界にも愛着がわいてきた「おれ」は、もとの世界へ帰るのでしょうか、帰ることができるのでしょうか。

佐藤真紀子さんの挿絵も、ブルー基調でかわいらしすぎずにかわいらしくてグッド。少年たちも手に取りやすいのじゃないかしらと思います。面白い小説でした。
第34回 福島正実記念SF童話大賞を受賞のこと。



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第40回 四姉妹、コテージで過ごす楽しい夏休み

今回は、タイトル通り、元気な四姉妹の物語をご紹介させていただきます。マーチでなく、ペンダーウィックの四姉妹。ちなみに現代のアメリカが舞台です。四姉妹と隣家の少年、そして素敵なお庭のあるコテージで過ごす楽しい夏休み ってもう最強じゃないですか?!楽しくないわけないでしょお!!(スキな人は好きでしょう。)今回の投稿、大変な長文となっております。どうぞ気長におつきあい下さい。

ペンダーウィックの四姉妹(Sunnyside Books) 小峰書店 ジーン・バーズオール/著 代田亜香子/訳
「夏の魔法 シリーズ1」 2014年6月発行 325ページ
「ささやかな奇跡 シリーズ2」 2015年8月発行 374ページ
「海べの音楽 シリーズ3」 2017年6月発行 361ページ

ロザリンド(12才)、スカイ(11才)、ジェーン(10才)、バティ(4才)の四姉妹と大型犬のハウンド、そして植物学者のお父さん。5人家族(+犬1匹)の物語です。
長女ロザリンドは、病で亡くなったお母さんの代わりに、みんなの世話をやき小さい四女の面倒をみ、家事をします。冷静、穏やか、優しい。けどいきなりキレることも。
次女スカイは、家事や子どもの面倒を見るのが大嫌い、サッカーと数学が得意なクールな少女です。
三女ジェーンは、夢見がち。作家になることを目指して、物語を書いています。物語の構想というか妄想を口にだしては相手を困惑させています。
四女バティは、恥ずかしがりや。知らない人がいると、透明人間のフリをします。けれど幼いなりに状況をよく把握して発言できる頭の良い子です。

 第1巻「夏の魔法」
夏のバカンスをコテージで過ごすため、車で出発した父と四姉妹。学者肌のお父さんは、研究のことばかり考えているので案の定、道に迷います。着いた先は、アランデルという豪邸と素敵な広いお庭。そのお隣に、借りたコテージがあります。アランデル邸の持ち主、ティフトン夫人はとても美しい方だけれど傲慢。お庭には入ってはいけない・・・と言われているけれども、素敵なお庭を散策したいじゃありませんか!次女のスカイは庭の探検に乗り出し、そこでティフトン夫人の息子ジェフリーと出会います。
スカイとジェフリーの出会いは、最悪でした。ジェフリーをミセス・ティフトンの息子と知らずに夫人の悪口を言ってしまうのです。スカイのズバッと言ってしまう性格とタイミングの悪さもあってケンカがこじれ、けれどついに仲直りするところなど、見ものですね。
ジェフリーは、ティフトン夫人の婚約者とうまくいっていない上に、音楽家になりたいという希望を夫人に反対されています。そういう親子関係の問題なども、読み応えあり。
上の三人は年があまり違わない姉妹ですが、長女ロザリンドが母代わりを担っているのは、優しい穏やかな性格ゆえらしい(母代わりをいやいややってるわけではないようである・・)と読めるのも、少しほっとしますね。暴れんぼうのスカイと妄想ジェーンに、家事はできなさそうですし。
1巻の癒やしポイントは、アランデル邸の家政婦のチャーチーさん。子どもたちをいつも見守ってくれていてすごく安心するんです。”ドレス”を選ぶ屋根裏のシーンが楽しい。そしてそして、チャーチーさんの作るジンジャーブレッドがおいしそうなんですよーほんと。食べてみたい。

 第2巻「ささやかな奇跡」
この巻では夏休みは終わって、新学期が始まっています。お父さんの妹のクレア叔母が週末に遊びにきますが、亡くなった母から預かったという手紙をもってきます。母は父に再婚を願っていたというのです。再婚相手を探して、デートをすることになる父。亡くなった母の思い出が特にたくさんある長女ロザリンドが、父の再婚に拒否感を持ち特に反対している、というのもわかります。四姉妹は、父の再婚を阻止するため、策略を練ります。
継母ができてしまうかもという複雑な姉妹の気持ちと、ロザリンドに恋する幼なじみの少年とのやりとりと、学校で起きる騒動が絡み合って面白いです。
お父さんは、学者肌で、時々ラテン語の名句を引用するのですが、それがまた古き良き時代を思い出させる感じが、児童文学ぽくっていいですね。
物語の最初に、長女で12才のロザリンドは四女バティを保育園へお迎えの途中で、こう考えています。”あー、幸せ。ロザリンドは思った。心がふるえてぞくぞくするような幸せではない。そういう、すぐ失望にかわるかもしれない幸せではなく、おだやかな幸せだ。人生がこうあってほしいと思う方向にちゃんと向かってる感じ。”
なんて大人っぽいんでしょうか。たった12才なのに。やはり責任が彼女を大人にさせてしまうのでしょうか。父のデート問題が片付いたあと、長女と父は、二人だけで穏やかに話します。そのシーンがとてもいい!

第3巻「海辺の音楽」
さあ、また夏休みです。今度は、海辺のコテージを、第1巻に登場のジェフリー少年と、クレア叔母と一緒に過ごします。ただし、長女のロザリンドは、友人と一緒に別の観光地で過ごすことになっています。長女の責任から休ませてあげたいという父の計らいです。次女のスカイが最年長として、みんなのお世話と責任を担うことに!あの暴れんぼうのスカイがそんなことできるでしょうか。ただ、スカイも責任を重く感じていて、たいへん神経過敏になっています。緊張のあまり、ちょっといつもどおりじゃないのが、おかしくて読んでいて思わず笑ってしまいます。クレア叔母が足をくじいてしまったり、ジェーンが恋したり、ジェフリーの親子問題など、やはりトラブルが絶えませんが、スカイは頑張ります。あのスカイが涙をほろり、とこぼすところなど、目がうるんでしまいます。今巻では一番、スカイが大人になりました。そこが見どころと思います。ジェフリーとスカイの友情以上・恋未満な関係も、可愛らしくていい。バティも素晴らしい才能を開花させましたし、大満足な一冊でした。

長く熱苦しい文章でこの小説の魅力がお伝えできたかさっぱり心許ないですが、ここまでついてきてくださった方、ありがとうございます。あのシーンやこのシーン、あの一言が良かった!など、まだまだ書きたいのですが、控えましょう。
アメリカでは、第5巻まで発行。(しかも5巻が最終巻のよう。)翻訳が待ち遠しいシリーズなんです。早く続きが読みたい!



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第34回 落語する楽しさ。

「落語少年サダキチ (いち)」 福音館書店 2016年9月発行 221ページ
田中啓文/著 朝倉世界一/イラスト 桂九雀/解説

以前、落語が題材の「化け猫落語/三浦かれん」を取り上げましたが、今回も落語がテーマ。大阪が舞台なので、登場人物みんな関西弁。
著者は、ミステリ・ホラー・ファンタジー・時代ものなど、大人向き小説をかいておられ、ちょいグロテスク強いダークな作品もあり、児童文学?ダイジョウブ?と思われる方もおられるかもしれませんが、大丈夫!

主人公の小学5年生、清海忠志(きよみただし)は、「背が低くて顔はシケメン、ケンカは超弱く、運動も苦手、だからといって勉強ができるわけではない」「頼まれるといやだと言えない性格」というわりとふつうの男の子。自称、学校でいちばんお笑いにくわしい。
”若手漫才のとんがった笑い”が好きで、落語なんか古臭くってしょーもないと思っていた忠志。ベロベロに酔っ払ったおじいさんを町の悪タレのカツアゲから助けたところ、落語家だったらしくムリヤリ噺をきかされたのだが、それが面白くて、どんどん落語にはまっていきます。そんな忠志が落語を演ることになり、なぜか江戸時代の大坂にタイムスリップします。(かなり要約しました。気になった方はよかったら手にとってみてください。)

あまりぱっとしない少年がビビリながらも落語に挑戦し、名人のコツを取り入れる工夫をしたり、オレはまだまだや もっと落語を極めたる!と誓う忠志の成長ぶり、落語へのアツい情熱がいいですね。人を笑わせる快感に目覚めた忠志とともに読者である私もどんどん落語にひかれていきます。たくさんの人の前で落語を演ることになり失敗を恐れビビってケツまくりそうになってるところなんか、応援してしまいます。落語の魅力を垣間見れる落語児童文学です。

ちなみに落語のネタは「平林」です。
関西弁の勢いのよさがほんと楽しい。挿し絵は、朝倉世界一さん、力の抜けたほわ〜んとしたイラストがまた面白さを倍増させています。落語家の桂九雀さんの巻末の解説も落語がよくわかってとっても親切。 イラスト・文字の配置、フォントが面白いぞとおもったら、デザインは祖父江慎さんでした。
落語少年サダキチは3巻まで刊行されています。(2019年7月現在)