今回ご紹介しますのは、わたしの大好きな漫画「じゃりン子チエ」です。
大阪が舞台、コテッコテの大阪弁の会話で描かれた漫画です。
関西では、夏休みにテレビで放送されるアニメの定番といえばこれだったのですが、関西以外だとそうじゃないらしい・・と以前聞いたことがあり、ものっすご驚いたのです。関西圏以外では超マイナーな漫画・・・となちぐろ堂店主からも聞きまして、再度衝撃を受けました。地域によっての違い、面白いですね。
「じゃり」とは子供のこと、それに「子」がつくと女の子という意味。あんまり上品な言葉ではないですが、まさにじゃりン子なチエちゃんにぴったり。
「じゃりン子チエ(チエちゃん奮戦記) 全67巻(アクションコミックス)」 双葉社 1巻は昭和54年5月初版発行 244ページ
はるき悦巳/著者
漫画掲載期間:1978年~1997年(19年間も!)
舞台は昭和の大阪、頓馬区西萩町という架空の町が舞台ですが、通天閣と電車のガード下がよく描かれているので、西成区(現在は花園北とよばれています)がモデルのようです。
主人公は、「竹本チエ」。チエちゃんです。11才。西萩小学校に下駄で通う女の子です。(下駄・・ってすごいインパクトですよね。)たまに落ち込んだりもあるけど、前向きで明るい。年齢以上にしっかりしていて、というかしっかりせざるを得なくて、現実的。テツの友人たちのちょっとガラの悪いおじさんたちにも、物怖じしない。子供ながら生活力がかなりある少女なのでそこそこの額のヘソクリを貯めている。
「竹本哲(たけもとてつ)」チエちゃんのお父さん。チエちゃんは「テツ」と呼びすて。バクチぐるいで仕事をしない、短気でケンカっ早く、しれっと嘘を付く。酒とたばこと女はやらない、のが唯一のええとこ(テツの実父談)。
「竹本ヨシ江」チエちゃんのお母はん。ヨシエさんです。大人しくちょっと気弱そうなひと。若かりし頃は「西萩小町」と呼ばれた美人さん。普段お酒は飲まないが酒豪でバクチが強い、という意外性のかたまり。好きな役者は市川雷蔵。チエちゃんとしゃべる時、わりと丁寧語を使う。チエちゃんをおいて家を出た、ということを負い目に感じているのじゃないかと感じますね。
テツはバクチばっかりで働かないので(ほんまにちょっとも働かないんですよこれが)、家業のホルモン焼き屋はチエちゃんが経営しています。あまりにもでたらめなテツのせいでお母さんは家を出ていますが、二人はこっそり時々会っています。
かなり辛い境遇におかれているチエちゃんという少女のお話のどこが面白いんか、と言われるとなんでなんか、ちょっと悩みます。読んでると、テツのむちゃくちゃな行動に腹の立つこともありますし。
チエちゃんが「ウチは世界一不幸な少女や・・」と時々独りごちるのですが、なぜかまったく不幸の影を感じません。悲しみや不幸を笑いに変えていくその前向きさ。辛いながらも生きていく強さ。
常識人で西萩小町と呼ばれる美貌のヨシエさんがあのどうしょもないテツとなぜ結婚したのか、少しずつ明らかになっていくのも面白い。女はワルに惹かれちゃう・・という典型なのですねえ。あと、登場人物が心のなかでツッコミをいれるのが面白いんですよね。「ホルモンのどこが下品やねん」とかね。
そして、チエちゃんの焼く「串焼きのホルモン」がめっちゃおいしそう。「ホルモン」は臓物料理のことですが、絵では大きさや色からするとレバーのようなんですが、調べましたところ、豚の腸(テッチャンという部位)を醤油ダレにつけこんだもの・・だそうです。煙モウモウたてて焼くホルモンがほんとおいしそうなんですよね。飲むのはちょっとコワイですが「ばくだん(あんまりようさん飲むとあほになる、という密造酒)」とともにぜひ。
その他の登場人物も、ものすごく魅力的。
「竹本菊」チエちゃんの祖父母(テツの母)。下手するとテツより強い。木の丸椅子の座面部分を、正拳突きでぶち抜けます。あのテツを育てただけある、元気で楽しいひと。テツのお父さんのほうは気弱で病弱、テツにすぐだまされる。名前すら公表されていないのはちょっとかわいそう。菊さんが強すぎるんでしょうねぇ。
「平山ヒラメ」チエちゃんの同級生。相撲はめちゃんこ強いが運動神経は良くなくてよく転ぶ。どんくさいことを気にやんでいる。気にしぃではあるが、素直で明るい子。チエちゃんが唯一、子供らしくいられる相手。ヒラメちゃん・・って本名なんやろか?
「お好み焼き屋のオッチャン」元ヤクザの賭場の元締め・今はお好み焼きを焼いてます。ヤクザよけの用心棒にテツを雇っているせいでいろいろ厄介なことに巻き込まれるちょっとかわいそうな立場です。日本酒を1升以上飲まさなければものすごく優しい繊細なひと。愛猫は「アントニオjr」。
「カルメラ兄弟」元ヤクザとその弟分。兄貴の方は元キックボクサー。かれらもテツにこき使われたりしばかれたり巻き込まれたり。けどテツが結構スキな人のいいひとたち。
「丸山ミツル」テツの同級生。むかしテツと一緒に女をひっかけに行ったこともある、そんな仲。テツには及び腰。今はマジメに警察官、やってます。
「花井拳骨(はないけんこつ)」テツの小学生の頃の担任で、テツとよし江さんの結婚式で仲人をした。いたずら・けんかが好きであのテツが唯一、勝てない人間。相撲が強くて、まがったことが大嫌い、型破りで懐のでかい大人です。なんたってテツが唯一ビビるおひとですからね。中国の詩人”李白”の研究の第一人者と言う顔も持つ意外に学級肌な方なのです。
「花井渉(はないわたる)」チエちゃんの担任の先生。拳骨の息子のわりにやや気弱なお人。初対面でテツに脅され泣かされたが今はうまくかわせる。
「小鉄」忘れちゃいけない、チエちゃんの用心棒の猫。そうそう、この漫画では、猫が二足歩行します。猫同士、複雑な会話をかわしています。とても強いのですが、もうケンカはやりたない・・と思ってるのに挑戦してくる猫多数。小鉄を父の仇とするアントンjrとの戦いは、涙なくして読めない。
他にもたくさん面白い登場人物多数。なんたって19年間マンガ掲載されていましたからねぇ。
なぜこの漫画はおもろいのか。
テツが働かないことも、家財道具や家を売り払おうとしても、、チエちゃんのへそくりを探して部屋を荒らしても、仲間に迷惑かけても、ヤクザを殴ったり、バクチで警察にひっぱられても、何をしても、読者であるわたしが読んでいるうちにテツを許してしまう、ということなのかなあ。テツに惚れたヨシエさんや父をおもうチエちゃんの気持ちがわかるような気がしてくるような・・。
多分、チエちゃんに限らず人間への、作者の目線が優しいのだとおもいます。テツのダメなところが結構好きなんと違うかしらと感じます。
チエちゃんがよし江さんとこっそり会って、夕方になりお別れのシーン。チエちゃんがお母はんに言います。「ウチ、ほんまはお母はんと住みたいんやけど・・テツ一人では生きていけんのや。あれでけっこうええとこもあるからなあ」
お母はんとテツに気を使う、ええ子です。チエちゃんほんまええ子!
あと、昭和の時事ネタが、たくさんでてきます。わからなくっても大丈夫ですが、年配の方はもっと楽しめるでしょう。
また、アニメも面白かったです。特にテツの声をあてていた関西のお笑い芸人・西川のりおさんの声や喋り方が、テツそのものでした。アニメを見ているとテツのだらしなさにいら~っとしてくるのですが、あまりにも声がぴったり似合い過ぎていたからなのだとおもいます。オープニング曲の絵が、花札を題材にしているのも、おしゃれでセンスあるとおもいます。エンディング曲の絵は、小鉄がけん玉をしている・・というそれだけなのですが、一生懸命な小鉄がかわいいのです。最後は大技を失敗し、にかっと笑うのが、すごくかわいい。
長々と書いてしまいましたが、まあ、とにかくいっぺん読んでみ!おもろいから!
ただ、アクションコミックス版は絶版です。文庫判が手に入りやすいようです。