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第31回 モノノケ+猫+小学生 ×落語!

「化け猫 落語 〜おかしな寄席においでませ!(青い鳥文庫)」 講談社 2017年8月発行 222ページ
みうらかれん/作 中村ひなた/イラスト

今回は、モノノケ、猫、小学生に落語をぶっこむ、という意外な組み合わせ。著者は、以前「夜明けの落語」という引っ込み思案の小学生女子が落語する児童文学をかいておられました。今回ご紹介のこの作品はさらにテンポよく、笑いが多くなっております。
主人公は、小学5年生・男子、穂村幸歩(ほむらゆきほ)。転校生のみんなに馴染もうとせず笑わない美少女・神保理緒(じんぼうりお)。
この美少女の理緒が音をたて豪快におそばを食べる”ふり”をしているのを目撃してしまう幸歩。落語の「時そば」の練習をしていたらしい。でも誰にも言わないように頼まれます。理緒がなぜ口止めするのか・人と関わろうとしないのか、わからないままあれやこれやで二人は、化け猫亭三毛之丞(ばけねこてい みけのじょう)というバケネコの落語家に出会います。落語を教えて欲しい、理緒を笑わせたいから・・と幸歩は三毛之丞に入門する。  ざっくり言うとこんなお話です。

その他の登場人物たち、同級生の神宮寺豪太(ガキ大将なのにボケ役男子)、三森つばさ(ボーイッシュなカワイイ幼なじみ)、幸歩の姉(カワイイもの大好き❤写真撮りまくり女子高生)、落語家の猫又家双吉(ふっくら優しい猫又)、その弟子の猫又家黒吉(子猫の猫又。幸歩をライバル視)などキャラクターが魅力的。小豆洗い、一反木綿など妖怪もいい味だしてます。特にカッパの席亭と幸歩のテンポのよいマンザイのような会話が面白いのなんの。キュウリが木戸銭なのを面白く料理してあります。

落語の用語(カミシモを切る・席亭・所作・前座・真打ち・マクラ・追い出し太鼓)の解説もあり、落語をきいたことなくてもわかりやすくなっています。妖怪と人間、猫とヒト、師匠と弟子、人との関わり合い方、きちんと気持ちを伝えること、友達以上恋未満な感じの小学生の三角関係、などいろんな要素があり、うまい作家さんと感じます。猫と落語と妖怪が好きなら、当たりと思いますよ。現在、3巻まで刊行。
2巻「ライバルは黒猫!?」猫又の猫又家黒吉(ねこまたやくろきち)は新人落語家。子猫ですが。猫パンチされてもまったく痛くなくて、語尾に「〜にゃ」をつけるかわいい幸歩のライバル。人間が嫌いな黒吉と落語で勝負することに!黒吉の秘めた想いに泣かされます。ちなみに噺のネタは「猫の皿」。
3巻「恋と狐と『厩火事』」厩火事を稽古中の幸歩。面白い噺だけれど、登場人物のこの夫婦の気持ちが分からない。三毛之丞師匠に恋人・・・!?幼なじみのつばさと何故かぎくしゃくしちゃって・・・  など恋づくしな一冊です。



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第27回 親子の会話フランス版

「年をとったワニの話 (ショヴォー氏とルノー君のお話集1)」 福音館書店 1986年発行(2002年に再刊発行)
レオポルド・ショヴォー/文と絵 出口 裕弘/訳

今日は、ちょいとダークな児童文学をご紹介。
お父さんのショヴォー氏が幼い息子のルノーくんに語ります。ただそれがなんというか、小さな子に語るにはちょっと早いような、人によっては残酷に感じるかもしれない、暗らぁいユーモアを含んだお話なのです。
「年をとったワニの話」年をとったワニにタコの恋人ができる、というだけで、なんだか笑ってしまうのだけど、お腹が空いたなぁと恋人のタコ足を一本、二本・・とつまんで、ついにはすべてを食べてしまう。愛ってそういう面があるかもね・・、なんつって思います。
「メンドリとアヒルの話」これまたブラック。ブラックすぎてポカンと口があきます。子どもがおもったように育たなかったので、空中から投げ落とす・・という衝撃的なお話。そんなお話を、おそらく4〜5才の子供にしてもよいのだろうか・・。

笑っていいの?と思うほどブラックなお話の合間に、ちょいちょいはさまれるショヴォー親子の会話がかわいくて、これが癒やし。フランス語の原著は1923年の発行だそうです。時代もあると思いますが、フランスのお子さんは大人だなあ。
ショヴォー氏はお医者さんであったそうです。ですから人間の生物としての本能や命の尊さと儚さを強く感じたのかもしれません(とフォローしておきましょう)。まあ、構えず気楽に読むのが吉でしょうか。今の日本ではやはり大人のほうが楽しめるようにおもいます。教訓など皆無な黒い寓話にニヤ〜っとしたい大人のかたにどうぞ。第1巻には「ノコギリザメとトンカチザメの話」「メンドリとアヒルの話」「年をとったワニの話」「おとなしいカメの話」と全部で4編収録。

ショヴォー氏のお話集は、全5冊のシリーズです。
「年をとったワニの話」「子どもを食べる大きな木の話」「名医ポポタムの話」「いっすんぼうしの話」「ふたりはいい勝負」



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第21回 明日のまほうつかい

「明日のまほうつかい」 福武書店 1989年11月発行 132ページ
パトリシア・マクラクラン/作 金原瑞人/訳

気難しい明日(あした)のまほうつかいと、陽気なまほうつかい見習いの小さいマードック、そしてしゃべる賢い馬が、人々の願いに耳をすまし、かなえていくお話。内面を見て欲しい美女、意地悪ひねくれ夫婦の望むもの、わがまま娘の結婚相手を見つけたい両親・・望みを叶えるのはなかなか難しそうなものばかり。明日のまほうつかいとマードックはどう対処するんでしょうか。
なんといっても、マードックとしゃべる馬のおしゃべりの楽しいこと。気難しい明日のまほうつかいも微笑んでしまうんです。
さて、人々の願いを叶えるため耳をすませる魔法使いたちですが、これがちょっとひねりある解きほぐしかたをするんです。

ゲキレツ意地悪夫婦のところへ、ぞっとするほど正直で行儀よく優しく可愛い女の子プリムローズがやってきたので夫婦は意地悪やごまかしができなくなりました。それから・・の流れなどちょっと驚きますよ。

バイオリンつくりのブリスが完璧なバイオリンが出来なくて悩んでいます。その賢い妻が、完璧なバイオリンなんてあるわけないのに、と微笑みます。この妻と明日のまほうつかいとがなんだか訳ありな感じも、ブリスが完璧なバイオリンを作ることを諦める理由も、ちょっと児童文学らしくなくていいですね。年齢が大きいひとのほうがぐっとくるのではないでしょうか。
最後に、まほうつかい見習いのマードックの願いが叶います。その時の明日のまほうつかいとマードックの会話に、私は必ず泣いてしまいます。良い小説です。

作者のパトリシア・マクラクランは、家族のありようをテーマにした児童文学が多いとおもいます。
「のっぽのサラ」「やっとアーサーとよんでくれたね」「人生の最初の思い出(詩人が贈る絵本)」「犬のことばがきこえたら」  ほかにもたくさん作品あり。



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第20回 どどいつの 七五調の ノリのよさ

「ねこのどどいつあいうえお」 のら書店 2005年発行 94ページ
織田道代/作 スズキコージ/絵

「どどいつ」は七・七・七・五のリズムで作られた歌です。
楽しい言葉遊びの絵本をかいておられる詩人の織田道代さんが、どどいつで猫のきままさ、愛らしさを歌いあげます。
七五調のノリが楽しくて、声に出して読むとさらにいいと思います。酔っ払って読むとめちゃくちゃのってきます。最高です。

猫およびネコ科がすきな私は、この本はとってもど真ん中。
「盗み上手な まあるい足で またも心を 盗む猫」 足音をたてない ピンクのかーわいい肉球で悩殺ですね。
猫のいいところ・わるいところ、すべて愛してる。そんな本です(だとおもいます)。
スズキコージ氏の挿し絵は、コラージュで素敵なのですが、かなり個性強くて独特なブキカワさ。孤高な猫の不思議さにぴったりあってる気がします。好きです。
姉妹編の「どうぶつどどいつ おもしろことばあいうえお(2003年発行 長新太/絵)」いろいろな動物を主人公にどどいつで表現しているこちらも面白いです。

 他作品に・・
「なにもなくても 〜ことばあそび絵本」こちらも言葉遊びの絵本。おもちゃがないから遊べない、なんてことはありません。ものづくし/ぬきことば/たぬきのしっぽ/かわりしりとり・あたまとり/さかだちことば/声・音・様子ことば/なぞなぞ/電報・・などたくさんの言葉遊びが掲載。親子で、友達同士で、あるいはご夫婦で。



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第15回 アメリカ、ゴールドラッシュの少女

「金鉱町のルーシー」 あすなろ書房 254ページ 200年6月発行
カレン・クシュマン/著 柳井 薫/訳

1949年、アメリカ東部から、ゴールドラッシュにわく西部カリフォルニアに、母と4人の子どもたちで移住したウィッブル家のお話です。
主人公は、長女のカリフォルニア(ルーシー)・ウィッブル。西部への移住を夢見ていた父母があこがれのあまり、子供たちに西部の土地の名を付けたほど。長女がカリフォルニア、その弟がビュート(西部にある平原の丘)、3人の妹はそれぞれ、プレーリー(草原の意)、シエラ(ネバダ山脈のこと)、ゴールデン・プロミス(金の約束)。父と一人の妹が肺炎で亡くなり、母は嘆き悲しみ、そのあと西部への移住を決めました。

こども4人を連れて、移住するという母の力強さ。対して長女のカリフォルニアは、気弱で怖がりで、過去にしがみついています。知らない土地へ越してきたばかりで、一家5人食べていかねばならないのに、夢見がちでちょっと怠け癖ある長女にイライラするお母さんの気持ちもわかります。粗野で不潔な男たちばかり、図書館もない金鉱町になど来たくはなかったカリフォルニアの気持ちも、わからないでない。家族には帰りたい気持ちを口に出さず、祖父母への手紙という形の日記を書いています。

現実を受け入れられないカリフォルニアの成長物語です。
東部へ帰るため(結構姑息に)資金を貯めたり、母の再婚を(かなり姑息に)阻止しようとしたり、使ってはいけない汚い言葉”あほんだら”を心の中で毒づいたりと、ユーモアあふれる小説です。「お酒」をあらわす言葉を集める弟との会話も楽しい。

陽気で優しい男ヒゲのジミー、無口な配達人スノーシュー・バロー、逃亡奴隷のバーナード・フリーマン、薬草に詳しい少女リジー・フラッグ、伝道が下手な牧師クライド・クレイモア、などその他登場人物もとても魅力的。特にリジー・フラッグの家族の顛末についてのまわりの反応がよかったと思いました。
「本」というものの大事さ、人の優しさ、誠実さ、悲しい別れを経験し、カリフォルニアは成長していきます。
主人公はカリフォルニアという名前なのに、タイトルが「金鉱町の ”ルーシー”」なのはなぜ?・・・と気になったソチラのあなた!あなたのために書かずにおきます。決して意地悪なんかじゃないですとも。ええ。決して。 でもほんとに良い作品なのでぜひ手にとっていただきたい良作です。どぞお試しあれ。

カレン・クシュマンの邦訳はこの本をあわせて邦訳が三冊でていますが、ほかの作品もおもしろいです。
「アリスの見習い物語」中世イギリス、孤児の少女が、産婆見習いとして村に居場所を見つけるお話。
「ロジーナのあした:孤児列車に乗って」12歳で孤児となった少女ロジーナがアメリカ東海岸から中西部への”孤児列車”にのって養子先を探す旅。