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第15回 アメリカ、ゴールドラッシュの少女

「金鉱町のルーシー」 あすなろ書房 254ページ 200年6月発行
カレン・クシュマン/著 柳井 薫/訳

1949年、アメリカ東部から、ゴールドラッシュにわく西部カリフォルニアに、母と4人の子どもたちで移住したウィッブル家のお話です。
主人公は、長女のカリフォルニア(ルーシー)・ウィッブル。西部への移住を夢見ていた父母があこがれのあまり、子供たちに西部の土地の名を付けたほど。長女がカリフォルニア、その弟がビュート(西部にある平原の丘)、3人の妹はそれぞれ、プレーリー(草原の意)、シエラ(ネバダ山脈のこと)、ゴールデン・プロミス(金の約束)。父と一人の妹が肺炎で亡くなり、母は嘆き悲しみ、そのあと西部への移住を決めました。

こども4人を連れて、移住するという母の力強さ。対して長女のカリフォルニアは、気弱で怖がりで、過去にしがみついています。知らない土地へ越してきたばかりで、一家5人食べていかねばならないのに、夢見がちでちょっと怠け癖ある長女にイライラするお母さんの気持ちもわかります。粗野で不潔な男たちばかり、図書館もない金鉱町になど来たくはなかったカリフォルニアの気持ちも、わからないでない。家族には帰りたい気持ちを口に出さず、祖父母への手紙という形の日記を書いています。

現実を受け入れられないカリフォルニアの成長物語です。
東部へ帰るため(結構姑息に)資金を貯めたり、母の再婚を(かなり姑息に)阻止しようとしたり、使ってはいけない汚い言葉”あほんだら”を心の中で毒づいたりと、ユーモアあふれる小説です。「お酒」をあらわす言葉を集める弟との会話も楽しい。

陽気で優しい男ヒゲのジミー、無口な配達人スノーシュー・バロー、逃亡奴隷のバーナード・フリーマン、薬草に詳しい少女リジー・フラッグ、伝道が下手な牧師クライド・クレイモア、などその他登場人物もとても魅力的。特にリジー・フラッグの家族の顛末についてのまわりの反応がよかったと思いました。
「本」というものの大事さ、人の優しさ、誠実さ、悲しい別れを経験し、カリフォルニアは成長していきます。
主人公はカリフォルニアという名前なのに、タイトルが「金鉱町の ”ルーシー”」なのはなぜ?・・・と気になったソチラのあなた!あなたのために書かずにおきます。決して意地悪なんかじゃないですとも。ええ。決して。 でもほんとに良い作品なのでぜひ手にとっていただきたい良作です。どぞお試しあれ。

カレン・クシュマンの邦訳はこの本をあわせて邦訳が三冊でていますが、ほかの作品もおもしろいです。
「アリスの見習い物語」中世イギリス、孤児の少女が、産婆見習いとして村に居場所を見つけるお話。
「ロジーナのあした:孤児列車に乗って」12歳で孤児となった少女ロジーナがアメリカ東海岸から中西部への”孤児列車”にのって養子先を探す旅。



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第14回 あたまにつまった意志

「あたまにつまった石ころが」  光村教育図書
キャロル・オーティス・ハースト/作  ジェイムズ・スティーブンソン/絵  千葉茂樹/訳

石が大好きだった作者のお父さんのお話だそうです。石ころ集めに夢中だったので、ポケットの中だけではなく、頭にも石が詰まっていると言われた作者のお父さん。世界恐慌で経済が停滞、大変に苦しい生活であったようですが、ただただひたむきに鉱石について勉強し、コツコツ集め、情熱を傾けました。
「石が好きだなんて、頭に石がつまっている(馬鹿げている)」と、言われることもありました。厳しい生活の中、その情熱が揺らぐこともきっとあったでしょう。それでも好きなものを好きでいた、その心の強さを尊敬します。努力が実を結んだことにホッとします。きれいな石たちの挿絵も素敵です。良い絵本です。これを読んでぐっとくる年齢は、やや高めでしょうかね。大人におすすめしたい一冊です



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第13回 猫の雨の日は23時間の睡眠をとる権利

「まんげつの夜、どかんねこのあしがいっぽん」 小学館 32ページ 2016年発行
朽木祥/作 片岡まみこ/挿絵

猫はねこでも、山で暮らすノネコが主人公です。
ノネコは訪ねてくれる人がいなくて寂しくてたまらない。とうとう自分で友達を探しにいくのですが、元気ハツラツな子犬に追われ、土管に逃げ込めたのは良かったのですが、つっかえて出られなくなってしまいます。その夜は満月。猫の主張を叫ぶ日(あたたかい寝床を!とか雨の日は23時間の睡眠をとる権利を!とか)なのですが、ノネコがはまった土管の上がその主張のヒノキ舞台なのでした。そして満月がのぼった空の下、猫の主張とダンスがはじまります。
土管にはまって足がとびでた状態のノネコを見物する猫たちの猫らしいちょっと奔放な行動がとても可愛らしい。「猫というものは、自分勝手に見えて、(実は)意外に思いやりも想像力もあるのだった」など著者の猫という生き物についての考察がところどころにあり、きっと猫好きな著者であろうと想像します。著者の作品の「かはたれ」にも猫がでてきますし。うんうんやっぱりだいぶん好きそうだな!
友達がおうちへ遊びに来て欲しい、というノネコの願いが叶い、たくさんの猫たちが山へ訪ねてくれるラストシーンがうれしい。勇気をだして山をおりた甲斐があってよかったよかった。テーブルには、シチュー、フィッシュケーキ・小エビのから揚げ、ミルクとチーズのプディングなどごちそうが並べられていて、おいしそうでたまりません。フィッシュケーキをおよばれに行きたいですね。版画の挿絵は片岡まみこさん。とてもかわいらしくて魅力的。おすすめな絵本。

他作品に・・・
「かはたれ 散在ガ池の河童猫」 小さな猫に姿を変えてやってきたカッパの子”八寸”と少女”麻”の物語。
「たそかれ 不知の物語」 かはたれの続編。 他にもたくさん。



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第12回 だめな自分という絶望

「となりの火星人」 講談社 222ページ 2018年2月発行
工藤純子/著 ヒロミチイト/装画・挿絵

おのおの悩みを抱える4人の子供たち。
相手の気持ちを慮ることに疎い、かえで
怒りに支配されてしまうことに怯えている、和樹
不安になるとパニックになってしまう、美咲
相手が壁を作っているのを感じる、天然で優しい、湊
中学受験に失敗し挫折感に潰されそうになっている、聡

 連作短編7話が収録。かえでを中心に話がすすみます。
かえでは、相手の話すことを「言葉通り」に解釈してしまいます。”一番厄介なのは、人間の感情だ。表情と心の中が違う。いってることと、やってることが違う。親切そうに見せかけて、ウソをつく。” ”道徳(の時間の問題)は難しい。正しい答えが分からないから。”それでも自分の返答や行動で相手が困ったり、悲しませたりすることを恐れ、人の気持ちを理解できない自分はダメだ、と絶望を感じています。

 和樹は、怒りに支配されると暴れてしまいます。今日も、ズボンが破れているのをからかわれ、怒りで頭が真っ白になって教卓をけとばし大きくヘコませてしまいスクールカウンセラーと面会させられています。問題を起こす困った子と言われて、いつもお母さんを悲しませていることに絶望を感じています。
整理整頓が出来ないという自らの弱さも見せながら、子供たちの心に寄りそうスクールカウンセラーの真鍋先生や、「これからは人と違うことが大切な時代になる」というかえでのおばあちゃんがいい味をだしている。大人だって、子どもだって、みんな、たくさんの人に助けられて生きている。

 「ダメな子なんて、一人もいない。」とふっと感じるかえでに希望を感じほっとします。
繊細で人とコミュニケーションをとるのが上手でない子供たちを「火星人」と表現したことにとても驚きました。とってもストレートな言い方に感じます。が、なるほどうまい言い回し。感じ方によっては悪口になるかもしれませんが、誉め言葉にも励ましにもなるとわたしは思います。人との関係で辛さを感じるけれど、さらに人と関わることで心が成長したり希望を感じたりします。辛い気持ちでいる子どもたちを導くことのできる真鍋先生の存在がすばらしい。読んでよかった・・と感じる児童文学でした。



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第11回 こわいほん

関係ないんですけどわたし結構怪談が好きなんですよね。で、今回ご紹介したい絵本なのですが、怖い絵本は数あれど、ずば抜けて怖い絵本と言えば、コレ。トラウマ絵本の代表(といわれています)「ねないこだれだ」をご紹介いたします。

「ねないこだれだ (いやだいやだの絵本)」 福音館書店 1969年
せなけいこ/作・絵

 早く寝ない子は、オバケにさらわれちゃうのです。おばけと一緒に空を飛んでいくのです。オドシでなく、マジでつれていかれてしまうのです。
そんな絵本です。

表紙の挿絵は、典型的なおばけの造形ですが、なんやら狂気を宿した黄色い目が恐怖をあおります。オバケにさらわれた子はどこへ行くんでしょうか。普段は行けないような不思議なところでしょうか。想像もできないほど怖いところなんでしょうか。そんなオバケの世界へ引き込まれてしまうかもしれない危うさに、ぞくぞくします。こどもはまじでおそろしい、と感じると思います。実体験から、なおかつ蛇足であろうと思いつつも書いてしまいますが、それだけにお子さんへの読み聞かせには十分ご注意いただきたいと思います。

子供の頃は、二度と読みたくないと思ったものですが、大人になった今、不思議な世界に連れて行ってくれるおばけが結構いやかなり好きですね。ふつうの生活、平常心では見られない世界を垣間見せてくれるかもしれないから。でも安心しているのはおそらくそんな世界は遠いところにある・・と思っているからでしょう。ラストのページ、寝ない子はオバケになって、オバケと手をつないで飛んでいくのですが、なんだか楽しそうに見えるのは私だけでしょうか。私は幼児の時分から寝付きが悪かったので、そう思いたかったのかもしれません。