に投稿

第120回 みんなが仲良く過ごす夜 あねごなねこがかっこいい絵本

「クリスマスのちいさなおくりもの」 福音館書店 2010年10月発行(こどものとも版は2006年12月発行) 32ページ
アリスン・アトリー/作 上條由美子/訳 山内ふじ江/絵
原著「THE CHRISTMAS SURPRISE」 Alison Uttley 1970年

うちではまったく通常に過ごす12月25日のクリスマスですが、寒さ厳しくなるこの時期に心が暖かくなる物語が読みたくて、クリスマス絵本を手にとります。特にこの絵本、猫絵が可愛らしくて好きなのです。青い上着が似合ってる・かっこいい・リーダーシップを発揮する姉御な猫のおかみさんがステキ。
こちらのお宅は、お母さんが入院中。クリスマスのお祝いが何も用意されていません。子どもたちは小さいし、おとうさんはふさぎ込んでしまって何もできていないのです。この寂しい様子に、ねずみたちがねこになんとかしてあげてください、と頼みます。
暖炉の前にどっしり構えたねこのおかみさんが、しようがないねえ ってな顔をしつつ大得意でキリリと指図を始めます。

まずは、くつしたの準備。プレゼント授受に必須ですね。ねずみたちの小さな小さな靴下もたくさんならんでかわいいこと。
おつぎは、料理。クリスマスのごちそう、ミンスパイとケーキを作りましょう。
ミンスパイは、ミンスミートが入った小さな焼き菓子です。ミンスミートとは「干しぶどう・ドライフルーツ・柑橘類の皮を細かく刻み、ブランデー・砂糖で煮込んだもの」だそうです。洋風なあんこという感じでしょうか。はあ~おいしそうですね。
ケーキは、スグリ・レーズン・クルミのはいったもの。生クリームいちごだとかではなくてわりとシンプルな感じですが、おいしそうですね!ねずみたちが小さな体でいっしょうけんめい、材料を運んだりおさじで混ぜたり。ねこのおかみさんとねずみたちが、協力して作り上げていくのが楽しいですね。本来なら、ねことねずみは仲が良くないけれど、何しろ今夜はクリスマスイブ。みんなが仲良くする夜なのです。

さて、今度はお部屋の飾り付け。クモのおばあさんが銀の糸を張りめぐらせます。そこへねずみたちが紙をかじって作ったピンクのバラ、空色のスミレ、紫のユリのお飾りをかざっていきます。
ねこは、さらに働きますよ。雪の積もった森へでかけていきます。ねこは寒がりといいますが、外へいくなんてガンバリますよね。このおうちの人達を愛しているのが伝わってきます。

ねこがいなくなってねずみたちがほっとしています。仲良くする日といえやはりこわいんですね。お飾りをくもの糸につけていきます。カラフルなレースのカーテンのようでとってもきれい。そこへ雪をかぶったねこが、小さなもみの木と柊とヤドリギの小枝をかかえて帰ってきます。おつかれさま、ねこさん。
そしてみんなで、焼き上がったケーキやパイを感心してながめたり、においをかいだりするのです。素晴らしい飾り付けとおいしそうなごちそうが完成し、誇らしげなねこ姐さん・ねずみたちがとても素敵なシーンです。
そして、時計が12時をさします。主役の登場。サンタさんがこどもたちへのプレゼントを持ってあらわれます。素敵な飾り付けで迎えてもらいうれしそうなサンタさんは、頑張ったクモさん、ねずみたち、ねこのおかみさんにもおくりもの。最後に裏表紙をごらんあれ。ここにもうれしそうな顔が。
気持ちがほっとする物語です。なんだかちょっと疲れてしまって癒やされたい~ というかたにおすすめしたい絵本です。
山内ふじ江さんの猫のやわらかで美しい曲線と、猫らしい鋭い表情の挿絵がほんとに素晴らしいとおもうのです。猫好きなかたにもおすすめしたい。



に投稿

第118回 パリの美しい風景、修道女と12人の女の子たち

今回は、マドレーヌの絵本をご紹介。美しいパリの風景を絵本のなかに取り込んだ旅心のわく絵本です。
ベーメルマンスは、1898年生まれ、オーストリア=ハンガリー・チロル地方のメラン(現在のイタリア)で誕生。画家を目指していたが挫折。16歳でアメリカに移住しホテルので働いたのち、レストランオーナーに。ベーメルマンスがレストランの壁に描いた絵を見た編集者が絵本を描くことをすすめた・・という経歴のかたです。16歳で渡米とは、時代もあるとおもいますがなかなか肝っ玉がすわってますね。

「げんきなマドレーヌ」 福音館書店 1972年11月発行 46ページ
ルドウィッヒ・ベーメルマンス/作、画 瀬田貞二/訳
原著「MADELINE」 Ludwig Bemelmans 1939年

「パリの、つたのからんだあるふるいやしきに、
12にんのおんなのこが、くらしていました。
2れつになって、パンをたべ、
2れつになって、はをみがき、
2れつになって、やすみました。
2れつになって、9じはんに、ふっても、てっても、さんぽにでました。
なかでいちばんおちびさんが、マドレーヌです。」
寄宿舎に暮らす12人の女の子たちと、先生のミス・クラベルのおはなしです。

実はこどものころあまり好きなお話ではなかったのですが、おとなになって読んでみるとなんだかいいなあ、とおもうようになりました。ねずみも虎も怖くない強いマドレーヌが羨ましかったのかもしれません。虫垂炎になったのと小柄なのだけが共通点。怖がりでスポーツ苦手、いさましさなんてない、そんなだからか反発してしまったのかなあと今はおもいます。

ねずみなんか怖くないし、動物園の虎だってへいちゃら。冬の寒さも、なんのその、スケートも大好き。生徒の中で一番小さいけど、元気な女の子の物語がはじまるぞ、というところで、マドレーヌが盲腸炎で入院します。
タイトルを見事に裏切るストーリー運び。大丈夫なの、マドレーヌ。
2時間の手術のあと、病室で目が覚めます。右側のページに大きく鉢植えのお花が描かれています。なんだか斬新。左側のページには救急車と暗いパリの光景が描かれているので、その対比のためとても明るく感じます。お腹の痛みが消えた安心感が伝わってきますね。
入院したマドレーヌを、仲間の11人とミス・クラベルが、お見舞いに。夜、痛みに苦しむマドレーヌを涙で見送った11人の少女たちは「入院」とはどんなものか、よくわからないものですから、女の子たちは、「ぬきあしさしあし」おそるおそる病室へ入っていきます。
病室には、キャンディの入った箱、お人形と人形のおうち、ベッドには風船、などおもちゃがたくさん。待遇の良さに、みんな羨ましげ。なんといっても一番たまげたのは、おなかの盲腸手術のキズあと、勇気の印を、みんなに見せます。痛かったのよ!どうよこれ!すごいでしょ!というマドレーヌの誇らしげな顔。
その夜、11人の少女たちは、わんわん泣きます。ミス・クラベルは、「一大事かと心配で、走りに走って、駆けつけて」少女たちの部屋に。マドレーヌが羨ましくって仮病をつかってます。「盲腸をきってちょうだいよー。」

一番すきなのは、やはりミス・クラベルですね。人前に出るときに頭につけ髪を隠す修道女のかぶりもの(ウィンプルというらしいです)をどんな時も忘れない、そして、子どもたちのために、階段や廊下を走りに走って駆けつける。信頼できる大人と感じます。

ルドウィッヒ・ベーメルマンスが描いたマドレーヌシリーズが瀬田貞二さんの訳で4冊、江國香織さんの訳で2冊。瀬田貞二さんのちょっと古めかしい言葉の訳が好きです。「たまげる」「すんでにおぼれる」「もくずになるみ」「あっかん」「こはいちだいじ」ですとか。今だとちょっと分かりづらいかもしれませんが、雰囲気がでていて楽しいです。
お孫さんのジョン・ベーメルマンス・マルシアーノさんが続きを引き継いで描いているそうです。

なぜ、子供の頃あまり好きではないと思ったのか、もう一度考えてみたのですが、どうしてこの女の子たちとミス・クラベルだけで暮らしているのだろう?ちょっと寂しそうだなあ・・と感じたように思います。寄宿舎のことを理解していなかったのですね。(でもやっぱりちょっと寂しい感じがあります。)それから12人の女の子たちの見分けがつかない(つきづらい?)のも一因かも。どの子がマドレーヌかなあ、と探すのが楽しいのかもしれませんけれど。他の女の子たちの名前も書いていてほしかったのかなあ、とも思いました。
マドレーヌシリーズ 訳者・原著発行年/日本発行年
「マドレーヌといぬ」瀬田貞二・1953/1973「マドレーヌといたずらっこ」瀬田貞二・1956/1973「マドレーヌのクリスマス」江國香織・1956/2000「マドレーヌとジプシー」瀬田貞二・1958/1973「ロンドンのマドレーヌ」江國香織・1961/2001



に投稿

第115回 楽しいおさんぽ

メアリー・チャルマーズさんの絵本を2点ご紹介いたします。
モノクロのさしえでお花やおうちなど一部に淡い色がつけられていて優しい感じです。二足歩行のねこやいぬたちがかわいくてファンタジック。時々、猫らしい犬らしいしぐさのさしえも面白い。友達との楽しい時間が描かれていて幸せな気持ちになります。

「いっしょにおつかい」 岩波書店 2019年5月発行 54ページ
メアリー・チャルマーズ/作 福本友美子/訳
原著「COME FOR A WALK WITH ME」 Mary Chalmers 1955年

白い家にかあさんと住んでいるスーザンという女の子のおはなしです。
かあさんにお隣のホーシーフェザーおばさんへおつかいをたのまれ(はちみつ1カップ)、友達と散歩して、遊んで、おうちへ帰るというとてもシンプルな筋立てなんですが、すごく楽しい。お話の途中にのっている地図を見ると、すごく遠回りしてます。かあさんはまだかなまだかな~と待ってるかもしれないんですが、いいんです。待っててもらいましょう。
ホーシーフェザーおばさんのために、ともだちのうさぎのウィルと花束をつんで、ねこのトミー、きつねさん、ねずみさん、たぬきさん、くまさん(?)など森の動物たちと遊びます。野原や涼しい池、うすぐらい森に咲くお花をたくさんたくさんつみます。道っぱたで好きなだけお花をつめるってすごく贅沢ですよね。そしてもちろん、おやつがでてきます。ブルーベリーパイをいただきました。ああ~おいしそう、いいなあ。
散歩のついでにおつかいしたというごくささやかなことなのですが、楽しいことてんこもりの素晴らしい時間をすごしました。

「こねこのハリー」 福音館書店 2012年10月発行 32ページ
メアリー・チャルマーズ/作 おびかゆうこ(小比賀優子)/訳
原著「THROW A KISS, HARRY」 Mary Chalmers 1958年

ちょっとした危機はありますが、このおはなしもシンプルなストーリーです。こねこのハリーはかあさんとさんぽにでかけます。とっぱちに出会ったカメさんにいきなりちょっかいかけるのが楽しい。ひとりでうろちょろしたり屋根の上に登っておりられなくなったりとやんちゃなこねこらしい行動がかわいいんです。ちょっと危ないですけれどね。屋根からおろしてくれた消防士さんへお礼に投げキスしなさい、とかあさんに言われてもしないハリーああしなさいこうしなさい、と言われ続けてちょっと意固地になってるハリーにふふっと笑ってしまいます。かあさんのこと大好きなんだけど、時にはそんな気持ちになること、わかるわかる。にんまりしているハリーの表情にもご注目ください。たまらないです。
しかしながら、投げキスってちいさな男の子が大人へしてもいいものなんですね。艶やかな女性が男性にするものとおもっていました。
こねこのハリーのシリーズは他にも3作ございます。「ハリーのクリスマス」「まっててねハリー」「ハリーびょういんへいく」



に投稿

第111回 はたらく車、働くひとびと

鎌田歩氏の描くカッコイイ働く車・働く人たちが登場するおしごと・のりもの絵本4冊をピックアップしてみました。

「なんでもあらう」 福音館書店 2014年5月発行 32ページ
鎌田歩/作

けんちゃんの自転車、よごれている。きたないままだとあぶないよ、と教えてくれたおじさんがいました。
きたないとどうして危ないのかな?
汚れた車輪やチェーンだと、ブレーキがきかなくなったりチェーンがきれたりするかもしれないよ。きれいすることで安心して自転車に乗ることができるんだよ。
最初に登場する働く車たちは、水をまく散水車、ごみを吸い込むスイーパー、ごみを運ぶダンプトラック。3台一組で道路を洗います。道路がきれいだと安心して道路を走ることができます。
お次は、電車を洗うおしごとです。電車を洗うための線路には、ガソスタにある洗車の機械のようなものがあります。そして機械のブラシでは届かない正面や連結部分や窓枠をスポンジやブラシを使って丁寧に人があらうのです。
高いビルの窓ガラスや道路の標識も洗います。きれいにしないと傷んでしまうんだ。
きわめつけは、飛行機!飛行機は真夜中に洗うんです。やはり飛行機も洗うんですね。洗うにはおうちで使うひと月分ほどの水が必要ですが、故障を見つけやすくするため、整備のために、汚れをしっかり落とすことが必要です。
最後の仕上げに、働いたみんなでお風呂にはいります。ゆったり湯船につかってゆっくり休んでくださいね。

「そらのうえのそうでんせん」 アリス館 2018年12月発行 32ページ
鎌田歩/作

こちらもおしごと絵本です。事故がおきないよう怪我しないよう安全に仕事をするため、準備、確認、慎重を期して行動します。
送電線は、発電所で作った電気を、遠くに届ける仕事をしています。その送電線を支えるのが送電鉄塔といいます。
その送電線を点検整備をするひとたち、「ラインマン」。
装備品とその解説ページの「ラインマン図解」がかっこいいです。
どうやって鉄塔に登るか、古い部品を交換していくか、じっくりみせてくれます。
鉄塔のてっぺんは、地面から50メートル。20階建てのビルくらいの高さだそうです。足がすくみますね。
送電線に宙乗り器(ちゅうのりき)をかけて、鉄塔から鉄塔を移動して古い部品を交換していきます。(途中でトイレに行きたくなったらどうするんだろうという疑問がわきました。ごめんなさい。)

「まよなかのせんろ」 アリス館 2016年11月発行 32ページ
鎌田歩/作

こちらもおしごと+のりもの絵本、今度は電車のはしる線路をなおす車両「マルチプルタイタンパー」が主人公。
夜、お客さんがおりた最終電車が車庫へ帰っていきます。
そのとなりの留置線に、大きな車両がとまっています。線路のゆがみをはかり、レールをはさんで持ち上げて、線路にしかれた石ころ=さいせきを整えて固め、再度線路のゆがみをチェック というたくさんの機能のある便利な車両「マルチプルタイタンパー」があります。マルチタイタンパーが通ったあと、作業員さんたちが線路に残ったさいせきを掃除し、もう一度人間の目でゆがみなどを確認し、整備作業が完了します。
毎晩、電車の走らない真夜中に、作業してくれています。だから安心して電車に乗ることができるんですね。力強く働く大きな乗り物はやはりかっこいい。

「はこぶ」 教育画劇 2014年1月発行 32ページ
鎌田歩/作

これは、しごと絵本ではないですね~、なに絵本っていうんでしょうか。進化絵本?のりものはたくさん登場します。
遠い遠い昔の時代のひと(旧石器時代あたりでしょうか)がリンゴをはこんでいます。手にいっぱいもてるだけをはこぶ。
いれものに入れたら運びやすくなるね。
ひもでしばって棒につるしたらいれもの2個はこべるぞ!
ふたりがかりなら、もっとたくさんはこべるね。
背中にかつぐ道具を作ったらもっとたくさんはこべるよ。
牛の背中に乗っけてはこんでもらおう。
牛にひいてもらう荷車ができました。
雅な人々をはこぶ素敵な牛車も。

どんどん、進化していきます。
自転車やバイクに乗せて運ぼう。
おそばやラーメンをこぼさず運ぶ工夫もできました。
車が登場。三輪自動車、トラック、バス。
火事に出動する消防車、具合の悪い人を運ぶ救急車、安全に燃料を運ぶタンカー、車を運ぶ車、コンテナを運ぶ列車・・・など用途もいろいろ。かたちもいろいろ。

いろんなものを、たくさん、遠くへ、急いで、運びます。
どんどんどんどん、進化します。
あれれ、途中で山崩れが発生。荷物が運べない状況に。ここで絵本の流れがいったん止まるのが面白いですね。
山崩れをなおし、ジャリを運び、道路をなおす作業員さんや働く車たちが登場。
どんどんなおし、どんどん道路を作り、トンネルを掘って、橋をつくり、遠くへ続く道ができていきます。
技術が進化していきます。遠くへ行ける飛行機や大容量を運べる貨物船が登場。海の上も空の上も。
遠くへ、遠くへ。急いで、急いで。運べ運べ。
宇宙へだって届けるさ!と、最後は空へ向かってロケットが飛び出します。このシーンは、迫力ありますね。宇宙飛行士にリンゴを届けます。おいしそうにリンゴを食べる宇宙飛行士がいいです。

後半、知識・文化・技術が発展し、たくさんの車が登場します。ページの左から右へせわしなくどんどん運ぶためにみっしり描かれた乗り物に少し不穏な空気を感じてしまいます。作者の鎌田さんは乗り物がとってもお好きなのはたくさん描かれた乗り物から感じますが、反面、犠牲にしてきたものがあることを訴えていると感じます。遠い場所で作られているものを買うことができたり遠くへたくさんの人々を運べたり、短時間で遠くへ行けたりと、確かにいろいろ便利ですけれど。否定はできませんけれど。機械や技術は発展したけれど何か置き去りにしたものがありそう。・・そんなこと言ってないで絵本を楽しめばいいのかもしれませんけど。
「子供の頃、乗り物がたくさん書かれていたあの楽しい絵本、大人になって読み返してみたら、こんな仕掛けがあったんだとわかる絵本」なのかなあとおもいました。未知の宇宙空間に滞在する宇宙飛行士のために届けられたリンゴに喜ぶ笑顔、これこそが「運ぶこと」の目的であってほしいとおもいます。

鎌田歩氏の絵本は、擬音語が描かれ漫画風で見やすいです。たくさんののりものがしっかり描かれて、登場人物たちもかわいらしい。特に「なんでもあらう」のぶしょうひげのおじさんの絵がわたしは好きです。ほかにも楽しい乗り物絵本をたくさんかいておられます。



に投稿

第106回 エネルギーと環境 未来のわたしたちは

「はじまりはたき火 火とくらしてきたわたしたち」 福音館書店 2020年1月発行 48ページ
まつむらゆりこ(松村由利子)/作 小林マキ/絵

エネルギー問題を扱った本です。
はじまりは雷が落ちたあとに残る火。動物は火を恐れましたが、人間は恐怖に打ち勝ちました。そしてそれを利用しはじめました。身体を温め、食べ物を加工したり、土を形作って焼きうつわを作るようになったのです。
石を熱し銅や鉄を熱して金属を取りだし、いろんな道具をつくることができるようになり、人間の技術はどんどん進歩しました。
火を作るには、燃料が必要になります。燃料確保のために森を切り倒します。それにより土地が開け、町ができ、人間は増え続けます。けれど、一本の木が大きくなるには何十年も必要なのです。
『人間はとうとう、自然のめぐみには限りがあることに気がつきました。』
かわりに石炭・石油・電気という新たな燃料を発見し、効率よく使うための技術ができ活用されるようになりました。
車や飛行機が開発され短時間で長距離を移動できるようになり、エアコンや暖房器具によって快適に過ごせます。電気によって機械が進化し、パソコンやテレビでたくさんの情報にアクセスすることができるようになりました。どんど便利で快適に過ごせるようになっています。
けれど、水・空気・土などの環境を汚しながら、わたしたちは生きているのです。
便利で快適な暮らしをやめることはとても難しいですが、世界の環境の保全と未来を見据えて、今後わたしたちはどうしていくべきか、考えていかねばなりません。

『わたしたち人間は、エネルギーをつかわずに生きていくことはできません。けれども、エネルギーをたくさん使う暮しが、本当にゆたかな暮しとはいえないことに、やっと気づきました。そして、地球のめぐみを大事にしながら、エネルギーをつかいつづける暮し方をさぐりはじめています。人間と火をめぐるものがたりの続きは、まだ、誰も知りません。これから、ひとりひとりがつくっていくのです。』
最後には、限りあるエネルギー、増えていく人口、発電をめぐる問題など、解説があります。巻末の「世界のエネルギー消費量」の図をみると、1950年ごろから消費量が急上昇しています。そら恐ろしく感じます。

作者の松村由利子さんは、新聞社で科学環境部の記者をつとめられました。歌人でもあります。
「31文字のなかの科学(NTT出版ライブラリーレゾナント)」科学者が医療や科学技術の進歩への迷い・苦しみ・楽しさを詠った短歌の選と解説をされています。実はわたし、詩歌の愉しさがちょっと分かりづらいのですが、この短歌集は楽しめました。歌と科学ってかなりあうんだなあ。こちらも興味持たれましたらよろしければお手にとってみてください。