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第128回 ふろふきが食べたくなる絵本

力の抜けた味のある挿絵をかく馬場のぼるさん。たくさんの絵本から迷って迷って、こちらをご紹介。

「きつね森の山男」 こぐま社 1974年7月発行 48ページ
馬場のぼる/著者

主人公は山奥に住む、山男(やまおとこ)さん。髪ぼさぼさのヒゲぼうぼう、着ているのは毛皮をひもでしばったような、なんだか野性味の強い服。服というかなんというかボロギレ?(ごめん山男さん。)そして、はだしです。自然体。そんな様子なもんですから、あらくれもののように見えますが、礼儀正しく優しくそして力持ち。おまけに大根作りの名人なのです。
住むところを探して旅していましたが、あおいあおい森を見つけ気に入りました。「あおいあおい森」という言葉、きれいですよね。豊かで深い森。そこは、狐がたくさん住む、きつね森でした。
きつね森に住むきつねたちの毛皮を狙う殿様も登場。さむがりんぼなものですから、冬にたくさんの狐の毛皮を着るために、きつね狩り大作戦を目論んでいます。山男は、きつね軍に入ることになりましたが、ほんとうは、戦争より大根のほうが好きでした。
きつねたちは、殿様軍が攻めてくるのを防ぐため、要塞を作ったり竹ヤリを持っての軍事訓練をはじめました。
山男は、軍事訓練と大根作りの合間に、やまぶどうをたくさん、杉の木のほら穴にいれ、仕込んでいます。そうすると、まっかっかのぶどうしゅができあがるのです。うーおいしそうですね! そして、山男さんは、まいにち、お味噌をつけたふろふき大根をほろほろやって食っては、まっかっかのぶどうしゅを、きゅうっと のんでいるのです。おいしそうですねえ、ふろふきであったまって、ほろよい。もう言うことなしですよね。
そしてとうとう、殿様がたくさんの家来を連れ、狐狩りにやってきました。たいへんなことになりました!

不器用そうながらも愛嬌のある山男さんが、とにかく魅力的。「うへえ」が口ぐせ。作った大根を売る口上が、コレ。人となりがあらわれてます。「うへえ、だいこんはいらないだか。うへえ、だいこんはうまいだぞ。どうもおれは うるのがへたでこまる。」ひげづらのおいさんなのに、えらくかわいらしく感じます。捕虜となって木に縛りつけられているのに「にわっ」とわらったり、おくがたさまにふろふき大根・クッキングの講習をはじめたり。「まず、だいこんを 輪切りにぶったぎるだ。それをにるだ。にえたらば、みそのたれをつけて くうだ。くったらば ほかほか あったまるだ。」
山男さんの素朴な感じにきゅんときてしまいます。
ふろふきだいこんというのは絵本にしては、しぶいチョイスでしょう。でも、ふろふき大根が食べたくなって困る絵本なのです。山男さんちに自家製ぶどうしゅをおよばれにぜひ行きたい。お味噌を手土産にしますんで・・だめかな?

馬場のぼるさんの他の絵本・・「11ぴきのねこ」シリーズ6冊、「ぶどう畑のあおさん」「かえるがみえる」「ぶたたぬききつねねこ」など多数。



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第126回 ねむれない、そんな夜に

「よぞらをみあげて」 ほるぷ出版 2009年2月発行 32ページ
ジョナサン・ビーン/作 さくまゆみこ/訳
原著「At Night」 Jonathan Bean 2007年

ベッドに入ったけれど、眠れない。父さんも母さんも、妹や弟たちも眠っている。穏やかな寝息が聞こえてくる。
なのに、わたしは目がぱっちり。うわあ~明日は早起きしなきゃならない、なんていうときだとかなり辛い状況ですね。
夜風に誘われて、屋上にでた女の子。そうそう、こちらのお宅は、一軒家で屋上があるのです。洗濯ものは広く干せるし、涼めそうだし、夜は天体観測できそうだし、読書したり日光を浴びたりといろいろできそうで、すごく贅沢に感じますね。
部屋を通り抜ける風は屋上からきていると気がついて、お布団を持って屋上へ。椅子を並べ布団を敷いて空を見上げます。
なんてうらやましい。
月あかりが、わたしを、町いったいを照らしています。
「夜の空は広々として、世界がどこまでもどこまでもつながっていくのを感じます」
太陽の輝く昼間より、そういう感じになるのはわかるような気がします。たくさんの人が寝ていて静かな夜。自分ひとりしか起きていない。近くには誰もいないけれど、遠くの誰かにおもいをはせる。誰かにきっとおもいが届くような、気持ちがつながるような、そんな夜。夜に情熱的な手紙を書いてしまうの原理ですね。
娘が屋上に出たのに気がついたおかあさんは、コーヒー(かなにか温かい飲みもの)片手に様子を見に来てくれます。そういうのもいいですねえ。
いいですねェ~、わたしなら、ビールをおともにしたいです。夜空を眺めて乾杯、ああ、なんて楽しそう!



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第125回 湯たんぽ、宇宙へ行く

ただいま、1月。寒さが厳しいこの時期、このタイトルを素通りできませんでした。
わたしも湯たんぽをつかいます。足を乗せたり足の上に乗せたり、胸元でだっこしてみたり。
足のつまさきから体があったまってくると、眠気がさしはじめます。湯たんぽって素晴らしい!!最高!
そんな気持ちで絵本を開いたら、ちょっと想像と違いました。いやかなり違いました。

「わたしのゆたんぽ」 偕成社 2012年12月発行 47ページ
きたむらさとし/えとぶん

おかっぱ頭の女の子。「わたしはゆたんぽがだいすき。」
だけど、ゆたんぽが布団からはみだすのです。わたしの冷たい足を嫌って逃げるのです。そうなんですよね、湯たんぽってなぜかどこかへ行ってしまうんですよね。
なんと、窓ガラスを破って逃げ出す、ゆたんぽ。追いかけるわたしの足。足のみが伸びて「わたし」の本体はお布団の中にいるようです・・・。
なんてことでしょう、どんどん足が伸びてどこまでもどこまでも追いかけます。夜空を飛んで逃げていくゆたんぽ、伸びていく赤い縦縞のパジャマをはいた2本の足、の挿絵が衝撃です。どこまでいくんだろう!と追わずにはいられません。
夜空につきでるビルディング並ぶ大きな街、キリンやゾウがいるアフリカ、アシカやペンギンの住む氷の海を通り過ぎて、ついにはなんと宇宙へ!! そして宇宙の片隅の小さな惑星に降りたつのです。
そして他の星の人類(足型星人です)にゆたんぽを奪われます。やはり大人気の湯たんぽなんです。だって「あったかいときはかっこよくってたのもしい」のですから。
他の星の住人に湯たんぽを奪われるというシーンには笑ってしまいました。湯たんぽひとつで想像力ってここまで広がるんだなあ。ポチョルポチョルと水音でお返事もするかわいいゆたんぽの大冒険、楽しませてもらいました。

この投稿のタイトルにて、絵本の内容の重要な部分がねたばれしてしまっていることをお詫びいたします。あまりに強烈なストーリーだったものですからついつい・・・
著者のきたむらさとしさんは、ほかにもたくさん絵本があります。「ねむれないひつじのよる」「ぼくネコになる」「ポットさん」など。翻訳に、デビッド・マッキー/著「ぞうのエルマー シリーズ」、ハーウィン・オラム/著「ぼくはおこった」など。
そういえば、小さい頃、祖父の家で豆炭をいれたアンカを使わせてもらったことがあります。毛布で厚くくるまれていたからか、電気アンカや湯たんぽより、ほっかりやさしいあたたかさだったようにおぼえています。ふと思い出しました。



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第123回 鉄道がたのしい!

「たんけん!鉄道のしくみ しかけがいっぱい!きみも鉄道博士になれる!(lonly planet kids)」 世界文化社 2020年3月発行
クライブ・ギフォード/文 ジェームズ・ガリバー・ハンコック/絵 平形澄子、青木亮済、松田理歩、宇野なおみ、植田瑞穂/訳
原著「HOW TRAINS WORK」 Clive Gifford, James Gulliver Hancock 2019年

鉄道に関するしかけ絵本です。折り込みになっているページを広げるとヨコ幅109cm(1m弱!)にも広がって見ごたえあります!あちこちにある小さな仕掛けを開くと、機械の中や小ネタなどがみることができる、情報満載の絵本です。
馬に車をひいてもらう時代から、蒸気機関を使った乗り物がイギリスで発明されます。蒸気機関車からディーゼルオイルで走るディーゼル機関車、電気で走る電車へと発達していく歴史。
蒸気機関車の内部、ボイラー・煙突・炭水車、その中にある火室や運転士室(コーヒーポットが備え付けられてたそうです!)のことなどがみっしり描かれています。
それから、駅のこと、電車のこと、色んな国の電車のこと、駅の構造、分岐点のこと、絵で示されますのでよくわかります。見出しは英語で表示されていて面白いですね。フォントが凝っていてかわいい。
なおついでながら、私が一番興味ひかれるのは、「優雅な鉄道旅行」のページ。ロシアのシベリア鉄道は、モスクワからウラジオストクまで7日間も乗り続けます。カナダのカナディアン号は4泊5日、そびえ立つ山々、広大な森林を通り野生動物を見ることができるそう。インドはヴィベクエクスプレス、最北から最南端まで96時間かかります。 いいですねえ、のんびり鉄道旅行。列車に乗るのが目的の旅行ってあこがれがあります。

鉄道好きでなくても、さし絵でしっかり伝わりますので年齢性別関係なく楽しめるとおもいます。鉄道についてさらにさらに知りたいひとには、山本忠敬さんの「機関車・電車の歴史」をおすすめします。鉄道の歴史や技術のこと、日本の電車の車輪の大きさのことなど、くわしくてとても読み応えがあります。こちらもおすすめいたします。
同じシリーズに空港を題材にした「たんけん! 空港のしごと」もあります。



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第121回 カエルがガイドの小さな生き物たちの探検ツアー

「あまがえるりょこうしゃ トンボいけたんけん」 福音館書店 2004年6月発行 32ページ
松岡たつひで(松岡達英)/作

あまがえるがツアーガイドをやっています。今回の探検場所は、あまがえるりょこうしゃ建物の真ん前にあるトンボ池。すごく近いなあ~、探検といえるのか、というつっこみは意地悪ですね。
にんげんが捨てたペットボトルを改造して作ったボートに乗ります。動力は足こぎ式、ハンドルで舵も動かせられるし、窓を丸くくりぬいたりと工夫があってかっこいいですよ。ペットボトルは透明なので、水の中ものぞきこめるのです。お昼のおべんとうつきでツアー料金500円てのがちょっとリアル。安いのか高いのかちょっとわからないけど。
探検にでるのは、陸で暮らす生き物、カタツムリ・ダンゴムシの夫婦・テントウムシさん。カエルがガイドなのは、陸も水中もいけるからだろうとわかるのですが、ツアー参加者が、すごく人気のある生き物たち、というわけでない(なんて言ってごめんね)彼らをチョイスしているのがなんだか面白いです。ペットボトルボートに乗船可能なサイズゆえの選択かなあ? ガイドのあまがえるさん以外は、生き物がかなりリアルに描かれています。虫が苦手なわたしはちょっと怖いのですが、さあ、あまがえるさんがペダルを漕いで出発です。

コオイムシ、ミズスマシ、マツモムシ、ミジンコ、タナゴ、アカザ、メダカ・・たくさんの生き物が池の中で生きています。絵の横に生き物の名前が書かれてわかりやすいです。
池の中も弱肉強食の世界です。トノサマガエルがゲンゴロウ・タイコウチなどの虫に襲われています。助けてあげたいけれど、それはだめ、自然の摂理なのでしょうがないのです。肉を食べなければ生きていけない生き物から食べ物を奪うことはできません。楽しいことだけではなく、厳しい自然の姿も描かれています。
お弁当休憩をとって、ガマやイグサのしげる林のようになった場所へ。ハッチョウトンボをながめます。とても小さいアカトンボです。
そこへ大型のトンボのギンヤンマがあらわれました。とても大きく描かれていて、こわいです。空を飛ぶ生き物を捕食しますから、小さな生き物たちからすると、脅威なのですね。あまかえるが隠れるようみんなに大声で注意していてどきどきします。小さな虫の気持ちがおおいに味わえます。小さな生き物には優しく接してあげてほしいという作者の生物への愛情を感じますね。

今度は、池の底から救援を求める声が。にんげんが池に仕掛けた罠につかまっているヤモリ・ナマズ・ドジョウ・フナたちが泣き叫んでいます。なんとか助けてあげたいアマガエルがトノサマガエルの長老に相談します。目がぎらぎらして強くて怖そうなライギョに援助を求め、ハリガネとひもで作られた罠を壊してもらい、全員逃げることができました。食べる気まんまんなライギョには気の毒でしたが。
探検っていえるのかなんて、冒頭でつっこみましたが、いやいやなかなか刺激的でした。虫がたくさん描かれていますので、虫嫌いさんにはちょっとこわいかもしれませんが、豊かな自然界のそのままの姿が描かれていて良い絵本とおもいます。

あまがえるりょこうしゃのシリーズは現在、3冊発行されています。
「もりのくうちゅうさんぽ」紙飛行機で、空へ。
「ゆきやまたんけん」冬の森を探検です。てんとうむしの防寒具がおもしろい。乗り物がすごくグレードアップ。ちなみにあまがえるさん、結婚しています。
空からの観察、冬の山を観察、と様々な場所を小さな生き物の目線での探検。以後も続けばいいなーとおもう楽しいシリーズです。