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第182回 お化けたちが宴を楽しむ絵本

「お化けの真夏日(お化けシリーズ)」 BL出版 2001年8月発行 31ページ
川端誠/作

お化けが主人公の絵本です。お化けにおどろかされる子ども、ではなくお化けが主人公なのです。お化け屋敷に暮らすお化けたちの日常が楽しいです。そして美味しい料理を楽しむ宴の絵本です。
シリーズは今のところ6冊発行されています。「お化けの真夏日」「お化けの海水浴」「お化けの冬ごもり」「お化け屋敷へようこそ」「お化けのおもてなし」「おばけの猛暑日」

「お化けの真夏日」
おばけたちが過ごす暑い夏の一日。人間と変わりません。暑さをぼやいたり(大入道・青坊主)、クワガタ・カミキリ・トンボを捕まえ、かき氷を食べ、花火を買い(一つ目小僧)、スイカを買いに行って安くしてもらって喜んだり(ろくろ首)、スイカが冷えるのを待って昼寝したり(大入道)、夏休みの勉強をしたり、スイカを食べて涼んだり、庭に打ち水をして、お風呂(五右衛門風呂!)を沸かしたり、風呂上がりにビール(オバケ地ビール!しかもピルスナー、スタウト、エールと3種揃えてます!)を嗜む。
おや、大雪山(北海道の山です)の雪女から、クールお化け便が届きましたよ。暑中見舞いとして、大きな雪だるまを送ってくれたんです。こりゃあ涼しそうだ。
そして、みんなでながしそうめんをいただきます。ろくろ首がおそーめんを茹でると伸びちゃうので砂かけ婆が茹でる、という注釈が面白い。一つ目小僧たちが花火を楽しみます。
くーっ、仲間に混ざりたぁい。オバケ地ビール飲みたぁい。

「お化けの海水浴」
お化け屋敷の面々が今度は海へ。お化けオンリーのプライベートビーチです。人間が迷い込んだら恐ろしい目に会うそうです・・・。
一つ目小僧たちは、浜辺で大はしゃぎ。お化けたちも海に入る前には、準備体操です。特にろくろ首は首をグルグル、手首ブラブラ、足首クネクネとしっかり体操しています。砂かけばばさんのシックな水着がかわいい。ひょろけはウェットスーツを着込んでますよ、本格的ねぇ。
おいさん連中の大入道や青坊主は、日差しをさけてからかさの下で昼寝です。砂かけばばさんは、浜べで砂を採集中。ばばさんが撒くための砂を持って帰るそうです。手伝うひょろけ、優しいね。
そもそも「ひょろけ」というお化け、初めて知ったかも。目がぎょろりとしてベロがぺろーんと長くでた、ちょっと不思議な顔立ち。軽く検索してみましたがでてこないですねえ。
おや、ろくろ首が沖へ向かってます。へー、ろくろ首って泳げるんだと思ったら、首をぐーんと伸ばして海の底を歩いているんだって。えっ、準備体操の必要、あった?
鬼ヶ島から赤鬼青鬼が魚を、姉妹の共潜(ともかつぎ)はあわびやさざえを、それはそれはたくさん持ってきてくれました。他にもぞくぞくおばけたちがやってきます。
じつは今日は浜で宴会が開かれるのです。妖怪たちの交流会、どんな話するんだろう?
小豆とぎと小豆洗いが(同じ妖怪かとおもってましたが微妙にちょっと違うらしい?)さっそく料理にとりかかります。たっくさんの種類の魚やエビやアワビのお刺身、浜なべ、浜焼き・・うわぁ~魚づくしだぁ!たまりませんねえ。
すぐすぐ飲み始めたい大入道は、赤鬼青鬼に酒をすすめます。あれ、鬼たちの顔が白っぽくなって具合が悪そう。その酒の名前が「大吟醸桃太郎」「純米鬼ごろし」。そりゃあダメでしょう。

「お化けのおもてなし」では、東北のお化け・座敷わらしと袖ひき小僧が遊びにくるので、みんな張り切っています。酒好きの大入道が意外に活躍して、うどんを作ります。一つ目小僧たちの工夫をこらした竹で流しうどんです。鬼ヶ島産のお塩、北海道の小麦などこだわりの食材が、なんかもう否応なしに食欲をそそります、食べたくってたまらない。そして、小豆とぎと小豆洗いの夏野菜や魚貝の天ぷら!ああ~おいしそうすぎるぅ!

おいしいものを持ち寄って宴会したりと、怖い存在であるお化けがこんなにも楽しそうなのが、いいんですよねえ。雪だるまの暑中見舞い、おもてなしのための食材を送ってくれたり、お化けだって縁を大事にしている、そんな感じが素敵です。
しかし、前見返しを開いて見ますとドキリとします。そこだけちょっと怖い雰囲気があるのです。さすがお化け絵本。

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第181回 あおいそらしろいくも

「くもとそらのえほん(PHPにこにこえほん)」 PHP研究所 2019年4月発行 32ページ
五十嵐美和子/作・絵 武田康男/監修

朝、洗濯を干すか干さまいか、空を見て決断しますが、まあたいてい当たりません。今日は一日晴れるであろう!と思っても、お昼を過ぎたら薄曇りになっちゃったりします。洗濯曜日のわたしにとってはちょいとにっくきもの、そんな「雲」が主人公の絵本です。
大きさや広がる形で、呼び名がかわってきます。不思議ねえ。
にゅうどうぐも、わたぐも、ひこうきぐも、うろこぐも、おぼろぐも、あまぐも 虹! ひつじぐも、きりぐも、レンズぐも、すじぐも。

まずは、にゅうどうぐも。高くぐわっと広がって大雨を降らせたり雷ゴロゴロ言わせます。
わたぐも。わたのようにふわっとしたやつです。
あまぐもは、雨をしとしと降らせます。「たんぼや かえるは あめを あびて うれしそう。」雨はやだな、と思ってしまいますが、農家の方や自然の生き物たちにとって有り難いものということも忘れちゃなりませんやね。
雨が止み、雲の切れ間から光が差し込みます。太陽を背中にして空を見上げましょう。虹が見えるかも。(虹って見えると無性にうれしいですよね)街をはなれて山間部へ。山では、山でよく生まれる雲があります。きりぐも。山の上をつよいかぜがびゅーっとふくと、レンズぐもができるんです。
ページをめくると、流れるように場所が移動し、それにつれて雲の形も変わっていくのが楽しいです。
今度のお休み、本は読まずに、空を眺めようかしら?
巻末では、もう少し詳しい解説と雲はどうやってできるのか?の説明があります。
監修の武田康男さんの肩書は「空の探検家」なのです。気象予報士や空の写真家をされています。南極観測越冬隊員なのだそうです。スゴイなあ。

そして、この絵本の雲以外の部分、空の下にも目をちょいっと向けていただければとおもいます。
主人公の雲の邪魔をしないように、でも細やかに描きこまれています。正直言いますと最初は、地面に目がいってしまいました。動物園や遊園地、建物が低くて華やかな遊具はありませんが、美しいです。街の風景は、スカイツリーと東京タワーが頭をのぞかせます。田んぼや川が流れるこの町は、どこかにきっとあると思わせる風景。

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第180回 遠野物語を絵本で

「えほん遠野物語 全10巻」 汐文社 2016年から刊行 32ページ
柳田国男/原作 京極夏彦/文

わたしは怪談が好きなので、怪談の絵本もよく手に取ります。怪談絵本は人気がありますね。
シリーズで怪談絵本を発行している出版社に、新日本出版社の「ゾッとする怪談えほんシリーズ」、ポプラ社の「おばけ話絵本シリーズ」、汐文社の「えほん遠野物語」があります。(記載漏れシリーズありましたらごめんなさい。)
特に岩崎書店の「怪談えほん」は特に力がはいっていますねぇ。大人向けミステリ・ホラーの作家の方々がたくさんかいておられます。宮部みゆき、皆川博子、京極夏彦、恒川光太郎、加門七海、恩田陸、岩井志麻子、小野不由美、有栖川有栖、夢枕獏、あさのあつこ、佐野史郎、藤野可織、といった豪華キャストなのです。挿絵画家も吉田尚令、宇野亜喜良、町田尚子、軽部武宏、樋口佳絵、加藤休ミ・・と盛り沢山です。

今回の投稿では「えほん遠野物語」をチョイスいたしました。遠野物語です。
岩手県の遠野地方で語りつがれる不思議なお話、妖怪のこと、家で祀られる神様のこと、変わった風習のこと等を民俗学者・柳田国男があつめまとめた「遠野物語」。この有名なこの奇譚集を、小説家で妖怪研究家の京極夏彦が絵本に仕立て上げました。
収録怪異は、こちら。
「かっぱ」「まよいが」「やまびと」「ざしきわらし」「おいぬさま」「おしらさま」「ごんげさま」「でんでらの」「おまく」「きつね」「しびと」「ばけもの」
遠野物語、読んだことがありますが、遠野の人たちから聞いた怪異を記録したものなので、とてもとてもシンプル。
それはそうですよね、学問としたら話を足したり引いたりしてはいけませんもの、当然です。ですが、失礼な言い方ですけど、なんというか・・さばさばしてるというか・・情景が浮かばないというか・・盛り上がりにかけるというか・・。わたしゃ怪談が聞きたいの!という方にはオリジナルのほうはちょっと向かないみたい?(※個人的な感想です)

もし、おじいちゃんやおばあちゃんが怪談を語ってくれるとしたらば、口調や声音を変化させてお話を盛り上げてくれるんじゃないかなと思うのです。
そしてこの〈えほん遠野物語〉、挿絵でもって不安や恐怖を盛り上げてくれるんです。
北原明日香、近藤薫美子、中川学、町田尚子、中野真典、伊野孝行、軽部武宏、はたこうしろう、羽尻利門、樋口佳絵、阿部海太、飯野和好が挿絵をかいています。画風多彩で面白いです。
「ごんげさま」がわたしは好みです。遠野地方の家にはごんげさまを祀る家があり、獅子舞の頭(かしら)に似ているのですが、ちょっと違うのだそうです。神楽を舞うときに使われます。頭痛を抑えたり火事を消してくれたり、不思議な力を持つ神様です。このごんげさま、ほかのお家のごんげさまに会うと、ケンカが始まるのだそうです。負けたごんげさまは、耳をかじりとられるそうですよ。神様が縄張り争いをするなんて!興味深いです。なんだか身近に感じかわいらしい。うちとこのごんげさまが一番!ってそれぞれのおうちで言ってるんじゃないでしょうか。
遠野の人たちは怪異をただただ恐れるのではなく、日常のこととして受け入れている、そんな風に感じます。遠野というところはあちらとこちらの境界線が薄いのかもしれない・・・なんてことを信じたくなります。赤いカッパやごんげさまのバトルを見てみたいものです。きっと楽しいのじゃないでしょうか。

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第179回 仕事場にお邪魔する絵本

世の中にはたくさんの仕事があります。
でも何がやりたいのかわからない、未来が見えない、そんな人もいるんじゃないでしょうか。いろんな職業をちょっとだけのぞいてみれたら、いろいろ知れて楽しいかも。自分に合った仕事が探せるかも。いろいろの仕事をちょっとずつでも知ることができたらなんか納得できそうな気がするのです。押し付けがましくなくそっと手渡したい、そうおもう絵本です。

「しごとば【正】」 ブロンズ新社 2009年3月発行 40ページ
鈴木のりたけ/作

様々な仕事とその仕事場を、ちょっとのぞいてみる絵本です。
挿絵で具体的にご紹介。たくさんの仕事道具も名前とともにみっちり・しっかり描き込まれています。たいていは、ひとつの仕事につき4ページ。仕事場の様子2ページ+仕事の手順で2ページです。4ページですがよくまとまっているとおもいます。
例えば歯医者さん。歯ぐきの検査・歯の矯正・虫歯の治療などをしてくれます。診てもらいに行ったことはあるけれど、具体的に何をするのかはよく知りませんよね。治してくれてるなーくらいなものですよね、診てもらうほうとしては。
この絵本では、虫歯の治療の手順です。いろんな道具を使います。きゅィィーーーん、とうなるあの道具の名前もわかりますよ。いろんな道具を使って虫歯治療をする工程が描かれています。「虫歯の進行具合」によって麻酔をするんですね。(麻酔が効いてくるとだんだんアゴに力が入らなくなって怖いんですよね・・)
歯科医の仕事場ってこうなのか。なるほどなるほど、と納得できます。今度、歯医者さんへ診察をしてもらいに行った時、ちょっと親近感が湧く、かもしれない。
よ~く読み込むと、前のページに登場した職業の方がちらりと登場する著者の遊び心も面白いです。

この絵本でご紹介する仕事場は、こちら。
美容師、新幹線運転士、すし職人、自動車整備士、木のおもちゃ職人、革職人、歯医者、パティシエ、グラフィックデザイナー。
とりあげられていて意外だなとおもったのは革職人さん。失礼な言い方とおもいますが知名度は低めなお仕事(古本屋もそうですよね)。人気のある有名な仕事だけでなく、世の中にあるお仕事をもっとたくさん紹介すれば、興味を持つ人もでてくるやもしれません。今後に就くかもしれない仕事を選択するとっかかりになれば幸いなのです。

この「しごとば」の絵本、いまのところ(2022年4月)6巻まで出版されています。
「しごとば」「続 しごとば」「続々 しごとば」「しごとば 第4巻:東京スカイツリー」「もっと しごとば」「やっぱり しごとば」
ちなみに、2021年度・小学生がなりたい職業のNo.1は「ユーチューバー」なのだそうですね。楽しく儲かりそうだからかな?わからんでないです。でもアイディア勝負だから、ほんとのところはものっすごく大変な仕事でしょうけれど・・・。 時代なんだなあ。

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第178回 空想でたゆたってみる

「サディがいるよ」 福音館書店 2020年9月発行 32ページ 26×19cm
サラ・オレアリー/文 ジュリー・モースタッド/絵 横山和江/訳
原著「THIS IS SADIE」 Sara O’Leary, Julie Morstad 2015年

ページをめくって最初の絵は、ダンボール箱に入って、頭をちょこっとのぞかせた女の子が、サディです。この絵で私はすでにわくわくしてしまいました。ちょっと薄暗くってせまい場所って落ち着きます。心が自由に漂いだしぼんやり空想する楽しさ、誰しもわかるとおもいます。
想像力が豊かなサディ、今日はいったいどんなことをするんでしょうか。
「これは、ダンボールばこじゃないんだって。『おおきいふねにのってるの。ひろいひろいうみをたびしてるんだ』」
海の世界にすむ女の子になったり、(美しい海藻が伸びくらげが泳ぐ水の中の世界)
狼に育てられた男の子になったり、(木が生い茂る暗い森、狼のお母さんと子どもたちと一緒に遠吠え!)
不思議の国を冒険したり、(サディはウサギとヤマネと青いドレスの女の子とお茶会です。サディはぼうしをかぶってる!)
おとぎばなしの世界で勇者に!(満月が照らす草原を馬に乗って駆けていく。)
あんまりたくさん想像が働くもんだから、サディは一日が全然たりないのです。世界は広く空想は限りない。

わたしもわりとぼーっとした子供でした。そのせいか駅で母とはぐれ迷子になり、もう二度と会えない!どうしよう!駅で暮らすしかないか?・・という想像をし恐怖した経験がございます。
空想でぼんやりしていると、ぼーっとしてんじゃないよ~なんて言われそうですが、自由に心をたゆたわせ、たくさんの人物になることは、悪いことじゃあありません。いろんな立場の人の気持ちをおもんぱかることもできるでしょう(こじつけですけれど)。
一日一日いつも時間に追われているような気持ちなので、ゆったり時間を過ごすサディがなんだか羨ましいなあ・・とおもってしまいます。こんな風に心にゆとり、持ちたいものですね。(疲れた大人の感想ですいません。)

とてもかわいい挿絵です。暗めの深い色の中、カラフルな色がポイントに使われ目を引きます。サディのお部屋に注目してみますと、シックな色合いのベッドカバーですが、ベッドマットはピンクで、赤い積み木や引っ張り出された女の子らしいかわいいお洋服が素敵です。しかし小物は、本がたくさん、ボトルシップ・カナヅチ・釘などわりあい硬そうなものもおいてありますね。かわいすぎないお部屋がいいです。特にベニテングタケ型ランプの形が愛らしくわたしも欲しい。ヒト型の赤ちゃん人形ではなくてキツネのぬいぐるみなのもわたし好み。
カバーの後見返しに著者紹介があります。2人の作者の写真は子供の頃のもの。想像力豊かな著者のお二人も主人公サディと同じ年頃の写真を掲載されたのでしょう、素敵ですね。
カバーの裏に、サディの勇者姿の大きなイラストがありますよ、カッコイイです!
挿絵のモースタッドさんの他の作品に「スワン:アンナ・パブロワのゆめ」「きょうがはじまる」「ショッキングピンク・ショック! 伝説のファッションデザイナー エルザ・スキャパレリの物語」「はじまりは、まっしろな紙 日系アメリカ人絵本作家ギョウ・フジカワがえがいた願い」「ひびけわたしのうたごえ」