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第113回 クマがマジック

「マジシャンミロのふしぎなぼうし(講談社の翻訳絵本)」 講談社 2009年7月発行 32ページ
ジョン・エイジー/作 石崎洋司/訳
原著「MILO’S HAT TRICK」 John Agee 2001年

ミロはマジシャンです。けどあんまりマジックが上手でない。ぼうしからいろんなものをとりだすマジックは特にひどい。あんまりヘタなので、くびにされそうなのです。と、そういうはじまりからして面白い。
ぼうしマジックのタネのウサギをつかまえに森へでかけ、クマに出会ってしまいます。なんとぼうしに入ることができるクマです。入る秘訣をウサギにおそわったんだそう。ぼうしからクマが顔をだす絵のインパクトったら。
ところがミロがクマのはいったぼうしをなくしてしまいます。たいへん!クマがミロをさがして町を歩くシーンも面白いです。協力的なクマがかわいらしいですね。
なんとかショーに間に合ったクマとミロはマジックを成功させ、大喝采をあびます。
けれど、ぼうしからぼうしへとびうつる芸は疲れます。ぐったりしているクマがかわいそう。ミロは相棒のクマを森へもどします。春まで眠る、と言っているので冬眠もしたかったみたい。マジックできないミロはさあこれからどうしたらいいんだろう、とこれから先は言っちゃあダメとカバー前見返しにかかれていますので、よろしければ絵本を手にとってみてください。

ちょっと変わったセンスのジョン・エイジーのお話が楽しいです。不思議なほうへ話がいってしまう。どうなるどうなる?とページをめくってしまう、面白さ。挿絵の線がちょっと雑なかんじが味をだしている。(余談ですが「団地ともお」小田扉の漫画をおもいだします。小田扉さんも変わったセンスの話をかかれます。)
他の作品「ぼくのサイ」「うちゅうじんはいない!?」「飛行士フレディ・レグランド」もにんまりしますよ。特に「フェリックス・クルーソーのふしぎなえ」のおしまいにどきりとしました。
続けて読んでいきたい作家さんです。



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第112回 きのこを楽しむ

前見返しから隙間なく元気いっぱいに描かれた絵本です。大胆でカラフルな色使いがとても魅力的。タイトルと表紙の絵ではなんの絵本かわかりづらいですが、きのこの絵本です。

「ほなまた (わくわくたべものおはなしえほん)」 農山漁村文化協会 2008年3月発行 28ページ
こしだミカ/作・絵

山の地面は、葉っぱや生き物のふんが積み重なって、ふかふかでとっても栄養が豊か。木のねっこの近くに胞子があります。胞子はきのこの種のこと。きのこの種が芽をだして木の根っこにからまってすくすく大きく育ちます。秋、雨が降って地面がしっとりぬれるころ・・きのこがにょきにょきむくむく、顔をだす。
きのこっておいしいですよねえ。新鮮なしいたけなど、びっくりするほど味わいがありますよね。うーん食べたくなってきました。
山の動物達も、きのこを食べにやってきます。
ハエ、ももんが、猿、いのしし。すごく可愛い!とはちょっと言えないメンバー(失礼!)をチョイスするのがスゴイなとおもいますが、みんな秋のごちそうをお腹いっぱいいただきます。
村のおじいさん(人間)も、孫を連れてきのこ狩り。山の幸をカゴいっぱいとりました。まだまだたくさんあるからまだまだとりたい孫ですが、食べる分だけもらうのだ、とじいちゃんがさとします。また来年とりにこようとじいちゃんと孫は約束します。ほなまた来年。

リアルな挿絵で、ずばっと言ってしまうとかわいい系の挿絵とはいえない、力強い太い線の独特な絵をかかれます。そこになんとも言えない吸引力を感じます。そして、作者のこしだミカさんは大阪生まれなので、文章が大阪弁です。わたしも関西生まれなのでおもうのですが、大胆な挿絵と同様、飾らない言葉でしゃべるまんまの大阪弁が元気で楽しくて気持ちが明るくなります。
ほかにも
「アリのさんぽ」小さなアリがこの道はどこまで続くのかしら・・と追求するちょっと哲学ふうな絵本
「ねぬ」ねこみたいないぬ、で、”ねぬ”。犬なのに猫になりたい。猫だけど犬になりたい。ちょっと変わり者の生き物たちの物語。
「ひげじまん」立派なひげがご自慢のなまず、ひげ勝負の旅にでます。なまずの旅の出方にびっくり。
などがあります。



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第111回 はたらく車、働くひとびと

鎌田歩氏の描くカッコイイ働く車・働く人たちが登場するおしごと・のりもの絵本4冊をピックアップしてみました。

「なんでもあらう」 福音館書店 2014年5月発行 32ページ
鎌田歩/作

けんちゃんの自転車、よごれている。きたないままだとあぶないよ、と教えてくれたおじさんがいました。
きたないとどうして危ないのかな?
汚れた車輪やチェーンだと、ブレーキがきかなくなったりチェーンがきれたりするかもしれないよ。きれいすることで安心して自転車に乗ることができるんだよ。
最初に登場する働く車たちは、水をまく散水車、ごみを吸い込むスイーパー、ごみを運ぶダンプトラック。3台一組で道路を洗います。道路がきれいだと安心して道路を走ることができます。
お次は、電車を洗うおしごとです。電車を洗うための線路には、ガソスタにある洗車の機械のようなものがあります。そして機械のブラシでは届かない正面や連結部分や窓枠をスポンジやブラシを使って丁寧に人があらうのです。
高いビルの窓ガラスや道路の標識も洗います。きれいにしないと傷んでしまうんだ。
きわめつけは、飛行機!飛行機は真夜中に洗うんです。やはり飛行機も洗うんですね。洗うにはおうちで使うひと月分ほどの水が必要ですが、故障を見つけやすくするため、整備のために、汚れをしっかり落とすことが必要です。
最後の仕上げに、働いたみんなでお風呂にはいります。ゆったり湯船につかってゆっくり休んでくださいね。

「そらのうえのそうでんせん」 アリス館 2018年12月発行 32ページ
鎌田歩/作

こちらもおしごと絵本です。事故がおきないよう怪我しないよう安全に仕事をするため、準備、確認、慎重を期して行動します。
送電線は、発電所で作った電気を、遠くに届ける仕事をしています。その送電線を支えるのが送電鉄塔といいます。
その送電線を点検整備をするひとたち、「ラインマン」。
装備品とその解説ページの「ラインマン図解」がかっこいいです。
どうやって鉄塔に登るか、古い部品を交換していくか、じっくりみせてくれます。
鉄塔のてっぺんは、地面から50メートル。20階建てのビルくらいの高さだそうです。足がすくみますね。
送電線に宙乗り器(ちゅうのりき)をかけて、鉄塔から鉄塔を移動して古い部品を交換していきます。(途中でトイレに行きたくなったらどうするんだろうという疑問がわきました。ごめんなさい。)

「まよなかのせんろ」 アリス館 2016年11月発行 32ページ
鎌田歩/作

こちらもおしごと+のりもの絵本、今度は電車のはしる線路をなおす車両「マルチプルタイタンパー」が主人公。
夜、お客さんがおりた最終電車が車庫へ帰っていきます。
そのとなりの留置線に、大きな車両がとまっています。線路のゆがみをはかり、レールをはさんで持ち上げて、線路にしかれた石ころ=さいせきを整えて固め、再度線路のゆがみをチェック というたくさんの機能のある便利な車両「マルチプルタイタンパー」があります。マルチタイタンパーが通ったあと、作業員さんたちが線路に残ったさいせきを掃除し、もう一度人間の目でゆがみなどを確認し、整備作業が完了します。
毎晩、電車の走らない真夜中に、作業してくれています。だから安心して電車に乗ることができるんですね。力強く働く大きな乗り物はやはりかっこいい。

「はこぶ」 教育画劇 2014年1月発行 32ページ
鎌田歩/作

これは、しごと絵本ではないですね~、なに絵本っていうんでしょうか。進化絵本?のりものはたくさん登場します。
遠い遠い昔の時代のひと(旧石器時代あたりでしょうか)がリンゴをはこんでいます。手にいっぱいもてるだけをはこぶ。
いれものに入れたら運びやすくなるね。
ひもでしばって棒につるしたらいれもの2個はこべるぞ!
ふたりがかりなら、もっとたくさんはこべるね。
背中にかつぐ道具を作ったらもっとたくさんはこべるよ。
牛の背中に乗っけてはこんでもらおう。
牛にひいてもらう荷車ができました。
雅な人々をはこぶ素敵な牛車も。

どんどん、進化していきます。
自転車やバイクに乗せて運ぼう。
おそばやラーメンをこぼさず運ぶ工夫もできました。
車が登場。三輪自動車、トラック、バス。
火事に出動する消防車、具合の悪い人を運ぶ救急車、安全に燃料を運ぶタンカー、車を運ぶ車、コンテナを運ぶ列車・・・など用途もいろいろ。かたちもいろいろ。

いろんなものを、たくさん、遠くへ、急いで、運びます。
どんどんどんどん、進化します。
あれれ、途中で山崩れが発生。荷物が運べない状況に。ここで絵本の流れがいったん止まるのが面白いですね。
山崩れをなおし、ジャリを運び、道路をなおす作業員さんや働く車たちが登場。
どんどんなおし、どんどん道路を作り、トンネルを掘って、橋をつくり、遠くへ続く道ができていきます。
技術が進化していきます。遠くへ行ける飛行機や大容量を運べる貨物船が登場。海の上も空の上も。
遠くへ、遠くへ。急いで、急いで。運べ運べ。
宇宙へだって届けるさ!と、最後は空へ向かってロケットが飛び出します。このシーンは、迫力ありますね。宇宙飛行士にリンゴを届けます。おいしそうにリンゴを食べる宇宙飛行士がいいです。

後半、知識・文化・技術が発展し、たくさんの車が登場します。ページの左から右へせわしなくどんどん運ぶためにみっしり描かれた乗り物に少し不穏な空気を感じてしまいます。作者の鎌田さんは乗り物がとってもお好きなのはたくさん描かれた乗り物から感じますが、反面、犠牲にしてきたものがあることを訴えていると感じます。遠い場所で作られているものを買うことができたり遠くへたくさんの人々を運べたり、短時間で遠くへ行けたりと、確かにいろいろ便利ですけれど。否定はできませんけれど。機械や技術は発展したけれど何か置き去りにしたものがありそう。・・そんなこと言ってないで絵本を楽しめばいいのかもしれませんけど。
「子供の頃、乗り物がたくさん書かれていたあの楽しい絵本、大人になって読み返してみたら、こんな仕掛けがあったんだとわかる絵本」なのかなあとおもいました。未知の宇宙空間に滞在する宇宙飛行士のために届けられたリンゴに喜ぶ笑顔、これこそが「運ぶこと」の目的であってほしいとおもいます。

鎌田歩氏の絵本は、擬音語が描かれ漫画風で見やすいです。たくさんののりものがしっかり描かれて、登場人物たちもかわいらしい。特に「なんでもあらう」のぶしょうひげのおじさんの絵がわたしは好きです。ほかにも楽しい乗り物絵本をたくさんかいておられます。



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第110回 かきねをこえてすぐそこの文化の違いを楽しむ

著者のバルト・ムイヤールトはベルギー王国、挿絵のアンナ・ヘグルンドはスウェーデンの出身です。
ベルギーはオランダ語(フラマン語)・フランス語・ドイツ語の3つの公用語の地域があります。日本で生まれ日本語で育った私には、同じ国で3カ国も使われるなんてとても不思議に感じてしまいます。話す言語が違っても一つの国にまとまるということに安心します。ちなみにムイヤールトさんはフラマン語を話す地域ブリュージュの出身。

「かきねのむこうはアフリカ」 ほるぷ出版 2001年8月発行 32ページ
バルト・ムイヤールト/文 アンナ・ヘグルンド/絵 佐伯愛子/訳
原著「AFRIKA ACHTER HET HEK」 Bart Moeyaert Anna Hoglund 原著の発行年記載なし

同じ作りの建物が8軒並んだ家とその裏には庭がある、そのうちの一軒にぼくは住んでいた。たいていのうちの庭は、物置があって芝生がきれいに刈り込まれ、菜園が作ってあるんだけれど、隣のおうちの庭はほったらかしで草がぼうぼう生えている。そのおうちには、フランス語を話す男の人が住んでいて、きれいな茶色の肌をした奥さんがいて名前は、デジレーさん。ぼくとぼくの家族はフランス語を話せないので、お隣さんとは今まで仲良くしてこなかったようですね。垣根ごしに隣家を観察してます。興味津々なのがなんだかおかしい。
4人の子供とデジレーさんは、陽がさすと、草が生えっぱなしの庭の真ん中に椅子を持ち出して過ごします。挿絵では、デジレーさんの表情は明るくありません。元気のない思いつめた表情なのが心配です。

デジレーさんは、ある雨の日、自分の国のことばの歌を歌いながら、庭の物置を壊し始めます。彼女のお国は、アフリカのカメルーンなのです。物置を壊しているのを垣根ごしに観察していたぼくににっこり笑います。満足そうです。いつも悲しげな表情だったのに楽しそうに過ごしているので読んでいてほっとします。
それから、穴を掘り粘土をねって、家を作り始めます。楽しそうに口笛を吹きながら、何日も何日も。
粘土が乾けば、ブルドーザーを使っても壊れないんだそうです。家となるのですからやはり頑丈に出来上がるんですね。
同じ作りの家と庭に住むご近所さんたちは、変わったことをしだしたデジレーさんに、ルール違反をしている!と怒っています。
ぼくは垣根ごしに、デジレーさんの粘土の家作りを見守ります。ぼくのお父さん・お母さんも、興味津々。
アフリカってどんな国なんだろう?って想像するぼく。ライオンとサル。それ以外は何も知らないんだと気がつくぼく。

両親がデジレーさんに肯定的な口調なのも安心します。いつも悲しげなデジレーさんが楽しそうだから、ぼくの両親も興味を持って「お手伝いましょうか?」なんて言い出したり、雨の中を働くデジレーさんにお茶をあげたりしたのかな。自分たちのおうちのお隣さん、垣根を超えたらすぐそこにあるちょっと違う知らない世界。自分たちとは違う他国の文化に興味を持って受け入れる、ってちょっと違和感や抵抗感を感じたりしてしまうこともあると思いますが、異質だ!と排除するより楽しい。素敵な一家ですね。
デジレーさんが作った粘土のおうちは、カメルーンが懐かしくて寂しい時、家に飽きた時、過ごすんだそうです。別荘ですね。いいなあ。粘土のおうちに招かれたら、わたしはすごくうれしくってはしゃいじゃいそうです。
前見返しとうしろ見返しの挿絵に違いがあるのが楽しい。



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第109回 スイスの山の生活

「ウルスリのすず」 岩波書店 2018年11月新版(1973年の邦訳の改版) 44ページ
ゼリーナ・ヘンツ/文 アロイス・カリジェ(アロワ・カリジェと表記された絵本もあります)/絵 大塚勇三/訳
原著「SCHELLEN-URSLI」 Selina Chonz Alois Carigiet 1945年

今回はスイスの絵本。スイスと言えば、”銀行”が浮かんでしまうんですが、ドイツ・フランス・イタリア・ロマンシュ語の4つの言語が公用語なんですって。多様性のある国なんですね。日本は日本語ひとつですみますから、4ヶ国語が使用・表記されるとはどういう世界なのかちょっと想像がつきません。いつか旅行へ行ってみたいものです。

スイスの山にある小さな村に住む男の子、ウルスリが主人公。
明日の鈴行列のおまつりのために、近所のおじさんのところへ大きな鈴を借りに行くのです。
鈴行列とは、少年たちが牛の首にかける大きな鈴を鳴らしながら村じゅうの井戸・牛小屋・おうちを歩きまわり、鈴を鳴らして冬を追い出すおまつりです。寒く厳しい冬がやっと終わり待ち焦がれた春がやってくる。楽しくも大切な大盛りあがりの大イベントなのでしょう。
お料理・ヤギの乳搾り・水くみ・牛小屋の掃除などのおうちの仕事を全部やっつけて、うきうきで出かけたウルスリでしたが、子牛用の小さな鈴しか残っていません。小さな鈴を大きい子供たちに早速からかわれ泣いちゃうウルスリ。さあ、どうしましょうか?
朝早くから、お父さんやお母さんの仕事を手伝う頑張るよい子です。すごく共感して応援したくなるんですよね。
鈴を手に入れるために、父母を心配させてしまうんですが、終わりよければすべてよし。あるところから持ってきた大きな美しい鈴を持って、行列の先頭を歩く大得意のウルスリ。
最後は、蒸した栗にたっぷり生クリームがかかった(デザートでしょうか?おいしそう)のを「お腹いっぱい、つめこみます」。この言葉で大満足の気持ちをもたらしてくれます。
きれいな挿絵です。おうちの壁の絵、お部屋の色合い、テーブルに並んだお料理、ウルスリの持ち帰った大きな鈴とベルト などなどの美しいこと。

アロイス・カリジェは、スイスの画家。壁画、広告のデザイン、舞台美術も手掛けた多才なかたでした。安野光雅の「カリジェの世界」を読みますと、ちょっと頑固なところがあった・・とかかれていました。画家本人よりも、奥様のほうに人気があったんですとか。 「ウルスリのすず」以外にも、挿絵を手掛けた絵本は他にもあります。
「マウルスと三びきのやぎ」「マウルスとマドライナ」山でヤギ飼いをしている少年マウルスのおはなしです。逃げ出した三匹のいたずらヤギを追いかけます。預かったヤギたちへの責任を果たすため、怪我をしながらもマウルスが奮闘するのがいいです。おうちに帰り着いてからが大好きなんですよね。おばあさんが怪我の手当をしてくれ、部屋でぐっすり休むシーンが素敵。ご自身もヤギ飼いの経験がある、と序文にかかれていました。
「大雪」「フルリーナと山のとり」ウルスリ少年の続編です。妹のフルリーナが登場。
「ナシの木とシラカバとメギの木」こちらも山の暮しを描いた絵本。