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第139回 たこ・友情・哀愁

「タコやん」 福音館書店 2019年6月発行 32ページ
富安陽子/文 南伸坊/絵

タコのタコやんのおはなしです。
ノタコラ ペタコラ とあらわれたタコ。そう、頭足類の八本足の蛸です。
「よっ!」と足八本のうちの1ぽんあしをあげ、ごあいさつ。
しょうちゃんのおうちに突然あらわれたタコやん。
「タコやんです。あそびましょ」
えっなぜタコが?水の中じゃないけどだいじょうぶ?タコがしゃべってますけど?
疑問が吹きでます。
しょうちゃんも不審に感じたか(タコと遊ぶのはいやだなあ)とおもって
「いま、ゲームをしてるから、あとで」と断ります。
ドアチェーンのスキマからヌルリンチョとおうちの中にはいってきてしまって、ゲームをすることになりました。タコのタコやんはゲームがうまかった。
しょうちゃん、「タコやん、すっげぇ!」とほめると
頭を足でかいて「それほどでも」と照れました。

タコやんは、タコなのにサッカーをしてもかくれんぼしても、ぜんぶ上手。その上、公園を独り占めしようとするいじわるなおじさんと犬をおいはらうほど勇気もあるし機転もきいている。かっこいい!タコだからと最初は敬遠したこどもたちでしたが、みんな仲良くなって楽しく遊んだのです。
もう夕暮れです。楽しい時間は終わり、おうちへ帰る時間。タコやんとハグをしておわかれです。人間とタコの友情、すてきでした。またあそべるといいな。きっとまたあそぼう。
夕日のオレンジ色に染まった空と夕焼けを写した海の黄色、そんな色合いの中を海へと帰るタコやん。最後のページには哀愁を感じます。なんてこってしょう。絵本で哀愁を感じるなんて、とちょっと不思議な気持ちになりました。南伸坊さんのいろいろ省略したかわいいシンプルな挿絵も効果があるとおもいます。素敵な絵本でした。

「ノタコラペタコラ」「ヌルリンチョ」「ペタンチョ」「ヘナヘナのパー」オノマトペが独特で面白い。小さい人も喜んでくれそうですね。
作者の富安陽子さんは他の著書に「やまんばのむすめ まゆのおはなし・シリーズ」「オニのサラリーマン・シリーズ」「シノダ!/シリーズ」「妖怪一家九十九さん・シリーズ」など、たくさんかいておられます。



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第138回 古生物を現代につれてきたらこういうかんじ。

「リアルサイズ 古生物図鑑 古生代編(古生物のサイズが実感できる!)」 技術評論社 2018年8月発行 207ページ
土屋健/著者 群馬県立自然史博物館/監修

今から6億2000万年~約2億5100万年前に発生した生き物たちの実際のサイズがわかる図鑑です。
現代にあるもの(犬、座布団、イカ、サーフボード、2階建てバス、マグロなど)と並べて復元された古生物が掲載されるので、実際の大きさがとてもわかりやすく楽しく読めるようになっています。
エディアカラ紀、カンブリア紀、オルドビス紀、シルル紀、デボン紀、石灰紀、ペルム紀にわけて古い時代から新しい時代の生物を紹介していきます。だんだんと進化していくのが目に見えるのも楽しい。

生物の誕生から数十億年は顕微鏡でようやく見えるという微小のサイズでほそぼそと進化してきましたが、先カンブリア時代末期のエディアカラ紀(6億2000万年前)になると、突如からだが大型化していくのだそうです。ようやく人の目に見える大きさになった華々しい時代なのです。この時代の多くは手の平ほどのサイズですが、例外的な大型種も存在しました。

さて、あまりむつかしいことは言わないでおきましょう。ぜひページをめくってください。生物たちと並べられる現代の品はいろいろで、著者のセンスが光ります。それぞれの古生物とともにつけられた文章も、ややマニアックながらも冗談がきいておもしろい。
イカの天日干しとともに干された「ランゲオモルフ」、歯ブラシの上の「アイシェアイア」、朝顔の双葉の上の「ハルキゲニア・スパルサ」など。
エディアカラ紀・カンブリア紀はやや小型(手のひらぐらい)なものが多いせいか、食べ物と並べられることが多いようです。現代からみると奇妙、と感じる生物たちなものですから、珍味ナマコみたいな感じで、食べられなくはなさそうですが口にいれるのはちょっと
ためらってしまいますねえ。
面白いのは、サバとともに氷につけられた「アノマロカリス」。どうやって食べるんでしょう。ていうかおいしいのだろうか・・。なかなか希少なのでしょう、時価という値札がつけられているのもなんだかおかしくて笑ってしまいます。

不思議なかたちをした生き物がおおいです。過ぎ去ったはるか遠いむかし、彼らは生きていた。どういう理由でこういう体の構造になったのか、なんて考えると楽しいですね。
よろしければお手にとってみてください。
「リアルサイズ古生物図鑑 中生代編」「新生代編」もございます。



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第137回 本が好きなドラゴンのおはなし

「フランクリンの空とぶ本やさん」 BL出版 2018年2月発行 32ページ
ジェン・キャンベル/文 ケイティ・ハーネット/絵 横山和江/訳
原著「FRANKLIN’S FLYING BOOKSHOP」 Jen Campbell Katie Harnett 2017年

本が大好きなドラゴンのお話です。
フランクリンは本が好きなドラゴン。読むだけでなく、誰かに読んであげるのも好き。おうちのいわあなには、たくさん本があります。いわあなの部屋には、ところせましと本が積まれ、ドアに本棚がつくりつけになっていたりと本好きなのが伝わる挿絵です。素敵なお部屋です!ともだちのネズミやコウモリたちに本を読みます。みんな聴き入っています・・。いいですねえ、わたしも参加させていただきたい。
時々遊びに行く近くの町の人達には、気の毒なことにおそれられています。フランクリンが挨拶をしても逃げられてしまいます。からだが大きいからでしょうか。突然あらわれたら、ちょっと怖いと感じるかもしれませんね。。
森で出会ったルナという女の子と仲良くなります。ルナは本が大好き。本好きのふたりは意気投合。今まで読んだ本のはなしでもりあがります。感想を言い合うのは読書の楽しみのひとつですよね。
町の人達に本をよんでもらえたらどんなにすてきだろうと二人は計画をたてます・・
なんと、フランクリンの背中にほんやをつくったのです!ソファや本棚を乗せ空を飛んで本を読み聞かせます。ドラゴンにのせてもうらのってすごく楽しそうですね。

ドラゴンは退治されるという役柄が多いものですがこの本では愛されキャラとなるので安心して読めるのがいいですね。ドラゴンは空想の存在なのに、本の中の空想にどっぷりはまっているというのが不思議で面白く感じました。
全体的に落ち着いた色合いの挿絵も素敵。緑の体に赤い羽の色合わせがきれいです。あちこちに描きこまれたネズミ、コウモリ、クモたちも愉快で楽しい。
このお話の続きが2冊でています。「フランクリンとルナ、月へいく」「フランクリンとルナ、本のなかへ」



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第136回 しんじてる。きっときみはだいじょうぶ。

とても静かで胸に迫る絵本です。

「このまちのどこかで(評論社の児童図書館・絵本の部屋)」 評論社 2021年1月発行 40ページ
シドニー・スミス/作 せなあいこ/訳
原著「SMALL IN THE CITY」 Sydney Smith 2019年

少年がバスで街へ。タクシーのクラクション、工事する大きな音、あちこちで鳴りひびくサイレン。大きな街は騒がしくて、どきどきする。
少年は「小さなもの」へ語りかけながら街を歩き回ります。
安全で暖かく過ごせそうな場所、おいしいものを食べられそうなところや親切な人がいるところ、反対に暗い道や犬がいて危険な庭など近づかないほうがいいところなど助けになりそうなことを教えてあげています。
無事を祈る少年の思いが誰への言葉かわからず、少し不安をあおります。ちょっと我慢してページをめくっていきます。
日暮れが近づき、雪が強く降りはじめとても寒そう。少年の焦燥感、孤独感が伝わってきます。けれど、きっと無事でいるという希望をもっています。「しんじてる。きみはきっとだいじょうぶ。」少年の言葉に胸がはりさけそう。愛するものへの気持ちがつたわってきます。
物語の終わり近く、少年が吹雪く街を歩き回る理由や願いがわかった時、じんわりと胸にせまります。
少年は、迷い猫をさがしていたんですね。
最後のページにはほっとします。そうでなくちゃあ。
挿絵もきれいです。最初のページ、少年がバスから見る光景が見開きで4コマ、映画のよう。素敵です。とても静かにせまりくる絵本なので対象年齢はやや高めと感じます。

作者のシドニー・スミスさんが挿絵をつけた絵本も素敵です。
「おはなをあげる(ジョナルノ・ローソン作)」「うみべのまちで(ジョアン・スウォーツ作)」「スムート かたやぶりなかげのおはなし(ミシェル・クエヴァス作)」
があります。



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第135回 眠い人起こすの禁止!

「ねえ、おきてる?」 光村教育図書 2011年9月発行 40ページ
ソフィー・ブラックオール(ブラッコール)/作 もとしたいづみ/訳
原著「ARE YOU WAKE?」 Sophie Blackall 2011年

ママ! ママったら!
朝の4時、エドワードの目が覚めてしまいました。また寝つけられたらよかったのですが、エドワードのまぶたはくっつく気配はないようです。隣で眠るお母さんを起こします。うわあ~。。。これは困った状態です。夜に目覚めてしまって退屈で、おかあさんとお話したいのです。

ねえ、おきてる?
 んー・・・・・・おきてない・・・・・。
なんで おきてないの?
 ねてるから。
なんで ねてるの?
 まだ よるだからよ。
なんで まだ よるなの?
 おひさまがでてないでしょ。
なんで おひさまが でてないの?
 おほしさまが でてるから。
なんで おほしさまが でてるの?
よるだから。
そっか!

エドワードは、おかあさんのまぶたを引っ張ってあけてみたり(この挿絵がすごく面白い!)、上に乗っかって重みをかけたり、「そっか!」と一応の納得をするにもかかわらず、哲学問答みたいな終わりのない質問を延々とくりかえします。苦行です。
わたしなら、寝なさい! って叱るでしょうねえ・・。おかあさんは、枕で防御しつつも、まったく怒る素振りなく、眠くてちょっと適当ですが、質問にきちんと答えてあげてます。素敵なかあさんですね。この辛抱強さ、見習いたい。
なんで?なんで?なんでなの?の質問のせいで、覚醒してきたおかあさんの目がだんだんしっかりしてくるところがまたおもしろいです。
一番すきな色はなあに?っていう話の途中で、エドワードが眠ってしまいます。興が乗ってきたこのタイミングで寝ちゃうの?この置いてきぼり感、寂しすぎるよ~~。
実際にされちゃうと、うっ とおもうけれど傍で見ている分には、お子さんとお母さんの会話がたまらなく楽しい絵本でした。

ソフィー・ブラッコールさんはほかにも
「おーい、こちら灯台」灯台は、夜に海をいく船の安全のために灯りをおくります。その灯台を守る役目の灯台守のおはなし。ラストのおーい、に胸にきます「とびきりおいしいデザート」「ベネベントの魔物たち」などの挿絵もたくさんかいておられます。細い線でリアルなちょっと怖い感じという特徴的な美しい挿絵が魅力的。