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第109回 スイスの山の生活

「ウルスリのすず」 岩波書店 2018年11月新版(1973年の邦訳の改版) 44ページ
ゼリーナ・ヘンツ/文 アロイス・カリジェ(アロワ・カリジェと表記された絵本もあります)/絵 大塚勇三/訳
原著「SCHELLEN-URSLI」 Selina Chonz Alois Carigiet 1945年

今回はスイスの絵本。スイスと言えば、”銀行”が浮かんでしまうんですが、ドイツ・フランス・イタリア・ロマンシュ語の4つの言語が公用語なんですって。多様性のある国なんですね。日本は日本語ひとつですみますから、4ヶ国語が使用・表記されるとはどういう世界なのかちょっと想像がつきません。いつか旅行へ行ってみたいものです。

スイスの山にある小さな村に住む男の子、ウルスリが主人公。
明日の鈴行列のおまつりのために、近所のおじさんのところへ大きな鈴を借りに行くのです。
鈴行列とは、少年たちが牛の首にかける大きな鈴を鳴らしながら村じゅうの井戸・牛小屋・おうちを歩きまわり、鈴を鳴らして冬を追い出すおまつりです。寒く厳しい冬がやっと終わり待ち焦がれた春がやってくる。楽しくも大切な大盛りあがりの大イベントなのでしょう。
お料理・ヤギの乳搾り・水くみ・牛小屋の掃除などのおうちの仕事を全部やっつけて、うきうきで出かけたウルスリでしたが、子牛用の小さな鈴しか残っていません。小さな鈴を大きい子供たちに早速からかわれ泣いちゃうウルスリ。さあ、どうしましょうか?
朝早くから、お父さんやお母さんの仕事を手伝う頑張るよい子です。すごく共感して応援したくなるんですよね。
鈴を手に入れるために、父母を心配させてしまうんですが、終わりよければすべてよし。あるところから持ってきた大きな美しい鈴を持って、行列の先頭を歩く大得意のウルスリ。
最後は、蒸した栗にたっぷり生クリームがかかった(デザートでしょうか?おいしそう)のを「お腹いっぱい、つめこみます」。この言葉で大満足の気持ちをもたらしてくれます。
きれいな挿絵です。おうちの壁の絵、お部屋の色合い、テーブルに並んだお料理、ウルスリの持ち帰った大きな鈴とベルト などなどの美しいこと。

アロイス・カリジェは、スイスの画家。壁画、広告のデザイン、舞台美術も手掛けた多才なかたでした。安野光雅の「カリジェの世界」を読みますと、ちょっと頑固なところがあった・・とかかれていました。画家本人よりも、奥様のほうに人気があったんですとか。 「ウルスリのすず」以外にも、挿絵を手掛けた絵本は他にもあります。
「マウルスと三びきのやぎ」「マウルスとマドライナ」山でヤギ飼いをしている少年マウルスのおはなしです。逃げ出した三匹のいたずらヤギを追いかけます。預かったヤギたちへの責任を果たすため、怪我をしながらもマウルスが奮闘するのがいいです。おうちに帰り着いてからが大好きなんですよね。おばあさんが怪我の手当をしてくれ、部屋でぐっすり休むシーンが素敵。ご自身もヤギ飼いの経験がある、と序文にかかれていました。
「大雪」「フルリーナと山のとり」ウルスリ少年の続編です。妹のフルリーナが登場。
「ナシの木とシラカバとメギの木」こちらも山の暮しを描いた絵本。



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第101回 スモンスモンが旅をする。

ゴンゴン星に住む、スモンスモンが、トントンに乗って、ロンロンを探しに行く、というものがたりです。
スモンスモンって、トントンって、ロンロンってなに?とおもわれるでしょうが、読んでいるうちにわかる、不思議な絵本です。その意味不明な言葉はさほどはないので、すぐ覚えることができます。異国の言葉をマスターするあの感じ。そのものと意味が結びつくのがすごく楽しいです。読んでいくにつれ、わかるように訳してくださっています。語呂のよさがいいです。こんな楽しい訳にされるの、たいへんだったんじゃないでしょうか。
こんな変な設定は、わけわからん、なんてそうおっしゃらず、「異星を旅している」ということでまあひとつどうぞよろしく。

「スモンスモン」 岩波書店 2019年10月発行 38ページ
ソーニャ・ダノウスキ/文・絵 新本史斉/訳
原著「SMON SMON」 Sonja Danowski 2018年

簡単にあらすじをいいますと・・
スモンスモンは、食べ物であるリンゴのような実のロンロンを探しにでかけました。途中で崖に落ちて、クロンクロンやフロンフロンにたすけてもらいます。なんでもわけあって助け合って暮らしているのがすごく楽しそうなのですよ。ゴンゴン星があるなら、ぜひとも行ってみたいものですね。そしてロンロンを食べたい。

同じ音を2度くりかえす最後に「ン」がつく言葉なので、語呂がすごくいいですね。読み聞かせによいのではないでしょうか。
人のようですが少しずつ違う独特の造形のいきものたちなので、もしかしたら人によっては怖いかもしれません。でもよーく見ると、体型がふっくらしていてなんだかかわいい。フロンフロンというふくろうのような生き物の羽根がカラフルで美しいです。スモンスモンのお鼻がなぜか黒いのですが、わんこのようです。なんで黒くしたんだろう?かわいいからいいけど。
スモンスモンの顔が妙にリアルなのですよね。切れ長の特徴的なマユゲ、健康そうなバラ色ホッペ、美しい赤の唇。モデルがいらっしゃるのではないかと感jじるほど、リアルです。昔の宗教画のような立体的に感じない平面のように描かれた顔なのですが、丹念に描かれとても存在感があります。全体的におとなしい暗めの色調ですが、とても美しい色合いの絵本です。

おまけに、見返しの絵が、モーレツにかわいいです。ひものようなヨンヨンがツタのように装飾され、赤いロンロンがたくさんちらばって、美しい羽根のフロンフロンの親子が神獣のようで神秘的でステキ。色合いがたまりません。好きな人は好きな挿絵だとおもいます。興味惹かれましたらどうぞ手にとってみてください。

著者のソーニャ・ダノウスキさんは、ドイツの絵本作家。邦訳された絵本に「はじまりのはな」があります。



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第91回 美しい幻の庭で

ラストにふるえがきちゃうこの児童文学が大好きなのですが、ねたばれさせずにご紹介するのは難しいお話。想像がついちゃった、という方には先にお詫びいたします。わかったとしても素晴らしいお話ですので、よろしければどうぞ手に取ってみてください。

「トムは真夜中の庭で」 岩波書店 邦訳初版は1967年12月発行 304ページ
フィリパ・ピアス/作 高杉一郎/訳 スーザン・アインツィヒ/挿絵

今年の夏休みは、リンゴの木にツリーハウスを作るという楽しい計画をたてていたのに、弟がはしかにかかってしまいました。病気がうつらないようにと叔母の家へとあずけられることになったトムのお話です。
叔母と叔父の家は、昔は一軒の大きな邸宅だったものをいくつかに区切ってアパートになったものでした。立派な建物ですが、敷地は狭く小さな庭すらもない見知らぬ建物にはよそよそしさを感じ馴染めそうにありません。ただ玄関ホールには、00分になると時刻の数だけ鐘がなる大きな柱時計がありました。ですが、ただしい時刻どおりに時を打つことがありません。少なかったり多かったりと不正確なのですね。大きな鐘の音が2階の部屋にいても聞こえます。この時計には心がひかれています。けれど案の定、時計にはさわってはいけません、と叱られます。3階に住むこの邸宅の持ち主、バーソロミュー夫人がとても厳しい人だから。

すでにはしかに罹っている可能性もあるので、外にはだしてもらえません。叔母は大事にしてくれますが、仲の良い弟や両親のもとから強制的に隔離されてしまったトムの寂しさがぎりぎり伝わってきます。運動不足や外にでられないストレスなどで眠れずにいると、あの大きな時計が13も鐘をならしました。13時なんてありはしないのに。階下へおり、外への扉をあけると、素晴らしい庭が広がっていました。こんな庭はないはずなのに。木登りできる立派なイチイの木、ヒヤシンスが咲いて、温室もあって、かくれんぼしほうだい、広くて美しい庭に夢中になるトム。どうやら、時計が真夜中に13の時を打つと、この素晴らしい庭へと行けるようになるのです。夜になるまで、じっと我慢。それがまたわくわくを誘います。この庭は不思議です。時が戻ったり進んだりするのです。しかも、庭園で出会う人にはトムが見えていないのです。

しかし唯一、トムを見ることのできるハティ・メルバンという少女に出会い友達になります。ちょっと嘘つきで夢見がちな女の子でしかも年下なのが、ちょっと不満だけど。実はハティは両親を失った寂しい身の上であることがわかります。トムは決してばかにしたりはしません。理屈っぽい叔父には反発して生意気を言いますが孤独なハティに優しい。それがうれしいんですよね。
会うたびにハティはどんどん大人になっています。この素敵な庭にトムがやってこられるのはなぜなのか。大時計とこの庭が関係あるようですがそのなぞにせまることができるのか。凍りついた川をスケートで遠くの町まで滑っていくの二人の冒険の最後の切なさ。この美しい庭園を共有した時間とそして最後に庭を失ってしまった二人の想いに何度読んでも涙がこぼれてしまいます。
ラストまで一気読み。ためいきがでます。現在のこどもたちにもわかるよい児童文学とおもいますが、ほんのり胸のあたたまる思い出や時の過ぎいく切なさを知る年齢の方々にはもっと共感できるのではないかとおもいます。



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第73回 ずっとずっとずっとずっとずーっとむかし 進化の絵本

「わたしはみんなのおばあちゃん はじめての進化のはなし」 岩波書店 2019年7月発行 30ページ
ジョナサン・トゥイート/文 カレン・ルイス/絵 真鍋真/訳

今回は、かがく絵本のご紹介です。進化について、たいへんわかりやすくかかれた絵本です。
今から4億年ほど前のおはなしです。4億年、といわれてもどのくらい昔のことなのかぴんときませんね。それを「ずっと ずっと ずっと ずっと ずっと ずーっと」と表現しているのが面白いです。だいぶん前のことなんだろうなぁとなんとなくわかりますね。魚、犬、猫、鳥、馬、サル、人間、恐竜などいろんな生き物の祖先を、(みんなのおばあちゃん)とよんでいます。

4億年前の私たちみんなのおばあちゃんは、水の中にいて魚のようなかたちをしていました。体を「くねくね」させてすいすいと泳ぐことができ、くちを「ぱくぱく」動かしてぱくりと食べ他の生き物を捕まえやすいアゴのかたちをしています。「くねくね」「ぱくぱく」という擬音も読んでいて楽しく伝わりやすいようにおもいます。この「くねくね・ぱくぱく」することが出来る生き物から、(はちゅうるい・ほにゅうるいたちみんなのおばあちゃん)である生き物や、いろんな種類の魚・サメ・シーラカンスなどたくさん孫たちが生まれました。

「くねくね・ぱくぱく」することができる生き物から、他にもいろいろな特徴「はいはい・すーはー・きゅーきゅー・ぎゅっと・ぐーっと・ほーほー」することができる子どもたちが生まれていきました。どんどん進化していくのを追っていきます。そしてとうとう「すたすた・ぺちゃくちゃ」することのできる(にんげんたちみんなのおばあちゃん)にたどりつきます。ホモ・サピエンスです。200万年ほど前にうまれました。

巻末には、少し詳しい説明・解説がのっています。子どもたちに説明を求められた時に役立ちそう。人為選択・自然選択について、進化の系統樹ものっています。この系統樹がまた面白い。進化が木の枝のようにかかれています。「地球のすべての生きものはつながっている」ということが目で確認できます。4億年という長い長い長い時間をかけて、地球上でおこった生き物の変化をおもうと、不思議な気持ちになります。「世界中の人びとはみんな親戚同士で、みんなホモ・サピエンスという同じ種なのです。」良い絵本とおもいます。



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第5回 恐竜を飼ってみる

「きょうりゅうのかいかた (岩波の子どもの本)」岩波書店 1983年3月発行
くさのだいすけ/文 やぶうちまさゆき(薮内正幸)/絵

まきとめぐみは動物好きのきょうだいです。
カメ・金魚・インコ・カブトムシを飼ってきましたが、もっと大きな生きもの(犬か兎)を飼いたいとおもっていました。
そうしたら、お父さんが恐竜(ブロントサウルス)の子どもを連れてかえる、という想像力の荒ワザです。
名前は、どんに決定。

どっから連れてきたんでしょうか。ワシントン条約とかにひっかかりませんか、だいじょうぶですか。そうですこれが、絵本だからこそできる恐竜との暮らし。
飼育小屋を建て、トイレの穴や水浴び池を掘り、予防接種を受けさせます。大工さんや農家の方やご近所の方々などのたくさんの人たちの協力で成り立っているのです。
そうですよねえ、全長10m・体高5m・体重15トンぐらい、という大きさの生き物を、個人で育てるのは難しいでしょう。
獣医師は恐竜を診察できる知識やワザをもっているのだろうか。毎日、草の葉1トンを食べますがそれを供給し続けられるのか。恐竜にとって町は暮らしやすいところだろうか。恐竜って暴れない?
など読んでいてたくさん疑問がわいてきますが、子供たちが恐竜のどんといると幸せそうなのがいいですね。
みんなで山の湖へハイキングに行くシーンは、とても楽しい。明日はどんと何をして遊ぼうかな。