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第176回 ロボットに新しい家族ができる

以前にもご紹介しましたデイヴィッド・ウィーズナーさんの絵本です。調べると3度目でした。いろんな方の作品をご紹介するべきとおもうのですが、すごく気に入ったのです。ごめんなさい。
ロボットが登場人物の物語です。ロボはロボでもいろんな色や形のロボがいて、個性があってすごくかわいいんだ。ながめると楽しいです。*登場人物表が見返しにございます。
キャシー(ロボットの女の子)
スプロケット(ロボットのペット・アンコウみたいな犬のような見ため)
フランジ(新しくやってきた弟)
パパ(ラグナット)、ママ(ダイオード)、マニホルド(マニおじさん。患者はどこだ?といってるので整備士というよりお医者さん?)、ロボベイビー社の社員さんたち、そしてたくさんのお近所さん。

「ロボベイビー」 BL出版 2021年10月発行 32ページ
デイヴィッド・ウィーズナー/作 金原瑞人/訳
原著「ROBO BABY」 David Wiesner 2020年

ロボット一家に新しい家族ができる!そんなお話です。
主人公はキャシー、ロボットの女の子。
パパがなにか入った箱をお持ち帰り。箱には「内容:フランジ 体重125キロ ニューモデル!(こわれものシール貼付けられてるのが細かいな)ロボベイビー社製」と書かれています。キャシーに弟ができるのです。ご近所の皆様が続々とお祝いにかけつけてくるのがまた面白い。
ロボなのでパーツを組み立てて新しい家族を作る、というのがまた面白いですね。家族ってなに?ロボって成長する?性別必要?など疑問がわいてくるのですが、とりあえずスルーよ。赤ちゃんの組み立てはママの仕事だといって、キャシーの熱心な手伝いの申し出を断ります。たくさん書き込まれた大きなマニュアル(取扱説明書)に往生し、ママは組み立てに失敗。(以前と違って赤ん坊の組み立ては複雑になったのですって。)お医者のマニホルドおじさんに助けを求めます。
ボディに工具をたくさんつけた、格好いいマニホルドおじさん、登場。が・・・マニホルドおじさんの体をよく見ると、ボディ部分に錆がういて塗装が落ちてますよ~、なんだか不安になります。大丈夫かなあ、という心配はやはり当たってしまい、マニュアルを無視して、勝手に改造しています。下部にロケット装着とかしてますね。すごいなあ。(大人になってからなら、まあいいんじゃないかなあとおもいますが)

キャシーがマニュアル通りじゃないと物言いをつけますが、子どもだからか真剣に受け取ってもらえないのは寂しいなあ。キャシーの熱心な手伝いも断ってしまうし。オトナのばか。
それにインストールデータをアップデートをしなかったため、暴走し始めるフランジ。おまけに改造が加えられているため、パワーが半端ない。暴走の赤ん坊を捕獲するため駆けつけたロボベイビー社の社員3名やパパ、ママ、マニおじ、ご近所の方々のおっかけっこが始まります。このあたりのわちゃわちゃが小さな人には楽しいのじゃないかしら。
まかせておけない!とキャシーが暴走フランジをつかまえて、再々度の組み立てをします。きちんとインストールも済ませ、新しい命が完成し、大大円。 でもでも、箱の中をきちんとチェックしてみると・・・もう一つ別の箱が。「ふたご!」
面白いSF短編作品を読んだような気持ちになりました。楽しかったです。続きがでればいいなあ。

よーく見ると、パパの金属の体に反射してうつりこむ風景や人物、ペットのスプロケットがよそんちのペットと見つめ合ってたりするのが描き込まれていて面白い。
オイルケーキ、手作りさびスープ(亜鉛入)、歯車のオイルづけ、、という独特な食べ物も機械油臭を想像しウェ~と思うも面白い。
あと個人的にですが、床に落ちているネジやら歯車やらの部品がすごく気になるんだなあ。パーツなくしたら完成しないんじゃないか、とすごく心配で心配で・・
デイヴィッド・ウィーズナーさんのほかの絵本に
「1999年6月29日」「フリーフォール」「夜がくるまでは(イブ・バンディング作)」「セクター7」「3びきのぶたたち」「おぞましいりゅう」「漂流物」「アートとマックス ごきげんなげいじゅつ」「ミスターワッフル!」「ぼくにまかせて!」

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第84回 怪物があらわれた夜

「怪物があらわれた夜 『フランケンシュタイン』が生まれるまで」 光村教育図書 2018年12月発行 39ページ
リン・フルトン/文 フェリシタ・サラ/絵 さくまゆみこ/訳

「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」という1818年に書かれた小説があります。世界で最初のサイエンス・フィクションといわれています。メアリー・シェリーという18才の女性が書きました。メアリーがその小説を書こう、と思ったときのことを描いた絵本、なのですが、ご存知ないかたのため、フランケンシュタインについて、ざっとの説明をば。

1.「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」の内容
ヴィクター・フランケンシュタインという青年が、死者の体をつなぎ合わせ、雷による通電で新たに人を作りだす・・というお話です。作りだされた人間は、見た目の怖さやその生まれた理由のため疎まれ「怪物」とよばれています。ですが、寂しさを感じる心や知性を持っていたのです。
怪物はとても孤独です。フランケンシュタイン青年に自分の伴侶となる女性の人造人間を作るようせまります。(ざっとあらすじ。)

2.メアリーの母、メアリー・ウルストンクラフトについて
メアリー・ウルストンクラフトは、男女の同権、誰もが教育を受ける権利がある、という思想を持ったひとでした。両親は結婚制度を否定していたため二人は入籍をしていなかったのですが、子供が生まれるにあたり入籍しました。子供が「私生児」として差別されることをおそれたからです。このことにより、同じ思想を持った多くの友人たちを失ったといわれています。そして娘のメアリーを生み、産褥熱(出産ののち高熱が続く。感染症の一種。)のため亡くなっています。

お母さんのお墓に刻まれたことばで、文字を覚えたというメアリー。
大きくなると、母の書いた本を読破したそうです。そうして作家になることを目指すようになったようです。

舞台は、イギリスの詩人バイロン卿の別荘。この別荘に滞在する、シェリー夫妻。ある夜、バイロン卿が、”ファンタスマゴリアナ”というフランスの怪奇譚を朗読します。そして、皆でひとつずつ、怪談を書こうじゃあないか、という提案をするのです。作家志望のメアリーも、もちろん参加しました。
滞在中、雨続きで外出がままならなかったため、屋敷で哲学談義をするバイロン卿の一行。死んだカエルに電気を通すと足が動く(ガルヴァーニ電気)、死者を蘇生することができる、といった科学的な話題だったそうです。
その哲学・科学談義を聞いていたメアリーは、その知識を、書き始めた物語にとりこみ、かの有名な登場人物を生み出します。「作り出された人間」を。

自分の生まれた経緯、メアリーが生まれることによって曲げてしまった両親の信条や思想・・そういったこともきっと作品に影響したでしょう。特におかあさんが自分が生まれることによって亡くなってしまったことは、大きな心の傷だったのではないでしょうか。
メアリーは「作り出された人間」に自分の境遇を重ね、想いをこめたのではないでしょうか。

フランケンシュタイン青年がつくりだした人間は、存在の理由、生きるための希望を欲して苦悩しています。「彼」は、経験の少なさゆえの性急すぎた行動をとってしまいました。そして生みの”親”たるフランケンシュタイン青年に憎まれ追われることになりました。

しかし彼は真に怪物だったでしょうか。「現代のプロメテウス」という副題がきいています。
SFを読むかたにおすすめしたい、メアリー・シェリーの物語でした。