に投稿

第157回 あからん

「あからん ことばさがし絵本」 福音館書店 2017年2月発行 64ページ
西村繁男/作

「あ」から「ん」で『あからん』です。なんだろうって思いましたでしょう。言葉遊び絵本です。50音の「あ」~「ん」を頭に使った言葉の挿し絵がずらりと並びます。
『あ』のページでは、「あんぜんちたいで あさの さいさつ」という文章がついてます。
カエルとヘビが(安全地帯)と表示されたところで挨拶しています。うーんシュールね。
ほかにも、(あしあと)(あめ)(あくび)(あさひ)(あざらし)(あほうどり)(あどばるーん)・・などなど挿し絵が描き込まれています。
昭和な用品もたくさん描き込まれています。(リリアン)はわたしの子供の頃流行りましたよ~。懐かしい。頑張ってつくったけど、できあがったものを何につかったらよいやら?と困惑したものです。
絵を見て、ああっコレなんやっけ?という言葉がでてこないアレが発生しています。もどかしいのです。脳の体操にもよし。
ページ最後に答えものっていますので、安心ですヨ。見落としを発見できるのもグッド。

気に入った文章を何点か。
「のぶし のんびり のだてする」
のんびり・・
「まじょと まじんの まんざい まってました!」
きっと寄席の目玉でしょう。わたしも見にいきた~い!
「ゆきだるまは ゆぶねで ゆめをみます」
雪だるまが湯船で?雪女のおかげかな・・
「るいが るいをよび るいじんえんがやってくる」
たくさん類人猿、集まった。それっぽいのもいてます。
「あかちゃん んんん んーん」
ふんばってるあかちゃんのあか~いお顔が面白い。
西村繁男さんの挿し絵の楽しさが抜群です。

に投稿

第156回 命を賭して北極圏への旅

旅がけっこう好きです。若き頃、気ままのんびりなバイク旅行をしたことがございますが、この「北をめざして」の旅は比較にならないほどの壮大さ。生き物たちの命を賭した旅の本、よろしければ手にとってごらんください。

「北をめざして 動物たちの大旅行」 福音館書店 2016年1月発行 52ページ
ニック・ドーソン/作 パトリック・ベンソン/絵 井田徹治(いだてつじ)/訳
原著「NORTH -The Greatest Animal Journey on Earth」 Nick Dowson, Patrick Benson 2011年

北極は南極と違って大陸がありません。(知ってました?わたし知らんかった。)寒いので海が凍りついています。これをアイスキャップといいます。あまりにも寒いのでホッキョクグマ、ホッキョクギツネ、ホッキョクウサギなどのわずかしか生き物しかいないんだそうです。北極点を中心に北極海およびその周辺の土地(半径2600キロ圏内)を北極圏と呼びます。
雪と氷ばかりの北極ですが、夏になると一日中太陽がしずみません。太陽に照らされ水と土が温められ植物が伸びはじめます。海底から栄養たっぷりの水があがり植物プランクトンが大発生。それを求めさらにさらにたくさんの動物たちが集まってくるんですね。寒い寒い場所が一転して食べ物が豊富になり、子どもも育てられるほど豊かな土地となるのです。
春、食べ物を求め、たくさんの動物達が北極圏を目指します。
メキシコからは、コククジラ。8,000キロメートルもの長旅です。しかも旅の間の8週間、何も食べないんだそうですよ。不器用な感じが愛おしいですね・・・ガンバレ!
アジサシは、な・なんと、地球の反対側の南極からですって。ニュージーランドからはオオソリハシシギ。中国からソデグロヅル。
カナダは、カリブーと狼。北の豊かな地を目指すカリブーを追いかけ、狼も北上します。長旅で疲れて弱ったカリブーを狼がいただきます。うーん被食捕食の厳しさを感じますね。
他にも、ニシンなどの魚、イッカクジュウ、アザラシ、ホッキョククジラ、ペンギン、セイウチ、シャチ、ジャコウウシなどなどなど・・・それはそれはたくさんの生き物たちで北極はいっぱい。生命を謳歌します。
やがて9月になると、日がさす時間が短くなり風が吹き気温が下がりはじめます。冬が近づいているのです。またお腹いっぱい食べ力をつけ、暖かい南へ向け長い旅にでるのです。

動物たちの挿し絵がとてもきれいで迫力あります。ホッキョクグマの目のやさしくて愛らしいこと(本物に近くに寄られたら怖いだろうけど)。限られた短い夏、草が萌えるシーンにはなんだかじーんとしてしまいました。

巻末ページは、環境問題について 訳者解説があります。訳者の井田徹治さんは、環境・開発の問題について取材しているジャーナリストです。
石炭や石油を使うことによって、人間は二酸化炭素を排出しています。二酸化炭素などで地球の気温が上がっているのです。北極圏の海氷もどんどん溶け出して小さくなっています・・このままですとホッキョクグマは2100年までに絶滅すると予想されています。もちろんホッキョクグマだけではありません。温暖化により、大かんばつ・大洪水・猛暑などの異常気象を引き起こし大災害が起こって、人間の生活にももちろん影響がでています。(気候変動など信じないなんてとんでもなことを言った政治家がいましたっけ・・ふと思い出しましたけど) 豊かな自然が長く長く維持されることを祈ります。

に投稿

第142回 平安時代、橋を守る鬼と人

「鬼の橋」 福音館書店 1998年10月発行 340ページ
伊藤遊/作 太田大八/画家

小野篁(おののたかむら)という実在の人を主人公にした物語です。平安時代の初めごろの人で、たいへん書道が巧みで、みなお手本にするほど美しい書をかきました。詩人で、学者で、そのうえ弓を引かせるとなかなかの腕前。多彩な才能を持つ人だったようです。
そして彼には不思議な逸話が残っているのです。昼間は朝廷で官吏(官僚)を、夜は地獄の閻魔さまの裁判のお手伝いをする冥官をしていた・・・というのです。非常に才能豊かな人だった、と今に伝わる小野篁ですが、少年~青年時代には学問をオロソカにしてちょっとばかりひねくれていたようなのです。

小野篁、12歳。妹の比布子(ひうこ)を不注意で死なせてしまった篁の心の闇が丹念に綴られていきます。取り返しのつかないことをした自らへの怒りやいとしいものを失った悲しみが魂をむしばみ、篁少年の心の成長を阻んでいます。父に見放され、学業が手につかず、町をうろつきケンカをしたり、橋の欄干を蹴っとばしてうさをはらしたりしています。死んでしまいたい・大人になりたくない・・と荒れる篁の空虚な日々を読むのは、ちょっとしんどい。ですが、妹が死んでしまった荒れ寺へと通じる橋を通じて、おもしろい人達と出会います。

橋作り人夫だった父を亡くした小生意気少女・阿子那(あこな)
残酷な殺しを好む鬼だったが、ツノをもがれ力を半分失って「この世」にやってきた非天丸(ひてんまる)
3年前に死亡、そののち地獄にて「この世からあの世への橋」を守る役目についた勇猛果敢な将軍・坂上田村麻呂(さかのうえたむらまろ)
彼らとの出会いによって物語に起伏がうまれます。

本来、鬼は地獄にやってきた死んだ人間を「あの世」に導く役目を担っているのですが、たま~に生きているのにふらりと地獄にきてしまう人がいるのです。こういう場合、どうぞお気をつけくださいませ。鬼は生きているものしか食べないのだそうです・・・・・

阿子那は食べられてしまうかもしれないとわかっていても、橋を守ってくれた非天丸とともに暮らすことをやめません。鬼の本性の残る非天丸にも、阿子那を食いたいという欲望をおさえようと苦しんでいます。しかし彼が試練をくぐり鬼から人間に戻っていく様には、勇気をもらえます。阿子那の非天丸への揺るぎない信頼、非天丸の優しさがじんわりしみます。阿子那の強さが頼もしくて、心地よいです。
どの登場人物も、心にもろさをかかえているけれど、世間の荒波をかきわけて生きていく強さがある。
篁にも、強く生きたいとおもう心が芽生え、父を支える決心をするシーンがよかったですね。泣きます。
篁の成長もいいのですが、脇役である阿子那、非天丸、坂上田村麻呂の3人がとっても魅力的です。彼らの今後を知りたくなります。(続編でないかしら。)

作者の伊藤遊さんのほかの著作
「えんの松原」こちらも平安時代の京が舞台。怨霊に祟られてしまった皇子のおはなし。「つくも神」古い道具には神様がやどるという・・小学生の兄妹のものがたり。「きつね、きつね、きつねがとおる」。子供にしか見えないものがあるんだよ。(以前このブログでご紹介)「狛犬の佐助 迷子の巻」石工の魂のやどる狛犬・佐助の物語。「ユウキ」小学6年ケイタ。友だちになるのはみんな何故かユウキという名前。こんどやってくる転校生はどうだろう?

に投稿

第139回 たこ・友情・哀愁

「タコやん」 福音館書店 2019年6月発行 32ページ
富安陽子/文 南伸坊/絵

タコのタコやんのおはなしです。
ノタコラ ペタコラ とあらわれたタコ。そう、頭足類の八本足の蛸です。
「よっ!」と足八本のうちの1ぽんあしをあげ、ごあいさつ。
しょうちゃんのおうちに突然あらわれたタコやん。
「タコやんです。あそびましょ」
えっなぜタコが?水の中じゃないけどだいじょうぶ?タコがしゃべってますけど?
疑問が吹きでます。
しょうちゃんも不審に感じたか(タコと遊ぶのはいやだなあ)とおもって
「いま、ゲームをしてるから、あとで」と断ります。
ドアチェーンのスキマからヌルリンチョとおうちの中にはいってきてしまって、ゲームをすることになりました。タコのタコやんはゲームがうまかった。
しょうちゃん、「タコやん、すっげぇ!」とほめると
頭を足でかいて「それほどでも」と照れました。

タコやんは、タコなのにサッカーをしてもかくれんぼしても、ぜんぶ上手。その上、公園を独り占めしようとするいじわるなおじさんと犬をおいはらうほど勇気もあるし機転もきいている。かっこいい!タコだからと最初は敬遠したこどもたちでしたが、みんな仲良くなって楽しく遊んだのです。
もう夕暮れです。楽しい時間は終わり、おうちへ帰る時間。タコやんとハグをしておわかれです。人間とタコの友情、すてきでした。またあそべるといいな。きっとまたあそぼう。
夕日のオレンジ色に染まった空と夕焼けを写した海の黄色、そんな色合いの中を海へと帰るタコやん。最後のページには哀愁を感じます。なんてこってしょう。絵本で哀愁を感じるなんて、とちょっと不思議な気持ちになりました。南伸坊さんのいろいろ省略したかわいいシンプルな挿絵も効果があるとおもいます。素敵な絵本でした。

「ノタコラペタコラ」「ヌルリンチョ」「ペタンチョ」「ヘナヘナのパー」オノマトペが独特で面白い。小さい人も喜んでくれそうですね。
作者の富安陽子さんは他の著書に「やまんばのむすめ まゆのおはなし・シリーズ」「オニのサラリーマン・シリーズ」「シノダ!/シリーズ」「妖怪一家九十九さん・シリーズ」など、たくさんかいておられます。



に投稿

第121回 カエルがガイドの小さな生き物たちの探検ツアー

「あまがえるりょこうしゃ トンボいけたんけん」 福音館書店 2004年6月発行 32ページ
松岡たつひで(松岡達英)/作

あまがえるがツアーガイドをやっています。今回の探検場所は、あまがえるりょこうしゃ建物の真ん前にあるトンボ池。すごく近いなあ~、探検といえるのか、というつっこみは意地悪ですね。
にんげんが捨てたペットボトルを改造して作ったボートに乗ります。動力は足こぎ式、ハンドルで舵も動かせられるし、窓を丸くくりぬいたりと工夫があってかっこいいですよ。ペットボトルは透明なので、水の中ものぞきこめるのです。お昼のおべんとうつきでツアー料金500円てのがちょっとリアル。安いのか高いのかちょっとわからないけど。
探検にでるのは、陸で暮らす生き物、カタツムリ・ダンゴムシの夫婦・テントウムシさん。カエルがガイドなのは、陸も水中もいけるからだろうとわかるのですが、ツアー参加者が、すごく人気のある生き物たち、というわけでない(なんて言ってごめんね)彼らをチョイスしているのがなんだか面白いです。ペットボトルボートに乗船可能なサイズゆえの選択かなあ? ガイドのあまがえるさん以外は、生き物がかなりリアルに描かれています。虫が苦手なわたしはちょっと怖いのですが、さあ、あまがえるさんがペダルを漕いで出発です。

コオイムシ、ミズスマシ、マツモムシ、ミジンコ、タナゴ、アカザ、メダカ・・たくさんの生き物が池の中で生きています。絵の横に生き物の名前が書かれてわかりやすいです。
池の中も弱肉強食の世界です。トノサマガエルがゲンゴロウ・タイコウチなどの虫に襲われています。助けてあげたいけれど、それはだめ、自然の摂理なのでしょうがないのです。肉を食べなければ生きていけない生き物から食べ物を奪うことはできません。楽しいことだけではなく、厳しい自然の姿も描かれています。
お弁当休憩をとって、ガマやイグサのしげる林のようになった場所へ。ハッチョウトンボをながめます。とても小さいアカトンボです。
そこへ大型のトンボのギンヤンマがあらわれました。とても大きく描かれていて、こわいです。空を飛ぶ生き物を捕食しますから、小さな生き物たちからすると、脅威なのですね。あまかえるが隠れるようみんなに大声で注意していてどきどきします。小さな虫の気持ちがおおいに味わえます。小さな生き物には優しく接してあげてほしいという作者の生物への愛情を感じますね。

今度は、池の底から救援を求める声が。にんげんが池に仕掛けた罠につかまっているヤモリ・ナマズ・ドジョウ・フナたちが泣き叫んでいます。なんとか助けてあげたいアマガエルがトノサマガエルの長老に相談します。目がぎらぎらして強くて怖そうなライギョに援助を求め、ハリガネとひもで作られた罠を壊してもらい、全員逃げることができました。食べる気まんまんなライギョには気の毒でしたが。
探検っていえるのかなんて、冒頭でつっこみましたが、いやいやなかなか刺激的でした。虫がたくさん描かれていますので、虫嫌いさんにはちょっとこわいかもしれませんが、豊かな自然界のそのままの姿が描かれていて良い絵本とおもいます。

あまがえるりょこうしゃのシリーズは現在、3冊発行されています。
「もりのくうちゅうさんぽ」紙飛行機で、空へ。
「ゆきやまたんけん」冬の森を探検です。てんとうむしの防寒具がおもしろい。乗り物がすごくグレードアップ。ちなみにあまがえるさん、結婚しています。
空からの観察、冬の山を観察、と様々な場所を小さな生き物の目線での探検。以後も続けばいいなーとおもう楽しいシリーズです。