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第129回 しこみのたのしい絵本

いしいひろしさんの絵本、2作ご紹介いたします。
色鉛筆の彩色が柔らかで優しい絵本です。おちゃめな世界観で楽しいですよ。

「かもめたくはいびん(MOEのえほん)」 白泉社 2015年7月発行 32ページ
いしいひろし/絵

かもめが宅配業をしています。いつもとてもおおいそがし。
いそしすぎてやめてしまうかもめもたくさんいます。だからいつも配達員が足りなくて、従業員を募集しています。「ながくはたらいてくれる かもめはいないかな」と店長さんは悩んでいました。 絵本なのに、現実味があってなまなましい。雇用条件がわるいのじゃないかしらとか考えてしまって、おはなしの行方が気になります。
配達員募集でおくられてきた写真をみている、かもめの店長さん。写真だけで、従業員を決めるらしい。だいじょうぶかしら・・・
案の定、ペンギンがやってきますが、ペンギンは飛べないので、お店の受付や仕分け作業をお願いされます。
ですが配達をしてみたいペンギンくんなのです。
雨が降ると、かもめ配達員は、休憩。雨が苦手なのですね。
かわりに、ペンギンくんの出番がやってきた!!

「おかしなこともあるもんだ (わたしのえほんシリーズ)」 PHP研究所 2016年12月発行 32ページ
いしいひろし/作・絵

こちらは、おしゃれなベストを着込んだおおかみくんが主人公。
ひつじが泣いています。暑くて脱いだ「毛」がどこかへいってしまったのだそうです。
「はてさて、おかしなことも あるもんだ
毛を ぬぐ ひつじが いるなんて」
こんな調子で、ふしぎにおもいながらも、おおかみくんがひつじちゃんの「毛」を一緒にさがしはじめます。
この謎めいたひつじちゃんの毛はみつかるでしょうか?
ひつじの面倒をみる、おおかみくんのお顔がやさしくって、イイ。
不思議におもうときのおおかみくんは、頭をちょっとかしげるのですが、これがかわいいのです。
オチにもふふっときて楽しい絵本でした。

絵本らしくない おっ!とおもう驚きが一発しこんである絵本たちです。前とうしろの見返しに4コママンガがあって、お話が続いています。これも楽しい仕掛けですね。小学低学年あたりのかたがたが喜んでくれそうです。
いしいひろしさんの作品は他にも「たべてみたい!」「おさかなどろぼう」「おたすけトミー でばんだよ!」が発行されています。



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第128回 ふろふきが食べたくなる絵本

力の抜けた味のある挿絵をかく馬場のぼるさん。たくさんの絵本から迷って迷って、こちらをご紹介。

「きつね森の山男」 こぐま社 1974年7月発行 48ページ
馬場のぼる/著者

主人公は山奥に住む、山男(やまおとこ)さん。髪ぼさぼさのヒゲぼうぼう、着ているのは毛皮をひもでしばったような、なんだか野性味の強い服。服というかなんというかボロギレ?(ごめん山男さん。)そして、はだしです。自然体。そんな様子なもんですから、あらくれもののように見えますが、礼儀正しく優しくそして力持ち。おまけに大根作りの名人なのです。
住むところを探して旅していましたが、あおいあおい森を見つけ気に入りました。「あおいあおい森」という言葉、きれいですよね。豊かで深い森。そこは、狐がたくさん住む、きつね森でした。
きつね森に住むきつねたちの毛皮を狙う殿様も登場。さむがりんぼなものですから、冬にたくさんの狐の毛皮を着るために、きつね狩り大作戦を目論んでいます。山男は、きつね軍に入ることになりましたが、ほんとうは、戦争より大根のほうが好きでした。
きつねたちは、殿様軍が攻めてくるのを防ぐため、要塞を作ったり竹ヤリを持っての軍事訓練をはじめました。
山男は、軍事訓練と大根作りの合間に、やまぶどうをたくさん、杉の木のほら穴にいれ、仕込んでいます。そうすると、まっかっかのぶどうしゅができあがるのです。うーおいしそうですね! そして、山男さんは、まいにち、お味噌をつけたふろふき大根をほろほろやって食っては、まっかっかのぶどうしゅを、きゅうっと のんでいるのです。おいしそうですねえ、ふろふきであったまって、ほろよい。もう言うことなしですよね。
そしてとうとう、殿様がたくさんの家来を連れ、狐狩りにやってきました。たいへんなことになりました!

不器用そうながらも愛嬌のある山男さんが、とにかく魅力的。「うへえ」が口ぐせ。作った大根を売る口上が、コレ。人となりがあらわれてます。「うへえ、だいこんはいらないだか。うへえ、だいこんはうまいだぞ。どうもおれは うるのがへたでこまる。」ひげづらのおいさんなのに、えらくかわいらしく感じます。捕虜となって木に縛りつけられているのに「にわっ」とわらったり、おくがたさまにふろふき大根・クッキングの講習をはじめたり。「まず、だいこんを 輪切りにぶったぎるだ。それをにるだ。にえたらば、みそのたれをつけて くうだ。くったらば ほかほか あったまるだ。」
山男さんの素朴な感じにきゅんときてしまいます。
ふろふきだいこんというのは絵本にしては、しぶいチョイスでしょう。でも、ふろふき大根が食べたくなって困る絵本なのです。山男さんちに自家製ぶどうしゅをおよばれにぜひ行きたい。お味噌を手土産にしますんで・・だめかな?

馬場のぼるさんの他の絵本・・「11ぴきのねこ」シリーズ6冊、「ぶどう畑のあおさん」「かえるがみえる」「ぶたたぬききつねねこ」など多数。



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第127回 ピリッとからい昔ばなし

ちょっと大人むきなダールの昔ばなしのパロディ作品をご紹介いたします。ピリッと皮肉の効いたこのお話、いやだと感じるかたもいるかもしませんがどうぞご容赦ください。

「へそまがり昔ばなし (ロアルド・ダール コレクション12)」 評論社 2006年6月発行 85ページ
ロアルド・ダール/著者 クェンティン・ブレイク/画家 灰島かり/翻訳者
原著「ROALD DAHL’s REVOLTING RHYMES」 Roald Dahl Quentin Blake 1982年

「シンデレラ」「ジャックと豆の木」「白雪姫」「三びきのクマ」「赤ずきんちゃん」「三びきのコブタ」
この有名な6話の昔話を、ロアルド・ダールがキュっと皮肉を込めえがきなおしました。
若かりし頃にこれを読んで、驚きました。これは受け入れられない! とおもった記憶があります。
昔ばなしの主人公は、たいていは「いい子」と決まっています、と訳者の灰島氏がまえがきで書いています。「いい子」であることを、世の中は大人は、確かに求めています。子どもはいい子のほうが、大人にとって楽ですからね。(そして子どもだってそれに応えたいとおもうものですよね。)いい子であれと説く昔ばなしに抵抗したのが、この物語。
ダールのこの皮肉なユーモアは、すこぉし覚悟をして、童話とおもわず読まないほうが楽しめるのでしょう。ほかの人が幸せと感じることと、自分にとっての幸せは、ちょっと違うときもあります。迷子になったり道をはずれたほうが楽しい時もありますし。

ダメ王子を見きるシンデレラ、豆の木ジャックはお風呂に入って、義母の魔法の鏡を盗む白雪姫、三びきのクマの女の子は悪党だと断定するし、かなりの改変ですが、女性陣が強くて素敵です。特にわたしが好きなのは、オオカミをピストルでいきなり成敗する赤ずきん。「そこで赤ずきんは、パチリとウインク。ズロースのゴムにはさんだピストルをサッととりだして、ズドンと一発、おみまい。」するシーンにはにんまりしてしまいます。(だって、「ズロース」なんですよ!?!) オオカミの毛皮を手に入れるだけではなくプタのかばんまで手に入れる赤ずきんは、まあちょっとやりすぎ感もあるような気がしますが、一筋縄でいかないワルガールなのがわたしは好きです。
クェンティン・ブレイクの色気のある挿絵もダールのお話にぴたりとマッチしています。皮肉の効いたお話が読みたいかたに、おすすめいたします。

ロアルド・ダールは、第二次世界大戦で戦闘機パイロットとして従軍し、生死を彷徨う経験をもとにした小説や、ちょっと不思議な変わった味わいの短編をたくさん書いています。結婚してから児童小説もかきはじめました。たくさん書かれていますが有名どころは「キス・キス」「あなたに似た人」「飛行士たちの話」「おばけ桃の冒険」「チョコレート工場の秘密」映画にもなりましたね。
ついでながらわたしの好きなダールの児童書・・「オ・ヤサシ巨人BFG」「すばらしき父さん狐」「マチルダは小さな大天才」「魔女がいっぱい」



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第126回 ねむれない、そんな夜に

「よぞらをみあげて」 ほるぷ出版 2009年2月発行 32ページ
ジョナサン・ビーン/作 さくまゆみこ/訳
原著「At Night」 Jonathan Bean 2007年

ベッドに入ったけれど、眠れない。父さんも母さんも、妹や弟たちも眠っている。穏やかな寝息が聞こえてくる。
なのに、わたしは目がぱっちり。うわあ~明日は早起きしなきゃならない、なんていうときだとかなり辛い状況ですね。
夜風に誘われて、屋上にでた女の子。そうそう、こちらのお宅は、一軒家で屋上があるのです。洗濯ものは広く干せるし、涼めそうだし、夜は天体観測できそうだし、読書したり日光を浴びたりといろいろできそうで、すごく贅沢に感じますね。
部屋を通り抜ける風は屋上からきていると気がついて、お布団を持って屋上へ。椅子を並べ布団を敷いて空を見上げます。
なんてうらやましい。
月あかりが、わたしを、町いったいを照らしています。
「夜の空は広々として、世界がどこまでもどこまでもつながっていくのを感じます」
太陽の輝く昼間より、そういう感じになるのはわかるような気がします。たくさんの人が寝ていて静かな夜。自分ひとりしか起きていない。近くには誰もいないけれど、遠くの誰かにおもいをはせる。誰かにきっとおもいが届くような、気持ちがつながるような、そんな夜。夜に情熱的な手紙を書いてしまうの原理ですね。
娘が屋上に出たのに気がついたおかあさんは、コーヒー(かなにか温かい飲みもの)片手に様子を見に来てくれます。そういうのもいいですねえ。
いいですねェ~、わたしなら、ビールをおともにしたいです。夜空を眺めて乾杯、ああ、なんて楽しそう!



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第125回 湯たんぽ、宇宙へ行く

ただいま、1月。寒さが厳しいこの時期、このタイトルを素通りできませんでした。
わたしも湯たんぽをつかいます。足を乗せたり足の上に乗せたり、胸元でだっこしてみたり。
足のつまさきから体があったまってくると、眠気がさしはじめます。湯たんぽって素晴らしい!!最高!
そんな気持ちで絵本を開いたら、ちょっと想像と違いました。いやかなり違いました。

「わたしのゆたんぽ」 偕成社 2012年12月発行 47ページ
きたむらさとし/えとぶん

おかっぱ頭の女の子。「わたしはゆたんぽがだいすき。」
だけど、ゆたんぽが布団からはみだすのです。わたしの冷たい足を嫌って逃げるのです。そうなんですよね、湯たんぽってなぜかどこかへ行ってしまうんですよね。
なんと、窓ガラスを破って逃げ出す、ゆたんぽ。追いかけるわたしの足。足のみが伸びて「わたし」の本体はお布団の中にいるようです・・・。
なんてことでしょう、どんどん足が伸びてどこまでもどこまでも追いかけます。夜空を飛んで逃げていくゆたんぽ、伸びていく赤い縦縞のパジャマをはいた2本の足、の挿絵が衝撃です。どこまでいくんだろう!と追わずにはいられません。
夜空につきでるビルディング並ぶ大きな街、キリンやゾウがいるアフリカ、アシカやペンギンの住む氷の海を通り過ぎて、ついにはなんと宇宙へ!! そして宇宙の片隅の小さな惑星に降りたつのです。
そして他の星の人類(足型星人です)にゆたんぽを奪われます。やはり大人気の湯たんぽなんです。だって「あったかいときはかっこよくってたのもしい」のですから。
他の星の住人に湯たんぽを奪われるというシーンには笑ってしまいました。湯たんぽひとつで想像力ってここまで広がるんだなあ。ポチョルポチョルと水音でお返事もするかわいいゆたんぽの大冒険、楽しませてもらいました。

この投稿のタイトルにて、絵本の内容の重要な部分がねたばれしてしまっていることをお詫びいたします。あまりに強烈なストーリーだったものですからついつい・・・
著者のきたむらさとしさんは、ほかにもたくさん絵本があります。「ねむれないひつじのよる」「ぼくネコになる」「ポットさん」など。翻訳に、デビッド・マッキー/著「ぞうのエルマー シリーズ」、ハーウィン・オラム/著「ぼくはおこった」など。
そういえば、小さい頃、祖父の家で豆炭をいれたアンカを使わせてもらったことがあります。毛布で厚くくるまれていたからか、電気アンカや湯たんぽより、ほっかりやさしいあたたかさだったようにおぼえています。ふと思い出しました。