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第187回 深海魚が主人公

「ひかりうりのぴかこさん」 佼成出版社 2014年9月発行 32ページ
松山円香/著者

今回の主人公は、ぴかこさん。深海魚です。
丸めのふっくらボディ、ぱっちりしているがちんまりとした目、美しいチョウチン、細かいトゲのようなギザギザの歯がたくさんついた大きな口、黒いヒレ。
チョウチンアンコウとおもわれます。
チョウチンアンコウの画像を見ると、とても不気味。主人公にしようとよく思いついたなあ、と失礼ながら思ってしまいますが、ぴかこさんは、わりと・・・人によっては、愛らしく思うでしょう。ブキカワというやつでしょうね。ただ、伸縮自在の発光アンテナのようなところが、とても美しいフォルムです。

ぴかこさんは、深い深い海の底で、雑貨を売って生計を立ててます。深海では珍しい葉っぱや花でできた可愛い小物がたくさん。いったいどこからこんな素材を手に入れているんでしょう。
ぴかこさん、秘密の仕事がもうひとつあるのです。
雑貨のお店を閉めたら、素材の仕入れへでかけます。
それがまたファンタジック。水面へ出て、空に浮かび上がるのです。どうやって浮かんでるの、という質問はNO!です。ファンタジーですね。もしアンコウが空を飛んでたら、わくわくしますよね。
ぴかこさんのもうひとつの仕事は、月のない夜にチョウチンの光を売るのです。闇の中を泳いで光を売るチョウチンアンコウ・・・・ファンタジック!とっても幻想的で美しい。
光を必要とする動物たちがいて、ぴかこさんを頼っているのです。みなさん、宵っ張りですね。
くまさんは、こぐまに絵本をよんであげるため。
ひつじさんは、孫のプレゼントのセーターを編むため。
鳥たちは、パーティを盛り上げたいからと、太陽みたいに明るくして!と無理難題。
光で照らすかわりに、ぴかぴかのどんぐり・ふかふか羊毛・色とりどりの羽と交換です。海にない素材の仕入れのナゾがとけました。光を売る苦労も知ったところで、閉店。深海へ帰還です。

海の底の場面では、ほかにも深海に住む生物が描かれてます。
深海に住む生き物の特徴のギョロッとした目やグワッと大きい口の魚たちはやはり不気味に感じるのですが、そんな生き物たちをうまく愛らしくデフォルメしているのが面白い。魚が主人公の絵本はたくさんあるとおもうのですが、深海生物だと珍しいのじゃないかと思うのですが、他にもありますかねえ?
仕入れた素材は、ぴかこさんがなにがしか加工して売っているのも楽しいです。水の上に2号店ができたらぜひお店に伺ってみたい。
深い深い海の底に光を当てたこの作品、面白かったです。不気味・愛らしいぴかこさんのお話の続きがあればぜひ読みたい。
松山円香さんの他の作品
「アリゲイタばあさんはがんこもの」「こまったうしのガイコツまおう」「ヤモップさん、ぴたっとかいけつ!」「おやすみ こりす」「ムモンアカシジミのまほう」「Songs 生き物たちの塗り絵」

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第186回 おとなのなかにはこどもがいます

「おとなのなかのこども -おとなになるってどんなことなのかを しりたいこどものみなさんへ」
化学同人 2020年9月発行 23×17cm 32ページ
ヘンリー・ブラックショー/作 井上舞/訳
原著「The Inner Child」 Henry Blackshaw 2019年

内なるこどもについての絵本をとりあげてみました。
副題は、「おとなに なるって どんなことなのかを しりたい こどもの みなさんへ」。
裏表紙には、「こどものままで いるって どんなことなのかを しりたい おとなの みなさんへ」
とも書かれております。
こどもと大人の両方に語りかけているんですね。大人とこども、両方の心に寄り添う良作とおもいます。
『子どもの心を持っているということは、「大人になりきれてない」というのと「大人の心を忘れていない」の2種類あるんだよ。』10代後半の頃、そんなふうに諭されたことがあります。
というようなことを、この絵本を読んで思いだしました。あれはズキリとしましたねえ。
だけれど、年を経ていま、大人になるってことがわかってんのか?と聞かれると、お恥ずかしながら、わたしはきちんとした大人とはいえないようにおもいます。
でも案外、おとなもこどももそう変わんないのかもしれない。なんても思ったり。

大人の中には「内なるこども」が隠れている。
挿絵では、大人になった人に重なるように、こどもだった時の姿も一緒に書き込まれています。
内なる子どもたちは、感情そのままに動きます。隠そうとしても、隠しきれない。
「大人の中のこどもたちは 遊びたくって たまらないから 時々 外にとびだしちゃうんだ!」

例えば・・・・・
『新しいおもちゃがほしいとき  おとなは おもちゃのことを『どうぐ』だって いったり ぜったいに ひつようなものなんだって いいわけしたり するんだ』
ドキリ!わかるわかる。スマートフォンやタブレットを、必要なものだ!って言って、まだ使えるにもかかわらず、買い替えてしまったり。
『いじわるなおとな なかにいるのは いじわるなこども』
これにもドキリ!そうだよねえ。怒りの感情に流されてしまうのは、’’子供っぽい’’。
『おとなが だれかの ことを すきになったら みんな あかちゃんみたいな しゃべりかたに なる(へんなの!)』
これは、なんだかくすっときますね。う~ん、ちょっとわかるような気もします。
『おとなにも こどものみんなと おんなじように こわいものがある』
子どものときには、大人に怖いものがあるなんて、そんなこと考えもしなかったけれど、身近な大人・・小学校の担任の先生、ご近所に住んでたおじさん・おばさん、母や父・・にも、きっと怖いものはあったでしょうね。大人になったいまだとわかる。

「子どもでいるってことは、本当に大事なことなんだよ。大人になっても、絶対に忘れないことをいろいろと学ぶ時間なんだ。」
「大きくなっても君の中には、まだ子どもの君がいる。だからつらい気分になることもある。」
「でも忘れないで。自分の中にいる子どもをこれからも大切にしてちゃんと話を聞いてあげてほしい。だってね、その子がいるおかげで、君はとっても楽しい大人になれるんだ!」

「内なる子ども」というと、どちらかというと、制御できない・荒ぶる感情というイメージが強いと思いますが、この絵本では肯定的でうれしい。楽しんだもんが勝ちなんだぜ!というメッセージを感じます。
そしてだからこそ、楽しい子ども時代を過ごさせてあげたいと切に願います。
大人と子どもに語りかける絵本でしたが、大人の目線で読んでいる自分がおりました。寂しいような・嬉しいような?ちょっと不思議な気持ちになりました。
子どもの頃、大人になっちゃったらどうなるんだろう?と、とても不安に思っていましたが、その頃のわたしに、読ませてあげたかった、とおもいます。

ヘンリー・ブラックショーさんは、オーストラリア・メルボルンの作家さんです。この本がはじめての著書とのこと。新しい著書がでましたらきっと読みたい。

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第185回 須弥山で運動会

今回は以前にもとりあげた、苅田澄子さんの絵本。中川学さんの挿絵です。
ご紹介する作家・挿絵画家は、なるたけ重複しないようにしているのですが、仏教を下敷きにしたこの絵本、なかなか興味深いので、チョイスいたしました。
仏教やほとけさまのことなんて全然知らないよ、と思う方が大多数と思います。だがしかし!
前見返し・後見返しに、ざっくりほとけさまの紹介がのっています。お話を読みながら、あ、このかたは、あみだにょらいさま・みろくぼさつさま・おふどうさま・せんじゅかんのんさま・・・というふうに探しながら読むのも。読み終わったのち、カバーの裏にもう少し詳しい解説・・「古代インドの宇宙観的仏さま運動場世界」「こまいぬ・おししの違い」「ほとけさまの種類」「ほとけさまのごく簡単なプロフィール」などで再確認すると楽しいでしょう。う~ん、いたれりつくせりですぞ。
*ちなみに以前ご紹介したのは、地獄のえんまさまが激辛ラーメン屋をするお話でした。『(第33回の投稿「じごくのらーめんや」)
苅田さんはちょっと変わった世界を描くかたなようですが、こんなユーモア、わたしは好きです。

「だいぶつさまのうんどうかい」 アリス館 2017年8月発行 32ページ27cm
苅田澄子/文 中川学(なかがわがく)/絵

今日は、仏様たちの世界で運動会が開催されます。その模様をレポートいたしましたのが、この絵本。
駐車場では、雲、獅子、白象に乗って到着する仏様たちでいっぱい。
全員、赤白の体操帽をかぶっているのが、まずは笑いを誘う。おのおの準備体操や設営をしています。

さてこちらでは、ジャージを着てライン引きをする「みろくぼさつさま」と「あみだにょらいさま」の立ち話。
「あみだにょらいさま ひかりかがやいてまぶしいですわ」「みろくぼさつさま いつもスマートでうらやましいこと」
仏様たちの麗しいお言葉なのですが、ちょっと立派過ぎてなぁんか空々しく感じちゃう挨拶をかわしあってる、というのが面白いです。
あちらにおわすは「だいいとくさま」顔6つ・手6本・足6本ある明王さま。すべての手・足を動かして、ランニング中。
おっ、玉入れ競技の玉を準備するのは、おそらく「かんのんさま」。いつも憤怒の表情なはずの「あいぜんみょうおうさま」も穏やかなお顔で運動会を楽しんでいる様子。
おおきなおおきな体の「だいぶつさま」もやってきてご挨拶。「はじめての参加です。よろしゅうたのみます」 えっ!初参加なの?!そんな意外な設定に、ぷふっ と笑ってしまいます。
ほとけの国の門番・ふたごの「におうさま」が、ラジオ体操の見本をみせています。おやおや、だいぶつさまは、1000年すわりっぱなしなので足がしびれてすでに苦しそう。無理するなよ、なんて仁王様に言われちゃってます。

赤・白の組にわかれて、さあ、競技はじめ~!
最初は、玉入れ。「せんじゅかんのんさま」は手が一杯あるのでたくさん玉を投げられる、というオチ、ベタでいい。
次は、まんじゅうくい競争。わんわん ぱくり!と「こまいぬ」たちが活躍。あらっかわいい!
さてさてこんどは「しちふくじん」の演奏で、ほとけダンスの時間です。「だいぶつさま」お身体が大きいので、踊ると運動場が揺れに揺れ、みんなよろよろ・すってんころりん。わわわ、須弥山の縁から落っこちてるほとけさまもいらはいますよ。

「だいぶつさま」どの競技でも失敗つづきでお疲れのご様子。「もうお寺に帰りたい・・」とぼやいています。
最後は組体操だぜ!ですがここで問題発生。しんどいので、だあれも土台になりたくなくって、ほとけさまたちがもめています。
「わたしにのりなされ」どっかり座った大仏様。
みんなで、大仏ピラミッド。マンダラの完成!このページかっこいいですよ!このポスターあったら買っちゃいます。
最後は、ごくらくぶろで、汗を流します。大仏様が湯船につかったのでお湯があふれてる~。でもみんな、大満足。楽しい運動会でした。

ジャージを着てライン引きする「みろくぼさつさま」とか、準備体操する「せんじゅかんのんさま」とか、「湯船に入るかんのんさま、前を隠しておしり丸見え」とか・・仏様たちを茶化しておりますので、見る人によっては物議を醸しそうなところ。
正直言いますと、お正月は神社に初詣・クリスマスを祝って・法事はお寺、という暮らしでさほど違和感ございませんので、私は好きですよね。ユーモアの範疇ということでいんじゃないでしょうか・どうでしょうか。楽しく仏様たちの世界を知ることができますし、子どもたちの祭典・運動会というテーマを絡めることでとっても身近に感じることが出来るじゃないかしら。
そして、この絵本の楽しい世界観によって小さい人たちが「仏教学」に興味を持ってくれるかも・・だといいですよね・・。

かなり不可思議な世界観のお話ですが、挿絵がとにかく秀逸。この不真面目な(あっ言っちゃった)雰囲気にばっちり似合ってカラフル。グラウンドの黄色の上を、濃いめの赤・青・黄緑のほとけさまたちが配置され、とってもポップ。そこへ濃い緑で縁取りされた黒い大仏様が乱入し、全体が引き締まる。そんな感じです。この色使い、とても好きですねえ、ぐっときます。
どんな方が挿絵を担当されたのかといいますと、中川学(なかがわがく)さん、浄土宗の僧侶にしてイラストレーターなのだそうです。(なるほど、そういうことなのだ。)
続編の「だいぶつさま おまつりですよ」もありますよ~。